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井上靖 / 新潮社 (74件のレビュー)
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総合評価:
光陰矢の如し
古き良き日本の素晴らしい物語です
最初に読んだのは高校生の時。 私の生まれるずーと前の大正時代の話ですが、古き良き時代のことが沢山のエピソードで描かれています。 この時代の「日本」を見てみたい! と思わせます。 そして主人公の少年に自…分が重なり、どんどん物語に入ってしまいます。 この本も数年毎に読みたくなり、何度も読んでいます。 井上靖様ありがとうございます。続きを読む
投稿日:2013.09.25
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コタロ
このレビューはネタバレを含みます
舞台がほぼ自分の郷里であることの贔屓目も手伝った側面はあるが、ここまで感情移入して自分の感性ですんなり受け入れることのできる小説は初めてであった。 郷愁というよりは、多くの人が幼少期に出会ったことのある心の動きがかなり正確に再現されており、そこに懐かしさを感じるといったところ。外的な出来事や環境に対して内的なものがどう応答するか、まるで子供の心がそのまま端正な文章になったようである。それでも幼年期の前編は叙事的な傾向が強く、少年期を描く後編は多分に抒情的になっていく。一人の人間の魂が形作られる過程のようである。 後編に移ると幅も奥行きも大きくなっていく洪作の世界で、おぬい婆さんは小さく老いていく。あれだけ剛毅でつっけんどんだったおぬい婆さんが衰弱し、もう洪作の庇護者たりえないことを2人が共有してしまう描写が非常に悲しい。 おぬい婆さんに対する惻隠の情を言葉にできなかった洪作が、二度と会わないであろう老人に優しく声をかけるのも象徴的。子供の大きな成長は些細で何気ないことから起こるのだろう。 以下好きな場面等 村の人間の意地の悪さや皮肉っぽさは、不快というよりはむしろ、この作品ではユーモアを担っており小気味良さを感じさせるものがある。 豊橋で迷子になった場面において、「あとへ引き返すより、まだ前へ進む方が怖さが少いような気がした」とあるが、子供の心理描写としてここまで適切なものは寡聞にして知らない。 沼津のかみきの小母さんに好きな食べ物を聞かれるところ、「よく理解できなかったので、何でもみんな嫌いにしてしまおうと思っていた」とあり、子供の頃ってこんな感じだったなと強く懐かしさを抱いた。 湯ヶ島から大仁が4時間は (長すぎて) 驚かされるが、下田までも4時間で行けるのは意外。下田行きの描写は、量的にも物語的にも比重はそれほどないように思うが、丘の上から入江を眺める2人の構図が快い。 村を去るとき、最も親しい幸夫が遠くから笑いかけるだけというのもいい。 最後に遠く離れていく天城が、読者にも湯ヶ島との別れを感じさせる。
投稿日:2024.03.10
Mkengar
本書は伊豆湯ヶ島を舞台に、小学生時代を過ごす洪作が主人公の小説です。井上靖自身がモデルの自伝的小説ですが、全編を通じて何とも言えない良い味を出しています。山奥の小さな村で登場人物も極めて限られている、…しかし洪作をとりまく家族環境はとても複雑で、洪作の両親は豊橋に住んでおり、両親よりも曾祖父の妾であったおぬい婆さんに育てられています。 洪作の心の機微がとても細かく描写されていて、そういえば自分も小学生の頃同じような感情を持ったなあと思い返すこともありました。そして洪作の心の成長もとても細かく表現されています。田舎の村ですからたいした事件もなく、全編を通じてのどかな中に哀愁が立ちこめた伊豆の情景が記述されていて、静かな感動を覚えます。本書を読み終えて、小津安二郎監督の映画「東京物語」を見たときの感動を思い出しました。大きなクライマックスはないけれども、全編を通じて静かなる感動を引き起こす作品であり、極めて日本的名作ではないかと思いました。その意味では「東京物語」を見て感動する外国人の方はいらっしゃいますが、「しろばんば」の良さが分かる外国人はいるのだろうか?とふと興味がわいたりしました。続編も読みます。続きを読む
投稿日:2023.04.26
nabechang
面白かったけど、何故か井上靖の作品は退屈さを感じてしまう。子供が成長して行く気持ちの揺れや心理を上手に描いていると思う。
投稿日:2023.02.23
弐印
私は小学生の一時期を山奥の小さな学校で過ごした。山に登り、川の淵を泳ぎ、田畑を走り、木の実を採り、暗くなるまで遊び惚けた頃がこの小説によって蘇った。まだ己が何者かもわからない時代、ゆっくりと世界が広が…ってゆく時代、四季の循環がとても永く感じられる時代である。洪作少年を通じて忘れていた郷愁に没入できる楽しさを教えてくれる名作である。文章も美しい。続編となる「夏草冬濤」も読みたい。続きを読む
投稿日:2022.12.06
777na
ノスタルジックな夕暮れに始まり、それとの別れに終わる。無論湯ヶ島と婆ちゃの思い出は少年の中で1つになっている。象徴的なしろばんば。 老いの進みが洪ちゃの成長を表すと共に、ちんまりとした「しろばんば」…というワードに収まっていく婆ちゃの人生の、逞しくも寂しい余韻が胸に響いた。 頼りない甘えん坊な田舎少年が家族に流されながらも、後半自ら人生を見据え机に向かう真面目さ。場面は薄暗いのに反して爽やかで好ましかった。たった5年でこんなに成長するものか。 大正時代の日本の描写も単純に興味深く、良き読書時間だった。 余韻に浸って辿り着いた解説が、あらすじに2、3行コメントがついただけのもので物足りない。プロ目線の感じ方、読み取り方を伺いたかった。 ブクログの感想を読み漁ろう。続きを読む
投稿日:2022.04.10
reno
恥ずかしながら初めて読了。 素直に感動。なるほどこれは、幼年時代を振り返る自伝小説の金字塔。クラシックと云ってもイイ。なんせ舞台は約100年前のことだし。 中でも、洪作の素直な心情を表す、時に詩的、時…には絵画的な表現と、それらを連ねて洪作の心身の成長や複雑化を読者に知らしめる文学的な手際がスバラシイ。 本書を第1部とする自伝的小説三部作の次なる本「夏草冬濤」を読むのが待ち遠しい!続きを読む
投稿日:2022.04.02
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