【感想】東京の戦争

吉村昭 / ちくま文庫
(14件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
3
7
1
0
0
  • クールな観察眼による戦争の記録

    戦争や終戦直後の混乱を体験した14歳から19歳までの記憶が書き綴られている。空襲、物資不足、戦時下の人間模様、人の死。60年ほどの時間を経たうえで書かれているせいもあるだろうが、若かった著者の観察眼はとても冷静だ。単に冷静なだけでなく、一種の虚無感さえある。著者はそれなりに裕福な家の生まれのようだが、この期間に両親を病気で亡くし、兄弟からも戦死者が出ている。著者自身も結核で苦しんでいた。死が身近な故の諦念だろうか。戦争に負けてそれまでの秩序・価値観が崩れたアノミーによるところもあるかも。

    この少し怖いようなクールさからは、色川武大の『怪しい来客簿』を思い出した。あの短編集も戦中や終戦直後に時代をとった作品が多かったはずだ。作風はぜんぜん違うが、1970年代生まれの人間からすると同じ時代の空気がするように思える。また、著者が山梨へ列車旅行するくだりからは『楡家の人びと』のラストシーンを思い出した。
    続きを読む

    投稿日:2016.10.10

ブクログレビュー

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  • H.Sato

    H.Sato

    終戦後、浮浪児、戦争孤児は靴磨きをしていた。タバコの吸い殻を集めて、またタバコにして販売していたなど興味深い。

    投稿日:2021.12.03

  • kyoko

    kyoko

    戦中戦後に、吉村昭氏が目にしたり聞いたりした、生死にかかわるものすごいことどもが、驚くほどたんたんと書かれている。氏の他の作品と同様、読み終わるのが惜しい。深く味わいたくて、何度も同じところを読んでいる。ゆっくりと、よく噛みしめたい。続きを読む

    投稿日:2019.04.04

  • bookkeeper2012

    bookkeeper2012

    14歳から19歳にかけて戦争と終戦直後の混乱を体験した著者の個人的な回想記。

    作風は違うが色川武大の「怪しい来客簿」を思い出す。戦争をバックにして、虚無主義的な感覚が通底しているのだろう。

    空襲の焼け跡から電柱を掘り出して木材にする逞しさは、たぶん今の日本人だとないよなあ。電柱が木じゃないことを別にしても。続きを読む

    投稿日:2018.11.05

  • electriccat

    electriccat

     終戦を兵士としてではなく、かといって幼子としてでもなく、出征間際の年齢で迎えた著者の回想録である。

     「生れついてから××事変と称する戦争がほとんど切れ間なくつづき、遂には「大東亜戦争」と称されたあの戦争に一個の人間として直接接したことが珍しい経験なのかも知れぬ、と思うようになったのである」
     とあるように、著者の一歳年上の男子は徴兵され東京を離れていたし、小学生であれば学童疎開でやはり東京を離れていた。東京で生まれ育ち、東京で終戦を迎え、戦後も東京で暮らした庶民の生活というのはなかなか貴重であろうという話である。
     本書には戦中戦後の明日をも知れぬ日々の中にたくましく生きる姿がある。もちろん東京大空襲もある。

    「私は、防空壕の中で耳を塞ぎ突っ伏していたが、爆弾が頭上に迫ってくる音は、貨物列車が機関車を先頭に落下してくるのに似たすさまじい大轟音で、体が瞬時に飛散するような激しい恐怖におそわれた。爆弾が落ちると、体は大きくはずんだ」

     そこらじゅうに死体が転がる異様さの中にあっても、少年が懸命に日々を生きる様子がそこにある。
     苦しいことも多く、両親を始め兄弟も次々と他界する。だがどうしてか、悲壮感はさほどない。60年後の回想録だからだろうか、かなりニュートラルな描写である。その淡々とした筆致が、むしろ生々しく戦時中の暮らしを浮かび上がらせる。

     大混雑する列車や、地方への買出しなどの風景は他の本でもよく見られるものであるが、それでも人それぞれに見てきた光景は異なるわけで、また一つ「新しい戦争」を垣間見ることができた。
    続きを読む

    投稿日:2017.12.13

  • Chanrisa

    Chanrisa

    戦時戦後の人々の様子がわかる。作者は比較的裕福な家庭だったからか本人の性格もあるのか戦争というものにをどこか達観しているように思う。それは彼の兄弟、親が次々に亡くなっていき死が生きるなかで自然なこととして受け入れていたからなのだろうか。続きを読む

    投稿日:2017.11.24

  • natsume15

    natsume15

    作家・吉村昭氏が自らの戦時下での生活を淡々と語る。
    吉村少年が見た町の様子、人々の様子。

    通った寄席のこと、兄弟たちのことなど。
    淡々と日々は過ぎていく。
    だけど、その隣に空襲や兄の戦死がある。

    投稿日:2017.08.08

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