【感想】エンジェルフライト 国際霊柩送還士

佐々涼子 / 集英社文庫
(126件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
43
49
15
4
2
  • 運ぶのは遺体だけじゃない

    外務省の統計によると海外でなくなる日本人は年間に400人から600人。その約半数の遺体をエアハース・インターナショナルが日本に運んでいる。エア・ハースとは空飛ぶ霊柩車だ。エアハースの霊柩車には運転席側のドアに霊柩限定と小さく書いてあるが外から見てもわからない。棺のはいるあたりの後ろの扉には棺を運ぶ二人のエンジェル絵があしらわれていてそこにAngel Freight(貨物)と書かれている。ー天使が運ぶ様に優しく運ぶー、社長の木村利惠は亡くなった人が翼に乗って旅をするのが「天使のフライト」のようだと国際霊柩送還のことを「エンジェルフライト」と呼んでいる。

    映画「おくりびと」で有名になった納棺師は火葬までの間の遺体の見栄えを整えるのが目的で防腐処理が主目的ということではない。一方で土葬が主体のアメリカでは防腐処理を主目的としたエンバーミングが当然の様に行われている。南北戦争の頃から戦地でなくなった遺体を家に帰すために始められ、ベトナム戦争で技術的にも確立していった様だ。

    エアハースの本業は日本で亡くなった外国人や、海外で亡くなった日本人の本国への送還であるが多くの国ではエンバーミングを義務づけられている。エンバーミングの処置が悪い国から送られた遺体の場合損壊がひどい場合がよくある。上空での圧力変化で体液が漏れ出したりそれ以前に腐敗が進んでいたりする。エアハースでは遺体を修復し最後に一目会えて良かったと思わせるまで整える。漏れ出た体液を拭き取り、傷があれば縫い合わせそれでも足りない部分は修復材を用いて形成し、写真を見ながら化粧を施す。

    帯に「運ぶのは遺体だけじゃない」とあるのはエアハースによって救われた遺族があるからだろう。一方でエアハースそのものは遺族から忘れられるのがいいと木村は言う。「私の顔を見ると悲しかった時のことを思い出しちゃうじゃん。だから忘れてもらった方がいいんだよ」エアハースは遺族にとって一番いい形で亡くなった人を連れて帰ることができたのだ。だからこそ、遺族はエアハースを忘れることができるのだろう。いつか亡くなったときの一番辛い記憶は薄れ、一番いい思い出とともに遺族は亡き人を思い出す。そう書く著者の佐々さん自身が感情移入も大きく、自身の話をかなり書いている。亡くなった人でも人を助けることができる。それを手助けするのがエアハースの仕事であり、佐々さんもこの本を書いて救われた部分がある様だ。

    一方葬儀ビジネスに関してはかなりひどい物もある。中国からの団体旅行で亡くなった方が行政解剖された。日本国内で外国人が亡くなった場合東京であれば監察医務院制度があり、都内での搬送の場合都が費用を負担する。しかし、神奈川や埼玉などは遺族が負担することになっており遺体の保管場所のない個人クリニックなどでは出入りの葬儀社が遺族の許可を取ることなく遺体を搬送することが許されている。そして搬送費や保管費用、ドライアイス費用、棺代をあわせると20万円ほどかかってしまうのが相場だ。この中国人のケースでは遺体を引き取っていった葬儀社から遺族に連絡がありいきなり前金で100万もらえば中国への搬送のための作業をすると言う。しかも搬送まで1週間かかるという。旅行代理店の添乗員は政府機関からエアハースを教えられ翌日には搬送できると知った。そうするとこの業者は「じゃ、50万円。50万円でいいや。」さらにそれもないとするととりあえず5万でいいととにかく金をとろうとする。後にこの業者からエアハースに連絡がはいりその業者の名前で下請けに入り仲介料だけを渡せと勧誘してきた。逆に海外から送還されて来たエンバーミングされている遺体を国内で待っていた葬儀社に引き渡すと処置のやり直しや既にエンバーミング済みの遺体の湯灌を勧める業者もいる。亡くなった方のことを思う遺族の感情につけ込んだ葬儀ビジネスとはこういうものもあるのだ。
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    投稿日:2015.09.19

ブクログレビュー

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  • なな

    なな

    この本を手に取った時は、「へぇ〜国際霊柩送還士という仕事があるんだ〜」と軽い気持ちだったが、読み進めるたびに「私にとって"死"とは何か」を考えさせられる一冊だった。
    外国で命が尽きたら、私は故国に帰り、どんな状態でも身内に会いたいと思う。ただ、身内がいない場合は、外国で遺灰になっても構わない。どこで亡くなっても、帰る場所は同じなような気がするから。

    著書にも書いてあったように、国によってエンバーミングの技術に大きな差があるらしい。
    遺体がどんな状態でも、無効になったパスポートを見ながら一番良い状態で遺族に会わせてあげる、国際霊柩送還士がかっこいいと思った。
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    投稿日:2024.04.15

  • Saoli

    Saoli

    国内で死のうが、国外で死のうが、命は平等であってほしい。破天荒だけど死者に対する敬意をしっかり持ってる社長役の米倉涼子が良かった〜

    投稿日:2024.03.20

  • nssulib

    nssulib

    ▼配架・貸出状況
    https://opac.nittai.ac.jp/carinopaclink.htm?OAL=SB00552736

    投稿日:2024.02.26

  • 2023070番目の読書家

    2023070番目の読書家

    国際霊柩送還士を初めて知った。
    遺族第一優先のプロフェッショナル集団。

    エンバーミングってすごい。

    投稿日:2024.01.31

  • ʏᴀᴍᴀᴋᴏ

    ʏᴀᴍᴀᴋᴏ

    ドラマが気になっていたのだけど、アマプラ見れず…と思っていたら、原作があるということを知り手に取った1冊。
    海外で亡くなった日本人や日本で亡くなった外国人を家族のもとに帰す仕事をする"国際霊柩送還士"を追ったノンフィクション作品。
    彼らがどういった仕事をしているかも丁寧に描かれていたが、"人と死"ということについて、著者の状況(実母の延命治療について)も踏まえた上での考えが記されていて、興味深かった。
    遺族が大切な人との別れに向き合うことができるように、情熱を持って働く国際霊柩送還士たちの姿に尊敬の念を抱いた。
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    投稿日:2024.01.20

  • NORIS

    NORIS

    佐々涼子「夜明けを待つ」を読みおえて、佐々さんの命の灯が消えぬうちに未読の作品を読んでおきたいと思ってとりいそぎ入手した。

    投稿日:2023.12.29

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