【感想】たたかう天気予報

火浦功 / 角川文庫
(5件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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  • 80年代、じりじりとさぐり当てた軽妙

    1980年代、コバルト、小説推理、ログインなど各誌に掲載された火浦功の作品が収録されています。
    新刊の宣伝文句にされるほどの寡作で知られた大人気作家ですが、近年ではさすがに過去の作品が入手しにくくなっています。本当は「ニワトリはいつもハダシ」をご紹介したいのですが、残念ながら電子化されていません。
    そんな中で、この作品集は、火浦功のエッセンスを知る一冊として、なかなか良い本だと思います。

    (1)笑いは時を越える
    ウォークマンでカセットテープを聴いていた当時を知らない世代にはわかりにくいと思いますが、火浦功はネタが古いです(当時の若者にとり、「クレージーキャッツ大全集」はイケてるコンテンツではありません)。
    若い読者にはなじみのない、時代劇や落語のネタを平気で入れてきます。中年になった今では私も「ああ、芝浜ね」などとわかりますが、リアルタイムで読んだときには、ショパン猪狩先生など引退間際、テレビで見る機会もほとんどなかったものです。
    では、元ネタがわからないとつまらないかといえば、そうではありません。わからないなりに、これは面白いと伝わり、笑わされてしまいます。繊細に練り上げられ、軽妙さを極めた文章に秘密があると思うのですが、もちろん真似はできません。時を越えたジョークで引き付ける達人の技に酔うばかりです。

    (2)SFには叙情も欠かせない
    笑いばかりが得意分野ではありません。ハードボイルドがお好き、ということで、情感たっぷりの作品も多いです。第2篇「不安定なまゆみ」は、「君の名は。」が大ヒットした今こそ読んでもらいたい一作。「まちがってるかもしれないが…重要なのは…」というくだりは、まさに時を越えて共感されるボーイミーツガールの本質ではないでしょうか。

    (3)苦労を顔に出す芸風
    ファンを楽しませ、しかし深く静かに作者を追い込んでいった完璧なクオリティの追求。
    後に新井素子先生が「全力で力を抜いている、これでは書けない」という趣旨の評をしておられましたが、それは実作者でないとわからない機微。80年代後半は、ファンはまだ無邪気に作家の「書けない」芸を楽しんでいたものです。
    第17篇「続・釜無温泉の決闘」や最終篇「火浦功、落ちる!」では、笑えるスレスレのところまで、もう来ているのですが、読む側としては「印刷所の出張校正室で」などというディテールが面白い。同時に、ストレスなく読めてしまう軽快な文章が、たいへんな時間をかけて生み出されていることもわかります。作者の苦闘を楽しく見せてくれたという点で、多くの読者に希望を与えた作家でもあります。
    (蛇足ですが、例の盾が出ないのは仕様ですので、いくら地下10階を巡っても、無断ムダ無駄というものです)

    時代が巡り、流行りものが変わっても、面白いものは面白い。「あの頃」の記憶がだいぶ薄れてきた今こそ、また読み返す価値のある作品集です。

    (4)あとがきは最後に読みましょう
    第1篇「銀河芸人伝説」のジョーンズ博士は、もちろんあの人なのですよね。読後に必ず忘れてしまい、再読の際に「あとがき」まで読んでから、毎回ひっくり返ります。あなたはお気づきになるでしょうか?
    続きを読む

    投稿日:2017.06.25

ブクログレビュー

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  • まんだりーの

    まんだりーの

    スキヤキへの道、ゲンジツおじさん、釜無温泉の決闘。この辺、めちゃちゃんこ面白い。
    後、不安定なまゆみ。オシャンティーって紅茶入れられるくらいにはお洒落

    投稿日:2019.12.22

  • minbook

    minbook

    コメディから切ない話、さらにはシュールなSF、現実に沿った(?)作家の話まで色んな種類を詰め込んだ短編集。個人的には表題作のたたかう天気予報が好きです。昔真面目に山号寺号を考えたものだった…。

    投稿日:2019.12.10

  • mura-bow

    mura-bow

    はるばる来たぜ、サケ茶漬。

    学生時代に死ぬほど読み込んだ短篇集。ハッキリ言って冷静に評価できないくらい大好きな作家であり本なんですが、あれから20年も経ったので冷静に評価してみようと思います。

    浦先生の最大の魅力は、その軽妙な文体でありますが、そのセンスは、ライトノベルやテキストサイト、twitter等多岐多様にわたる現代の文章ジャンルでも通用する。要するに、今読んでも面白い。文章を極限まで削って(よって作者の作品は実に短いものが多い…というのは少々擁護しすぎか)間やテンポで笑わせてくれます。

    しかし、作中ネタとして登場している「タイトルだけ先に上げて中身は後で考える」という執筆スタイル、やっぱこれは作者の体験談から来ているんだろうなぁ…とは今読んでみるとしみじみ感じます。魅力的なタイトルだのに、思ったよりもネタが振るわない作品もぼちぼちあったり。

    それでも現代に通じるセンスと、多大なる思い出補正も含め、やはり大好きな一冊であります。
    続きを読む

    投稿日:2014.03.28

  • 笹塚おじさん

    笹塚おじさん

    蔵書整理シリーズ
    古本屋で120円で買ったようである。
    火浦功の短編集
    特に方針はなくまとめられたものなので,色々なジャンルのSFが入っています。
    打率は2割5分くらいか?

    投稿日:2014.01.04

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