警視庁草紙(上) ――山田風太郎明治小説全集(1)
山田風太郎(著)
/ちくま文庫
作品情報
初代警視総監川路利良を先頭に近代化を進める警視庁と元南町奉行駒井相模守、元同心、元岡っ引の知恵と力を駆使した対決。川路利良、駒井相模守、大久保利通、岩倉具視、一葉、山田浅右衛門、三遊亭円朝らを巻き込んで奇怪な事件は謎を生む。実在の人物と架空の人物が銀座煉瓦街を駆けめぐる!
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商品情報
- シリーズ
- 山田風太郎明治小説全集
- 著者
- 山田風太郎
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま文庫
- 書籍発売日
- 1997.05.22
- Reader Store発売日
- 2013.06.28
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- シリーズ情報
- 既刊14巻
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この作品のレビュー
平均 4.3 (17件のレビュー)
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夜明け前の輝きの中で、世の中にも人の心のなかにも光と闇が立ち現われた一瞬があった。
先日、知人から「明治のことがよくわかる本はないか?」と訊かれた。そのときに僕の頭に最初に浮かんだのが、この山田風太郎の「明治小説全集」。ちくま文庫から全14冊刊行されていて、現在では電子書籍にもなって…いる。そのなかでもとりわけ好きなのが、全集の巻頭を飾る『警視庁草紙』だ。時は明治だから、つまりこの物語は警視庁黎明期を舞台にしている。江戸の「お白洲」から近代警察制度への移行時期ということであり、その象徴となるのが本編にも登場する川路利良。初代警視総監であり、「日本警察の父」とも呼ばれる大人物だ。
けれども夜明け前を迎えたばかりの日本社会には、まだほのぐらい部分が残っている。奇談、怪談、幻談の類で、近代の灯りに眩んだ警察の人間には、それらはすべて「怪事」に映る。ことの真相がわからない。そこで暗躍するのが、元南町奉行であったり、同心や岡っ引き。つまりは、前近代の人間たちである。彼らは御維新に敗れた者たちであるのだけども、近代の規範に縛られないから、それゆえに世の中を(とりわけ世俗のものたちの機微を)見通すことができる。警察が「怪事」と右往左往する事件も、かれらにとっては不思議でもなんでもない。「この世には不思議なものなど何もない」とは、京極夏彦の生み出したキャラクター京極堂の決め台詞だが、山田風太郎がこの物語で扱っていることも同様だ。つまりは、近代と前近代との相克である。
その相克を、京極夏彦は「妖怪」という前近代の手立てを用いて祓い落す。一方、山田は前近代を引き摺ったものたちの手を借りる。妖怪と違って彼らは人間だから、そこには多くの悲喜劇が生まれる。妖怪は近代の幕開けとともに消えてしまうが、人間は世の中が変わっても生きていかねばならない。うまく立ち回れるものなど少数だから、たいていは破滅の道を歩むことになる。元士族たちは暗殺者へと、旗本や御家人の娘たちは遊女へと身を落とす。近代の理屈からすれば、彼らは犯罪者だ。それを取り締まるのが川路率いる近代警察となり、それに抗うのが元南町奉行たちとなる。しかしその川路でさえ、もともとは大西郷の推挙によって総監まで登りつめた人物である。序章では大西郷下野の場面が描かれるが、そこで川路は涙をもって西郷を見送る。
川路と元南町奉行たちとの対決が、この物語の読みどころではある。怪事件が彼らの手によって見事に収まるのを読むのは痛快だ。けれども、元南町奉行たちは、自分たちが消えゆくものであることを自覚している。つまりは最後の抵抗をしているわけである。一方で冷静沈着に描かれる川路もまた「影腹」を切って、近代警察の礎を作りあげようとしている。大西郷亡き後の治世を託されたから、それを中途半端な形に済ますわけにはいかないという気持ちがある。夜明け前の輝きの中で、世の中にも人の心のなかにも光と闇が立ち現われた一瞬があった。山田風太郎は、その一瞬を巧みにとらえて一級のエンターテインメントに仕上げたのだ。
続きを読む投稿日:2013.10.04
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幕末が好きなら必読
明治十年まではまだ幕末、ということを本書を読んでしみじみ思った。
元南町奉行の隅の御隠居こと駒井相模守が元同心・千羽兵四郎らとともに、警視庁を散々おちょくり倒すという話なのだが、様々な事件にかかわ…るうち、出るわ出るわ幕末の有名人が目白押し! 聞いたことのある名前が登場するたび、ニヤニヤが止まりませんでした。幕末好きにはたまらない一冊。あと、基本的に旧幕臣寄りで書かれているので、佐幕派ならさらに楽しめると思います。一話一話は短くすぐに読めてしまうが、短編連作ということでつながりがあるので、最初から読んでいくべき。
個人的には藤田五郎と今井信郎が出てきた時点でハマる予感がした。そして、実際にハマった。続きを読む投稿日:2014.06.28
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