【感想】帝国の構造 中心・周辺・亜周辺

柄谷行人 / 岩波現代文庫
(2件のレビュー)

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ブクログレビュー

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  • 絵馬nuel

    絵馬nuel

    このレビューはネタバレを含みます

     本書は、ローマ帝国がペルシア帝国を承継したものと整理する。この帝国には分権が残っていないことから、同時代的に発生し多くの文書を残した中国王朝に注目し、「帝国の原理」を探求する。これは西欧中心主義的な歴史観を脱却した方法である。
     「帝国」は統治の技術として「思想」があった。また、周辺に対しては寛容であり、互酬的な交換様式が支配的であった。このように帝国のもとでも民族的アイデンティティが尊重されていたことを考えると、帝国を解体することになった民族自決や国民国家が支配層から抑圧に対する抵抗であり、民族にとっての悲願・至上命題だという理念はものごとの一面を見たものに過ぎないと感じた。

     交換様式Bを意図的に「避ける」試みとして、ゾミアの引用があった。YouTubeで紹介されていたもの(「「国民を上手に搾取する方法」が学べる本。作らせるべき穀物は○○【ゾミア1】#229」, https://youtu.be/qHLU49TApZM?si=1rCAyeeWjqbweu8G)を見たことがあったが、積極的に国家を作るまいと努力することにフロイトが言うような原父殺しを関連付けるのは驚いた。交換様式AからBへと発達的にとらえがちであるが、Aが後進的な様式だとは考えてはいけないと考えた。

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    投稿日:2024.02.09

  • コウ

    コウ

     著者は『トランスクリティーク』以降、マルクスを生産様式ではなく交換様式で、また、カントの世界共和国をベースに、今後の世界の展望を考察してきた。近代国家は、資本=ネーション=ステートの3つの要因を孕んでおり、依然として、これらは強く結ばれている。資本の力が強まると、新自由主義社会となり、ネーション=ステートの力が強まると、国家資本主義あるいは福祉国家社会となる。しかし、これらに囚われている限り、近代を超克することはできない。その為、著者は、資本=ネーション=ステートを超えた社会システム、すなわち、交換様式Dが主力となる世界を考えてきた。本書もその一環として、交換様式A〜Dに触れているが、今回は「帝国」の特徴を、つまり交換様式Bの性質を深堀していくのが本書の主軸となる。
     交換様式Bが主力となった時代とは、世界市場(交換様式C)が到来する以前の時代、別の言い方をすると、近代以前に存在した帝国の時代を指す。具体的には、ペルシア帝国、ローマ帝国、さらに時を経て、モンゴル帝国、オスマン帝国と、各時代で、政治的、軍事的に優位であった帝国のことである。本書で特に注意しないといけないのが、「帝国」と「帝国主義」の定義である。両者ともに多数の民族、国家を包括することに違いはないが、前者のほうは、これら独自の習慣(政治、経済活動あるいは宗教)に対して寛容な態度を示す。一方で後者は、民族、国家を征服し、支配者側の価値観を、それを被支配者に押しつける、つまり、同化政策を強制する。このように、著者は2つの用語を厳密に区別する。ちなみに、「帝国主義」の別の特徴として、この性質を持つ国家は、歴史的に見て「帝国」に対して亜周辺であることを指摘する。この箇所は日本にも当てはまり、明治に誕生した大日本帝国とは、まさに帝国主義である。そして、「帝国主義」とは世界=経済、つまり経済的に優位な立場で、ヘゲモニー国家、つまり、交換様式Cが主力となる。
     これ以外にも、本書の終わりでは、日本社会を交換様式をもとに紐解く。興味深いことに、徳川幕府とは、拡大主義の否定、つまり世界市場(交換様式C)を抑えてきたが、幕末ごろに限界を迎えた。明治維新の成功要因としても、徳川体制がこれまで抑えてきたものを解放したことで、発展したという。その一方で、日本は周辺の理解が足りないとあり、日本が「帝国」でありたい、すなわち、多民族、国家に寛容でありたいのならば、憲法9条の実行が必要だと主張する。
     巻末には、作家佐藤優との対談が収録。日本は海洋国家で、中国とロシアが海へ進出しない限り、これらの国家とうまく棲み分けができる。むしろ、日米同盟で結びつきが強いアメリカとの関係を、日本は注視しなければならないというのは、今後の地政学リスクを考えるうえでポイントとなるだろう。
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    投稿日:2024.01.29

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