【感想】キレイゴトぬきの農業論

久松達央 / 新潮新書
(58件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
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  • この人は信用できるという農家の必要性

    農業はイメージで語られすぎているんだな。本書を読んでまずそう思った。

    「キツイ・汚い・臭い」の3Kから、「カッコ悪い・稼げない・結婚できない」が加わって6Kだという人もいる。
    茨城県南部にある久松農園は、そうした6Kという噂からは想像もできない実に明快で気持ちのいい農業経営が行われている。

    本書の著者であり、社長の久松達央は、「日本一話のうまい農家」を自称し、「有機」という名の元に作られる「安全」なだけの無農薬野菜や「環境にやさしい」だけの有機野菜を切っていく。「有機だから」という言葉で安全もおいしいも確約されるわけではないにも関わらず、人々はそのイメージにとらわれてしまっている。

    必要な農薬や肥料を使うことと、安全な野菜であることは矛盾しないと語りながら、久松農園は有機という選択をしている。それは久松がその方がおいしくて体にいい野菜が作れると考えているからだ。小規模・多品目・直販・有機というキーワードで経営を行い、無理に収穫量を上げるのではなく、「適した時期に適した品種を健康に育て、鮮度良く届ける」ことをモットーとする。

    絶対的な有機信仰者や経営一辺倒のうそ臭い農業にもない、自分のいる場所とポジションを明確に認識し、小さいことを経営上ダメなことだとしない。あけすけだからこそ信頼できる農家の姿がここにある。

    久松農園
    http://hisamatsufarm.com/news/988.html
    続きを読む

    投稿日:2014.10.12

  • これは農業の話ではない。経営の話だ。

    99年に脱サラして就農した久松氏は野菜づくりはうまくないそうだ、しかも本人曰くセンスもガッツもない。しかししゃべりは得意で日本一しゃべれる農家にはなれるかもと言う。めざすはエロうま野菜。脂のしたたるステーキやスイーツが体に悪いと言われてもやめられないように、やみつきになるような美味しさだ。年間50品目以上の野菜を有機栽培して直販している自称変態だ。

    久松氏は野菜の美味しさの三つの要素は栽培時期、品種、鮮度だと言い切る。だから野菜づくりが下手でも旬の野菜はうまい。有機でやるのは健康な野菜を売るためだ。だから健康な野菜を作るために農薬を作ると言う方法を否定していない。それぞれが選ぶ事だと言う。大規模で低価格路線の普通の農家を否定しているわけでもなく、ただそれは元々受け継いだ農地を持ってることが参入障壁で脱サラでは難しいようだ。例えば虫食い野菜のほうがうまいと言うのも根拠はない、畑では弱った野菜から病害虫にやられていく。農薬や除草剤を使うと本来淘汰されていたはずの個体が出荷されるかもしれないが有機でやる事で健康な野菜が残る。そう言う考え方だ。

    久松農園(http://hisamatsufarm.com)では契約したお客さんに取れ立ての旬の野菜セットを送ったり注文販売をしたりしている。
    ホームページにある3つの約束はこうだ。
    ・鮮度 ご注文を受けてから収穫して発送します。
    ・時期 旬の野菜だけをつくります。
    ・品種 味を重視した品種を選びます。
    周りの農家からはよくそんな面倒な事をやってるなと言われるらしいが久松氏にすればしめたもの、脱サラ農家が参入障壁を作ってしまっているのだから。一方で有機栽培の労働生産性はやはり大規模農家に比べると低い。高価格ー直送と言う方法を選んだのもちゃんと合理的な理由がある。直販は消費者からの直接フィードバックが得られると言うのもポイントだったりする。有機農業の世界には反市場的な空気がいまだに存在し、「あなたのやってる事はビジネスだ!」と言われた事もあるらしい。当たり前だし、久松氏に対しての非難にはなっていない。

    茨城県でほうれん草から基準値以上の放射線物質が検出された時にはキャンセルが相次ぎもう農業が出来ないかもと言う所まで追い込まれた。「先行き不安と言いつつ、滞りなく作業は進むのであった。マルチ(農業用フィルム)を張ると心が安らぐ。アホだ。」このスタイルで野菜を売って、うまいと言わせるのが喜びであり、保証金をもらっても満たされない。自分の育てた野菜は安全だと信じながらも安心を買いたい消費者がいるのは当然であり、風評被害に対しては不安に勝てるほどの商品力がなかったのは経営者としては「負け」なのだ。目指すべきは「ふぐ」危険はあっても食うのを目指す方が経営者としては合理的で前向きだからだ。
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    投稿日:2014.11.16

ブクログレビュー

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  • moyamoya

    moyamoya

    農業に興味があり、手に取った本。
    ドキッとさせられる言葉もたくさんあり、内容もわかりやすくてとても勉強になりました。作物をつくるだけでなく、事務や営業などさまざまな業務のスキルが必要なのはどの業界も同じですね…。
    また実際に農業始める時に読み返したいですを
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    投稿日:2023.03.08

  • kanetaya

    kanetaya

    著者は知的な方と感じた。
    農業に関して、自分が感じていた違和感を、著者も感じていることに安心してした。
    「風評被害」に関する考察には、本当に新しい視点をもらったと思う。
    良著。

    久松農園の野菜、買ってみようかな。続きを読む

    投稿日:2022.05.20

  • ふみねん

    ふみねん

    有機とは何か、野菜の在り方について立ち返りたい時に読む本。

    久松農園で農業体験したことがあるけど、この本にも書いているイズムを貫いていてとてもためになった。

    投稿日:2022.03.13

  • conoki69

    conoki69

    2013年に書かれた本ですが、現在の久松農園ホームページを見るとその方向性の正しさが証明されているなと感じました。

    投稿日:2021.07.08

  • しろたん

    しろたん

    彼氏に振られたショックで脱サラして農業でもやろうと思って読んだ本
    農業やったら補助金とか出そうだし、税制も割と優遇されてるしいいと思ったけどしんどそう、自分はシェア畑ぐらいで十分だな現状は。
    友達が農地買い取って小口証券化したら面白いって言ってたけど、金になれば何事も面白いよねきっと

    普通に読み物として良い本だったので星4つ。
    続きを読む

    投稿日:2021.06.26

  • nagaramaru

    nagaramaru

    有機農業だから美味しい、安全、環境はいい、はウソ。そのとおり。無農薬、有機栽培に対して、栽培者も消費者もなぜか神話を作りたがり、あたかも宗教のように排他的な考え方をする人もいる。宗教として自分で信じるのは良いが他人に強制するのは迷惑行為でしかない。著者は脱サラ有機就農者だがバランスのとれた見方で共感できる。すこしふるい本だが有機での就農を考えている人、有機野菜に興味のある消費者は読んだほうがいい1冊。宗教にそまらず自然体で読める。続きを読む

    投稿日:2020.08.30

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