【感想】金融の世界史―バブルと戦争と株式市場―

板谷敏彦 / 新潮選書
(31件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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14
9
1
0
  • 100年後の金融史にアベノミクスと各国の通貨切り下げ競争はどう評価されるのだろうか

    メソポタミアで農耕が始まった頃に原始的な徴税のしくみが生まれた。穀物の再分配のためには記録が必要になりシュメールの粘度板には在庫管理だけでなく不動産取引も記録され所有権移転のしくみがあった。ハムラビ法典には銀や穀物の貸し借りに対する利子の規則が定められている。ちなみにまだ貨幣は発明されていない。小麦であれば順調にいけば1年後には当時のメソポタミアでは20倍以上に増える。1年後の小麦が貸した方から借りた方に移転していると考えれば返す時には量を増やして返すのは当然のように思える。これが利子の発明だったのかもしれないのだ。

    金融派生商品デリバティブの歴史も古い。世界最初のオプション取引はギリシャ時代にアリストテレスから世界初の哲学者と紹介されたタレスがやったものだ。タレスはある年のオリーブが豊作だと予測しあらかじめオリーブオイルの搾油機の使用権を買い占めた。予定通り豊作になるとタレスは搾油機の権利を売り大もうけした。手付金をオプション料と考えればいろんなものが取引できる。


    銀行、為替、株式、保険などいろいろなものが大きく発展を始めたのは大航海時代からだ。複式簿記、減価償却などもこのころにはできて来ている。グーテンベルクの印刷機は書類の偽造を困難にしヴェネチアに銀行が生まれた。それまでも現物の貨幣の両替は行われていたが、帳簿と手形だけで決済や資金の移動ができるようになったのだ。一方で信用の創造は17世紀のロンドン、預かった金に対する預かり証が貨幣の代わりに使われ、ゴールドスミス(金の保管業者)は預かった金以上の貸し出しが可能なことに気づいた。新大陸で発見された大量の銀はメキシコ・ドルとして世界中で流通した。イギリスの海賊フランシス・ドレイクがペルーからパナマ経由で大量の銀を持ち帰り次いで太平洋横断から世界1周公開を企画した。これに投資したエリザベス1世は大儲けし対外債務を全て返済しさらに余った金で東部地中海のイスラエル辺りを開発するレヴァント会社に出資した。この会社が儲けた金で作られたのが東インド会社だ。東インド会社を首になった中には有名な海賊ジャック・スパローもいる。

    国債の誕生はイギリスの名誉革命から。それまでは戦費を国王の個人的な借金でまかない、たびたびデフォルトしたり、貨幣の作り替えでインフレにして借金を返済したりしていたが、権利の賞典により王の権限が制限され主権が議会に移った。これにより借金の主体は王個人ではなく国家に変わった。保険の歴史も古いが1678年にロンドンのロイズ・コーヒーハウスでは海上保険が売買されるようになった。投資家は航海が無事に終われば分け前がもらえる変わりに損失が出れば無限責任を負う。

    戦後のターニングポイントは1971年のニクソンショック。このころ日本の一人当たり実質GDPはイギリスに追いついた。ニクソンショックから生まれたのがシカゴの先物市場、為替やモーゲージ債、原油など値のつくものは何でも商品になるのはここからが。そして76年には金利先物が生まれ81年に適法になる。現物決済が不要な商品が生まれたことでマネーの受け皿ができてしまい後のサブプライムローン問題につながっていく。そして85年のプラザ合意で円高が進むとともに政府の低金利政策は続きバブルが生まれた。ドル建てで日経平均を見るとニクソンショックから89年の最高値まで年率30%で上がり続けた。

    現代史では市場は効率的かそれともそれとも投資家がインデックス投資に勝てるのかの議論が興味深い。1896年から2012年までのNYダウの日時収益率をデーターに取ると中心部はきれいなベルカーブを描きランダムウォークをしているように見える。しかし、正規分布であれば合計29850日のデーターのうち5%以上の上下をする確率は0.22日分しか無いはずなのに現実にはブラックスワンは97日も存在していた年に1度は異常値がでることになる。それでもインデックスに勝ち続けるのはウォーレン・バフェットなどの1部の投資家だけのようだ。バフェットも重視している時価総額/GDPという値を見るとバブル崩壊後は60〜100%で推移しており2013年はおよそ90%になっている。
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    投稿日:2014.11.16

ブクログレビュー

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  • mnagaku

    mnagaku

    実務家が書いた歴史の本なので、あまり期待はしなかったけど、面白かった。特に筆者の現役の頃の話は、エビデンスはともかく、当事者の記憶なわけで、時代の雰囲気が分かる。

    投稿日:2023.05.16

  • きしやん

    きしやん

    このレビューはネタバレを含みます

    金融の世界史と題してあるだけあって、世界の有史以来からの貨幣の成り立ちから市場の構築まで、幅広い分野の話が網羅されています。
    抑えてる範囲が広いだけあって、各分野の詳細は省き気味なのは仕方ないです。

    ただし著者の貨幣観が商品貨幣論なので、著書内での金融史の説明がどこまで正しいのかは怪しいところ。

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    投稿日:2022.06.12

  • そばぼうろ

    そばぼうろ

    メソポタミア文明からリーマン・ショックまでの金融の歴史を網羅。当時の政治的背景も併せて述べられており、立体的に理解できる内容となっている。

    投稿日:2021.08.29

  • もけ

    もけ

    知人で大学の先生から頂き、拝読しました。
    非常に興味深かったです。

    見通しよく、本質的に重要な関連事項が巧みに整理されていて、尚且つ随所に著者の高い教養が滲み出ていて、大変勉強になりました。

    金融の歴史は人間の欲の歴史。人間の営みの歴史。

    風が吹けば桶屋が儲かるというような形で、順を追って歴史を紐解く事で、複雑化してみえる金融の本質が見えてくるように、分かりやすく興味深い雑学満載で解説、案内されています。

    今ある金融の仕組みには、必ず存在意義があります。
    今の金融の様相は、どんなに複雑に見えても、必ず人の欲や営みが生み出すことには変わりはない事、人は必ずしも完璧に合理的でなく、それが複雑性を生み出す事なども、歴史的具体例が挙げられていて、よく分かりました。

    単に歴史を紹介するのでなく、金融の本質とは何かについて考えさせてくれる本です。

    帳簿、利子、貨幣、市場、先物、株式、保険、他金融商品、その生い立ちが非常に分かりやすく整理されていて、金融初心者にとって、非常に読みやすく、大変良い本だと思います。
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    投稿日:2021.08.24

  • eisaku0330

    eisaku0330

    2020/12/18金融の世界史 板谷敏彦 金融の歴史について博識
    人類は進歩せず 同じ過ちを繰り返している
    1.冒険貸借 航海ビジネス→プロジェクトファイナンス 
      利子ではなく保険料
      財産権の侵害 国王への貸付は踏み倒される
      →破産 預金封鎖も同じ
      エリザベス女王ドレイクの海賊ビジネス=ベンチャービジネス
    2.大航海時代で欧州の優位性 
      コロンブスの「多様性」vs中国「明の永楽帝」鄭和の大遠征
      価格革命-新大陸の銀・インフレ-新興勢力の活躍、
      印刷-宗教革命 
      グローバル化 閉鎖的な価値体系 異質が価値 利益をもたらす 資本が差異を失わせる
      東インド会社 全ての航海を一事業 永久資本
    3.鉄道事業 大規模な資金調達 株式会社の発明 エージェンシー問題
      1899年時価総額の63%が鉄道株
      1861年南北戦争国債発行に苦慮 投資銀行クックが個人向けに販売
    4.ワイマール共和国 ハイパーインフレ
      賠償金負担 物価上昇 マルク安 輸出堅調 ドイツ経済は好調
      国債発行 短期債を中央銀行引き受け 長期債の発行へ振り替えが難航 通貨増発へ
      仏国の賠償金過大 ドイツ経済の疲弊 ナチスの台頭 対仏戦争 戦勝 復讐の連鎖
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    投稿日:2020.12.18

  • retake272

    retake272

    前半から中盤は、時代時代における金融がどういったものだったのかの説明。この辺りは通貨や利子の話なので、歴史が好きな人であれば素直に楽しく読めると思う。
    中盤で株式や債券が出始めたあたりから、歴史と金融の実態の解説が半々になって来る。株式や債券が何なのかわからない人には辛くなってくる。
    後半、デリバティブズやファイナンス理論のあたりまで来ると、一通りの簡単な金融と経済学の用語を知らないと、多分読めない。殆どの単語の説明が不足してるので。

    前半と後半で大分趣きが違う。
    誰であろうとも前半は読んで置いて損は無い。面白いし為になる。
    後半は、金融の意味はわかるがピンと来てない人(自分)の、教養の醸成にピッタリな内容。銀行とか証券会社とか良く分からないし怖い(これも自分)という人にオススメ。
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    投稿日:2020.10.22

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