【感想】あゝ野麦峠 ある製糸工女哀史

山本茂実 / 角川文庫
(19件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
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  • 働くって何だろう?

    言わずと知れた、昭和のノンフィクションの金字塔。岩波の「女工哀史」が未だ電子化されていないので、本書が電子版で読めるのが本当に嬉しい。が、電車の中で読むと、うっかりして、つい落涙してしまうかも知れないので、注意が必要。

    本書を勧める対象は簡単だ。つまり、全ての日本人に勧めるから。日本人なら是非1回は読んでほしい。
    特に若者の多くが、本書や大竹しのぶ主演の映画を知らないらしく、残念で仕方ない。

    本書は3通りの読み方ができる。1つ目はプロレタリア文学の延長として、2つ目は日本近代史の文献としてである。そのどちらの読み方をしても、最高評価を得ること疑いない。

    数年前、デフレ景気の影響で小林多喜二の「蟹工船」といったプロレタリア文学が人気を呼んだとか。多喜二の「セメント樽の中の手紙」にしても、吉村昭の「高熱隧道」にしても本書にしても、今日の日本が尊い犠牲のうえにあることを忘れてはならないことを思い出させてくれる。そして、本書を読むと、日本人自身の犠牲の存在は、もっと日頃から強調されるべきと思えてくる。そうすれば、よそから何か言われても「強制労働だけでなく我々の祖先だって・・・」と主張できる(ただし、私自身はどこの国の人間であったにしろ等しく扱いたいが、いずれにしろ、国力が劣るのは絶対悪に違いない)。

    世界遺産を巡る無邪気な喜びと議論を、チョッと斜に構えて眺めてみる。

    3番目の読み方は、趣味によるけどマルクス経済の傍証としての読み方。
    ロバート・オウエンのような希少な例はあるが、資本主義は抑制されなければ暴走するし、搾取するものなのだ。改めて、ため息とともにジッと手を見る。ただし、製糸業を”生死業”という観点から考察を加えているのは本書の凄みでもある。黎明期の起業家が高いリスクを負っていたとはいえ、そのシワ寄せ先を考えるのではなく、知恵でリスクをなくす仕組みが講じられなかったのか・・・いやあの当時では誰もが精一杯だった、と言うことだろうか。

    それにしても、元女工のばあ様達の、肯定的な思い出語りが何とも言えず考えさせられる。
    産業革命当時の児童炭鉱労働者からはじまり、現在も世界中に多い児童労働者は?苦しいとは思わないのだろうか?もし、そうならば、それは、選択肢を持たないが故なのだろうか?
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    投稿日:2015.06.05

ブクログレビュー

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  • コーヒーって旨い

    コーヒーって旨い

    小説かと思ってましたが史実書でした。
    工場で朝から晩まで1年間働いた報酬が
    上履き1足とか何も無かったとかは、
    ちょっと考えられない。しかし、女工さんに
    してみれば米のご飯を食べられるだけマシと
    いう方もいたらしい。
    今では考えられない労働環境や条件は想像を
    絶する。
    読み終わった後は、自分の仕事の辛さが大した
    事のないような気がして感謝の気持ちと
    頑張ろうという気持ちが湧いてきました。
    著者が靴を何足も履き潰して探しまわった話は
    とても興味深かったです。
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    投稿日:2023.07.05

  • jkrabi

    jkrabi

    先日、富岡製糸場に行ったときに、製糸場説明ツアーに参加していた女性が、ツアー員に質問していた。
    「女工は「ああ野麦峠」みたいな感じで働かされていたのですが?」
    「いいえ、富岡製糸場は他のお手本となるように作られた工場なので、労働時間は長くはなかったし、仕事後女工に学問などを教えるなどをしていたのですよ」
    聞いたことはあり、有名な本だとは思うが、読んだことなかったな「ああ野麦峠」

    小説かと勝手に思っていたが、明治時代の女工の証言をまとめ、どのように働いていたかの資料になっている本なのだなあ。逆にそのころの女工の生活、思いが生々しく語られており、興味深い。

    明治の文明開化は電話、汽車、軍艦と多くの金が必要であった。また外国技術者に多くの俸給を払っていた。このためにもお金が必要だった。そのお金を稼ぐのが生糸であった。輸出の大半が生糸関係(生糸、絹織物、蚕種)で多くのお金を作ることに女工が大きな役割をしていたのだ。
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    投稿日:2022.08.12

  • コマツ

    コマツ

    明治〜昭和初期の工女たちに寄り添い、その知られざる日々の生活に迫った記録文学。著者のヒューマニズムと、当時を知る先人たちの膨大な証言が、本書全体を人間味溢れる温かい作品に仕上げてくれている。工女を襲った悲劇だけに終わらず、「工場側・経営者側はどういった状況だったのか?」まで掘り下げてくれているのも先進的である。興味深かったのは著者が取材した際、工女の多くが誇らしげに証言してくれたというエピソード。辛く苦しい工女生活であっても、そこで仲間達と懸命に生き抜いた思い出は、美しい記憶として色褪せないのである。
    明治時代の息づかいを間近に捉えることができる、歴史好きにはたまらない一冊。最高でした。
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    投稿日:2022.02.06

  • けんじ

    けんじ

    プロレタリア文学2冊目読了。
    年の暮れに峠を超えて飛騨へ帰る場面は、涙が出た。何の涙かわからない。日本を作り上げてくれた畏敬の念か、辛さに共感してか、峠へ着いた達成感と安堵感か…。
    祖父や母から「お蚕さん」の話は聞いていたが、その話は昭和のことで、本著にあるような工女のことは初めて知った。今がいかに豊かな社会か、この社会ができるまでにどれほどの涙があったか、噛み締めて生きていこうと思う。続きを読む

    投稿日:2021.11.03

  • ぽっきぃ

    ぽっきぃ

    映画やドラマは見たことは無いですが、話だけは聞いていました。雪の深い峠の山道を小さな女の子たちが仕事のために死に物狂いで歩き、そして死にそうになるくらいまで製糸工場で働かされるというお話だと。

    こういう聞いていた苦労話と違って、当時の日本の歴史的背景が詳しく書かれていて、明治維新から世界へと進出するための経済的費用をまかなうためでもあったということも知れて勉強になりました。そして当時の日本人の勤勉さに改めて頭が下がる思いがしました。

    一方で、やはり今のように労働基準法、安全衛生法などといわれる世の中ではなかったため、想像以上の職場環境、生活状況だったことも分かりました。

    当時の日本経済や世界に向けて発信する日本の状況を、本当に支える女工さんたちのような働く人々の目線で、もっと知りたいと思いました。
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    投稿日:2020.10.26

  • yohko_barF

    yohko_barF

    このレビューはネタバレを含みます


    プロレタリア文学の金字塔と言われた
    小林多喜二の「蟹工船」を読んで
    すっかり打ちのめされたのも束の間

    蟹工船が男の世界であるなら
    女の世界でも、悲惨な労働環境があったのではないかと
    単純に思ったのがきっかけ

    そう言えば、昔TVでやってた「あゝ野麦峠」
    殆ど内容は覚えてないけど
    幼心に、そこはかとなく漂う悲惨さがあったなぁーと



    開国間もない、明治から昭和初期にかけて
    富国強兵の国策の元
    有力な貿易品であった、生糸の生産を支えた
    工女達を描いたノンフィクション作品

    諏訪湖を中心に、次々と建設された製糸工場
    地元である長野を始め、近隣の県からも
    多く糸引き工女が集められた

    北アルプスの向こう側である
    飛騨の貧しい農村からも
    口減しの為、多くの若い女達が
    野麦峠を越えていった

    毎日、10時間を超える労働環境は
    時間もさることながら
    繭を茹でる釜は、季節を問わず灼熱で
    立ち上る蒸気が、水滴となって落ちてくるため
    常に、全身びしょ濡れの状態

    体調を崩す者が後を絶たず
    迎えにくる家族を待たずに
    息を引き取る者も多かった

    「諏訪湖に工女が飛び込まない日はない」
    と言われるぐらい
    現状に耐えられない工女も、一定数いた


    本書が、ノンフィクションの金字塔と言われる所以は
    工女の悲惨な労働環境を描いたのみならず

    当時の時代背景や
    「製糸業」が「生死業」と言われるぐらい
    博打的商売だったのは
    アメリカの生糸相場変動が激しく
    真面に影響を受けてしまうため

    また、工女を監督する検番や
    裏方で操業する工男達の仕事環境

    低賃金で工女を働かせてる、工場主達も
    高額な繭の原価と、生糸相場の変動
    工女の確保に如何に苦労していたから
    などなど

    残された資料だけでなく
    5年の歳月を掛けて
    実際に製糸工場で働いていた
    現存の人々に取材して廻り
    多面的な角度から、緻密な作品に仕上がってるところ

    映画やドラマでは
    工女達の劣悪な労働環境や
    使い捨て同然にされるところばかりが
    描かれているようですが…

    正直、そこを期待して読み始めたものの
    途中から様子が違って来て
    何だか調子が狂ったまま読み終わって
    一体何だったんだ?感が押し寄せて来たけど

    この文を書き始めたら
    実は、とても完成された作品であるコトに気づく 笑

    今まで経験したことがない
    読後感を味わった作品だな


    #あゝ野麦峠
    #ノンフィクションの金字塔
    #山本茂実
    #読書好き


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    投稿日:2020.08.27

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