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吉川洋 / ディスカヴァーebook選書 (25件のレビュー)
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japapizza
本書もライフネット生命の出口会長お薦めの書。第7章の結論は秀逸。わずか20ページでデフレとは何なのかをコンパクトにまとめている。全部書き写したいくらいだが、中でも核心部分だけ抜き出す。 「デフレは『一…般的な物価水準』の下落である。デフレは特定のモノやサービスの価格が下落するのとは違う。個々のモノやサービスの価格が下落するのとは違う。個々のモノやサービスの価格が下がるのは「相対価格」の下落であり、デフレではない。多くのモノやサービスの価格がそろって下落し続けるデフレは『貨幣的な現象』である。だから、デフレを説明するうえで最も重要な変数はマネーサプライだ。こうした経済学の背後にある理論は『国際標準』の理論、「貨幣数量説」である。デフレを止めるために、日銀はインフレ・ターゲットを掲げてマネーサプライを増やせ、逆にいえば、デフレが止まらないのはマネーサプライが十分供給されていないからだ。 … 金利がゼロでなければマネーサプライの増加は『金融緩和』、つまり利子率の低下をもたらす。それは利子率の変化に感応的な投資や消費を刺激して、経済にプラスの影響を与えるだろう。この点に異論はない。しかし、ゼロ金利の状態では話が違ってくる。実際、これまでハイパワード・マネーあるいは貨幣数量を増やしても、それが実体経済にプラスの影響を与え物価を上昇させる、ということはなかった。 … 貨幣数量説の最大の弱点は、それが『均衡』に関する命題―均衡において物価水準は貨幣数量に比例する、という命題―にすぎない、ということだ。この理論は、『均衡』については雄弁すぎるほどに語るのだが、個別の物価の変化を反映した指数としての一般物価水準がどのようにして均衡水準に行き着くのか、時間経路について全く語らない。また、『均衡』ではなく、現実の時間経路で貨幣がどのような役割をはたすのかについても黙して語らない。 … デフレが続いているのは、貨幣数量が不足しているからだ、と主張している経済学者・エコノミストがいいる一方で、日本経済が長期的に停滞している原因は『実物的』(リアル)なものだと主張する人もいる。…「人口減少説」は、驚いたことに多くの人の支持を得ているようだ。 … 労働人口の減少が経済成長にマイナスの影響を与えるのは事実だ。ただし、その影響は『数量的』には一部の人が想像するよりはるかに小さい。 先進国の経済成長は、働き手の頭数で決まるのではなく、『一人当たりの所得』の上昇を通して成長してきたのである。 … 筆者の考えは、デフレは長期停滞の原因ではなく、『結果』だ、というものだ。 … ここで指摘したいのは、15年デフレが日本企業のイノベーションに与えた「デフレ・バイアス」である。…デフレの中で消費者の『低価格指向』―単に同じモノで名目価格が安いというのではなく、『相対価格』が安いモノへの需要のシフト、という意味での『低価格志向』がどんどん強まっていった。これに加えて、グローバル経済における国際競争、円高の下、日本企業は一貫して『1円でも安く』コストダウンを図るべく、『プロセス・イノベーション』に専心してきた。 その結果、日本経済の将来にとってより大きな役割を果たす『プロダクトい・イノベーション』がいつしかおろそかになってしまったのではないだろうか。 … 経済の成長にとって最も重要なのは、新しいモノやサービスを生み出す需要創出型のイノベーションである。 … それにしても、なぜ日本だけがデフレになったのか。2000年代に入り、日本以外の先進国も低インフレの時代に入った。しかし、日本だけがデフレに陥ったのはなぜか。その理由は、日本の賃金決定に生じた大きな変化だ、というのが筆者の考えである…。 … 1990年代後半、大企業を中心に、高度成長期に確立された旧来の雇用システムが崩壊したことにより、名目賃金は下がり始めたのである。そして、名目賃金の低下がデフレを定着させた。 … デフレをめぐる考察が行き着く先は経済学だ。『国際標準』の経済学に基づく政策提言が『空振り』に終わったのは、経済学に問題があるからである。 … デフレと金融政策をめぐる論争は、混迷する現代マクロ経済学の反映なのである。」続きを読む
投稿日:2018.10.08
doidoidoidoi
失われた20年のデフレの原因は、マネーサプライの減少でも労働人口の減少でも説明がつかない。名目賃金の減少こそが原因という。経済学のあり方にも批判。ミクロを積み上げてもマクロにはならない。
投稿日:2018.10.06
haru2012
日本のデフレの原因は名目賃金の低下、つまり労働分配率の下げすぎが主因。非正規雇用の増加だけでなく、賃金におけるボーナスという仕組みも一因。 賃金支払いのしくみとして考えたときに、ボーナスって大きかっ…たんだということを、再認識させられました。続きを読む
投稿日:2015.02.28
sanmamaria
このレビューはネタバレを含みます
本書は、週刊ダイヤモンドで2013年経済書籍ランキング1位を獲得したもので、今日的なデフレ現象の原因について、経済学議論を省みながら自説を展開するもの。機を見るに敏ではないが、アベノミクスの三本の矢への世の中の関心が、とかく学際的な議論・主張を行う本書に注目を寄せる契機になったことは言うに及ばない。 【ポイント】 ・デフレは、過去15年の我が国のマクロ経済政策を巡る議論の中で、まさにキーワードだった ・その答えはマネーサプライの中にはない。スタンダードなマクロ経済学では、貨幣(マネーサプライ)を増やせば、利子率の低下や投資・消費の刺激といった期待(流動性のわながあっても将来への期待)が高まり、デフレは止まるという(貨幣数量説)。しかし、ゼロ金利状態では話が違い、現に貨幣数量を増やしても実体経済にプラスの影響を与え物価を上昇させる、ということはなかった ・人口減少、生産年齢人口の減少が、日本経済の長期停滞原因➔デフレの正体という説も正しくない。確かに経済成長にマイナスの影響は与えるが、インパクトは小さい。むしろ一人あたり所得の上昇、即ち設備投資等を通じた資本ストックの増加と技術進歩によるところが大きい ・デフレは長期経済停滞の結果である。 ・「失われた20年」と言われるが実際は10年。日本の一人当たり実質GDP成長率は、米国と比べるとそれほど遜色はなかった。しかし、金融問題、即ち不良債権問題、金融システムの動揺(とりわけ97-98年の金融危機)、それに伴う株価の低迷は、90年代~2003年にかけて日本の成長を大きく阻害 ・さらに、デフレに陥るほどの長期停滞を招来した究極の原因は、イノベーションの欠乏。デフレ・バイアス=消費マインドの低価格志向(安いモノへの需要のシフト)+企業のプロセス・イノベーション(グローバル競争での1円でも安いコストダウン)➔新しいモノやサービスを生み出す需要創出型のイノベーションがおろそかになった ・日本だけがデフレに陥ったのは何故か=日本だけ名目賃金が下がったから。終身雇用制の崩壊後、大企業を中心に「雇用か、賃金か」という選択に直面した労働者は、名目賃金の低下(雇用を守ること)を受け入れた ・1%の物価上昇のためには、2.5%の賃金上昇、そのためには失業率が2%台になる必要がある。
投稿日:2014.03.11
jsoshi
最初に結論から読んでみると、本書の骨子は以下のようによみとれます。 1 貨幣数量説の否定 ⑴理論的な反証 ゼロ金利の状態では、マネーサプライの増加が利子率の低下をもたらすことはないため、投資や消費を刺激することはない。 ⑵実証的な反証 デフレが始まった1990年代中頃を見ても、マネーサプライとCPIの動きは乖離している。 2 人口減少説の否定 労働人口の減少はマイナスの影響を与えるが、その影響は限定的。 高度成長期でも、生産年齢人口は1%しか増加していない。 高齢化により、貯蓄率が低下し、消費性向は高まる。 3 合理的期待形成の否定 「合理的期待」モデルは、現実の経済との関わりを持たない知的遊戯。 マクロ経済の動きを代表的個人をモデルに捉えるのには限界がある。 現実の世界で、デフレ下においてインフレ期待を生み出すのは容易ではない。 モノやサービスの価格決定に「期待」が寄与することはない。 で、何がデフレの原因かというと 1 賃金の減少 1998年以降、日本だけ、実質賃金が減少している。 その理由は、雇用を増やした成長業種ほど賃金がさがるという独特の傾向に起因している。その理由は⑴パート比率が高まっていること、⑵専門職の人手不足と、事務職の雇用過剰。 2 コストカットのための「プロセス・イノベーション」 経済の成長に重要である需要創出型の「プロダクト・イノベーション」ではなく、低価格志向、コストダウン志向の「プロセス・イノベーション」に腐心してきた。 と読み取っていますがいかがでしょう。
投稿日:2014.02.24
tongali
文字が大きいので、それほど分量はないのですが、読むのに時間がかかってしまいました。 内容は、結構わかりやすかったです。デフレの原因もなんとなく納得できました。 モデル式の詳細は読み飛ばしましたが。 …ただ、デフレ対策について、何らかの指摘があるのかと思って読んだのですが、それについては「イノベーション」という結論だったので、がっかりしました。 しかし、タイトルを見かえせば、「全貌を解明する」本であって、デフレ克服の示唆を示す本ではなかったですね。続きを読む
投稿日:2014.01.27
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