【感想】悪い男

アーナルデュル・インドリダソン, 柳沢由実子 / 東京創元社
(9件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
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3
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ブクログレビュー

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  • fuku ※たまにレビューします

    fuku ※たまにレビューします

    アイスランド・レイキャビク警察のエーレンデュル捜査官シリーズ第七作。
    と言っても、今回はエーレンデュルは休暇のため不在(長すぎるし連絡も取れなくてこっちも気になる)。
    ということで、今回はこれまで脇役だったエリンボルク捜査官(女性)が主人公となる。

    このシリーズは被害者が気分が悪くなるような『悪い男』であることが多いのだが、この作品もそうだった。
    レイプドラッグと言われる薬品を女性に飲ませて強姦するレイピストが、自ら使っていたレイプドラッグを口に詰め込まれて殺されていた。
    全く同情出来ない被害者なので、自業自得な最期については寧ろ良かったと思ってしまうのだが、警察としてはそうはいかない。

    日本の警察小説だとアウトローな刑事ものでない限り二人一組で捜査をするのだが、このシリーズは基本単独捜査を行っている。
    訳者あとがきによると、アイスランドでの殺人事件は年間4、5件、人口10万人単位での殺人事件発生率としては日本に近いくらい少ないようだ。ヨーロッパの中でも比較的平和な国ということでこういう捜査スタイルになっているのかも知れない。
    だが今回の作品のような強姦だったり過去に扱われた虐待や暴行事件などはそれなりに起こっているようで、エリンボルクの母親は、娘が捜査官という職業を選んだことを心配している。

    捜査の行方の方は、現場に残されていた女性ものと思われるスカーフやTシャツ、そして被害者の人間関係、さらに目撃者探しといったことをエリンボルク一人で担っているため、遅々として進まない。
    この辺りは過去の作品で経験済みなのだが、訳者の柳沢さんの文章と相性が良いのか、読み進みやすかった。

    同時にエリンボルクの家族関係についても描かれていて、こちらはエーレンデュルほど極端な家族ではないので親近感があった。
    現在の夫・テディの大らかさに癒され、長女で三番目の子供のテオドーラに勇気づけられる一方で、長男ヴァルソルとの関係は全く上手く行っていないし、次男アーロンも徐々にエリンボルクから距離を置こうとしている。ヴァルソルとの確執が養子ビルキルが家を出たことに端を発していると知ったエリンボルクは過去の自分の対応に思い悩む。

    こうしたことには正解というものはないので悩ましい。なるようにしかならないと大らかに構えるか、とことん藻掻くのか。距離を置いた方がいいのか、向き合ってとことん話し合うのか。
    個人的にはエリンボルクは仕事も家事も家族にも頑張っている良いお母さんに見えるが、三人の子供たちそれぞれの観方は違うだろう。だから夫テディの大らかさは救いになるかも知れない。

    一方で捜査の方も新展開を見せたりして面白くなってくる。『悪い男』だと思った被害者は『悪い男』ではなかったのか?別の側面があったのか?
    信用ならないと思われていた証言や、見逃しそうな証言を丹念に探っていくエリンボルクはやはり優秀な捜査官だと思う。

    そして強姦の被害者に対して『恥は暴行した男が感じるべきものよ』と言ったエリンボルクには共感するが、『彼らの受ける罰と言ったら、馬鹿馬鹿しいほど軽いのよ!』という被害者の言葉にも大きく頷く。
    もっと被害者に寄り添った『正義を下す方法』があれば良いのだが。

    もう一つ印象に残ったのは被害者の出身地である村の雰囲気。まるで横溝正史先生の作品に出てきそうな、排他的な空気でちょっと怖い。

    事件としては解決したのだが、様々な謎は残っている。
    次作はなんと、問題児(と私が勝手に呼んでいる)シグルデュル=オーリが主人公らしい。
    時間軸としては今回の作品と同時らしいので、エーレンデュルはまだ不在らしい。こちらの作品のその後やエリンボルク家族のその後、エーレンデュルの行方なども描かれるだろうか。
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    投稿日:2024.04.14

  • autumn522aki

    autumn522aki

    殺害された被害者はレイプドラッグを所持しており… 家族の絆を細やかに描いた社会派ミステリ #悪い男

    ■あらすじ
    アイスランドの首都レイキャヴィークで発生した殺人事件、アパートの一室で男の死体が発見されたのだ。部屋からは女性のスカーフが見つかり、さらに彼はレイプドラッグを所持していたことが判明する。主人公である捜査官であるエリンブルクは、彼に乱暴された女性を探すために捜査を始めるのだった…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    シンプルかつストレートな北欧ミステリーですね、胃にずっしりと来ました。タイトル『悪い男』とは間違いなくこの被害者であるのは想像がつく、一体この事件にはどんな背景があるのだろうか。

    本作エーレンデュル捜査官シリーズの第七弾ということなんですが、実はこのシリーズまだ一冊も読めてないんですよね、あはは(湿地をはじめ、もちろん手元には何冊かあるけど)。でもシリーズ初読みでも前作以前のネタバレもなさそうでしたし、目一杯楽しませていただきました。

    じっくり、本当にじっくりと捜査が進む。この静かさと重々しさが一番の魅力ですね。関係者や街の人々に聞きまわっても、解決の糸口すらつかめないというこの行き詰った重々しさ。それでもひたすら捜査を続けるエリンブルクの粘り強さが渋すぎて素敵です。

    しかもこの女性捜査官であるエリンブルク、彼女の日常やプライベートがたびたび描写されるんです。夫との距離感、多感な年ごろの子ども達との関係性など、家族の間に吹く隙間風が針の筵のように彼女の背中に突き刺さってくる。

    特に末っ子の娘に対して贔屓目に見てしまったり、猫かわいがりが転じて自分の甘える矛先になってしまう感覚なんかはホントよくわかるの。さらに娘を持つ親として、本事件の背景にある恐ろしさに対する震えを肌で感じ取ることができるのです。

    そして物語の後半になってくると、他の家族との巡り合わせがやってくる。被害者家族と加害者家族が背負っている十字架が、彼らのとってあまりに重大過ぎて辛すぎますよ。読めば読むほど苦々しさが胸を襲ってきて、許せない感情が爆発しそうになりました。

    ずっと水の底で本を読んでいるような錯覚に陥る、でも強い勇気も感じる渋いミステリーでした。

    ■最近わたしが思っていること
    性的同意アプリって知っていますか?

    性的同意を証明するものとして、書面での手続きはその場の雰囲気を壊してしまうため、比較的手軽に手続きができるように作られたらしいです。効果とかセキュリティの問題など、いろいろ批判が多いですが、こんなアプリがでてくること自体が悲しくてならない。

    そもそも手続きの問題なのではなく、愛している人とだけ性交渉に及びべきという、あたりまえの愛のカタチを目指すことのほうが重要ではないでしょうか。正しく教育され、ひとりひとりが成長していけば、同意なく人を襲うなんてことは起きないんですよ。

    ただ…きれいごとだけでは問題がなくならないことも知ってまして。もし本作のような被害者を減らせるのであれば、この性的同意アプリもきっと意義があるのではないか。辛い思いをする人が、ひとりでも少なくなるようにしたいです。
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    投稿日:2024.04.04

  • キムチ27

    キムチ27

    作家、舞台共にアイスランド。
    人口わずか30万人とはいえ、気骨が感じられる国と映る。
    ヨナソンから食いつき、インドリダソンも邦訳は完読。
    思い込みかもしれないが、独特の癖も含めて、他の国や作家のが読めないほど お気に入り。

    いつの間にかエーレンデュル捜査官シリーズという看板がついていたんだ・・ただし、今作は主役が休暇中で不在(弟探しの旅に出ているのか??)オーリが助っ人で登場しているのは嬉しい。

    だが女性かちゅ役の国、主役留守とはいえ、女性捜査官エーレンデュルがじっくり、丹念な捜査をものにしている。
    相変わらずの天気が背景となって作品の情念世界の暗さを表現している・・暗い、湿っている、そして雪空?
    エーレンデュル捜査官の家庭事情も何やら複雑、母子家庭のような状況を呈し、長ずるに従っての反抗的な息子に心をなやまっ姿は等身大の現実社会に酷似。

    事件自体は、北欧にあるあるタイプ。ロヒプノール、連続レイプ魔・・・レイキャビクに蔓延したポリオ事情は史実と思われる。
    ネットフリックスで放映されるアイスランドの刑事ものもはまってしまった‥日本と匂いが全く異なる社会事情と風土。でもしっかり人々が生きていることに小さく感動する。
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    投稿日:2024.03.08

  • bukurose

    bukurose

    男は目立たぬようにバーに入ってゆき、サンフランシスコの文字のあるTシャツを着た女性に声をかけた。で始まる描写が続き、一行空いて、エリンボルグが現場に到着すると、血の海の中で若い男が倒れていた。血まみれのサンフランシスコの文字の入ったTシャツを着ていた。・・と続く。

    男はこの若い女性のTシャツを着て殺されていた、という出だしから、殺された男は「悪い男」なのだな、と思う。その予想のごとく、エリンボルグは男殺害の真犯人を見つけ出すのだが、男がもたらした「悪」の空気が作品全体を包みやるせない。男の故郷はアイスランドの田舎。若い者は村から出て行って、村人の行動はただちに村じゅうに知れわたる。暗くて寒い空が覆っている。それが「サンフランシスコ」の明るくて暖かいTシャツと対照をなす。男の母親はとても厳しく男を育てた。

    もう少し「悪い男」の内面を描写してほしかったかな。なぜそういう性癖になったのかインドリダソンの見解を知りたい。でも一気に読んでしまった。エーレンデュルは東部地方への休暇をとっている、とだけわかっていて出てこない。次作は「黒い空」でシグルデュル=オーリが主人公だ、と解説にある。オーリもけっこうおもしろい性格だな、と思いながら読んでいるので、次回作が楽しみ。


    2024.1.19初版 図書館
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    投稿日:2024.03.08

  • lonelyrunner

    lonelyrunner

    このレビューはネタバレを含みます

    エーレンデュル第7作ではあるが、エーレンデュルは全く出ず、エリンボルクが主人公のスピンオフ的な作品。
    面白くないわけではないが、エーレンデュルに比べると、エリンボルクは申し訳ないが魅力にかける印象。
    ちょっと堅苦しくて、取り調べの会話は少しイライラした。
    話としても今一つ。
    次作もエーレンデュル不在らしい。ちょっと残念。

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    投稿日:2024.03.04

  • yoshi1004

    yoshi1004

    北欧のミステリーシリーズ。エーレンデュルかと思えば彼の部下のエリンボルクが主人公。
    彼女の日常が細かく描かれていてとてもリアル。緻密な捜査や被害者の家族の感情が前面に出ている。エーレンデュルはどうしたのか、刑事仲間でなくとも気になる。続きを読む

    投稿日:2024.02.18

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