【感想】世界の賢人12人が見た ウクライナの未来 プーチンの運命

クーリエ・ジャポン / 講談社+α新書
(10件のレビュー)

総合評価:

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  • 戦争をしている場合か

    「プーチンの企てを成功させてはならない。成功すれば模倣され、危機は拡大し、民主主義を揺るがすからだ」とするハラリと、「西側は彼のメッセージに真剣に耳を傾けるべきだった。ウクライナの地がロシアにとっていかに歴史的に重要な地か理解していない」とするファーガソン、「気候変動対策に世界全体で取り組まねばならない時期に、そもそも戦争なんてやってる場合か。プーチンにも逃げ道を用意すべき」とするチョムスキー。
    要は、ハラリの側の人たちが、ロシアという野蛮な巨大熊を懲らしめ、断末魔をあげさせないと気が済まないとする一方で、チョムスキーの側の人たちは、そんなんで溜飲を下げようとするのは危険で、一気に破局を迎える可能性があるだぞと警告する構図。

    「戦争なんてやってる場合かよ」というチョムスキーの指摘はその通りで、「私たち全員が、環境破壊という大災害をコントロールすべく、相互に協力しなければならないとき」に、石炭に回帰すると行ったこれまでの脱炭素の取り組みとは逆行するような潮流が生まれている。
    この危機に便乗して莫大な金が軍需企業に注ぎ込まれているが、そもそもそのお金は温暖化対策に投じられるべきではなかったのか。

    ただ、プーチンと「建設的な対話」なるものが可能なのか、プーチンを肥大化させ怪物にしたのはお前たちだろうとする、ロシア人作家・ソローキンの指摘はとてつもなく重い。

    「ロシア人はこの大統領の嘘のレトリックに慣れきってしまっている。そして残念ながらヨーロッパの人々にもそれは受け入れられている。クレムリンに飛び、嘘をたらふく食わされ、嘘にうなずき続け、記者会見では"建設的な対話"などと言って再び飛んで帰る、そんなヨーロッパの国の首脳は一人だけではない。プーチンのようなリーダーと話すことに何の意味があるだろう?作家でも芸術家でもないのだから、現実の世界に生きて、自分の言葉ひとつひとつに対して彼らは責任を負うべきだったのに。無責任な西側の政治家によっても、彼は肥え太らされた」

    プーチンはウクライナへの侵攻を「侵略者に対する特殊作戦」と呼んでいるが、KGB出身ですべてを秘密に奉仕してきた、お前の「人生そのものが特殊作戦」だろう、と。
    ウクライナ侵攻を、「これは侵攻ではなく再統一であって、国際法違反ではなく、冷戦終結時に奪われた合法的な所有物の返還だ」と正当化しているが、都合良く歴史を多用しているすぎない。

    「政治家が歴史に則って行動していると主張しているときは、しっかりと注視しなければなりません。なぜならそのとき、その人は悪いことを考えているからです」

    今回のウクライナ侵攻がプーチンの妄想癖による所が大きいと巷では解説されているが、中国からの黙認なしには行なえなかったはず。
    本書でも、北京五輪前の首脳会談で、欧州がロシアの石油やガスの輸入を禁止する場合、代わりにそれを中国が買い取るという密約がなされたのではないかと指摘している。

    それと、日本ではこの機に乗じて中国が台湾侵攻を企てるのではないかと盛んに報道しているが、もしそんな「戦略的挑戦」が発生したら、80年前の日本以来だというボルトンの指摘は笑ってしまった。
    あの時はヒトラーのヨーロッパ侵攻に乗じて日本は世界秩序に無謀にも挑戦したわけだが、中国が自重して侵攻を企てなければ日本よりも賢明だったということになるのか、それとも日本やアメリカの結束が功を奏したと自画自賛するのか、果たして?
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    投稿日:2022.10.09

ブクログレビュー

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  • Takahiro

    Takahiro

    12人の世界の知見たちがウクライナの未来やプーチンの考えをインタビュー形式で様々な論考を述べている。
    地政学や歴史の観点だけではなく、今の国際情勢を踏まえているので、大変参考になるものばかりです。
    にハラリの軍事予算が減って、教育や福祉に各国がまわしている事実やウクライナ戦争が始まってから軍事産業が儲かっている事実など非常に面白い。
    ページも短く、読みやすい。
    気になった専門家がいたら、実際にその著書を読むことを勧めます。
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    投稿日:2023.09.14

  • H.Sato

    H.Sato

    プーチンは歴史に大きな関心を寄せているが、大事なのはウクライナの自決権であり。ウクライナの人g穴にを望んでいるかということ。
    プーチンにとって重要なのは攻めること。相手が立ち上がれないほどの打撃を与える。
    権力とは振りかざしてこそ意味がある。
    プーチンで終わらない。そのあと中国は読者医者が存在しえいる民主主義社会g再び支え合うような協調的なシステムが必要。
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    投稿日:2023.01.22

  • mmlibrary

    mmlibrary

    このレビューはネタバレを含みます

    2022/10/26 読了
    ウェブメディアのクーリエ・ジャポンがまとめた賢人たちによるウクライナ戦争評論集。ふ〜ん、という内容。どれをとっても偏執的な野望に取り憑かれたプーチンを理解できる論文はない。

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    投稿日:2022.10.26

  • bukurose

    bukurose

    ソローキン氏のを読みたくて購入。

    「プーチンはいかにして怪物となったのか」ウラジミール・ソローキン:「南ドイツ新聞」への2022.2.22寄稿。クーリエ・ジャポン掲載は2022.3.4

    プーチンが1999年にエリツィンの後、大統領代行に据えられた時、親しみやすいどころか、魅力的にさえ見えた。民主的な考えを持っており、西側諸国とも協力を約束していた。だが、刻一刻と帝国主義への怪物へと変貌していった。

    ロシアでは歴史的にも現在も、権力構造はピラミッド型だ。エリツィンも残念ながら、ピラミッド構造には手をつけず表面を修理しただけで、ピラミッドを取り壊しそびれた。1950年代にナチズムの亡きがらを埋葬したドイツ人と異なり、自分たちのソビエトの過去を葬ることをまったくしていない。

    プーチンはソビエト連邦の崩壊は20世紀最大の惨事だといい、KGBの考えも排除していない。プーチンはタイムマシンで時間を巻き戻すことで、居心地のよかったソビエトの若者時代に戻れると思いこんでいた。

    権力のピラミッドが厄介な点の一つは、頂点にいる人間が自分の精神疾患的兆候を国全体に伝染させることだ。

    イデオロギー的に見れば、プーチニズムとはむしろ折衷的な性質を持っている。ソビエト的なものすべてに対する敬意は封建的な論理に結びつき、レーニンさえもツァーリのロシアやロシア正教と結びつける。

    プーチンの思想の中核を形作っている哲学者はイヴァン・イリインだ。君主制主義者で、ナショナリストで、反ユダヤ主義者で、反革命の白色運動のイデオローグだ。

    立ちあがるロシア~これはプーチンやプーチン主義者の好むスローガンだった。「レーニンによって作りだされたウクライナ」これにもイリインの思想が響いている。しかし実際にウクライナを独立させたのはレーニンではなく、レーニンの主導で憲法制定議会が解散した直後の1918年1月にキーウの中央ラーダ(ウクライナ中央議会)が独立を宣言したのだ。

    プーチンを肥大化させたのは誰か。お金で意のままになるロシアのエリートだけではなく、無責任な西側の政治家(メルケルやオバマだ)、冷笑的なビジネスマン、腐敗したジャーナリストや政治学者によってだ。

    プーチンは嘘のロジックで、ウクライナへの侵攻を「ウクライナ側の独裁者」に対する「特殊作戦」と呼んでいる。つまり、平和を愛するロシアが「ウクライナの軍事政権」からクリミアをとりあげ、ウクライナ東部で戦争を起こし、今度は国全体を攻撃しているというわけだ。1939年にスターリンがフィンランドに対して行ったこととほとんど同じだ。

    プーチンにとっては、その人生の.すべてが特殊作戦なのだ。プーチンはKGBという暗黒の団体から、「庶民」に対する侮蔑感情(庶民こそが常にソビエト国家の悪魔的象徴を動かしてきたという見下し)を受け継いだのみならず、あらゆる秘密警察の基本原則である決して正直にはならないという教えも受け継いだ。

    だが、この戦争でプーチンは一線を越えてしまった。
    プーチンの狙いはウクライナではなく、西側の文明だ。

    誰が悪いのか? 私たちロシア人だ。プーチン政権が倒れるまで、私たちはこの責任を負わなければならない。プーチン政権が崩壊する日は来る。

    プーチン主義は没落が運命づけられている。なぜなら、自由の敵であり、民主主義の敵だからだ。プーチンは人間の自由の軽視に執心しており、過去そのものなので、プーチンはもう終わりなのだ。

    そして、この怪物が絶対に過去のものとなるように、私たちは全力を尽くさねばならない。

    ネットメディア「クーリエ・ジャポン」に掲載されたもの、12人の言論とコラムを収録。


    2022.5.18第1刷 購入
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    投稿日:2022.07.15

  • たけ

    たけ

    残念ながら、あまり目新しい視点はない。
    クーリエ・ジャポン編のせいか、雑誌的寄せ集め的構成で物足りなさを感じる。

    帯に書いてあるとおりに「知性」という名の武器を持てるかどうかは微妙だと思うけど、ウクライナを取り巻く情勢に関して整理はできるかもしれない。

    アメリカのシンクタンクの所長、マシュー・クローニングの「プーチンが核兵器を使わずに軍事的完敗を受け入れるとは思いません。彼は、敗北を認めるよりも核の限定的使用の方がマシだと考えるでしょう」という言葉には絶望を感じた。

    我々はどう立ち向かうべきなのだろうか?
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    投稿日:2022.07.14

  • mamo

    mamo

    エマニュエル・トッドのかなり反米・親露的とも読める「第三次世界大戦はもう始まっている」を読んだ勢いで、こちらも読んでみる。

    こちらは、わりと親米というか、親西欧・民主義的な範囲で、いろいろな視点を投げかけてくれる本かな?

    これまでニュースを通じて自分が理解していたことから大きく違うものはないのだけど、こうやってさまざまな論者の論考を読むことで、自分の頭の整理にもなったかな?

    で、その次を考えるための振り返りのような本かな?

    それにして、プーチン恐るべし。戦争の長期化が見えてきている現時点において、これがどういうところに向かっていくのか、不確実性の霧は深まることはあれ、薄れることはない。

    地球の環境的な持続可能性にむかって、進んでいきたいところ、残念ながら、世界の時計は、暴力的な時代に逆戻りしつつあると考えざるをえない。
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    投稿日:2022.07.03

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