【感想】マスケットガールズ！～転生参謀と戦列乙女たち～【電子版特典付】

このレビューはネタバレを含みます

　近世ヨーロッパ風異世界で繰り広げられる戦乱模様を描いた、戦列歩兵物ライトノベルシリーズの一作目である。
　ネット小説として連載されている本作は、それらしく異世界転生物の体を取っているものの、本質的には軍記物の類である。
　それも近代戦争らしい形でバンバン人が死ぬ。
　そうした物語に相応しい乾いた世界観とシニカルなやり取りが特徴的な、実に王道の物語だ。

　主人公はシュワイデル帝国の士官学校を卒業した前線経験のある少尉。
　彼、口さのない者から「死神」などとも呼ばれるユイナー・クロムベルツ少尉が参謀を拝命し、第六特務旅団へと赴任するところから物語は始まる。
　女ばかりの旅団という特殊な環境で、旅団長もまた女性。大貴族出身のアルツァー大佐である。
　彼女率いる未熟な旅団と共に、ユイナーは周辺敵だらけの帝国の最前線の砦へと派遣されるのだが――といった内容の一巻であった。

　近代戦争の小難しい軍備や周辺情勢を簡潔に記述し、読みやすい物語に仕立てている良作である。
　シニカルな会話が良いスパイスになっていて、良い意味でライトノベルらしい点も魅力的。
　それでいて、後半では本格的な砦での攻防が描かれ、緊迫した情勢の中で主人公の打ち手の冴えが見られ、戦争物としても小気味よく、シンプルに面白い。

　また、原作（ネット小説）読者にとっても加筆は楽しく、読み応えは十分に確保されている。

・特務旅団内部からのユイナーの評価
・描き下ろし番外編での少年時代や、学生時代のエピソードの加筆
・砦での駐留時の第三師団守備兵との摩擦の加筆

　主にこういった部分で加筆が施されていて、シンプルな組み立ての原作ストーリーがさらに深まる、望ましい加筆だと思う。
　既読組にもお勧めできる類の書籍化だ。

　というわけで、今後の物語にも期待を込めてここでは星五つで評価したい。
　作品としては文句なしにこの評価だ。

　一方で、惜しむらくは書籍化で一部弊害が出ている点だろう。
　特に目に付いたのは

「砦での攻防を説明する略図の掲載がない」

　という点である。
　ネット版では自作の砦図解や進路図で攻防が視覚化されていたが、そこが収録されていない。戦争物としては手痛いところだ。
　挿絵もキャラ描写に専念していた印象で、例えば戦列歩兵の突撃や砦の攻防といった点は手薄である。
　その辺はやや残念な面もあったことは付記しておきたい。

　なお、砦の図や進路図などは原作の該当部で確認しておくとより分かりやすいだろう。
　念のため付記しておくので、未読の方は参考にするといいかもしれない。

https://ncode.syosetu.com/n2112gv/16/（砦図解）
https://ncode.syosetu.com/n2112gv/25/（攻防図）
https://ncode.syosetu.com/n2112gv/27/（攻防最終局面）

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