【感想】ナウシカの飛行具、作ってみた 発想・制作・離陸――メーヴェが飛ぶまでの10年間

八谷和彦, 猪谷千香, あさりよしとお / 幻冬舎
(36件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
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  • 八谷さんのメーヴェを、僕は見に行きたい。そこではきっと、17歳の頃、『風の谷のナウシカ』を初めて観たときの僕に出会えるような気がするのだ。

    タイトルには「作ってみた」と軽く書かれているが、これは10年をかけた一大プロジェクトの記録である。八谷さん(と、同年代、かつ「ナウシカ」と「ポストペット」に衝撃を受けた世代として、あえて“さん”づけで呼ばせて頂ければと思う)のメーヴェはジェットエンジン搭載なのだ。2008年の時点で7000万円のコストがかかっていたというから、これはもう「作る」というよりも「開発・製造」という言葉のほうがふさわしい。だからこれは、現在では絶えて久しい国産航空機の復活へ向けての一石でもある。もちろん、三菱リージョナルジェットのような大規模な国家プロジェクトではないけれども、八谷さんが書くように〈一旦途絶えた日本の飛行機の系譜を継ぐ〉ものであることは間違いない。

    それと同時にこの本は「飛ぶことに憧れた」ひとりの人間の軌跡でもある。そして人間にとって「飛ぶこと」とは、どんな意味を持つのか、ということを突きつめた思想の書でもあると思う。その思想の源流が宮崎駿にあることは明らかだけども、僕はその奥に、宮崎駿がリスペクトするサン=テグジュペリの存在を感じずにはいられなかった。『星の王子さま』の著者にして、郵便飛行士として大空をかけたサン=テグジュペリ。彼はユダヤ人の友人のために『星の王子さま』を書いた。戦争の愚かさを暗喩した表現は、『星の王子さま』にはたくさん散りばめられていて、例を挙げればきりがない(「六か月のあいだ眠って、えものを消化していく大蛇」や「三本のバオバブの木」などがそうだ)。そうして八谷さんもまた、イラク戦争を機に、メーヴェの製作を決意した。〈いつか現れるナウシカのために、調停のための飛行機を作って世界が変わるのを待とう〉と考えたからだ。

    しかし当然のことながら、個人が「飛行具」を製造することは難しい。コストの問題はもちろん、そもそも飛行機は国内生産されていないから技術者がいない。さらに言えば、メーヴェは架空の乗り物だ。作った機体がほんとうに空を飛べるかどうかも怪しい。結果的には、いずれの課題に対しても、八谷さんは不屈の精神でもって実現させていくわけだけども。でも僕は(これは本書のライティングを担当した猪谷さんも書いていることだけども)、八谷さんがなぜこれほどまでにメーヴェづくりに没頭したのか、その理由がわからなかった。というか、この本にはその理由が書かれていない。猪谷さんによれば、八谷さんはその問いに対して〈若干、いらっと〉しながら「どうしてその答えが必要なんですか?」と切り返したのだそうだ。

    サン=テグジュペリは『星の王子さま』のなかで「いちばんたいせつなことは、目に見えない」と書いた。砂漠が美しいのは、「どこかに井戸を、ひとつかくしているから」なのだ。けれども僕たちは、しばしば目先のこと、表面的なことに囚われてしまい、そこに隠れているものの美しさに気づかない。おそらくは八谷さんの「いちばんたいせつなこと」も、僕らの眼には見えないのだろう。だからこの本の中でも、飛ぶことの理由は語られないのだと思う。

    そしてもうひとつ、『星の王子さま』は「個」と「普遍」との違いを問うた物語でもある。王子の星の薔薇と地球の薔薇とは、一見、同じように見える。けれども王子の薔薇は、世界にたった一つの大切な薔薇だ。だから八谷さんのメーヴェは八谷さんのたったひとつのメーヴェだけれども、それを目の当たりにしたひとたちは、きっと自分だけのメーヴェをそこに見るだろう。そんな八谷さんのメーヴェを、僕は見に行きたい。そこではきっと、17歳の頃、『風の谷のナウシカ』を初めて観たときの僕に出会えるような気がするのだ。
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    投稿日:2014.01.07

  • 頭オカシイ?

    タイトルに引かれて読み始めると一気読みです。資金力、時間、知識などなど、到底不可能の連続だと思え普通の人では多少の財力と自由な時間があったとしても諦めてしまうのではないでしょうか。10年間という時間と9,000万円にも上る製作費用....
    普通に考えると「頭オカシイ?」という事になりますが、八谷さんのような人をエッジ(先端)と呼ぶのでしょう!こういう人が次のテクノロジーやカルチャーを牽引するのだろうとワクワクします。
    少なくとも空を飛ぶことは男の子の永遠の憧れで理由なんて要らないのでは
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    投稿日:2014.10.11

  • ホヴァーボードが浮いていた2015年にメーヴェを夢見る

    メディアアーティストであり、東京芸術大学の先端芸術表現科准教授をと務める八谷和彦。

    フィクションの世界で描かれた、夢の道具を現実のものにしようと奮闘した記録。

    風に乗り、風を切り、風と戯れていた原作のメーヴェ。
    人間が乗らない小さな飛行機であれば、紙飛行機のように作れるのかもしれないが、サイズも構造もおよそママに、ひと一人を乗せるその乗り物はこれまで純粋テクノロジーの分野でも挑まれることはなかった。

    自由なアイディア、想像力を現実のものとすることが、アーティストの何よりの力である。

    「バック・トゥ・ザ・フューチャー Ⅱ」で、ホヴァーボードが地面を浮きながら疾走していた2015年になった今年、ホヴァーボードの実現にも挑戦していた八谷和彦のおお仕事を改めて知ってみるのもおもしろい。

    しかし、個人で製作費9,000万円とは想像を超えた額…
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    投稿日:2015.01.04

  • 「ガンシップは風を切り裂くけどメーヴェは風にのるのだもの」

    クマがメールを届けるポストペットの開発者八谷和彦氏がイラク戦をきっかけに実際に飛ぶメーヴェを作ろうとしたのが2002年ごろ、当初の予定ではメーヴェをイメージした尾翼のある機体だった。宮崎監督も実際にはメーヴェは飛ばないと言ってたらしいが設計を担当した有限会社オリンポスの代表四戸哲が「メーヴェの形でも飛ばせますよ」と言ったばっかりに無尾翼機ででのプロジェクトが始まる。

    ペットワークスにはポストペットなどを開発しているソフトウェア事業部、稼ぎ頭でもある人形遊びをする大人のためのドール事業部そしてオープンスカイプロジェクトを手がける航空事業部が有る。メーヴェの開発に突っ込んだ費用は9000万円以上、アート作品の制作費としてはかなり高額だ。オリンポスに依頼した3機の見積もりだけで3000万円だが、1億円以上したらしい鉄人28号やガンダムの制作費と比べるといくら材料費がかからないとは言え割安に感じる。事業としては完成したメーヴェの貸し出しとなるのだろうが「中二の心のまま、大人としてそれをビジネスにできれば最高!」という会社なので作りたいから作ったと言う感じだ。ドール事業部も非売品ながら1/6モデルのAKB48ドールを作成したりしている。

    1/2モデルのラジコン機、人力でゴムを引いて飛ばすグライダー機に続き、2010年にはジェットエンジンを搭載した滑空テストが始まった。380万円をかけて購入した初号エンジンのベアリング破損では製造メーカーが倒産し、修理がきかずこのエンジンを放棄するしかなくなった。しかし、代替のエンジンをオランダから120万円でネット購入することができプロジェクトはなんとか生き延びた。推力40kgと言う小型ジェットエンジンを売ってる会社があるというのもドローンの技術が転用されているからだそうだ。

    メーヴェが飛ぶ姿はこちら直近は振展がなさそうだが。
    http://www.petworks.co.jp/~hachiya/works/OpenSky_movie.html
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    投稿日:2017.07.08

  • 壮大なムダ使い。胸アツです。

    YoutubeでM-02Jが飛んでいる姿を見ました。あれを見たら星5つしかありえません。M-02Jにかけた時間とお金。M-02Jを量産して儲けるわけでもなく。壮大なムダ使い。でも、なんだろう。夢とか、希望とか、情熱とか、胸アツです。続きを読む

    投稿日:2022.06.14

ブクログレビュー

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  • える

    える

    なんとなく興味で読んだが、ホリエモンや糸井重里が出てきて驚いた。何でも裏で繋がっているな、というのが感想。

    投稿日:2022.12.10

  • なー

    なー

    このレビューはネタバレを含みます

    数式こそ出て来ないけど、ちょいちょい難しい話や専門用語が入る。無尾翼?トライク?ゴム索…?でも、"ツラメーター"を根拠に「ナウシカはすっぴん!」とか、ちょっとズレてて可笑しい。「愛・地球博」は懐かしいけど、ボトムズのスコープドッグって、モビルスーツみたいなものですか??
    軍事技術周辺に個人でアクセスしにくいのは万国共通だと勝手に思っていたので、外国の企業からだったら個人でもジェットエンジンとか買えちゃうって知って、ビックリした。

    合間にロケットも飛ばしてます、ホリエモンと。

    「たきがわスカイパーク」とか「野田市スポーツ公園」とか、行ってみたい。

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    投稿日:2020.07.09

  • ganko165cm

    ganko165cm

    ①困難なことほど萌えますし、もし成功すれば簡単に他者が真似できないものになるのも事実です。

    ②小さな企業は他社とは明らかに違う何かがないとすぐに潰れてしまう

    ③この人に見せたいから作るという動機で作品を作ることが多い。

    ④人間はできるようになると出来なかった自分を忘れてしまう。

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    投稿日:2019.12.01

  • takeut

    takeut

    タイトル通り、ナウシカの飛行具メーヴェを実際に作った話です。

    モノづくりのわくわく感が漂ってきます。
    また、いろんなトラブル、プロジェクト推進の難しさが書かれています。
    写真が多いのでわかりやすく、飽きさせません。

    ただ、全体的に、出来事を淡々と書いているので本としてはどうかなと思います。
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    投稿日:2018.12.30

  • okadata

    okadata

    「ガンシップは風を切り裂くけどメーヴェは風にのるのだもの」

    クマがメールを届けるポストペットの開発者八谷和彦氏がイラク戦をきっかけに実際に飛ぶメーヴェを作ろうとしたのが2002年ごろ、当初の予定ではメーヴェをイメージした尾翼のある機体だった。宮崎監督も実際にはメーヴェは飛ばないと言ってたらしいが設計を担当した有限会社オリンポスの代表四戸哲が「メーヴェの形でも飛ばせますよ」と言ったばっかりに無尾翼機ででのプロジェクトが始まる。

    ペットワークスにはポストペットなどを開発しているソフトウェア事業部、稼ぎ頭でもある人形遊びをする大人のためのドール事業部そしてオープンスカイプロジェクトを手がける航空事業部が有る。メーヴェの開発に突っ込んだ費用は9000万円以上、アート作品の制作費としてはかなり高額だ。オリンポスに依頼した3機の見積もりだけで3000万円だが、1億円以上したらしい鉄人28号やガンダムの制作費と比べるといくら材料費がかからないとは言え割安に感じる。事業としては完成したメーヴェの貸し出しとなるのだろうが「中二の心のまま、大人としてそれをビジネスにできれば最高!」という会社なので作りたいから作ったと言う感じだ。ドール事業部も非売品ながら1/6モデルのAKB48ドールを作成したりしている。

    1/2モデルのラジコン機、人力でゴムを引いて飛ばすグライダー機に続き、2010年にはジェットエンジンを搭載した滑空テストが始まった。380万円をかけて購入した初号エンジンのベアリング破損では製造メーカーが倒産し、修理がきかずこのエンジンを放棄するしかなくなった。しかし、代替のエンジンをオランダから120万円でネット購入することができプロジェクトはなんとか生き延びた。推力40kgと言う小型ジェットエンジンを売ってる会社があるというのもドローンの技術が転用されているからだそうだ。

    メーヴェが飛ぶ姿はこちら直近は振展がなさそうだが。
    http://www.petworks.co.jp/~hachiya/works/OpenSky_movie.html
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    投稿日:2015.11.29

  • enato

    enato

    著者はメディアアートというジャンルで作品をつくっています。宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」に出てくる架空の乗り物であるメーヴェに憧れて本当に作ってしまおうと考えます。完成したとき乗りこなせるようにとハンググライダーの訓練も受けます。幾度かの危機的状況を突破してついに大空へ。続きを読む

    投稿日:2015.11.03

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