【感想】増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 下

ジョン・ダワー, 三浦陽一, 高杉忠明, 田代泰子 / 岩波書店
(24件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
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ブクログレビュー

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  • まー

    まー

    ポツダム宣言を履行するために「日本に戦争を永久に放棄させ、民主主義国家に作り変える」お花畑リベラルが頭の中だけで描いた理想は冷戦の現実にあっけなく崩れ、日本をおぞましい共産圏の「日本人民共和国」にするわけにはいかないため天皇制を維持し、天皇制を維持する以上、天皇に戦争責任を負わせるわけにはいかず、スケープゴートとして戦犯を「作る」必要があった。

    東京裁判は、訴因「平和に対する罪=世界征服を意図した共同謀議」があからさまな事後法である上に、噴飯物の罪状であり、被告の人選も出鱈目(せめて何名かは日本人自らが訴追すべきだったのではないか)、法手続きも粗雑を極め、ショウケース裁判として歴史に汚点を残した。

    天皇制について著者は「国民はそれほど関心を持っていない、過去には女性天皇もいる単に過大評価された王制」と実利的に考えているが、前半は正しくても後半は大間違いで、2000年以上続く(そのつながりがどれほど細く、極論すればフィクションだとしても)男系という「権威」が重要なのである。

    西欧文明では神の代理人たる教皇に、地上の権力である国王が「人間対人間の」争いで勝利し、その国王を人民が打倒した歴史があるため、民主主義共和国であっても神は残るのだが、女系天皇制や天皇制の廃止は、神そのものを消しさるに等しい暴挙なのである。

    健全な民主制は国民が「自律的に」参画する制度のはずだが、ナチスドイツやソ連、中共と簡単に扇動される衆愚制を目の当たりにして、連合国は狡猾な検閲による思想統制を導入し、結果として「建前と本音」「ダブルスタンダード」の嘘で固めた民主制もどきが出来上がった。

    結果的に完敗したとはいえ、欧米諸国との戦争を選択肢に入れられる程度には科学力・工業力を持った国を「玩具や雑貨を輸出して慎ましく暮らす」レベルに落とし、その代わりに財閥や独占企業の力を削いで、国民が権利を主張できるバランスの取れた国に変える構想は、朝鮮戦争特需で一瞬にして超効率的な(技術支援に品質管理技法の特典までついた)統制経済を復活させ、その代償として経済以外がすべて犠牲にされる体制は、大蔵省が占領軍の権力をまんまと引き継いでますます強化された。

    敗戦は、連合国にとってナチスドイツのような狂信的で強固な集団と思われていた日本人が、茫然自失となり、そこから誇りも名誉も道徳もかなぐり捨てて、ただ生きるために必死になる哀れな姿を容赦なくさらけ出した。

    もしかしたら瓦礫の中から日本人の手による民主主義(とは限らないかもしれないが)国家を再生できたのかもしれない。

    しかし冷戦の現実が、半ばアメリカに属国化され、半ばは旧体制を引継ぎ、半ばは国民の意思(与えられたものと自ら手にしたものがあるにせよ)を反映した中途半端な「日本」を混血の未熟児として産み育てた。

    エピローグ(ここだけでも読んだ価値があった)によると、昭和天皇崩御をもって「戦後」は終わったという。戦後の毒や負の遺産は消えていないが、2700年に及ぶ日本史の視点で見ると64年程度の歪みはちょっとした病気療養期間に過ぎないのかもしれない。

    本書にルーズベルトの名前は出てこなかった。そもそもソ連に踊らされて日本にハルノートを突きつけて戦争せざるを得ない状況にに引きずり込んだ上に(これは日本も同様だが)、ポツダム宣言に無条件降伏を盛り込んで終戦を遅らせ、ソ連一人勝ちのお膳立てをした最低無能のルーズベルトを否定できるほどには、アメリカも「自由」ではないのだろう。
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    投稿日:2023.11.17

  • 星野 邦夫

    星野 邦夫

    上巻にも共通して言えることだが、外国人が戦後の日本を語っているためにバイアスがないのが良い。自分自身日本人であり当時の話を見聞きする機会は圧倒的に日本人からが多いが、このようにイーブンな目線で戦争ならびに戦後を語られているので読み手も感情を抜きにして当時の様子を理解ができる。「菊と刀」「幸之助論」と共通した読後感があった。続きを読む

    投稿日:2023.07.26

  • midnightwakeupper

    midnightwakeupper

    増補版といっても加筆ないが大判になって数倍掲載されている写真「三木清全集の発売前夜に書店前で寝袋で泊まり込む十数人」「占領軍兵士を戸外接待する芸者(アサヒグラフ’45Oct表紙」「戸外生活者(神戸三宮駅)」「超満員の買い出し列車」世相を物語る/ダワーは天皇の戦争責任が否定されたを批判する立場だが、戦勝国が「道徳的責任」を言う傲慢に気づいているだろうか/朝鮮戦争を契機としで重工業再建、再軍備化に占領政策は変化し、講和独立にもこぎつけた。 戦後すぐに掲げられてきた非軍事化と民主主義社会構築の理想は左翼の大法螺続きを読む

    投稿日:2023.05.29

  • angie

    angie

    「上」に比べると、やや専門的で退屈な部分もあったが、全体的に多岐にわたる資料を横断しながら細かに、かつ鮮やかに歴史を構築していく手法は、どこかフィクションにすら感じられるほど面白く、それは歴史そのものに起因するものというよりかは、著者のテクニックの素晴らしさゆえだろう。夢中になって読破した。素晴らしい経験だった。さまざまな問題提起が含まれるため、本書を起点とし知識の網は広がっていくに違いない。続きを読む

    投稿日:2023.02.05

  • smatoga

    smatoga

    下巻は憲法改正と東京裁判がメインテーマ。憲法改正が少々冗長かもしれない。
    日本人ではなかなか冷静になれない戦後直後の歴史や世の中の動きを鋭く切り取っていて非常に読み応えがあった。

    投稿日:2022.11.06

  • sagami246

    sagami246

    第二次大戦後の連合国占領時代の日本および日本人についての記録の下巻。

    本書のハイライトの一つは、第12章・13章の日本国憲法の制定にかかる部分だと思う。GHQ側が示した憲法草案(それは現在の日本国憲法に近いものである)に対して、当時の日本政府側が抵抗を示し、論争と駆け引きが行われる部分である。
    本書によれば、日本政府側が最も抵抗を示したのは、「誰に主権があるのか」という部分であった。GHQ草案が「主権在民」とし、主権は国民にあるとした草案を示したのに対して、日本政府ははっきりと反対の姿勢を示す。現在の日本国憲法の前の憲法、すなわち、大日本帝国憲法においては、国民は天皇陛下の「臣民」であり、軍隊の統帥権をはじめ、法的には天皇陛下に権力が集中をしている構造となっていた。天皇陛下は国会に優越する存在であり、主権は天皇陛下にあったと言っても良い。この部分を変更すること、主権が天皇陛下から国民に移ることに対して日本政府は最も大きな抵抗を示したのである。
    したがって、もし、この部分に関する論争と駆け引きで日本政府側が勝利を収めていたならば、日本という国は、現在とは全く違う国になっていた可能性があるということだ。
    その他にも面白いエピソードがある。新憲法案は国会で審議されたのであるが、日本共産党は新憲法に反対していた。その反対の理由が「いかなる国も自己防衛の権利を否定することは非現実的」であるというものであった。

    本書は6部・17章からなるが、占領軍下の日本を様々な角度から記述している。
    天皇制・憲法制定・GHQによる検閲・東京軍事裁判・戦後の経済活動・戦後の風俗・言論・経済成長、等々。上下巻合わせて800ページ以上に及ぶ大作であるが、読み応えがある。私は、日本の近現代史に興味があり、関連する本を時々であるが、読み続けている。日本の近現代史を理解するのに非常に有益な本でもある。
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    投稿日:2021.08.09

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