【感想】ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ~ハイテク海洋動物学への招待~

佐藤克文 / 光文社新書
(53件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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13
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  • 求む男女。ケータイ圏外。わずかな報酬。極貧。失敗の日々。絶えざるプレッシャー。就職の保証なし。

    「求む男女。ケータイ圏外。わずかな報酬。極貧。失敗の日々。絶えざるプレッシャー。就職の保証なし。ただし、成功の暁には、知的興奮を得る。」私のところに来たら、まずは身近な動物で修行を積んでもらうことになる。試行錯誤の末に晴れて学位を取得したら、データロガーと一緒に、世界中の僻地に飛ばしてあげよう。そういう佐藤氏はバイオロギングという手法で動物の生態を研究している。

    学校の教科書には鳥は恒温動物で爬虫類は変温動物だと書いている。しかしウミガメの体温は23℃でほぼ一定で逆にペンギンは深く潜るときに体温維持には最低限しかエネルギーを使わず酸素消費を抑えている。

    ペンギンは深さ500m時間にして最大27分潜っている。ペンギンは息を吸い込んで潜り、10分ほどで空気中の酸素濃度はほぼなくなってしまう。その後どこまで息継ぎせずに我慢できるかは謎が残っている。空気を吸い込むと浮力がつき潜るにはマイナスなので最初に一生懸命羽ばたく。ある程度の深さに潜ると圧力で空気が縮みある深さで浮力と重力が釣り合うがペンギンはちゃんと潜る深さで吸い込む息の量を変えている。そして浮いて来る時にはヒレを拡げ浮力に任せて水中を滑空する。ペンギンカメラが捉えた8羽のペンギンがヒレを拡げている姿が写っている。そして水上に飛び出す時にはその高さに合わせて速度を調整している。

    アザラシは逆に息を吐き出して潜る、というか沈む。アザラシは肺に貯めた空気ではなく血液中に蓄えた酸素を利用している。子育て中のアザラシは子供に泳ぎを教えるようにゆっくり泳ぎ、これまた後ろ向きにつけたアザラシカメラに後を追う子どもが写っている。

    どうやってペンギンやアザラシに装置を付けるかというと、ペンギンの場合は足を傘の柄の様なもので引っ掛けゆっくり引っ張るとヨタヨタと近づいてくる。そこでさっとヒレを気をつけで足首はつま先を伸ばして小脇に抱えるとペンギンはおとなしくなる。頭にフードをかぶせて固定すれば体重も測れる。アザラシの場合も頭を袋に入れると大人しくなるのでそこに麻酔剤を入れて吸い込ませる方法が日本チームにより開発された。

    ペンギン牧場の作り方。
    南極に行って氷の上に柵を作る。氷に穴を開け海に入れるようにする。たまに
    ペンギンを狙ってアザラシが来るのでできれば穴は二つ。ペンギンは普通コロニーを作っているが時々さまよっているのがいるので上記のやり方で捕まえて柵に入れる。牧場の様子を除きにきたペンギンがいれば後ろに立って追い立てると自分から柵の中に入ってくれる。海に潜ったペンギンは潜った穴に戻ってくるのでこれで牧場は完成だ。餌も自分で撮ってくるので必要ない。

    題名になったのはバイオロギング研究者が増えたことでデータを集めてはっきりした。マッコウクジラからペンギンまで泳ぐ速度はほぼ秒速1~2mで一定している。これは筋肉の効率的な速度と関係していると予想し体の大きさとストロークを両対数グラフにプロットすると見事に直線に乗った。筋肉そのものの収縮速度が同じなら大きなクジラは移動距離が長いので周期はゆっくり、小さなペンギンでは速くなるというのが仮説だった。

    仮説と実証実験というのが現代の科学の一般的な手法だが、バイオロギングというのは装置からして発達中の学問で、例えば南極の棚氷の下で深い層に餌がいっぱいあるなどもこれまで知られてなかったことが見つかっている。測定が先で仮説が後からついてくるあたり都度都度方向変換が必要でしかも南極の場合シーズンを逃すと次の実験は1年後で下手をすれば帰っている。なかなか大変な研究だ。
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    投稿日:2014.07.11

ブクログレビュー

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  • nomitomo13

    nomitomo13

    ペンギンやアザラシなどの海洋動物にハイテク機器「データロガー」を取り付けたことで見えてきた、本来の生息環境下で動き回る海洋動物たちの姿について書かれた本。

    本書を読むことで、動物たちにデータロガーを取り付けて生態の記録を採る「バイオロギングサイエンス」を知ることができます。続きを読む

    投稿日:2019.07.29

  • ゆま

    ゆま

    高校時代、理系少年だった私は生物、脳科学、地学などなどノンフィクション系の本だとそういうのばっかり読んでいる。急に方向転換して美大に行った手前、もっと勉強したかったな~~~という思いがくすぶっているのである。ぶすぶす。
    敷居が高いと思われている理系本達だが、実は文系本より優れているな~と思うところがある。わかりやすいのである。理系の研究にはとかくお金がかかる。記録して、実験して、機械を調達して…と、論文にするまでに多額のお金がかかりるものなのである。ラット1つとっても手間もお金もかかるし。とすると研究者がどう考えるかというと、スポンサーゲットに必然、力を入れるのである。わかりやすく、おもしろく、メリットを説いて、お金を出させる。こうしたことが特に若い研究者の間では得意スキルになっているようで、そのため、ド素人のような読者でも読んでてわかりやすく書いてくれているのである(これは内田樹先生か誰かが言っていた)。
    そしてもう1つ、個人的に好きなことだが、この理系研究者達、情熱がすさまじいのだ。このペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐの著者はしょっちゅう南極に行ってペンギンやアザラシのデータロガーを付けているのだが、嬉々として1年半南極で研究生活を過ごし、帰国してまたすぐアメリカの研究者に誘われて南極にまた行っちゃうフットワークの軽さは、まわりの「大変だね~」的な考えなんぞ関係なし!で楽しそうだな~。我々ヲタクも軽いフットワークで情熱を燃やしていきたいですね。
    続きを読む

    投稿日:2019.03.19

  • osawat

    osawat

    このレビューはネタバレを含みます

    アザラシとペンギンの潜り方の違いなど。ハイテク調査の場合、機材の開発経費と開発企業の確保、そして、フィールドの確保が決定的。
    ハイテク海洋動物学(バイオロギング)を博物学と称しているのは頷ける。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2019.01.14

  • y_doka

    y_doka

    実に刺激的、かつ文章にも工夫が凝らされていて一気に読める。
    最近こういう、若手・中堅研究者が自分の専門領域を面白く語る本が増えてるなあと感じる。本書はそのムーブメントのさきがけ、かな。

    投稿日:2018.11.17

  • dekadanna

    dekadanna

    バイオロギングという海洋生物学の最新手法を活用した研究の様子を伝えてくれる。研究の息吹とでもいうものを感じる好著。研究者というものはどういうものかを知ることのできる本と思う。巻頭のペンギンのカラー写真が可愛い。続きを読む

    投稿日:2018.11.12

  • 天紫苑

    天紫苑

    データロガーを用いての海洋生態学の研究。この分野の研究がもっと進んで色んな謎が解明されることを願う。

    投稿日:2017.05.08

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