【感想】社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>

小坂井敏晶 / 筑摩選書
(47件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
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  • 社会学なの?心理学なの?ハッキリしないんだから、もう!

    社会心理学の現状を「心理学の軒先を借りているに過ぎない」と嘆き、社会と個人のあいだのダイナミズムをこそ研究しなければと説く。著者は、日本の大学は中退してフランスに渡り、ほぼ「独習者」として社会心理学を修めた方。哲学にまで遡って(主体概念なんかに正面から取り組む)、タコツボ化せずにビッグ・ピクチャーを描こうとする心意気やよし。しかし、そうするとどうしても議論は大味になる。バランスというか、なんだか難しいね。

    社会システムの同一性と変化という矛盾する(?)力に着目していく。

    フェスティンガーの認知不協和理論は知っていたが、社会秩序を維持する方向に働くホメオスタシスの理論として捉えたことはなかった。ほんとうは周囲からの影響を受けているのに、自ら自分を説得して態度変化させるので、その変化は強く長く続くと考えられる(実験での実証は難しいが)。個人主義の限界を浮き彫りにする理論だと。

    一方で社会システムの変化を扱う、モスコヴィッシによる少数派影響の理論は初耳だった。多数派の影響は表面的なものにとどまるが、少数派の影響は根っこから態度を変えるらしい。難しくてよく分からないところが多かったが、残像色を利用した実験はエレガント。
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    投稿日:2016.10.09

ブクログレビュー

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  • Masaya

    Masaya

    前半は研究などを交えて心理学を紹介している。ファーストアンドスローやhuman kindなどで読んだ内容が多いが説明が厚めでより理解か深まった。特に認知不協和はページがさかれている。終盤は日本人や日本文化について書かれていて良い観点がえられた。続きを読む

    投稿日:2023.11.12

  • Tomoki

    Tomoki

    このレビューはネタバレを含みます

    社会秩序の維持と変化について。実験結果を使いながら理論を裏付け、それを社会現象に敷衍していく。社会秩序の維持について。フェスティンガーの認知不協和理論は、自分の意志と矛盾する行動を取ったときに行動を正当化することでその不協和を軽減するというもの。これを民主主義社会に当てはめれば、この社外では平等が建前になっている。だが実際に格差は存在する。したがって社会的弱者は不公平を糾弾する。民主主義社会は建前と現実の乖離の正当化を常に迫られる不安定なシステムだと筆者は言う。
    変化について。フェスティンガーらは変化は多数派によってもたらされ、少数派は社会規範に従うか社会から排除されるしかないと考えていた。これを批判したのがモスコヴィッシである。少数派はいわば触媒となり、多数派の考えを変えていくと考えた。
    最後に筆者はなぜ個人や社会が同一性を維持しつつ、変化するという矛盾を両立させられるのかを考察する。我々は対象が不変だと信じるからこそ、同一だという錯覚をする。実際のところ、対象は非常に滑らかに、連続的に変化している。

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    投稿日:2023.03.10

  • platon-kohmei

    platon-kohmei

    先に残念なところから。第2講はアイヒマン実験,監獄実験,傍観者実験に触れていますが,今ではこれらは「胡散臭い実験」と考えられます。著者が行動を左右するのは個人内の要素よりも「状況」だと言うならば,「実験に参加する」という状況を加味して,実験データを考えていくべきです。それがすっ飛ばされているのが残念なところ。いくら同様の結果が他国でも認められているとしても,「実験」という状況の影響込みのデータなので,アイヒマンの状況のシミュレートにはなっていないわけです。この著書が出版された当時よりも今は社会心理学の知見にはかなり疑義が呈されていますから,第2講の内容は,社会心理学の実験を持ち出すのはナンセンスで,アレントなどの哲学者や社会学者の説で十分だと思われます。

    些細な残念箇所もあるにはある。例えば,「仮に今,太陽が消失したとしても八分以上,地球はその事実を知らず,同じ軌道を回り続けます。(p.96)」は嘘です。太陽がなくなっても8分は太陽の光を浴びるでしょうが,太陽がないのであれば,太陽からの引力はなくなるので,公転軌道は維持されません。

    とはいえ。


    *****
     私の本を手にとって下さる読者の中には,私の発想を学際的だと評したり,引き出しをたくさん持っていると言う人がいます。しかし哲学とか心理学とか社会学とか分けて考えるから,学際的という表現が発明されるのであり,哲学・社会学・心理学・文化人類学・経済学・大脳生理学・進化論など,実はどれもつながっている。私は自分のテーマに必要な本や論文を読むだけであり,学問領域なんて考えたことがありません。(pp.17-18)

    そんな方法論は社会心理学ではない,そのようなテーマは社会学の領域だ,思弁的考察は哲学に任せろと反論する人もいるでしょう。でも,そんな制度上の区別は私にとってどうでもよいことです。人間を知るためには心理と社会を同時に考慮する必要がある。というよりも,社会と心理とを分ける発想がすでに誤りです。問いの建て方や答えの見つけ方,特に矛盾の解き方について私が格闘した軌跡をなぞり,読者と一緒に考えたい。人間をどう捉えるか。願いはそれだけです。(p.19)

     社会心理学の学術誌を見ると引用文献が満載です。文献をたくさん挙げると偉くなったような気がしますが,それは錯覚です。出典が多ければ多いほど,よく勉強したことにはなるので,学校の先生には褒められるかも知れない。しかし,今までに私が上梓した本への反省も込めて言うのですが,出典が多いのは創造性がない証拠ですから,実は恥ずかしいことなのです。(p.39)
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    投稿日:2022.12.05

  • tetsuya44

    tetsuya44

    HONZや出口治明さん、Amazonでも絶賛されていて、比較的時間がある夏休みに読んでみた。大学講義レベルとまではいかないのだろうが、しっかり考えながら読まないと理解できない。

    社会と心理の密接な関わりを研究するのが社会心理学。社会現象を説明するための心理学的な考察、社会と心理の相互作用、などが紹介されている。

    次の項目が興味深かった。
    ●思考実験の手法、考え方
    ●明治の開国、そして第二次世界大戦の敗戦後、すごい勢いで西洋化、西洋崇拝した理由の考察。
    ●民主主義の格差、それを受け入れる心理。
    ●差別の心理は、同質性の問題。

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    投稿日:2022.08.28

  • ヒラハラ

    ヒラハラ

    (社会)心理学の理論をカタログ的に紹介するのではなく、社会心理学はどうあるべきかを中心軸として、行動主義〜認知不協和理論〜少数派の全体への影響の仕方を題材に、論の立て方、実証の歴史をたどるような本。
    少数派の影響が、無意識下で確実に現れる(モスコヴィッシ)というのは勉強になった。続きを読む

    投稿日:2021.11.27

  • minusion

    minusion

    社会心理学と聞いて心理学の一部門というくらいにしか考えていなかったけれど、社会学や哲学にも造詣が深い著者の目線からの話が全体像を把握しやすかった。
    volumeも多く読むのに時間がかかったけれど、どの章もとても内容の濃いものばかりで、改めて読み返したいと思うほどだった。

    読み終わって改めて感じたことは、世の中を一つの真理で説明することはできないと。多様性や自由が大事だというけれど、社会で揺るがない普遍的価値があるとすればそれはもう閉ざされた社会になってしまう。
    開かれた社会というのはあらゆる法律ルール道徳、いずれにおいても変わることのない絶対的なものは存在しない。全ては相対化されたものに過ぎないことを受け入れることが大切なのだろう。
    続きを読む

    投稿日:2021.10.20

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