【感想】伊藤博文 知の政治家

瀧井一博 / 中公新書
(23件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
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  • 制度とは人がつくるもの。

    以前から、著者・瀧井一博氏の描く伊藤博文像に興味を持っていた。
    瀧井氏の専門は文学部的な歴史学ではなく、法制史、まあ法学部に属するところだ。
    『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ、2003年)
    『明治国家をつくった人びと』(講談社現代新書、2013年)などの著書により、
    法制史に疎い私のような文学部の人間にもその面白さを垣間見せてくれた。

    瀧井氏が扱っているのは
    Constitution
    というものである。

    これは、「憲法」とも「国制」ともいろいろに翻訳が可能な言葉であるが(憲法の意味で使われることが多い)、
    「国のかたち」というのが一番近いのではないか、と著者は『文明史のなかの~』で述べていた。

    上記にあげた2冊、および本書は、「国のかたち」をどのようにしていくか、
    模索段階にあった明治期の日本について、様々な形で取り上げており、
    本書は、その立役者の一人である伊藤博文を軸に「国のかたち」について論じている。

    従来、あまり高い評価を受けてこなかった伊藤博文を再評価する本であるが、
    ドラマチックな英雄伝のようなものではない。

    あくまで伊藤が「国のかたち」についてどのように考えたか、
    史料を丁寧に用いてストイックに論じているからである。
    影の主役はやはり「国のかたち」なのだろう。

    だが、法制史に興味があるが、少々難しそうで気後れしてしまう
    というような人には本書はおすすめしたい。

    伊藤博文という一人の人間を軸としているため、
    「国のかたち」に対する考え方の変化が血の通ったものに感じる。
    当たり前なのだが、制度というのは人が作るものなのだ、
    そしてその過程で様々な試行錯誤がなされるのだ、と。

    よき「国のかたち」とはどのようなものだろうか?
    それを真摯に模索した人間について、真摯に論じた評伝。
    気楽に、よりは真摯に読みたい一冊である。
    続きを読む

    投稿日:2015.01.17

ブクログレビュー

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  • 大日方信春

    大日方信春

    憲法、帝国大学、帝国議会、立憲政友会、責任内閣、帝室制度調査局、韓国統監府といった諸制度を「国民政治」を実現するために構想。日本に文明国家としての制度的枠組みを与えた伊藤博文を開化主義でありながら漸進主義の思想の持ち主として描いている。続きを読む

    投稿日:2024.05.05

  • いぬ

    いぬ

    国造りの難しさを感じた。伊藤はやはり胆力のある政治家だったのだなと思う。彼は主知主義の理想家だったが、漸進主義で譲歩もたくさんしている。それが、彼の一貫性のなさにも見えるが、基本路線として、文明化し国を豊かにし、国民に安全な生活を提供したいという考えがあったように思う。知識の吸収にも貪欲だったシュタインとの出会いは大きかったものと思われる。
    福沢諭吉や大隈重信のような自由主義、政党政治のような理想は、現代からみればそちらの方が主流だけれども、江戸幕府が終わってすぐの混とんとした状況の中で、ある程度の強い権力を保持し、国民統合の象徴としての天皇をおき、徐々に政党政治を取り込もうとしていったのは、現実路線だったのだと思う。
    続きを読む

    投稿日:2023.03.21

  • nakaizawa

    nakaizawa

    「伊藤博文 知の政治家」瀧井一博著、中公新書、2010.04.25
    376p¥987C1221(2021.08.15読了)(2018.11.24購入)(2010.12.10/4刷)

    【目次】
    はしが
    第一章 文明との出会い
    第二章 立憲国家構想―明治憲法制定という前史
    第三章 一八九九年の憲法行脚
    第四章 知の結社としての立憲政友会
    第五章 明治国制の確立―一九〇七年の憲法改革
    第六章 清末改革と伊藤博文
    第七章 韓国統監の〝ヤヌス〟の顔
    あとがき
    註記 文献略記 参考文献
    伊藤博文年譜

    ☆関連図書(既読)
    「木戸孝允―維新前夜の群像4」大江志乃夫著、中公新書、1968.09.25
    「大久保利通―維新前夜の群像5」毛利敏彦著、中公新書、1969.05.25
    「西郷隆盛(上) ―維新前夜の群像6」井上清著、中公新書、1970.07.25
    「西郷隆盛(下) ―維新前夜の群像6」井上清著、中公新書、1970.08.25
    「岩倉具視 維新前夜の群像7」大久保利謙著、中公新書、1973.09.25
    「青天を衝け(一)」大森美香作・豊田美加著、NHK出版、2021.01.30
    「青天を衝け(二)」大森美香作・豊田美加著、NHK出版、2021.04.30
    「雄気堂々(上)」城山三郎著、新潮文庫、1976.05.30
    「雄気堂々(下)」城山三郎著、新潮文庫、1976.05.30
    「論語とソロバン」童門冬二著、祥伝社、2000.02.20
    「渋沢栄一『論語と算盤』」守屋淳著、NHK出版、2021.04.01
    「論語と算盤」渋沢栄一著、角川ソフィア文庫、2008.10.25
    「明治天皇の生涯(上)」童門冬二著、三笠書房、1991.11.30
    「明治天皇の生涯(下)」童門冬二著、三笠書房、1991.11.30
    「正妻 慶喜と美賀子(上)」林真理子著、講談社、2013.08.02
    「正妻 慶喜と美賀子(下)」林真理子著、講談社、2013.08.02
    「維新前夜」鈴木明著、小学館ライブラリー、1992.02.20
    (「BOOK」データベースより)amazon
    幕末維新期、若くして英国に留学、西洋文明の洗礼を受けた伊藤博文。明治維新後は、憲法を制定し、議会を開設、初代総理大臣として近代日本の骨格を創り上げた。だがその評価は、哲学なき政略家、思想なき現実主義者、また韓国併合の推進者とされ、極めて低い。しかし事実は違う。本書は、「文明」「立憲国家」「国民政治」の三つの視角から、丹念に生涯を辿り、伊藤の隠された思想・国家構想を明らかにする。
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    投稿日:2021.08.08

  • reinou

    reinou

    このレビューはネタバレを含みます

    2010年刊。
    著者は国際日本文化研究センター准教授兼総合研究大学院大学准教授。

     周旋家、プラグマティスト、藩閥政治家、初代首相、韓国統監など多様に評される伊藤博文。彼の隠れた側面を、書簡・演説原稿等から紐解いていく。

     著者は「知」と捉えるが、個人的には理想主義の面に強い印象を持った。漸進主義がプラグマティストの面を際立たせるが、一方で理想主義を有していたからこそ、山県有朋のようなほの暗い面を小さくした評価になったとも解釈できよう。

     たらればでいうことはできないが、もし暗殺されなければ、戦前においも、韓国人自身による自治的統治が進んだ可能性もなしとしない。陸軍の統治下ではどうしようもなかったということはできそうだ。
     ただ、韓国統治に関して、民選の衆議院の設立と、韓国人を大臣に据えることまで伊藤が念頭に置いていた点は想定外の事実。

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    投稿日:2017.01.16

  • nekosky

    nekosky

    明治元老の中で、多大な功績をあげたにも関わらず、比較的低い評価をされているように見える伊藤博文の実像を探る書。 朝鮮総督を務め、暗殺の憂き目にあったためか、正当な評価をされていない、色眼鏡をかけた研究が多い、筆者は感じており、おもに本人の言行を含む当時の一次資料を元に、伊藤の実像を分析している。松下村塾での、吉田松陰の伊藤に対する評価は必ずしも高くはなかったが、高杉新作の功山寺挙兵、英国への密航留学、語学を生かした明治新政府での対外折衝、憲法制定の主導、議会制民主主義への移行の企図等、当時の日本の近代化に多大な影響を与えたのは間違いがない。初期には早急であった改革への行動も、時流を見極めての漸進主義へと変わり、着実に近代化を成し遂げていったが、本書はその際の伊藤の言行をできる限りつぶさに広い、その意味するところを解釈し、記している。近代日本の幕開けに果たした伊藤の役割を知る上で、ぜひとも一読いただきたい書続きを読む

    投稿日:2016.04.29

  • トリコ

    トリコ

    伊藤博文による政治とその再評価をするための本。

    これまでの歴史的な評価だと伊藤ってわりと一貫性のない、フレキシブルな(っていうと聞こえがいいけど、まあ尻の座らない)政治家というイメージで語られがちですよね。
    でも作者によると実はさにあらず。
    伊藤の頭の中には、世人の計り知れない深慮遠謀があった!
    つまり、(現時点では政党政治とか無理だけど、いずれは実践していくべきだよね)とか(軍部の権限をできるだけ制御して、内閣中心の政治をおこなっていくつもりだけど、軍部と話し合いしてある程度お互いに妥協するのも大事だよね)とか・・
    漸進的で平和主義的な伊藤らしい政治のかじ取りの仕方だと思います。
    そういう伊藤の政治的スタンスや思惑を、筆者は、莫大な史料から読み解いている。

    時代時代にあわせた政治の在り方をプレゼンしていってるイメージですね☆彡
    気まぐれや適当な判断で動いてるわけではないんだね☆
    幕末の多幸症やんちゃ坊主がここまで成長するなんて・・木戸さん天国から見て泣いてるぞ俊輔☆☆彡

    それにしても腹心の伊東巳代治や、原敬からも(日記の中で)糞みそに言われたりして・・・かわいそうな伊藤博文wwでも、そこがかわいいんだけどね!
    続きを読む

    投稿日:2016.03.11

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