【感想】華竜の宮(上)

上田早夕里 / ハヤカワ文庫JA
(59件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
25
22
4
4
1
  • 現代と地続きのSFファンタジー

    地球温暖化と大規模な地殻変動により、陸地のほとんどが海に沈んでしまった地球が舞台です。深刻な環境問題に取り組む2人の学者にリアルな近未来を予測させつつ、プロローグが明けたら一気にファンタジーな世界に突入。
    環境に適応するために、陸上民と海上民という2種類の生物に分かれた人類が、やがて対立する存在となって戦う物語?と思いきや、新たな問題が浮上して目が離せない展開に。下巻まで一気に引き込まれます。
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    投稿日:2014.04.02

  • ヨーワ医師に共感共鳴。私は、ただただ生きている地球上の生物を巻き込まないで共存したいと思う。

    氷が溶けて、地球が殆んど海となってしまってからの、数百年後の人間も今と同じで少し安心しました。
    俗に言う、良い人も悪い人もいる世界が。
    といっても
    『人類は呪われた所業に手を出した。』為に、終わりなきスパイラルの未来へと。
    そしてまたもや地球最大の危機へと、それに伴いここまできたホモ・サピエンスが全く違う姿形にって?
    コワイ!コワイ!現実感の無い不気味な恐ろしさがじわじわとまとわりついてきます。
    これからの地球環境を考えるに、あながちフィクションの世界にとどまらないような気もするのです・・・。
    何とか踏みとどまって他の方法が見つかることを願いつつ、下巻へ。
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    投稿日:2016.07.16

  • 壮大で、すてきな海のお話です。

    まず、おバカな先入観から、タイトルを見て竜宮城の乙姫様みたいな海の神様が降臨する話だと思っていました。大間違い!見事な海洋SFです。特にすごいのが、その世界観。目の前にありありと浮かぶさまざまな模様を持った魚舟たちと多彩な登場人物たち。特に「人工知能」の「感情」形成のリアリティは将来のテクノロジーの進化を予感させます。そして最後のシーンは、ほとんど「2001年宇宙の旅」な雰囲気です。ただ、折角いろいろな伏線を持って登場した何人かのキャラクターが活かされていないのは残念です。スピンオフ作品として読んでみたいです。続きを読む

    投稿日:2013.09.25

  • 素朴な人々、冷徹な現実。

    ハヤカワは読み応えのある話が多いなあ。上下巻だけど一気に読めてしまった。
    高度な文明に頼らず自分たちの技術のみで暮らす人や、文明の恩恵を受けて他人を見下すように暮らす人、両者の間に立って全てが幸せになれるように苦心する人、彼らの駆け引きが良い。
    壮大な世界観や、魚舟・獣舟といったアイディアもいいけれど、「人」というものについて考えさせられる話だと思う。
    避けられない終末に向かって、持てる限りの力を使って生き延びようとする戦いもすごい。
    みんながハッピーめでたしめでたし、とはいかないけれど、自然に対して唯一立ち向かえる人類の力を感じる。
    マキ君は人類を継ぐものになるのかな。それとも別の種族として存在するのかな。人工知能だけど、肉体を改造された海上民やロボットで肉体コントロールをする陸上民たちと同じく、彼もまた人間の一種のようだと思う。
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    投稿日:2013.10.03

  • いつかあり得る世界?

    滅びの中、環境の変化を受け入れ、どう最善を尽くし、未来に託すか。 こんな世界観や生命のバリエーションを生み出せる作者名に素直に凄い、と思いました。そして突拍子もないストーリーではないところも。 ぶ厚い物語ながら、苦なく楽しめた。そして考えさせられた。他人事ではない、温暖化、地震、原子力…危機がやってくることにどう備えるのか。 マキと青澄のコンビにも好感が持てた。続きを読む

    投稿日:2014.01.18

  • 夢中になります

    長い話ですが、物語の世界に魅了されました。
    一人の外交官が、国家や、さまざまな思惑に奔走しますが、
    その姿がかっこいい。

    投稿日:2013.10.01

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  • sminami

    sminami

    このレビューはネタバレを含みます

    積ん読くずし

    面白い!
    描かれてる科学や技術は専門外であまり興味は持てていないが、話が面白い!
    青澄、ツキソメ、タイフォンの全員がキャラ立ってていいね
    汎アがわりと中心的舞台なので、中華系SFの情景が浮かぶなあ

    この世界で災厄を逃れた大型コンピュータって一つだけ(シャドウランズ)なのかな
    ああいうとこって電気が必要で、とすると水も必要なので、災厄で沈みやすい傾向にはあるのかなあと

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    投稿日:2024.03.06

  • もー

    もー

    このレビューはネタバレを含みます

    SF、まさしくSF!という感想をもった作品。
    ジャレド・ダイヤモンドの「文明崩壊」を読んだことにより、長期的な環境変動と人類の危機に対して以前とは違う感覚を得た私には、この世界観が突き刺さる。
    プルームの上昇は、(小説用に)タイムスケールをいじっているので本来は起きえないことだが、それでも地球環境の変動、遺伝子・環境の改変、予想外の連鎖を引き起こす改変手段、人間の思考を補助する人工知性体(AI)に制御不能に陥っている生物工学兵器、と現代(近未来)を暗示するようなストーリーではないか。


    ホットプルーム上昇による海底面の上昇、それに伴う海水面の急激な上昇による陸域の大幅な減少。こういう人類滅亡のさせ方もあるのかと思った作品。
    ポストアポカリプス後の世界であり、遺伝子の改変や環境への人為的な介入も当たり前のように行われている。その一方で、人類は相変わらず協力しあうことができず、自然界への介入も予想外の反作用を引き起こす、というこれまでと変わらぬ歴史を歩む。

    序盤は、過酷な世界の中で主人公青澄らが目の前の問題(生活の改善)に奮闘する物語かと思ったが、本書終盤では再度のホットプルームによって人類が存亡の危機に立たされていることが判明していく。
    数世紀を経て発展した科学技術でもこれは回避できず、一方で、減ってしまった人的・物的資源を有効活用するために環境適用技術を集中的に進歩させた人類は、地球からの脱出手段を持たずその開発も間に合わない。逃げることも出来ず、止めることはおろか逸らすことも部分的に安全地帯を作ることすら出来ないという八方塞がりのなか、人類存続をかけて足掻くという壮大なストーリーへと発展していく。

    本書の良いところ、というかすごいところはタイムスケールではないかと思う。見所をつくるためには、1週間、数ヶ月、数年、といった比較的短いタイムスケールでコトの顛末を描くのが普通だろう。
    ハリウッド映画のように長期戦になりそうなテーマでも「主人公の英雄的行動で救われる」というオチになることが多い。主人公らの寿命が尽きてもイベントが起こらないような物語はかなり珍しい。
    しかし、本書はその珍しい部類で、最長50年後に起きる大異変に対応していくという、より現実的で、それゆえ複雑でとても難しい内容にチャレンジしている。
    本書の中では滅亡の危機に瀕しても人類は一枚岩ではないので(これも残念ながらとても現実的)、進むほどに状況は絶望的に、それとは対照的に登場人物達は(小さな)希望を持って活動している。(下巻の冒頭で世界情勢が主人公らに明かされるのだが、)上巻末は悪い意味で「戦術的勝利の連続は戦略的勝利に結びつかない」というむなしさを覚える展開になっている。
    とは言っても、ただ暗いだけの話では無く、下巻を読み終えるのを待たずに続編購入を決めるほどに面白い話になっている。
    プルームの再貫入がなくても過酷な世界で、人間同士の争いに邪魔されながらも前に進もうと足掻く主人公らの熱い物語には引きつけられるものがあるし、海洋民の生態も面白い。環境が安定すればすぐに力を盛り返す人類に対して、旧世界の負の遺産としての生物兵器や、ドライブされた遺伝子変異(敵が比較的短期間に変異することで対策が変わる)というギミックで制限を掛けているのも上手いと感じる。

    大きな絶望の中、小さな希望以外には見いだせそうにない世界観だが、最後にどういったオチを持ってくるのか楽しみな作品である。

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    投稿日:2024.03.04

  • につ

    につ

    このレビューはネタバレを含みます

    感想
    SFだから当たり前だが、人間も変容し、高度な人工知能と自然が融合した独特の世界観。天変地異が起こっても人はやはり、土地争いと戦争に明け暮れるのかと思うと少しウンザリしてしまう。

    人間が作り出したものに翻弄され、人間が歪み合う。人間のカルマのなれの果てを描いているよう。ありえるから怖い。

    終盤は細かい話から一気に壮大な話へ、人類に第二の危機が生じる。

    あらすじ
    近未来、海底が260m隆起して、人々は土地の奪い合いを始めた。それぞれが連合国を形成し、そのうちに陸上民と海上民に分かれて人は生活するようになった。

    青澄は陸上民で、海上民とのトラブルを解決する外交官だ。今回政府から、ツキソメという海上民を日本政府に帰属させ、税金を納めるように交渉せよとお達しがあった。一方のツキソメは、日本に帰属する気はないが、海上ステーションの建設により生まれる利益を納めても良いと言ってくる。青澄の交渉が始まる。

    海上民は魚舟と共に生活する。ツキソメは多くの魚舟を操れる結手だった。パートナーのいない魚舟は陸に上がって、餌を食い散らかす問題になっていた。

    細かい政府の縄張り争いにとどまらず、地底のマグマが大量に地表に噴き出す可能性が予測されたこれにより、噴火による直接の影響だけでなく、空が粉塵で覆われることにより、太陽光を得られず極寒の中、人類が滅亡する可能性が出てきた。

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    投稿日:2024.02.03

  • あしげ

    あしげ

    久々で本格SFを読みました。短編でこの世界にはちょっと触れていたが、おもしろい。長いお話で、難しいところもありますが、引き込まれました。
    まだ、お話しはプロローグなので、今後どうなっていくのか非常に楽しみです。

    椎名誠の「水域」みたい。
    全世界が海に沈んだ世界の地球のお話。
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    投稿日:2023.12.11

  • vivahorn

    vivahorn

    前回読んだ上田早夕里「獣たちの海」で、すっかり「オーシャンクロニクル・シリーズ」のファンになってから約一年が経った。そこでシリーズを一気に読むことも考えたが、甘利にももったいないので、寝かせて寝かせて、ついに今年もあと僅かという時点で「華竜の宮」に着手した。読むにあたって、ハヤカワSFシリーズ Jコレクションか文庫版(上・下)かの選択に迫られたが、電車で読める文庫版を選んだ。また、上巻読了という中間地点か上下巻全部読んでから書評を書くかここでも迷ったが、上巻の記憶が薄れるかもしれないので、ここ中間時点で書くことにした。

    現在、日本が抱える二つの大きな不安要素は、地震とエネルギー危機。地震は単なる国土の被災だけではなく原発事故、汚染水・処理水へと被害が拡大・進展していく。エネルギー危機は、不安定な中東からの石油調達問題、石炭回帰による地球温暖化加速・海面上昇に直接繋がるとして国際社会からのバッシング、太陽光発電や風力エネルギー等の再生可能エネルギーは官民の汚職(三浦清志・瑠麗、秋本真利衆議院議員)等でなかなか大胆には進まない。オーシャンクロニクル・シリーズが始まった約15年前でも盛んに警鐘が鳴らされていたが、これらの諸問題は現在でもなお根本的な解決に至っていない。

    SFだからこそ災害に対して小手先だけの技術進歩で得られた様々な解決案を駆使して面白いストーリーを楽しめるが、本作品は人間自身の改造の範囲を超え、怪物に姿を変えることで生き延び、そして再度迫りくる災害に右往左往する。ここでも政治家というどうしようもない権力大好き人種が民を苦しめる。政治家は強くても弱くてもいけない。ひたすら民衆のために尽くすことが重要だが、そんな人間はほんの一握りしかいない。しかもその一握りというのは赤ちゃんの小さな手よりも小さい。これが人間の真の姿と判れば、人間は先んじて滅ぶべき存在なのだが、滅んでしまっては話にはならない。滅びたくないので、科学技術を駆使して、対話を極限まで尽くして足掻きまくる。その苦しむ姿を楽しむのがSF小説の読者、SF作家はどこで寸止めできるか力量が問われる。上田早夕里という作家は、そのボーダーラインを上手く表現できる作家である、だから面白い。緻密な科学技術背景が現状とはそれほどかけ離れていないのも、生々しくてストーリーを面白くさせている要因かもしれない。

    本シリーズも2冊目ともなれば、内容はするすると頭に入っていく。新たな問題を解決すべく奔走する登場人物の働きを予想しながら下巻を舐める様に読んでいきたい。
    続きを読む

    投稿日:2023.10.20

  • sakaiX

    sakaiX

    (上下巻あわせた感想です)

    舞台は地殻変動による海底隆起によってほとんどの陸地が水没してしまった25世紀の世界。人類は陸地に暮らす「陸上民」と、海での暮らしに適した身体となった「海上民」に分かれ、それぞれの社会を形成していた。
    日本政府の外交官・青澄と、彼のアシスタントである人工知性体マキは、陸上民と海上民の間で深まる対立の仲裁に奮闘するが、近い将来地球に訪れる更なる危機が、彼らの運命を大きく変えていく、という物語である。

    陸地が海に沈みゆくお話としては小松左京『日本沈没』や映画『ウォーターワールド』がすぐに思い浮かぶけど、SFの設定という点ではこれら先行作を凌駕している印象で、細部まで練られた世界観はとても興味深かった。
    個人的にいいなと思ったのは陸上民と海上民の対立構造が、現代社会の国家間のパワーゲームとリンクしているように感じられた点で、過酷な状況下でも互いの相容れない言い分がきっちりと描かれているあたりが、物語に厚みを加えているように思う。戦闘シーンも迫力があるし、場面転換が上手いので上下巻という長さを感じさせずに一気に読めるのも素晴らしい。
    ただ主人公の青澄の言動に関しては、外交官とは思えないほど純粋まっすぐで、あまりのピュアさっぷりに読んでいて正直鼻白んだ。以前『破滅の王』を読んだ時にも感じたんだけど、せっかくこれだけスケールの大きな物語なのに、作者の意図をあからさまに反映させた主人公の「本音」が物語のリアリティを損ねているように思う。

    それにしても、日本SF大賞も受賞したのに発表から10年以上実写化もアニメ化もされなかったのは結構意外。やっぱり震災の津波を想起させるからだろうか。間違いなく映像向きの作品なのに何とももったいないなあと思う。
    続きを読む

    投稿日:2023.07.31

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