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春日太一 / 文春e-book (13件のレビュー)
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本は空
『七人の侍』『私は貝になりたい』『白い巨塔』『日本のいちばん長い日』『砂の器』など歴史に残るような映画の脚本家である橋本忍さんの評伝。権力に抗うような作品が多いので社会派かと思いきや、ご本人は売れる作…品を生み出すことが目的だったとのこと。作品の本質を見抜くことにとても長けていると思う。『八甲田山』では、多くの死者を出した青森第五連隊は自然を征服しようとして、死者を出さなかった弘前三十一連隊は自然には逆らわず折り合いを付けようとした、と的確に捉えている。また、脚本の内容もまるで小説を読んでいるかのように場面が思い浮かぶ詳述ぶりだった。映画の利潤は自身の会社の資本の蓄積にせず、みんなで分配したというエピソードも凄いなと思う。これらのことがbackboneにあって上記のような作品が生み出されたという事実は、いわゆる社会派という考え方にもいろんなアプローチがあるんだと気づかされた。続きを読む
投稿日:2024.04.12
t_ fukami
『羅生門』、『七人の侍』、『日本のいちばん長い日』、『八つ墓村』など、橋本忍が脚本担当した作品は何本か観ており、強く記憶に残っている その評伝を春日太一先生がまとめたということで、まあ面白い 各作品の…制作過程や裏話が山ほど出てきて、映画史としても貴重な記録 "全身脚本家"の評伝としてあっという間の470ページでした 表紙になってる『砂の器』は未見 観たくなりました続きを読む
投稿日:2024.04.04
mikutemozadown
「幻の湖」の謎を解くカギがすべて描写されている。成功の陰になったあらゆる可能性の裏面がすべて噴き出した壮絶なギャンブラーの溜息だったのだ。
投稿日:2024.03.19
raga-movie
とめどなく俗物根性で駆け抜ける橋本忍の足跡は、映画を芸術ではなく興行の媒体としてどうすれば儲かるのか、その徹底した分析力をギャンブルの糧として活用していく。腕力で面白く脚色していく橋本の興行収入や名声…を欲する姿はあまりに人間臭くてグイと惹き込まれていく。栄光と凋落。この振り幅も賭博師として自覚していたのではないか。輩出する脚本に共通する主題同様、苦悩に満ちた半生は彼の宿命でもあったと感じる。続きを読む
投稿日:2024.03.13
臥煙
日本映画史に名を残す脚本家橋本忍。結核療養生活、伊丹万作への師事、黒澤明との「羅生門」でのデビューから日本映画黄金期を駆け抜けた華々しい作家生活。独立プロの立ち上げなど経営者としての顔、晩年の創作など…実に楽しく読むことができた。 砂の器、八甲田、八つ墓村の後の凋落ぶりが切ない。 圧倒的な事実と本人への取材の前に、ちょつと構成が弱く、淡々と続きクライマックスの盛り上がりには欠ける。続きを読む
投稿日:2024.03.04
piccolo33
このレビューはネタバレを含みます
脚本家といえば、倉本聰や山田太一を知っている人は多いと思うが、橋本忍の名前は、映画マニア以外では、余り知られていないと思います。 橋本忍は、戦後サラリーマンをやりながら書いた脚本(芥川龍之介の「藪の中」)が、黒澤明監督の目にとまり、黒澤が手を加えて、映画「羅生門(1950年)」となり、いきなり「ヴェネツィア国際映画祭」でグランプリを受賞した。 以後、黒澤明・小国英雄の3人で共同執筆を行い「生きる」「七人の侍」等の脚本を書いていたが、徐々に黒澤から離れて独立する。 黒澤から離れた理由は、完璧を目指す黒澤は、通常の脚本の3倍以上の労力と時間がかかり、しかも映画のクレジットは、黒澤との連名になるので、全ての評価は黒澤になってしまうことへの不満があったそうだ。 その後、「真昼の暗黒」「ゼロの焦点」「切腹」「白い巨塔」「日本の一番長い日」「日本沈没」「私は貝になりたい」等の脚本を手掛け、論理的で確個とした構成力で、高い評価を受けるようになった。 当時、斜陽の映画界にあって思いうように映画化が出来ないので、自ら「橋本プロダクション」を設立し、「砂の器」「八甲田山」「八つ墓村」等を成功させたが、「幻の湖」で失敗した後は、体調不良などもあり、事実上引退した。 著者は、12年間に渡って、橋本忍の子供時代からの晩年までを追い求め、9回ものインタビューを行い、橋本が残した「創作の裏側」という備忘録を丹念に読み解き、ハードカバーで500ページに近い本書を著した。 橋本忍の脚本の例として「砂の器」(野村芳太郎監督)が興味をひいた。 松本清張が書いた原作の中の捜査会議で報告される犯人の生い立ちの説明で「父親と全国を放浪していた」という4行程度のさりげない記述に注目し、脚本では、この父子の放浪を、映画の終盤に据えて、一気に画面を盛り上げてゆくシナリオに作り替えている。 ハンセン病を患ってしまったために理不尽な差別を受け、お遍路姿で流浪することになった父子。行く先々で邪険にされ、それにめげない父子の触れ合いが、時に美しく、時に厳しい日本の四季折々の風景をバックに映し出されていく名場面を作り出していく。それを犯人の終盤の回想録として描いている。 私もこの映画の記憶として、厳冬の竜飛岬、春の信州やこの本の表紙(上掲)に載っている場面しか残っていないし、これが松本清張の原作本にも書いてあると思っていた。 この手法は、競輪でゴール直前に一気にピッチを上げて追い込んでゆく「まくり」という戦法と同じだそうだ。こういう橋本のセンスを、著者は父親譲りのギャンブラーとしての勘の冴えをあげている。事実橋本も父親同様に競輪が好きであった。 このように、橋本のオリジナル作品も面白いのであるが、原作がある作品でも、原形を殆ど留めない形に仕上げているのには驚いた。 因みに「砂の器」は原作をはるかに上回った映画作品として評価されている。 またエピソードとして、橋本が有名になった後に映画会社から「忠臣蔵」の話が何度か持ち込まれた時に「一人が四十七人を斬った話なら面白いけど、四十七人が一人のジジィを斬って、どこが面白いんだ」という父親の話を持ち出して、全て断っている。 本書では、こういう話が丹念に書き込まれてあり、映画ファンなら、一読をお薦めします。
投稿日:2024.02.21
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