【感想】海軍乙事件

吉村昭 / 文春文庫
(19件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
5
10
2
0
0
  • 安定の記録文学

    連合艦隊長官が受難した2つの事件等、戦争にまつわるトピックを著者の特長である丁寧な取材で文章化。
    表題作は小説の体をなしているが、収録されているその他は、ルポルタージュみたいな感じ。
    著者安定の臨場感ある筆致により、その場にいるかのように歴史の一場面に立ち会うことができる。続きを読む

    投稿日:2024.05.11

ブクログレビュー

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  • じゅう

    じゅう

    「吉村昭」のノンフィクション短篇集『海軍乙事件』を読みました。

    『戦艦武蔵』、『高熱隧道』に続き「吉村昭」作品です。

    -----story-------------
    昭和19年3月、パラオ島からフィリピンに向かった2機の大型飛行艇が、荒天のため洋上に墜落した。
    機内には「古賀連合艦隊司令長官」と「福留参謀長」が分乗していた。
    参謀長以下9名は一命をとりとめたが敵ゲリラの捕虜に。
    そして参謀長の所持する最重要機密書類の行方は…。

    戦史の大きな謎に挑戦する極上の記録文学。
    太平洋戦争をたどる上でも、第一級の資料として、貴重な文献といえる。
    表題作ほか、『海軍甲事件』 『八人の戦犯』 『シンデモラッパヲ』の全4篇を収録。
    解説「森史朗」
    -----------------------

    本作品に収録されている『海軍乙事件』と『海軍甲事件』については、当事者への綿密な取材をした際のエピソードを記録した『戦史の証言者たち』を読んだことがあったので、思い出しながら読んだ感じです、、、

    重複する情報もありましたが、『戦史の証言者たち』には含まれていない内容もあり、興味深く読めました。

     ■海軍乙事件
     ■海軍甲事件
     ■八人の戦犯
     ■シンデモラッパヲ

     ■「海軍乙事件」調査メモ
     ■文庫本のためのあとがき
     ■関連地図
     ■解説 森史朗


    『海軍乙事件』は、パラオからフィリピンのダバオへ退避する途中、「古賀峯一連合艦隊長官」が行方不明となり、連合艦隊司令部の「福留繁参謀長」等は悪天候の中、海に不時着し、「クッシング大佐」率いる抗日ゲリラに身柄を拘束されてしまう… 彼等の救出劇と、その後の運命を描くとともに、と「福留参謀長」たちが保有していた「Z作戦要項」という今後の海軍の作戦を含む最重要機密書類の行方を推理した作品、、、

    セブ島の守備隊を率いる「大西精一中佐」が「クッシング大佐」率いる抗日ゲリラを追い詰めた際、ゲリラのアジトに海軍の高級幕僚が捕らえられていることが判明… 「大西中佐」の的確な判断により、一行が無事に引き渡される展開が印象的でしたね。

    特に引き渡しの際、その時間帯だけ、日本軍と抗日ゲリラの間に友情に似た感情が芽生えるシーンは感動的で忘れられないですね、、、

    それにしても… 「福留参謀長」は、作戦の流出を否定し続け、当時は不問にされたようですが、実際にはアメリカに流出しており、それが、レイテ沖海戦の大敗北に繋がったのかもしれませんね。


    『海軍甲事件』は、暗号が解読され、待ち伏せにあって撃墜された「山本五十六連合艦隊長官」の事件を題材にした作品、、、

    長官機を直掩した零戦戦闘機乗りで、唯一人の生き残りの操縦士「柳谷謙二飛行兵長」の証言をもとに、その事件に関わった零戦戦闘機の操縦士の苦悩が描き出されています。

    長官機を直掩した6名の戦闘機乗りは、表向きは不問にされたものの、周囲の視線は厳しく自ら死地へ旅立つように戦闘を続けたようですね… その気持ちもわかりますね、、、

    その後、唯一生き残った「柳谷飛行兵長」は、ガナルカナル沖で敵の機銃によって右手に銃弾を受け、手首から先を切断されて本土へ帰還したとのこと… 事件後の、それぞれの運命について、色々と考えさせられましたね。

    海軍が、アメリカの巧妙な情報戦により、暗号が解読されたことに気付かず、事件後も暗号が見破られていないと誤って判断してしまったところには、アメリカの方が情報戦で何枚も上手だったんだなぁ… と改めて感じました。


    『八人の戦犯』は、日本軍自身が日本軍の戦犯を軍事裁判で裁き、連合国に引き渡した八人の真実を探った作品、、、

    この八人を自らで裁くことにより、他の戦犯を護ろうとした… そんな意図が見え隠れしました。

    部下をかばう美談が悲劇に変わったり、完全な冤罪だったり… 等々、そんな切ないエピソードばかりでしたね。


    『シンデモラッパヲ』は、日清戦争中、撃たれた後も進軍ラッパを離さなかった兵士の物語の裏話を語った作品、、、

    当初、英雄譚として名前が報じられたラッパ兵は、岡山県浅口郡船穂村の「白神源次郎」で、村では日清戦争唯一の戦死者であり、英雄として顕彰碑が作られ、そればかりか、海外でも高名な詩人によって、題材とされたりしたが… 後日、同じ岡山県の川上郡成羽村から出征した「木口小平」であったことが発覚する。

    戦争英雄譚に潜在する、根拠が不明確な報道… 戦中の美談は、人々のニーズによって操作されかねないので、疑ってかかるべきなんでしょうね、、、

    でも、イチバンの犠牲者は、情報に振り回された当人や遺族ですよね… 実際のところ、どっちが本当かなんて、誰も証明できないんじゃないかな。
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    投稿日:2022.11.11

  • あるちゃん

    あるちゃん

    仕事先で読書好きな方からお薦めしていただいたり、はたまた「読んだからあげるよ」といただくこともある。今回はそんな1冊。自分ではまず手に取らないジャンルなのでそういう本が手元に来るという縁は面白い。

    著者が戦時中の資料を掘り起こして調査、当人が生きていればインタビューをしたりして事件を一つの物語にしていき、考察する。4編収録。

    社会や歴史の授業で習った程度の把握しかしていなかったが、戦争にはその場その場、その人その人それぞれの戦争っていうのがあったんだなと改めて感じさせられる。見栄や体面を気にしてしまう体質はめんどくさい、というか話をややこしくしてしまうよなぁと思った。

    事実を繋ぎ合わせ、インタビューなども集め点と点を一つの物語にしていく作業、非常に骨の折れる作業だったんだろうなと想像に難くない。そんな作業をこなす著者は只者ではないんだろうなと思った。
    続きを読む

    投稿日:2022.01.30

  • haruyato

    haruyato

    海軍乙事件、甲事件、8人の戦犯、木口小平のシンデモラッパヲ、の4中編。
    全てが佳作良作。軍部の愚かさと戦犯の影と陰。

    投稿日:2019.06.23

  • inki9298

    inki9298

    もともと海軍乙事件というものがあった事を知らなかった。
    これがあるからこそレイテ沖海戦などに大きな影響をあたえたんですね。

    投稿日:2018.10.27

  • Στέφανος

    Στέφανος

    海軍乙事件
    海軍甲事件
    八人の戦犯
    シンデモラッパヲ

    著者:吉村昭(1927-2006、荒川区、小説家)
    解説:森史朗(1941-、大阪市、ノンフィクション作家)

    投稿日:2018.10.13

  • fumi19850511

    fumi19850511

    太平洋戦争などにまつわる事件や逸話を作者が丹念に取材し、まるで論文のように書いていく作品。
    海軍Z作品が米軍の手に渡り、そのことをさとられないように、潜水艦で日本軍に返し・・・というところで、もしやと思ったが、この話が栄光なき凱旋の元ネタかと繋がった。
    さらっと書いてあるが史実としては実際にあの日系人二人が返したのだろうか。ちょっと調べてみる必要がありそうである。
    読書は続けているとぱっと繋がる瞬間がたまに訪れるのである。
    続きを読む

    投稿日:2017.11.26

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