【感想】戦後史の解放I 歴史認識とは何か―日露戦争からアジア太平洋戦争まで―

細谷雄一 / 新潮選書
(21件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
8
5
4
1
0
  • 日本と世界はつながっている。

    日本で習う世界史では日本はあまり出てこない、逆に日本史では世界史の動きがあまりでてこない。
    そうではなくて日本と世界はつながっていて、世界でのできごとは日本の歴史にも影響し日本の行動が世界の歴史を動かしているということ。
    第一次世界大戦から第二次世界大戦までの日本の行動、それが世界にどのような影響を与えたのか。
    世界の流れを読み切れず、なぜ日本は破滅へと向かってしまったのか。
    大変勉強になる良書です。
    おすすです。
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    投稿日:2016.02.06

  • 歴史的事実として8月15日に終わった戦争は存在しない

    教科書は現代史をやる前に時間切れそこが一番知りたいのに何でそうなっちゃうの?
    「ピースとハイライト」by桑田圭祐

    日本史の中では世界は語られず、また世界史の中に日本の記述はほとんどない。世界史と言いながら東洋史と西洋史は有ってもイスラムや中央アジア、東南アジアなんかも中心にはいない。分断された歴史で現代史を見ても認識のみぞは埋まらない。それは日本の外交の経験や理解が、圧倒的に国際社会のそれからずれていることがしばしばあるからだ。戦前の日本外交の失敗や誰も始めるつもりも勝てる予測もなかったアジア・太平洋戦に突入したのも、国際政治に対する日本人の想定と現実の世界とのずれが原因にある。

    戦後日本の歴史は1945年8月15日に始まったと言えば多くの人に違和感はないだろう。しかし、この日は日本と朝鮮半島を除く国際社会からすれば何もなかった日だ。「そもそも歴史的事実として8月15日に終わった戦争は存在しない。」日本がポツダム宣言の受諾を回答したのは14日、国際標準としては降伏文書が調印された9月2日(中国では3日)が対日戦勝記念日であり、15日はただ多くの国民が敗戦を知った日だ。グローバルスタンダードでは「終戦」とは相手国のある行為であり、それよりも自国民向けの都合である「玉音放送」を優先することはあり得ない。

    玉音放送は国民の均質的な体験とも言い切れない。沖縄では放送局が爆破されており6/23に沖縄守備隊が壊滅してからも散発的な抵抗が続き、残存兵が米軍と降伏文書を調印したのは9/7だった。千島列島では9/18、南樺太では20日にソ連軍が上陸し戦闘が始まった。

    日露戦争において日本は「文明国」として国際法を遵守して戦った。捕虜になったロシア兵の死亡率は0.5%と驚くべき低い数字でありハーグ陸戦協定以上の待遇を行ったことには敵国ロシアからも謝意が表せられるほどであった。この頃日本の軍部では国際法教育が行われて下士官もジュネーブ条約などの知識を持っていた。

    第一次世界大戦でドイツ権益を奪った日本では悲惨な戦地を経験したヨーロッパで生まれた人道主義と言う新たな潮流を感じることはなく、1932年には陸軍士官学校の教程から戦時国際法を除外した。日中戦争の長期化が軍紀を弛緩させ、中国蔑視に起因する捕虜虐待などが頻発した。第二次世界大戦でも欧米人捕虜に対する違法行為を繰り返した。そのきっかけとなったのが東京空襲の開始であり、泰緬鉄道建設に従事させられたイギリス兵捕虜の死亡率は25%にのぼった。全戦場でのイギリス兵死亡率5.7%、ドイツやイタリアでの捕虜の死亡率5%と比べれば日露戦争当時に比べ日本軍がどれだけ野蛮になったのか。その原因となったのが国際法教育の放棄と国際的な常識からのずれだ。

    1931年10月8日、関東軍は満鉄の自衛と言う名目で150km離れた錦州を爆撃した。これが日本軍による初の都市空爆であり、戦略爆撃はゲルニカや重慶への絨毯爆撃へそしてロンドン空襲や日本への空襲、広島と長崎への原爆投下と拡大して行った。錦州爆撃以降不拡大方針を取りながら関東軍を制御できない日本政府に対する国際社会からの不信感が高まり、日本は窮地に追い込まれていくことになる。

    安倍首相は戦後70周年談話で村山談話を継承した。しかし、自社連立の条件であった「歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議」の採決では与党自社さから70名の欠席者を生んだ。安倍首相もその一人だ。「独善的なナショナリズム」を排する決意を示した村山談話が生み出したのはその想いとは裏腹に玉虫色の決着を封じ、歴史問題を外交問題としてしまった。国内でも歴史認識は一致しない、ましてや中韓とは。著者の懸念は今の日本が平和主義と言う名の孤立主義に陥っていることだ。自国以外の安全保障に全く関心を示さない利己的な姿勢は国際主義の否定と取られかねない。
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    投稿日:2016.02.28

ブクログレビュー

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  • Paddyfield

    Paddyfield

    比較的史実に基づいて書いているように見えるが、数字的根拠は明確ではなく、基本、戦中の日本悪のナラティブである。
    加えて尾張守姿勢で少し残念な書籍となっている。

    投稿日:2023.05.13

  • koh

    koh

    昨今の国際情勢を受けて近現代史に改めて興味をもった社会人の学び直しに本当にピッタリでした。
    このタイミングで本書に出会えたことに感謝。
    外交史の視点によって、歴史がより真に迫ってきます。
    浪人時代にこの本読みたかったなぁ。続きを読む

    投稿日:2023.01.11

  • hiro1548

    hiro1548

    ちょっとタイトルから期待した内容とは違ったな。
    歴史認識というよりは「国際情勢の認識」であり、しかも扱う年代の日本の指導者が、どのように国際情勢を認識していたかが検証されている。でも、それは既に先行研究により自明なこと。なぜそういう認識しか持てなかったのかが知りたいんだけどね。
    それにしても太平洋戦争では東條英機が戦犯の筆頭に挙げられるけど、近衛の方が何倍も罪深いと思うけどね。そして近衛って国民に絶大な人気だった事実が開戦の原因なんだと思うんだ。
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    投稿日:2020.02.15

  • naosunaya

    naosunaya

    これは良書であるが、「歴史認識」の在り方そのものを掘り下げているというよりは、基本的には第一次大戦以降の国際政治動向を最新の研究動向を踏まえて叙述した内容。

    現代に通じる多くの教訓を「戦間期」と呼ばれる時代(二つの世界大戦の間、1920-30年代)は含んでいることを改めて実感。
    過去に学ぶ、ということは、「戦争反対」の平和協調主義が力の空白を生む(戦争の原因になりうる)ことの危険から目を離さないということであり、同時にそれは、当時の日本がどうにも正当化できない過ちを犯したことを正視することでもある、ということ。

    文献を詳細に検討して事実(と呼びうる何か)を掘り下げる努力に右翼も左翼もない。

    (以下、備忘メモ)

    ① 大戦の悲劇→国際協調による平和主義→大戦回避失敗→実効性のある抑止、という流れ
    - 欧州では第一次大戦によって1,000万人を超える死者を出した。これにおののき、各国とも真剣に国際協調による平和という仕組みを追求するようになった。1928年の「パリ不戦条約」は紛争解決に武力を用いないことを規定した「戦争放棄」条項を持つことで画期的であった(”Renunciation of war”。これは日本国憲法第9条の「戦争放棄」の訳語でもある。戦争放棄の概念は憲法9条で新しく導入されたわけではない)
    - 一方、わずか1,000人の死者しか出なかった日本はその切実さはなかった。満州事変で国際連盟を脱退した時、欧州を襲った「戦後秩序崩壊」への危機感を日本は共有できなかった。
    ‐ 平和のために軍縮条約を締結し、それが結果的に力の空白を生みナチスの台頭を許したこと、さらにそのナチスへの宥和外交の失敗などの経験から、欧米においては一旦決められた国際ルールを軍事力で変更することへのアレルギーが強固。ちなみに、今ホットな「海洋航行の自由」は、まだ日本と開戦してもいない1941年8月、太平洋憲章という形で英米により発表された。

    ② 「協調主義」に悪乗りした日本という認識
    - 日露戦争のとき、日本の捕虜に対する人道的な扱いは世界の称賛を受けた。国際協調主義のおかげで、国際連盟においてアジア唯一の5大国となる名誉を得た
    - 一方、大国となった日本は協調を軽視するようになった。その象徴が(個人的には大変残念な新しい知識だが)当時の日本は捕虜の人道的扱いを定めるジュネーブ条約を批准しなかった、という事実。日本軍は捕虜になるのを恥としており、軍部は「ジュネーブ条約があれば、捕まっても大丈夫と思う敵軍が冒険的に本土を空襲するであろうから不利である」として反対した。太平洋戦争突入後、シンガポールで大規模な降伏を行った英国が、自国捕虜を条約に即して扱うように日本政府にもとめたとき、我々がした回答は「準適用」であった。結果的に、ドイツ軍の捕虜になった連合軍兵士の死亡率が5%だったのに対し、日本軍指揮下では20%超が死亡した。
    - これも大変残念だが、第1次大戦以降、最初に一般市民を巻き込む都市爆撃を行ったのは(ゲルニカのドイツよりも前に)日本(錦州爆撃)だった。
    - 例えば石橋湛山や吉野作造のように、日本の対中国政策を明らかに侵略的だと批判する人も当時からいた(「・・・鼻息ばかり荒くして、大国民の襟度を以て彼等(中国人)に接することを解せぬから・・・排日の感情を・・挑発する結果に(以下略)」)(吉野作造、P.86)。
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    投稿日:2019.01.13

  • 人生≒本×Snow Man

    人生≒本×Snow Man

    戦後史については、イデオロギーの偏向、時間的な誤り(1945年にいきなり戦後が始まったとする)、空間的な偏狭さ(日本一国のみで判断する)の3つの誤りが重なって、まともな議論ができない状況が続いている。

    本書は、史実に基づいて、また、世界史的な視野から見て、また、戦前の歴史も視野に入れることで、まとまりのある論述になっている。

    知らなかった事実も多かった。

    現在が「一国平和主義」という偏狭な陥穽に陥っているのでは、という末尾の指摘に全編を通した後では深く頷かざるを得なかった。
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    投稿日:2018.08.27

  • whiteboards

    whiteboards

     太平洋戦争前、リベラルな天皇と富国強兵の軍隊、特に維新を守りたい海軍の猛々しさ。
     本書では日本の戦争の問題点を、平和に向かうグローバルな潮流を感じ取れなかったという点に見ている。今でいうところのガラパゴス。

     象徴天皇になる前は天皇はとってもリベラルだった。天皇の権力が剥奪された理由は、ファッショの危険性があったからとか独裁がダメだからとかじゃなくて、天皇を冠にすることで正当性を維持しながら色々やらかすのが日本だから。国のトップとしての戦争責任はあるかもしれないけれど、戦犯からは除外されていた。
     
     思想が偏っていたって政治を動かせるような影響力を持つ人はほとんどいないので、正しい歴史認識が必要な理由はあまりない。実際は影響力の源泉はその偏りだったりするし。むしろまともな認識を持たない方が実行力は高まる。
     国と国ではなく、私とあなたのレベルで考えた場合、思想が偏っていたってそれを口にできる人はほとんどいない。その程度にはマジョリティは臆病である。
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    投稿日:2017.11.13

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