【感想】ブレイクアウト・ネーションズ 大停滞を打ち破る新興諸国

ルチル・シャルマ, 鈴木立哉 / 単行本
(17件のレビュー)

総合評価:

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  • 次の10年でブレイクする国家を、候補国ごとに概説・分析

    結論としては、チェコ、韓国、トルコ、ポーランド、タイ、インドネシア、フィリピン、スリランカ、ナイジェリアなどが、必要な成長率をクリアできそうな国として挙げられる。
    著者が投資会社の責任者であるためか、まるで投資セミナーに参加しているようで、脇道なしで次の有望な投資先はどこかと真剣に探る。
    評価は、日本だけでなく、出身国のインドに対しても厳しく容赦なしだ。
    閉鎖的で硬直的と思われがちな計画経済や同族企業経営があながち負の面ばかりではないとの指摘も面白かったし、輸出が堅調なアジアの新興国家が必ずしも順調に国民所得が伸びてくれないのは輸出依存度が高すぎるためで、日本のようにバランスの取れた発展が必要という指摘は意外だった。
    自民党政権下の農村への手厚いばら撒きも有効だったということか。
    アジアの金融危機で徹底的に経済が破綻してその後急成長を遂げた国と、バブル崩壊でエベレストから転落したにもかかわらず骨折もせず痛みも感じようとしなかった日本とを対比させて、ハードランディングの重要性を説く。

    中国の成長率の鈍化とアメリカの低金利政策の見直しによって打撃を受けるのは、ブラジルやロシア、中東などの資源輸出国で、生き残るのは逆にコモディティ輸入国となる。
    どこかの市場が暴落したり、成長が止まったからといってそれですべてが失われるわけではなく、新たな成長や市場というように質的に変化するだけという指摘も心に残った。
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    投稿日:2013.12.11

  • 風がなければ自ら漕ぎ出せ

    モルガン・スタンレーで250億ドルを運用するルチル・シャルマが世界経済の脈を測りたい時にチェックするのは、ロンドンでも、フランクフルトでも、東京でもない。ソウルだ。過去50年の平均経済成長率が5%を上回ったのは韓国と台湾のみで世界の経済レースにおける金メダリストだ。韓国の一人当たりGDPは28千ドルを超え、アベノミクスで円安になった日本の33千ドル(2011年比で3割ダウン)に並びかけようとしている。金融危機の後創造的破壊から生まれ変わった韓国をシャルマはブレイクアウト・ネーション(現状を突破できる国)の筆頭候補に挙げている。一方で日本に対する評価は厳しく、ブレイクアウトを忘れた方がいい国だ。

    中国に対する幻想
    賃金が上がり組み立て産業としての国際競争力を無くしつつある中国だが内需の拡大で質的転換を図り経済成長を続けるというのが中国政府の方針だ。しかし、この30年間中国の消費支出は年平均9%近いペースで伸びてきた。高度成長期の日本より1ポイント高く絶好調時の台湾に匹敵する。GDPに占める消費の割合は40%とまだ低めだが、それは単に投資の伸びが大きすぎるだけだ。中国の成長が減速しても製造セクターは他国にシェアが奪われるだけで世界経済が地殻変動を起こすことはない。

    インドの魔術
    インドの富裕層の純資産の対GDP比率は17%、ロシアの29%ほでではないが中国の4%を大きく超える。縁故主義がはびこりビジネスにおける決定的な要因が政府との正しいコネの有無になっている。しかもチャーチルがかつて言ったようにインドは国というより地域と捉える方が実態に近い。インド合衆国では州ごとの地方政府の影響が強いのだ。またインドでは州ごとに売れ筋が違う。どうやらインドと言うマーケットはないらしい。人口ボーナスを享受するためには農村から都市への人口の移動と農業から工業への転換がつきものだが政府の福祉政策のために村から離れたがらない。それでも出発点の低いインドはこれからも発展する。

    ブラジルはあまりにもインフラ投資がなくGDPの僅か2%。需要はあるのにインフラが整備されていないために供給が追いつかずインフレに苦しむことになる。天然資源のコモディティー頼りの経済では投機的な資金が流れ込み、投資に回らない。フォーシーズンズの宿泊費を比べるとモスクワが924ドル、サンパウロが720ドルイスタンブールが659ドルと続く。同じく資源国のジャカルタは230ドルで、KLは160ドルだ。ロシアとともにコモディティー価格が下がり始めこれからは苦難が待っている。

    ブレイクアウト・ネーションの候補は韓国を始めとしヨーロッパのスイートスポットであるポーランドとチェコ、イスラム教とうまく折り合ったトルコ、コモディティーから得られた金をしっかり国内投資にまわしたインドネシアなどだが忘れてはいけないのが製造業に回帰しつつあるアメリカだ。

    ルチル・シャルマは机上の投資家ではなく、毎月1週間を新興国で暮らし、現場の話を聞いている。過去10年は多くの国が追い風に乗って反映してきた。しかしこれからは違う。「風がなければ、自ら漕ぎ出せ」投資家のルチルからすればそれを実践してきた韓国の評価が高く、できるだけ現状を守ろうとしてきた日本の評価は低い。
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    投稿日:2015.05.10

ブクログレビュー

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  • Mkengar

    Mkengar

    本書はモルガン・スタンレーのシャルマ氏による世界各国の見立てで、どの国が今後「ブレイクアウトネーションズ」になるか、すなわち高成長をするかという本です。豊富なデータ分析と、彼自身の現地訪問の経験による感覚の両方が一貫して記載されているので、きわめて説得力があります。ただし他の方も指摘しているように、新興国の発表データをかなり鵜呑みにしている面もあり、もちろんそれを確かめるため現地訪問をしているとは思いますが、若干違和感を感じる面もありました。ただし国を見るときの注意点など多くのキーワードがちりばめられていて有益という印象です。
     またこれはあくまで投資家/債権者の視点であることには留意が必要でしょう。投資家や債権者は国のマクロ的な見通しがきわめて重要である一方で、事業者の視点から見ると、必ずしもブレイクアウトネーションズでのビジネスが価値を創造するとは限りません。投資家の場合は、皆が投資をして株価が上昇すれば皆がハッピーになりますが、事業者の場合は、企業が我も我もと(その国に)投資をすれば、競争が激しくなり利益率は限りなくゼロに近づきます。事業者の視点から見ると、価値創造ができる国が重要であって、経済成長率は低めでも、事業者の寡占が進み、ローカルの競合が少なく、利益率が高い国が良い国という可能性があります。ということで、企業の経営企画、海外事業部の方が読むに当たっては、そのあたりにも留意する必要があると思います。
     最後に気になった点を1つ。帯に双日総合研究所のチーフエコノミストのコメントが記載されています。「BRICsの時代は終わった。今後も成長を続ける新興国はどこか?・・・・・」と書かれていますが、そもそもシャルマ氏はBRICsという区分自体がミスリーディングで何の役にも立たない、全然特徴が違う4種類の国を一括りにするのはナンセンスだ、と本書内でも述べているように、「BRICsの時代は終わった」的な話は一切していません。確かに、中国、インド、ブラジル、ロシアは全然違う理由で、成長率の鈍化を示唆していますが、シャルマ氏が本当に言いたいことが、この人には伝わってない。というか本当に本書をちゃんと読んだのか?という感じですね。
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    投稿日:2023.04.26

  • アカセン

    アカセン

    現在進行系の話題はいつでも難しい。状況はすぐに変わるし、当事者のバイアス依存が大きいし、情報の正しさの検証も不足する。
    なにより短期的には良い策だと結論が出たとしても、数年後には全く逆の結果となる場合すらある。
    原因と結果の関連性が世界規模に及ぶ現代経済を理解することは、人類に可能なのだろうか?

    本書は2012年時点において、多数の新興諸国から”次に抜け出す国”を見極めるため、各国の経済状況を細やかに見通す。

    ・賃金インフレ、労働力年齢構成、政府による暴力的な経済政策等、輸出依存で成長した先の新たな壁で減速しつつもソフトランディングを狙う中国
    ・成長の余地はあれど、肥大化した政府部門、縁故資本主義、資本家層の固定化、田舎と都会の固定化等、リスクが多くて先が読めないインド
    ・コモディティ輸出依存のインフレ経済の中で、通貨安・金利引き下げ・投資増を同時に達成しなければならないブラジル
    ・寡占企業と麻薬カルテルの支配と停滞から国民が逃げ出すメキシコ
    ・この10年間で、年間所得平均が1500ドルから1万3千ドルへと上昇したが、独裁と油田依存で危険度が高いロシア
    ・混乱が続くハンガリーと違い、共産主義からの華麗な脱出に成功し、成長しつつある東欧のスイートスポット:チェコ・ポーランド
    ・急進的な西欧化への失敗から立ち直り、イスラム教国家と政教分離政権を両立するトルコ
    ・人種格差問題も解決しきらない中で、強すぎる労働組合が強権を振りかざし、増え続ける失業者との間で新たな格差社会問題を生みつつある南アフリカ
    その他スリランカ、ベトナム、ナイジェリア、マレーシア、インドネシアなどなど。

    どの国についても図表は皆無だが数字は細やか。専門的なのに読みやすく、文量を感じさせない。
    本書を読めば、成長する国を見極められるようになるというわけではないが、こんなにも数多くの国を一つの視点で見通す本は他にはない。

    完璧な予見は不可能だとしても、膨大な現状を積み重ねて予測するのは面白い。
    様々な国を、すなわち世界を理解するための手掛かりとして、その歴史を学ぶこととは別のアプローチを教えてくれる一冊。
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    投稿日:2021.03.31

  • osawat

    osawat

    投資家の目からみる。
    中国:成長は鈍化?
    インド・韓国:縁故資本主義
    韓国:アジアのドイツ
    ブラジル:レアル上昇したが、物価高でどうか?

    投稿日:2018.11.05

  • kakabalika

    kakabalika

    新興国を中心とした状況を把握することができる。
    経済発展には人口の集中とインフラへの集中。
    一人当たりGDPが豊かさの指標としてとらえられている。
    新興国はインフラの整備が経済発展につながる。

    投稿日:2017.02.09

  • shimu2

    shimu2

    [ここが、次の槍頭]米欧日が減速する中で、次の世界経済の牽引役として、注目を集めた中国やインドをはじめとする新興諸国。ときに一括りにされて語られてしまう各国の経済を現実的な視点から眺め、次のブレイクアウト(注:本書では勃興、興隆を指す言葉として使用)を果たすのはどこかを見定めた一冊です。著者は、モルガン・スタンレーで新興市場とグローバルマクロの責任者を務めたルチル・シャルマ。訳者は、金融関係の書籍を多数翻訳されている鈴木立哉。


    上記の2か国や「アジアの虎」に数えられる韓国や台湾、そしてロシアやブラジルといったメジャーどころだけでなく、スリランカやナイジェリアといった国々にまで視点が広げられているため、幅広く新興諸国の経済に関する見取り図を得ることができる点が魅力的。著者が自らの足を使ってそれらの国々を回っているため、数字の羅列や教科書的な記述にとどまらない記述がされている点にも好感が持てました。


    また、いわゆるエコノミストや経済専門家と言われる人々が、どういった視点で経済成長のための環境の良し悪しを判断しているかを学ぶことができるのも大きな利点の一つ。流通や汚職、人口動態といった諸条件が重要であることはなんとなく感じていたところですが、それらが具体的に経済成長にどのように結びつくかについての数々の指摘は、本書に紹介されていない国や地方を考える上でも有益ではないでしょうか。

    〜急成長の条件をつくり出すことは、科学と言うよりも、芸術である。〜

    著者によれば、BRICsという考え方は「終わっている」そうです☆5つ
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    投稿日:2015.03.07

  • knsatoshi

    knsatoshi

    近い将来に成長することが見込まれる新興国について、地域ごとに著者が現地で感じたことを織り交ぜながら解説しており、臨場感を感じられる。これまでに関わったことがある国々が論じられていて興味深い。

    投稿日:2014.10.06

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