地下室の手記
ドストエフスキー(著)
,江川卓(訳)
/新潮文庫
この作品のレビュー
平均 3.9 (183件のレビュー)
-
読もう!と決心してから…腰を上げるまで時間がかかるのだドストエフスキーの作品は!
「地下室」と「ぼた雪にちなんで」の二部構成
※以下軽くネタバレ有ります
「地下室」は40歳の元役人がペテルブ…ルグの片隅の住居・地下室になんと20年近く籠城しながら、社会に溶け込めない自分の不満(彼なりの思想だか哲学)が「俺は病んでいる……。」から始まり、延々60ページ近く言葉を変え変え独白するという内容
逆に言えばよくもまぁ同じことを手を変え言い続けられるものだ 60ページも!(まぁ20年と考えれば少ないくらいか(笑))
思想も理論もへったくれもない
ただただ自我剥き出しの醜悪な内容
他人を一切信じずに見下しているくせに、全て裏を返せば自分をわかってくれる人を心の奥底から求めている
ここを読むのはかなり大変だが、乗り越えた次の構からもうそれはそれは一気に面白いのである
そのための助走として頑張って読むのだ(笑)
(ここが面白くなったら本物のドストエフスキーファンと言えるのかなぁ…)
「ぼた雪にちなんで」
こちらは24歳の主人公に起きた出来事
大きく3つの内容に分かれている(と思う)
1つ目
「地下室」の独白された主人公の具体的な行動により、彼を読者がよりわかりやすく知る序章的内容
独りよがりの妄想決闘とでも言えようか…
ここはパロディ的に面白い(相手が全く気付かない決闘なんて!そして自分が勝ったのだ!と歓喜するのである)
2つ目
学生時代の同級生との出来事(ある人物の送別会)
みんなと仲良くやりたい本心があるのだが、もうそれはそれは真逆の態度で戦闘モード
皆に嫌われて、引っ込みがつかないとわかってもと言い訳を考えては「帰る」という選択肢を取らず居座り続ける
まるでスポイルされまくった駄々っ子のような最高の醜態をさらしまくるのである
3つ目
娼婦であるリーザとの出会い
ロマンチックな自分を演出しながら「君は間違っているんだ」と偉そうに正しい道を諭すようなことを言ってみせる
しかしながら再会した折に、うっかり自分の脆さをみせてしまい、ついついそんな自分をぶちまけはじめ、隠していたはずの内面をマグマが噴き出すかのごとく暴露してしまう
そして………
現代なら一体何という名の精神病であろうか…
妄想癖、誇張癖がひどく虚栄心が異常に高い
自分の殻に閉じこもって悪態をついて憂さ晴らしをしたかと思うと、自己嫌悪に陥らないための言い訳だらけのストーリーを組み立て自分を納得させる
人恋しいクセに異常なプライドと自分を守るために人を見下し陥れようと常に考えているのだが、所詮器が大したことは何もできない
たまに少し攻撃姿勢を見せるのだが、途端、亀が首を引っ込めるように言い訳して逃げる
まぁとにかく呆れること甚だしい
ここまで人の醜悪性や滑稽さをむき出しにした作品も珍しい気がする
しかもそれを全く負としてのオーラを出すことなく、悲劇のヒーローにも全くならず洗いざらいの醜態を読者にみせつける
もしかしたら、心に全くの闇のない澄んだ人にはさっぱり理解できない作品だのではないだろうか
最初あまりにもパロディじみた内容に笑ってしまったりしていたのだが…
主人公にまったく共感したくなんかないのに、まるで誰にも絶対に見られたくない自分の心を見透かされ、ズルズルと日の当たる公の場所に引きずり出される…そんな激しい心の痛みを覚え愕然とする
読むのにこんな意味で辛くなる作品があるのかと正直驚いた
人間の心の底とか魂とかではなく、なんというか「核」みたいなものにズドンとくる
ズドンときたら穴が開いてそこにすきま風が遠慮なく吹きつける
何が起きたのか…としばらく放心してしまう…
そんな何とも言えない衝撃作品だった
くる人にはくる(堪える)やばいヤツである
やっぱり凄いぞドストエフスキー
これは本当に読む価値がある
どこにも逃げ場がないほど、とことん自分と向き合える恐ろしい作品
ちなみに主人公の名前は「ネクラーソフ」
(日本人しか笑えないが…)
続きを読む投稿日:2020.01.06
このレビューはネタバレを含みます
何よりもまず、読めて嬉しい。
レビューの続きを読む
最初は「こんな難しいの読めっかな〜〜( ; ; )」とか言ってたけど主人公が22が4にバチギレしてるあたりから笑いが止まらなくなった。
それで面白半分でスルスル読み進め…たあたりで、主人公の自己弁護からの更にその自己弁護への自覚を語るレベルの病的な自意識過剰とメタ認知にちょっと共感を覚えてしまって、それからはもう虜だった。
「こいつは私だ」と思ってしまった。
本当に、身の程知らずなことだけど。(心の俳句)
私も自意識過剰でプライドが高くて腰抜けだから彼の気持ちがよく分かったんだ。
私みたいな10代の読書好きの少女(?)が自意識過剰でないわけないからね。
自意識過剰は若者の専売特許だ!
まあ、主人公は40にもなって自意識過剰なんだけど。あいつ最高だよ。
♢♢♢
本編を通して感じたのは、頭が良すぎて考えすぎるが故に他者が簡単に信じている幸福とか自然の法則さえも疑ってしまい、そもそも人間が絶対に満足できる幸福なんてなくってそもそもどこか矛盾してるんだって俯瞰して、でもそれと同時に俯瞰して発見した自分自身のみじめさに耐えられなくて必死でそれを取り繕ってどうにか「らしさ」を演出してしまうような、他者を見下しながら他者に必死で弁解をするような、どうしようもない主人公の無限ループする自意識の苦しみだった。
自分を見てる自分がいて、頭の中がバカにするのとされるのとでもうめちゃくちゃになってしまう感覚、本当に、おこがましいとは思いつつめちゃくちゃ「わかる」……。
苦しいよね。苦しいんだよ。私も苦しい。
頭の中がやかましいんだよ。私は誰に向かって言い訳なんかしてるんだろう?ってね。
ああ、これってもはや感想じゃない。私信だよ。
二部で主人公の実際の生活とか他人との関わりについての話になったときの主人公が情けなさすぎて面白かった。
友達っていうか知り合いにめちゃくちゃ邪険にされとるやんけ。泣ける。
そのあとがもっとダサい。
風俗で説教しておいて帰って泣くな。
その説教すらも本心から出た言葉じゃないの泣ける。
さらにその後リーゼに「君を辱めたくてやったんだよ!」って自分から告白しちゃう、その道化ぶりにも涙が出る。
リーゼにお金を握らせたのは「お前に高潔に生きろみたいな事言ったけど所詮はお前は金で男に抱かれたんだぜ!」ってことなのかと思った。
でもリーゼはそれを拒否した。
金を与えられたことに彼女が屈辱を感じたのなら、それは彼女が卑屈になっていないということだから、少なくとも魂の誇りみたいなものは思い出せたのか……?と私は解釈した。
ちょっと好意的すぎる解釈かな?
でも、常に作り物みたいな理屈と言い訳に苦しめられてる主人公の汚い動機による行動が一人の女の子の有り様を少し高潔にしたのなら、それはすごく奇妙で皮肉で美しいことだとも思うんだ。
そして、終わり方が神がかっている。
主人公は手記を「ここで終わりにする」と書いているくせに、結局終わらせられず、読者に彼の手記の続きは明かされないまま終わる。
つまり、私たちはそこに彼の手記と、彼の濁流のような思考の広がりを見ることができる。
手記が続いてると明かすことで主人公のどうしようない滑稽さを徹底して演出し、ものごとを俯瞰しているがゆえに苦しんでいる主人公の手記を、小説を読んでいる我々が本当に別の次元から俯瞰してみせる、大胆で立体的な構成になっている。
手記という設定だからこそできる演出。
私はもうクラっときたよ。最高。
主人公のキャラクターを、そんな、そんなメタ的な演出まで使って完璧に作り上げるんですか。
解釈一致です。
そう、彼がスッキリと手記を終わらせるなんてできるわけがないんだよ!
こんな形でキャラクターを完成させるとは思わなかった。彼は最後の釈によって完全に完成したのだ。この尿漏れのような醜い手記のもつれた終わり方。本当に素晴らしい。
彼は、手記を、終わらせられない‼️
なんてキャラクター造形が一貫してるんだ。
そしてそれを……あんな注釈でスマートかつ大胆に表してみせるなんて!
私は酔いしれた。未成年だけど酔った。
♢♢♢
自分の行動の意図を常に他人に弁解してなきゃいけないような気持ちになることって本当によくあるよね。大好き。クソわかる。
なんというか、主人公がずっと「体育の授業でペア作れなかった時の私」をやっていたな。
本当に、あの針のむしろに座ってるような気持ちを思い出した。
脳みそではもう情報の洪水が起きてて自分がどんなに滑稽なのか自分でよくわかってるはずなのに自分の素直な感情なんてものはとうてい無くて信じられなくて、とにかく他人に何かを取り繕わなきゃいけない気分になって平静とかもっともらしい態度とかを装ってるけど内心は冷や汗ダラダラでパニックになって一人で大騒ぎしてるのに周りはそんなこと知りもしないで私のこと変な人間って思ってる…………っていう、このつらすぎる羞恥と自意識がこの本に書いてあったように思えた。
気に食わないやつとすれ違いざまにぶつかろうとしてどうにか準備したのに何度も失敗するところとか、ちょっと成功してバカみたいに喜ぶところとか、他人との交流を求めずにいられないところとか、レストランでうろうろするところとか、本当に他人と思えなかった。
本当に他人と思えなかった。
私はドストエフスキーの作品を読むの実は2回?1.5回?くらい失敗してて、だからTwitterでこの小説の一文を見かけて気になりだしてタイトルをリマインダーに登録したはいいものの別に積極的に読もうとはしてなかったんだ。
いつか読みたいとは思ってたけど罪と罰とかが先になるかもなんて思ってたくらいだった。
でも私は最近ずっと気持ちがめちゃくちゃで、大学をサボって夕方に駆け込んだある日の市立図書館で、本当にたまたま、ちょうど目線の高さにあったこの本を見つけた。
かつて読んだ別の本に「なんでもない時にドストエフスキーにチャレンジしたら全く読めなかったけど、入院した時にはスルスルと読めた。ドストエフスキーはどん底にいるときに読むものなんだ」というようなことが書いてあったのを覚えていたから、私は手を伸ばす気になった。
というか、今の私の惨憺たる気持ちをじっくり味わわせてくれるような、そういうどん底で巡り合って共に過ごせるような小説を求めてたんだ。面白くて明るい小説や、優しいだけのぬるま湯みたいな小説なんてごめんだった。
だから「まあせっかくだし」って思って、読み通せるか不安になりながらも借りたんだ。
そしたらこんな素晴らしい出会いが待ってた。
いい読書体験ができた。
っていうか「今」読めてよかった。
幸福な頃の私ならこの本はきっと読めなかったか、読めてもここまでは感じ入ったりしなかっただろう。
大好き。大好き。会えてよかった。
本当に、あの日の私がたまたま図書館で出会って、たまたま立ち読みした本の記憶に背中を押されて、自分の最低な現状もあってそれを借りて、なんかすごく運命みたいって思えてる。
この小説の主人公なら運命なんて!運命なんて!って言うかもしれないけど。(彼は安易にものを信じて馬鹿みたいに喜んだりはしないのだ)
私はこの本が大好きだ。
難しかったし、理解しきれてるわけはないけど、それでも読めてよかったと心から思う。
読書の楽しみってこういうことだったって久しぶりに思い出した。
「すごいものを読んだ」「理解できないけど最高だった」というこの高揚感。
こんな気持ちになれる読書体験は滅多にないから、全く私は幸せ者だといえる。
主人公はあんなに苦しんでるのにそれを読んで私が嬉しくなるなんてだいぶおかしいけど、まあ人間の本性なんてそんなものだよねってことで、私の手記ならぬ感想を終わらせたいと思う。続きを読む投稿日:2023.11.18
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