【感想】一九八四年[新訳版]

ジョージ・オーウェル, 高橋和久 / 早川書房
(765件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
285
245
118
20
3
  • ひとかけらの誇りすら奪う暗黒の世界

    1984年と言えば、昭和のバブルな時代を思い出します。けれども、この作品が書かれたのは1948年。ジョージ・オーウェルの描く近未来はどんな世界だったでしょうか?

    世の中は3つの勢力に分かれ、絶えず戦争を繰り返しています。主人公、ウィンストン・スミスの仕事は歴史を書き換えることで、政府にとって不都合な真実はすべてなかったことにされます。昔の方が良い時代だったのでは?などと疑いを持つことは許されず、子どもにすら気を許すことができない社会。
    そんな窮屈な現実から逃れようと、スミスは志を共にする女性との逢引きを重ねるのですが・・・

    この物語の恐ろしいところは、政府に反することを思っただけで、死刑よりも辛い罰を与えられる主人公の末路です。
    読者の心まで持ってかれそうな、ディストピアの傑作。
    現代がここまでひどい世界でなくて本当に良かったです。
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    投稿日:2014.09.26

  • これは読むべし、そして考えるべし。

     ついに読んでしまいました。ずっと手に取るのをためらってた大御所の小説。
     ネットで調べてみると、この本が出版されたのは1949年とのこと。だから書かれた当初は近未来小説と言うことなのでしょう。
     物語上では、50年代に核戦争が起こり、新たな秩序の元、世界が大きく三つに分かれているという設定になってます。話は、第1部から第3部に章立てされ、第1部では、物語上の世界状況が書かれていますが、その世界のスローガンが
     ・世界は平和なり
     ・自由は隷従なり
     ・無知は力なり  であると、示されます。これだけ読むと、ん?なんじゃこれは?てな感じなのですが、読み進めていくにつれ、とんでもない社会であることが判ってきます。
     完璧に管理された完全無欠の社会。子供が親さえ告発することを厭わない相互監視社会。過去さえも書き換えられてしまい、無かったことにされる社会。確かに平和で、そしてルールさえ守れば自由で、とくに困りはしないから、自分の頭では何も考えないし、考える必要は無い社会。一方、戦争は、もっとも経済振興に役立つわけで、実際に戦争をしているかどうかは問題ではなく、また相手がどこであるかも関係なく、絶えず戦争をしていると報道する「党」と称する機関。
     物語では、状況説明の第1部から怒濤の展開となる第2部、第3部へと続いていくわけですが、徐々に背筋が寒くなってきます。
     物語上では、「少数独裁制集産主義」というイデオロギーのもと、社会主義を否定した上で、社会主義的施策を行っているわけで、アメリカでは一時期、反共のバイブルと称されたこともあるそうです。しかし、読んだ限りでは、そんな内容ではなく、むしろ人間の陥っていくであろう危険な状況を描いているような気がしました。
     そして、この物語の中の世界では、誰も幸せそうには見えないのが一番の問題なのでしょう。
     翻訳した髙橋和久氏のあとがきを読むと、この小説は、英国では「読んだふり本」第1位とのことであります。見栄を張るために、そう主張する必要があったのでしょうか。
     実際にこれを読んだと言うことが、威張れることに値するかどうかは判りません。しかし、テロリズムが一般的ではなかった時代に書かれた物語ではありますが、例の法案が審議されている今、その本質をしっかりと吟味せず、ムードに流されて賛成したり、反対したりする前に、読む必要がある小説の一つと言えるでしょう。
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    投稿日:2017.06.01

  • 現代社会に近い社会

    旧ソ連や中国、戦前の日本のような全体主義社会をグロテスクに強調した社会。
    でも近年のTittwerや2chの書き込みを見てると監視しているのが政府か個人の違いだけで、そんなに一九八四年の世界と違いってないんじゃないか、と思ってしまう。続きを読む

    投稿日:2013.10.27

  • 不条理系

    体制が暴走し、体制自体が生き物となり意思を持って動き出す不気味さ。
    まともな人間が体制に取り込まれて部品になっていく過程には、圧倒的な暴力、不条理がある。

    投稿日:2013.11.01

  • 読了した

    ジョージ・オーウェルは戦争を確実に知っている世代で、あきらかに現代人に向かって
    強い言葉でメッセージを送り届けている。体制云々は、僕はあまり意味をなさないと思う。
    戦争により人間性を失った社会、その香りを私たちに教えてくれているのだ。
    名作と言われるものはすべて、読むに値するものということを再認識させてくれる。
    この作品はそんな本だ。
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    投稿日:2014.12.20

  • 1Q84をきっっかけに

    村上春樹の1Q84をきっっかけに、この本を手に取りました。

    もし極端な監視社会だったら。


    というのがテーマのSF小説。
    ライトノベルやエンターテイメント小説を良く読む私にとっては、重ための文体で
    描写も精緻なため、読むのは多少骨折りましたが、リアリティがあり、本当にどこかの
    国でこういうことがあったんじゃないかと感じてしまうほど。

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    投稿日:2013.10.12

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ブクログレビュー

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  • ming

    ming

    このレビューはネタバレを含みます

    暴力はただの手段で、その最終的な目的は憎悪による世界だった。ウィンストンは暴力や屈辱に負けて、結局は党に屈したのだ。そして最後に勝利、誰かへの権力増加によって、喜びを感じ、ビックブラザーを愛するのだった。党の目的としていたような人となった。彼らは権力を保つために全てを行い、権力を及ぼすことを生き甲斐にしている...

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    投稿日:2024.05.09

  • ラヒリエイティ

    ラヒリエイティ

    2024年の自分への課題図書。
    図書館所蔵の旧版で読了。
    なかなか読み進められず
    しかも頭に入ってない部分多し。
    いずれまた新訳を再読しよう。
    解説も読みたい。

    1984年という年がなぜ選ばれたのか
    わからないままだった。
    1946年に執筆開始。

    政治や思想への関心が低下している現代
    資本主義がより巧妙なかたちで社会を操作している
    のかな。

    「党の世界観は、それを理解できない人たちに
    最も巧妙に押し付けられていたのだ」

    続きを読む

    投稿日:2024.05.07

  • kayohiro

    kayohiro

    本当によくできたディストピアの設定。愛ではなく憎悪を基本とした、永遠に未来がなく、過去が改変され、現在だけが続く世界。イングソック、二重思考、ニュースピーク、ビックブラザー、テレスクリーン、思考警察などの仕掛けは、非現実的ながらも、そういう世界線もあったのかも、と思わされた精巧な設定続きを読む

    投稿日:2024.05.07

  • タロタロ

    タロタロ

    普及のSF小説。何故か世の中が不況になると売れる本。

    今読むと古臭く、後半の方では物語が破綻しているが、この本の初版はなんと1949年。
    監視社会は今の防犯カメラ、情報統制はSNS。そんな今を70年も前に考えついているこの発想力とデストピア。色褪せない魅力を感じさせる1冊です。続きを読む

    投稿日:2024.05.01

  • 読書Walker

    読書Walker

    2024年、8冊目です。

    2024年1月以降に、サイトへの登録が上手くいかず、
    読了した本を登録できなかったので、まとめて登録する。

    投稿日:2024.04.30

  • 704h

    704h

    このレビューはネタバレを含みます

    1949年に刊行されたイギリスの作家ジョージ・オーウェルのディストピアSF小説。主人公ウィンストン・スミスは国家によって徹底的に監視・統制された社会で、歴史の改竄をする従順な役人として暮らしながらも、社会に対する疑問を強く意識するようになっていく。

    巻末のトマス・ピンチョンによる解説は鋭く要点をついていて、この救いのない物語の理解に大いに助けになった。
    殆ど予備知識なく、監視社会が舞台のSF小説くらいの軽い気持ちで読みはじめたので、ここまで重い内容だとは思ってもみなかった。それでも最後まで興味深く読めたのは、この小説が単なる反全体主義、反共産主義のSF小説ではなく(未来の予言でも断じてなく)、人間の弱さや脆さ、人間社会の残酷さなどの根本を描いているからだろう。名作が時代を超えて読まれるのは普遍性があるからだが、この小説が持つ肉体的な痛みや快楽、圧倒的な暴力は、なかなか古びることはなさそうに思う。

    普段我々が眼にするような娯楽作品は映画にしろ小説しろ何かしらの救いが示されているものだが、この小説は完膚なきまでにそんなご都合主義を叩き潰してくれる(一応、巻末の付録の部分がこの狂った世界が過去のものになったことを暗に示してくれてはいるが)。途中で兄弟同盟が助けにくるのでは?という読者の期待は最後まで叶わない。完全なる個人の敗北。ここまでやる必要がなぜあったのか考えさせられる。

    書かれた時代も戦後すぐで著者が社会主義でリベラルということ、結核を患っており(執筆を9ヶ月休まなければならないほど)、著者にとっても精神的にも肉体的にも辛い時期だったと思う。肉体的な痛みが精神にどう影響するかは、実際に感じながら執筆していたのではないか。特に第3部は恐ろしい執着心を感じる。もしかしたら自らの生への執着に、自分でも驚いたのではないだろうか。戦争のあまりの悲惨さに、暴力の前ではどんな思想も志も無力だと悟ったのだろうか。それとも口では平和を謳い、体は権力争いをする政治家の二枚舌、『二重思考』に対する激しい怒りだろうか。

    何度も登場する童謡の歌詞、党のスローガン、テレスクリーンから流れるプロパガンダは、読者に催眠をかけるようでもある。また美しいものと醜いものが、善と悪にそのまま書き分けられているのもあまりにも意図的すぎる。あくまでこの小説はフィクションであり、『動物農場』のように構造をわかりやすくした寓話的小説として描かれたように思う。

    解説に書かれていたように、この小説が共産主義への憎悪を掻き立てる“あの本”的に利用されているのは皮肉だ。政治的な単純な構造として読まれてしまうのは、かなり勿体無く感じる。読み方次第では薬にもなる毒だと思う。近年の政治家の発言や、IT技術などを予言しているという見方は、分かりやすい構図ではあるが適切ではない。もっと大きな視野を持った、人が生きるとは何かの切実な問いだと思う。

    徹底的な残酷さを描いたうえで、どう生きるかを問いかけてくる。物質的に破壊されるよりも、文化的に破壊される方が恐ろしい。生活は効率ではない。豊かさは生産性ではない。

    どんな理想的な国家でも一度戦争が起こり、銃を持った兵士が侵略しにくるとなったら、撃ち返さざるをえない。昨日まで平和主義だった民衆は銃をとって強力な指導者を求める。ウクライナの報道から感じる虚無感。人間の弱さは変えられない。それでも諦める訳にはいかない。別にウィンストンのように心まで破壊された訳ではないのだから、どんな時代になっても何とか正気を保って生きなければならないなと思わされた。

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    投稿日:2024.04.30

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