【感想】五・一五事件 海軍青年将校たちの「昭和維新」

小山俊樹 / 中公新書
(22件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
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  • 犬養毅暗殺は主目的ではなかった

    二・二六事件に比べて、映画やドラマ、小説や漫画で取り扱われることが少ないのはなぜなのか疑問に感じていたが、本書を読むとその謎の一端がよくわかる。
    なるほど、わかりにくい事件である。
    それもそのはず、計画は二転三転し、決起した者たちでさえ、要人を暗殺したら自害するはずが、ますます混迷し、しまいに「計画が複雑すぎる」と吐露するほど。
    一番驚いたのが、首謀者にとって、君側の奸を打ち取ることが主目的だったのではなく、桜田門の警視庁に乗り込んでの決戦がハイライトと考えていたこと。
    彼らにとって警官は「支配階級の私兵」なのだから、襲撃相手に相応しかったらしい。
    その後は、憲兵隊に乗り込んで堂々と自首するという筋書き。

    武器も当然、将校たちだからいくらでも持ち出せたのだと思っていたら、ヤクザの抗争と変わらず、風呂敷に隠してコソコソと調達してもらっている。
    投じた手榴弾の不発が多いのも、普段から使い慣れたものでなかったためか。

    そもそも二・二六事件のように、なぜ軍隊を使わなかったのかも昔から疑問を呈する人がいて、天皇の軍隊を私兵化することは駄目だと肝に命じていたから。
    この他にも彼らには、海軍主導ではあるのだが、海軍・陸軍・民間の三者が一致して決起することに強く拘った。

    右翼と一括りに言っても、革新右翼と観念右翼は違うらしく、前者が大政翼賛的な全体主義を志向するのに対し、後者は天皇の前では皆平等で各自の覚醒をひたすら希求する。
    二・二六事件が成功していたら、五・一五事件の関係者は殺されることになっていたというのも、本書ではじめて知った。
    もっと驚いたのが、犬飼首相が凶弾に倒れても政党政治は十分に存続が可能だったのに、昭和天皇の意向が働いて、政党の凋落や議会の価値の低下が始まったという指摘だ。

    それにしても「私心なき精神」か「昭和維新」か知らないが、青年将校や士官候補生がこのような事件を起こした後の、陸軍や海軍の指導部の反応が本当に解せない。
    あまり罪を重くせず内密に処理したいというのは面子の問題だから理解できるのだが、組織的には軍規の乱れを重視して内部の締め付けに動くのかと思ったら、「若い連中が弔い合戦だと騒いでいる」と慌て宥めすかしたり、出所後は手元不如意だろうと300万円ほど握らせ海外に赴任させるなど、部下にとことん甘い上司たち。
    無官が好き放題に文句を言えて、責任ある立場の人間はひたすら彼らを慰撫し取り繕う風潮は、今と全然変わっていない。
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    投稿日:2020.07.15

ブクログレビュー

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  • きのさん

    きのさん

    五一五事件が、以後の日本に重大な影響を与えたにも関わらず、わかりにくい、二二六に比べて被告達の刑が軽い等、謎な事件だが、当時の政党政治の行き詰まり感が強く、それが事件の深刻さを恰も軽減してしまっているように感じた。続きを読む

    投稿日:2024.02.14

  • La place

    La place

    内容の濃い1冊で1度で理解するのは難しかったです。日本が戦争に突入していく過程としてこの事件は習うものの、本書を読むと大正から続く流れであることがよく分かります。

    投稿日:2023.09.15

  • さぬきうどん人

    さぬきうどん人

    五・一五事件。青年軍人たちが首相官邸へ突入。「話せばわかる」と冷静に説得を試みる犬養毅首相を銃殺。この事件を発端に日本は政党政治が終わり、軍部主導政権のこと、戦争へ突っ走る。

    青年軍人たちによる現役首相の殺害という大事件の割には歴史的注目度が低い気がしていたのだが、本書を読んで、その理由がなんとなくわかった。それは本事件があまりにずさんで計画性がなく、首謀者のバックボーンに深みがないからだろう。

    過激青年たちの若気の至りにすぎない事件だが、問題はこの事件を軍部がうまく利用してしまったことだ。事件をきっかけに軍部は政党政治がいかに醜悪で金権的であるかを積極的にアピール。犬飼首相をテロに倒れた不幸な英雄ではなく、殺られるべく殺られてしまったという世論にしてしまった。犯行者たちは同情され、一人も死刑にならなかった。それどころか、出獄後に政治活動をする者もいた。

    こうした軍部の暗躍の結果、軍人が首相の地位を独占することになる。
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    投稿日:2022.12.28

  • samoyed

    samoyed

    2021.12.30~2022.02.09

    何をしたかったのか。学校の日本史ではわからない裏側が見えた気がした。
    当時の状況から考えて、行動を起こさなければならない、とういう考えを、若者が抱いたのは理解しよう。だが、暴力で解決することには、共感できない。ましてや、それを擁護するなんてあり得ない。署名運動や自決なんて・・・ 

    もしかすると、もっと深くその時代のことを学べば、違う考えを持つのかもしれないが、今の私には、こんな感想しか持てなかった。
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    投稿日:2022.02.09

  • たけのこ

    たけのこ

    自分自身、教科書で読んで、五・一五事件は犬養毅が暗殺されて政党政治が終わりました、程度の知識。

    だが当然の話で、それだけの出来事ではない。
    ・なぜ海軍青年将校たちは事件を起こしたのか
    ・なぜ五・一五事件は政党政治を終わらせたのか
    ・なぜ国民の多くが青年将校に同情し、減刑を嘆願したのか
    といった点に注目して解説している本。

    あくまで、五・一五事件は、政党政治を終わらせるきっかけの一つとなったが、直接的な原因ではない。
    ※テロが有効であったと感じさせないためには「憲政の常道」にしたがって政党政治を続けるのが合理的。
    党利党略に振り回される政党政治の状況や、元老・天皇の思惑が絡んでいた。

    また、政党政治が終わったことをきっかけとして、国の機関どうしの対立がより大きなものになってしまったことも興味深い。

    当時の天皇の在り方についても、懐かしいが、過去、受験で勉強した通りだと再確認できた。
    天皇はあくまで、国会・軍部etcの各機関の決定を承認する。天皇の「聖断」は避けるように動いていた。
    こんな調整ゴト、胃に穴が開きそうだな・・・。
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    投稿日:2021.12.24

  • 小野不一

    小野不一

    西田は当時30歳。その胆力は鬼神の域に達している。辛うじて一命は取り留めた。4年後の昭和11年(1936年)に二・二六事件が起こり、西田は北と共に首魁として翌年、死刑を執行された。二人をもってしても青年将校の動きを止めることはできなかった。
    https://sessendo.blogspot.com/2021/12/blog-post_0.html
    続きを読む

    投稿日:2021.12.05

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