【感想】赤と青のガウン

彬子女王 / PHP研究所
(26件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
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  • 見守る目、後でわかった一人旅

    当初は「オックスフォードへ留学する」体験だけで済むはずが、ひとたび現地を訪れた後は、異国に眠る宝の山に夢中になって再留学。夢のキャンパスライフは、やがて地獄の論文執筆生活に。
    思い切り良く日本を飛び出したお姫様が、一人前の研究者に成長するまでには、どんな出会いや事件があったのか。学位取得後、初めて見えた自分の姿とは。
    盛りだくさんのエピソードが楽しく、最後に大きく力付けられる留学記です。

    (1)さりげなく輝く「伝える力」
    本書ではまず、四文字で揃えた各章のタイトルが目を引きます。
    「大信不約」(ほんとうの信義は約束などしなくても守られる)という成語は初めて知りました。常に身辺に寄り添い、ときには家族よりも長い時間を一緒に過ごす方々を紹介する章の扉にふさわしい言葉ですね。

    本文の語り口も魅力的です。
    丁寧で上品ですが、もったいぶるところがありません。理知的で歯切れがよく、言葉に鎧を着せていない感じがします。読んでいて気持ちの良い文章です。
    「ただでさえ冷え性の私の体温を、優しく、しかし確実に奪ってゆくのである」などという言い回しは、いかにも頭のいい人らしく、思わずニヤリとさせられます。
    なんでも、世の中には、頭の良い女性を嫌う人がいるそうですね。私は大好きです。もちろん、文章の話ですよ。

    (2)念入りにドッキリ仕掛ける英国流
    留学先である、「英国らしさ」を感じさせるエピソードも読みどころです。
    たとえば、英国紳士は謹厳を売り物にする一方で、やけに手の込んだイタズラを仕掛けるのも大好き。
    本書でも、たっぷり手間暇をかけた、おバカなイタズラが炸裂します。原宿駅前で声をかけるところから仕込みが始まるとは、お釈迦様でもわかりませんよ。著者が、縁のあった人々と、とても良い関係を築いていたことがうかがえますね。
    どうやら、親しみやすく、誰とでも仲良くなれる方である様子。若冲のコレクションで有名なプライス氏が、パンケーキで器用にあの有名なキャラクターを作ってくれるなんて特ダネもあります。

    一般人ではまず体験できない、皇族ならではの出来事も。
    女王陛下のお茶に招かれるエピソードでは、エレベーターを降りるとまず大量のコーギーたちに囲まれるという、川端「雪国」ばりの展開に、一気に夢の国へと連れていかれます。

    (3)学位授与式での発見
    一人暮らしの自由を味わい、優しい友人たちと出会い、貴重な資料や超一流の教授陣に囲まれ、大発見に目を輝かせる留学の日々(あらこんなところに法隆寺♪)。しかし、博士課程は楽しい探検だけでは済みません。
    登山が、自分の足で山を下りなければ終わらないように、論文執筆も、自分の手で書き上げなければ終わりません。苦心惨憺の末に審査を通過し、ようやく学位が与えられます。
    その授与式に出席して、著者は改めて、自分がいかに多くの人々に支えられていたかを悟るのです。
    「ただ学位記を郵便で受け取るだけだったら、私はこのことに気づかずに留学生活を終えていた」と語る著者。
    たしかに、儀式というものは、ただ正式な権威があるという以上の、何か特別な意味を感じさせてくれるものです。

    また、「いままで私は留学中の苦労話を日本にいる人たちにしたことがあっただろうか」という気づきにも、たいへん考えさせられます。
    本人が話してくれなければ、周りも共感を示しにくいのです。わかっていても、言えないことがあるでしょう。見えない苦労を「見える化」するのも、勇気ある行いなのかもしれません。

    本書の最も素晴らしい点は、珍しい外国の紹介や、誇らしげな成功談で終わらず、著者の苦しくみっともない姿を正直に伝え、それが支えてくれた人々への感謝の念につながっているところです。

    どこか遠くで、孤独に頑張っているあなたへ。あなたが実は、人前で見せる姿ほど強くないことは知っています。でも、くじけないで。たとえ声が直接届かなくても、決して一人ではありません。私はいつも、一緒にいますよ。そんな、心の中の言葉を伝えてくれる一冊です。

    (※お断わり)著者は皇族でいらっしゃいますが、正式な呼称や、「ご研究」といった類の丁寧な言い回しは、本レビュー欄にはうまく合わないように感じられますので、平易な表現をさせていただきました。なにとぞご容赦ください。
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    投稿日:2018.05.03

ブクログレビュー

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  • eshima002

    eshima002

    「髭の殿下」のご長女、彬子様の留学記。
    以前、彬子様の京都のエッセイを読んで、とても読みやすく、優しく、現地を想像できる文体にとても惹かれたので、この本をずっと読みたかった。

    今回は、オックスフォードでの留学。
    一人の女の子が一生懸命に研究をされ、英語に苦労し、時には旅先で迷子になりそうになりながらも、現地の友人達に守られながら、博士号を取る。
    読んでいて、時折、その女の子が、女王であることを忘れるくらい、一般の女の子と同じように過ごされていることに驚くとともに、とても親近感がわく。
    やはり、彬子様の文章、好きです。

    オックスフォードに留学していたとしても、日本美術展の展覧会設営を1からするなんてこと、早々ないと思う。
    それを体験される彬子様は、ある意味、とてもラッキーな方なのだと思った。(ある意味では「持っている」ともいうかも)

    素敵な留学期でした。
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    投稿日:2024.04.04

  • ymmtdisk

    ymmtdisk

    「髭の殿下」で知られる寛仁親王殿下の長女、彬子さまのオックスフォード留学記。文章は読みやすく、学ぶことの楽しさも感じられて面白かった。

    英語の習得には壁を感じられていたこと。『EU圏内における二週間以上の滞在の場合、護衛官は付きません』ということで、いつも一緒だった側衛がいないことが最初は辛く感じられたこと。エリザベス女王陛下からアフタヌーンティーに招かれた話。パスポートが違うこと(外交旅券)から空港で訝しがられ、日本のプリンセスだとわかると態度が変わること。などなど、皇族とはいえやっぱりちょっとしたことで楽しんだり、ストレスもトラブルもあるんだなぁと思うとともに、それを振り返って明るく文章にされていることに好感しかない。
    このエッセイの連載中に寛仁親王殿下が薨去され、それにあたって連載を中断して父との思い出を書かれたエッセイも巻末に収録されている。

    XかTumblrかで流れてきた引用か感想を読んで興味を持ったのだと記憶している。図書館で借りて読んだけど、手元に置いておきたい。絶版になっているようで、古本にプレミアが付いている。
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    投稿日:2024.03.16

  • afro108

    afro108

    このレビューはネタバレを含みます

     BRUTUSの本棚特集で漫画家のほしよりこ氏が選書しており赤と青のマントの表紙絵が印象的だったので何となく読んでみた。皇族の彬子女王がオックスフォード大学で博士取得するまでを綴ったエッセイでとてもオモシロかった。皇族へのプレッシャーは近年増すばかりだが「人間」としての尊厳をひしひしと感じた。
     皇族が自ら内情を事細かに説明している文章に初めて出会ったので、この時点で本著のオモシロさは保証済みといっても過言ではない。最近は現天皇である徳仁親王による留学記も復刊リリースされているが本著は00〜10年代の話なのでリアリティーがある。たとえば博士号授与式が2011年で震災から二ヶ月しか経ってない中でお祝いのために海外渡航するのはいかがなものか?という意見があった話など。現状の皇族に対する厳しい視線を予期させる内容だった。ただ著者はエッセイストとしての才覚がめちゃくちゃある。硬くシリアスになりがちな皇族の状況についてジョークを交えつつウィットのある文体で書いてくれているので楽しく読むことができた。やはり国外で皇族ではない立場を経験することで視野が広がることは大いにあるのだろう。宇多田ヒカルが活動休止した際「人間活動に専念する」と言っていた意味が本著を読むとよく分かる。何をするにせよ誰かが周りにいて、先回りして全てが用意されていても良いとは限らない。自分でコントロールできる領域の尊さに気づくことができた。
     著者には皇族という特殊な属性があるものの、あくまで本著の主題は5年かけてオックスフォード大学で博士号を取得したことである。海外で博士号を取得する際の苦労話がたくさん書かれていて非常に興味深い。日本だとプリンセスとして扱われるが学位取得の過程において忖度はなく担当教授から厳しく指導されたり、その真面目さゆえに胃の具合を悪くしたり多くの苦労が語られている。その先にある栄光に向かって一生懸命に研究、論文に取り組み、最後に得られるカタルシスを追体験するような気持ちになった。だからこそ最後の最後で皇族ゆえに自分の力でコントロールできない要素で振り回されてしまうあたりは辛いものがあった。彼らは一般の国民とは異なり、多くの特権を持つ代償として犠牲になっていることがたくさんある。歪な環境の中でも自分の信念を貫く姿勢は見習いたいと思った。

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    投稿日:2024.03.03

  • 茶柱たつこ

    茶柱たつこ

    女性皇族として初めて海外で博士号を取得した彬子女王。
    皇族としての生活や側衛さんの話、留学先の交流や生活の話も興味深かったが、「十九世紀末から二十世紀にかけて、西洋人が日本美術をどのようにみていたかを、大英博物館所蔵の日本美術コレクションを中心に明らかにする」という研究が非常に面白かった。
    伊藤若冲ブームの火付け役がアメリカのコレクターということも知らなったし、その鑑賞方法も面白い。
    「海外の絵はずっと掛けておくが、日本の絵や書は季節によって変える」など、言われてみて改めて気づくことも多かった。
    研究することの素晴らしさを教えていただいた。
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    投稿日:2023.10.15

  • でんでん

    でんでん

    彬子女王がオックスフォードで博士号を取るまでの留学記。なぜ外交旅券である茶色のパスポートを持っているのか?と税関職員に聞かれて「プリンセスだから?」と答えるなど、凄すぎて笑えてしまう独特なエピソードが多々あります。
    博士号を取るなんて筆舌に尽くし難い大変さだと思うのですが、その大変ささえ面白く書いてあり、読みやすく溌剌とした文章でした。

    この本(連載)を執筆する理由について、
    父である寬仁親王が「長期間海外に出て公務をしない以上、それを支えてくださった国民の皆さまに対して、皇族としてきちんとその成果を報告する義務があると考えておられたからである。」
    とあり、ハッとしました。
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    投稿日:2023.10.15

  • kou.

    kou.

    まさかオックスフォードで博士までとった方が皇族にいらっしゃったとは
    庶民には想像もつかないようなお話から、わかる〜となるものまで盛り沢山で留学記とはあるけれど、側衛の話やお正月の過ごし方など皇族の生活が少し垣間見えて面白かった
    続きを読む

    投稿日:2023.08.31

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