【感想】ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録

西川善文 / 講談社
(105件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
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52
25
3
0
  • 不良債権と寝た男の物語

    1975年の安宅産業危機、連鎖倒産を防ぐために引受先を探した住友銀行の交渉相手は伊藤忠の瀬島龍三、不毛地帯のモデルだ。この時からイトマン事件の種がまかれている。安宅産業は152億円相当の東洋陶磁コレクションを持っていたあたりは半沢直樹の世界だ。

    1978年安宅産業の処理が済んだ住友銀行は事業本部製に組織を改めた。本部内に審査部門と業務推進部とを入れるようにしたのだが西川氏は当時の銀行としては画期的と評価するが同じ責任者が両方を見ることになった。今ならガバナンスがないと言われるだろうが、じゃあ分けたままならバブル時代にちゃんと審査できたかと言うとそれも怪しかろう。西川氏自身が後に組織を元に戻している。

    当時の磯田頭取は後に天皇と呼ばれた人で東京進出を狙って平和相互銀行を合併しようと狙っていた。当時は銀行業は規制が厳しく新店舗の出店はほぼできない状態だったからだ。平和相銀のオーナー小宮山家は持ち株を資産管理会社「川崎定徳」に売却するのだがその資金を用意したのがイトマン系列のノンバンクだった。そしてその株式を住友銀行が買い取る。西川氏は正当な取引と説明しているが・・・まあそう言うしかないわなあ。買ったはいいが平和相銀はボロ店舗ばかりでまた問題融資先もたちが悪く追い貸しを続けていた。それ以上に禍根が残ったのはイトマンに借りを作り元磯田当時会長の子飼の部下河村社長の影響力が増したことだった。バブル期に不動産事業にのめり込んだイトマンは金融引き締めと不動産価格引き締めの影響で危機に陥る。マスコミが許永中などの闇社会とのつながりで住友銀行をたたいたのもこのころだった。西川氏は住友銀行が闇の紳士と関係が深いダーティーな銀行だと言う、実態とはかけ離れたイメージが植え付けられたと言う。しかし、磯田会長がイトマンに借りを作り元子分の河村社長が関わる以上関係があると見られて当然だろう。磯田会長の退任を取り付けようと西川氏は巽頭取に電話し怒鳴り上げた「頭取、磯田さんをなんとかしてください。早く辞めさせてください。こんなことが続いては銀行はもちませんよ!」退任会見まで開いたにも拘らずいつまでも辞めようとしない磯田会長の態度に当時常務企画部長だった西川氏は本店の部長をほぼ全て集めて退任要望書をまとめ巽頭取に渡した。やはり十倍返しか。
    西川氏は最後に磯田氏は周りに載せられただけで真っ当な人だったと書いている。そこで持ち上げてもしょうがなかろうに。

    住専問題では西川氏は銀行は被害者だと言う。大蔵省主導で出資させられ、店舗網が十分でない住専に融資先を紹介したのに焦付いたら銀行の責任と言うのは到底承認できないと。また、頭取就任時にはリスクを取って貸し出しを増やしたとも言う。流れた大和銀行との合併、UFJとの合併、さくら銀行との合併などでも西川さんの言い分を聞いていると住友銀行には何一つやましいことはなく正しい決断ばかりだと言うがこれは一方的な見方だと思う。違う人の話を聞けば全く違う物語に聞こえるだろう。

    最後は日本郵政社長就任の話で鳩山邦夫との確執が面白い。さすがにこれは鳩山の方が無茶苦茶でかんぽの宿をオリックスが入札で取ったのに取得価格に比べ売却額が低過ぎるなどは言いがかりだ。資産価値がぼろぼろなんだから責任を問われるのはそこに投資した人たちだろう。

    西川氏が大変な苦労をされたのはその通りなのだろう。30年間も不良債権処理ばかりだったのだから。しかし、そう言う銀行になった責任については特定の誰かが悪かったと言う話ではないと思う。
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    投稿日:2014.01.01

ブクログレビュー

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  • rafmon

    rafmon

    面はゆいとか忸怩たると言いながらも、ラストバンカーというタイトルを自らの手向けとして許す、そこには謙遜を必要としない自信があるのだろう。自らより前の頭取を品の良いお公家様と言いながら、後継にバンカー無しという意味にも取れる「ラスト」の称号。この傲慢さが語りを象徴する。

    安宅産業の破綻処理やイトマン事件、さくら銀行との合併から三井住友銀行の頭取を務めるまでの歴史を綴りながら、やはり気になるのは、郵政民営化から日本郵政社長に就任した後、かんぽの宿の問題だ。本著で語るのは払い下げ金額の適正さ、議事録を残さなかった反省程度。民営化に関わったオリックスが払い下げの対象になった事の危うさには触れず。李下に冠を正さず、という態度は見えず。

    行内から政治抗争にも巻き込まれながら、相当タフな人生を送り、そこには本著に書けない闇の部分も多々あったろう。銀行マンの守秘義務は厳しい。事実ベース、言い訳混じり。本として、面白いかは微妙である。
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    投稿日:2022.10.01

  • えすろん

    えすろん

    著者が亡くなったことをきっかけに知った。一金融マンとして、これを機に読んでおこうと思って購読。
    頭取になるような人物が手掛けたオイルショックやバブル崩壊に起因する不良債権処理というものが如何に銀行にとって大事かつ大変か、現場感を持って知ることができる。さらには銀行同士の合併や、郵政民営化の話もこれまで知らなかったことばかりで、生き字引と言っても良い存在だったのだろう。もう一度読み返す価値のある本だと感じました。
    加えて、どのような立場になっても、顧客目線がぶれていないことが本当に凄い。実際に仕えた人の言葉を聞かないと何とも言えないが、こういう人がトップになればうちの会社はもっと良くなるのに、と思わずにはいられなかった。
    続きを読む

    投稿日:2020.10.11

  • ヤン・ヒューリック

    ヤン・ヒューリック

    このレビューはネタバレを含みます

    住友銀行の頭取を務めた西川善文氏の回顧録。

    都市銀行の中でも収益率ナンバーワン、富士銀行に次ぐ業界二位という地位から、安宅産業破綻を収束させ、次第に暴走していく住友銀行の天皇こと、磯田一郎氏の行動や、無駄だった平和相互銀行の合併、そして住友銀行の最大の汚点であり、日本最大の不正融資事件であったイトマン事件の解説など、非常に勉強になった。

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    投稿日:2019.07.06

  • yoshio2018

    yoshio2018

    三井住友銀行頭取で日本郵政社長だった西川氏の回顧録である。日本郵政時代より銀行時代の話が面白かった。銀行は危ない取引先に行員を立て直しのために派遣するが、支店長経験者とはそれほど経営にもスキルがあって優秀なのかと思った。続きを読む

    投稿日:2018.10.11

  • japapizza

    japapizza

    名立たる経営者の回顧録はどれを読んでも外れがない。本書もその例外ではない。著者は、住友銀行・三井住友銀行の頭取、日本郵政の社長を歴任しているが、こなしてきた仕事の大きさにまず衝撃を受けた。付け加えると、通常有名な経営者の業績をたどると派手なものが多いが、著者は不良債権処理という地味だが責任の重い業務に長年携わっていたことも個人的には共感できた。

    当事者の弁に直接目を触れると、三流マスコミで報道されている内容と大きく食い違うことに閉口してしまうことが多い。著者の日本郵政時代のかんぽの宿問題と東京中央郵便局再開発問題も同様であった。こういうのを目にするたび、TVのニュースは全くもって見る気を失くす。

    そのほか、感じるところの多い著書であったが、最後に、あまり本筋ではないのだが、記憶に残った1節を書き留めておきたい。安宅産業の問題処理で、伊藤忠との合併交渉で登場したのが瀬島龍三だったらしい。当時副社長。
    「私が瀬島さんと直接話す機会はなかったが、先方から返ってくる回答がいつも非常にシンプルだった印象が強い。…大体三本柱のようにまとめてあって、五つも六つも書かない。
    …たとえば合併条件として伊藤忠が最初に出したのも、一つ、新日鐵の商権は間違いなく伊藤忠が継承できる。一つ、一切の負担を持ちこまない。一つ、銀行取引は合併後も第一勧業銀行をメインとする。こんなふうにズバッと明快だった。…たった三つしかないのに細大漏らさず書いてあるのだ。」
    「漏れなく簡潔」とは仕事におけるコミュニケーションで個人的には目指す極みなのだが、こういう人物と交渉にあたっていたのだから、さぞかし腕は磨かれたことだろう。
    続きを読む

    投稿日:2018.10.08

  • yusuke

    yusuke

    元住友銀行頭取で日本郵政が民営化したときの社長。激変する時代の中で破綻処理と再建の役割を担われてきた西川さんの実務者としての矜持が感じられる本。もちろん本の後半は経営者なんですが、常に自身の中の定規に置き換えて判断し物事を進めていく姿勢はまさに当事者としての強い責任感だと感じました。面白かった。続きを読む

    投稿日:2015.06.22

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