【感想】増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 上

ジョン・ダワー, 三浦陽一, 高杉忠明, 田代泰子 / 岩波書店
(40件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
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ブクログレビュー

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  • まー

    まー

    著者のスタンスはやや左寄りかと思ったが、左にありがちな独善的な説教臭がなく、戦後「何が起きたか」を淡々と丁寧に綴ってある。

    吉田茂ら日本の指導層が抱いていた「日本人に民主主義が根付くはずがない」という信念は、必然的に統制された社会(「臣民」の権利は君主の恩寵であり、許容できる範囲内での異議申し立ても可能)を志向する。(そして日本人もそれをよしとする)

    軍備、経済、インフラ、資源を徹底的に破壊された敗戦は、それまで日本人の属性であると「信じ込まされ、宣伝されてきた」全体奉仕的な心性をあっけなく剥ぎ取り、拠り所を失くすと同時に重しから解放された、破壊された人生を嘆き、生きるためにエゴイズムを剥き出し、新しい支配者に諂い、それでも自らの力で立ち上がろうとする「市民」を作り出した。

    日本について何の予備知識も持たなかったマッカーサーは、白紙状態に置かれた7千万の市民に民主主義を与える使命を帯びた植民地総督として君臨し、一国家の基本理念を個人の思い付きレベルで決めるという壮大な歴史的実験を開始した。

    現実を見ず理念だけを追いかけるリベラルらしく、旧体制の経済的基盤だった財閥を解体したが代わりを用意しなかった経済政策は深刻なインフレと食糧不足を生み、理念よりも生存を優先せざるを得ない市民は、生存権のために「民主主義的」要求を掲げて立ち上がる。(この状況で暴徒化しなかったのは日本人の美点と言ってもよいのかもしれない)

    しかし、困窮する市民を組織化し、暴力に変えるのは共産党のお家芸であり、残念なことにそこにはコミンテルンからの「命令」が介在していた。日本人が真に日本人の意思で革命を志向していたのであれば、想像を絶する犠牲の上に「民主主義」国家が成立したのかもしれないが、現実は米国の実験に過ぎず、実験である以上、7千万の国民を有するソ連主導の民主主義擬き国家の成立など、可能性レベルでも許容されるはずがない。GHQのゼネスト中止「命令」は、日本が独立した国家ではなく、占領中の植民地にすぎないという現実を革命気分の夢想家に容赦なく突き付けた。

    結果は、相変わらず米国の傀儡だが戦前と変わらない支配力を維持した財務省、そこかしこの労働組合に潜伏した活動家、確かに芽吹いた民主主義の信奉者、そして、自ら考えリスクを負って自主的に行動するほど民主主義でもなく、かといって個人を無にして信仰や国家に忠誠を誓うほど全体主義でもない、利己的でシニカルで無気力で熱狂的で優しい「普通の日本人」が残された。
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    投稿日:2023.11.03

  • 星野 邦夫

    星野 邦夫

    終戦直後の日本の世相を論じた本。戦争が日本から何を奪い、何をもたらしたかをこの本から考察できる。外国人が書いているため変にバイアスがかかっておらず、読む側も第三者的視点で冷静に考えることができ読みやすい。続きを読む

    投稿日:2023.07.20

  • midnightwakeupper

    midnightwakeupper

    日本人を「江戸時代のゼロ成長と家長中心の家=村社会の変化を嫌う伝統」文化社会と見ると、敗戦による変化は支配者を換えただけの愚民の聚合である。中央集権の帝政官僚の忠誠心が民に初等からの学校教育により愛国心を天皇を中心とした信仰(大日本賛美)に裏打ちされ、軍の暴走・大陸侵略に「新たな領土ができた」と有頂天になり、ついにはアメリカ様に挑戦するまで不遜になったと見れば「反省」「新日本」で蒔き直しようという「焼け跡民主主義」を理想化「そこには理念があった」著者は占領軍の贅沢三昧、45万人で電力消費の1/3も指摘する続きを読む

    投稿日:2023.05.29

  • azure24

    azure24

    戦後直後の日本の世相・風俗・思想を詳しく論述した書。外国人の視点であるため、白人の優生思想が若干見え隠れするものの、客観的であることが良い。日本人の著書だとやたら愛国的であったり戦争アレルギーが出てたりと思想が強いものが多いので。
    若干難しめの論述をしているのにもかかわらず、訳文が非常に優れてて読みやすい。
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    投稿日:2022.10.02

  • pumpkin000

    pumpkin000

    駐日経験のある著者の、日本についての論説。深い洞察を期待していたが、日本は第二次世界大戦時に道を誤った国という、戦時中の米国でのプロパガンダをベースに、日本での戦後の出来事を表層だけ選び取り、自分が考えるストーリーに合わせている感がある。例えば、天皇にあれだけ忠誠を誓って、兵隊は決死の覚悟であったはずなのに、戦後すぐに武装解除に応じた旨など、まるで日本兵が掌を返したように記述されているが、それ以上の深い洞察はしていない。別の書になるが、「天皇の国史」(竹田恒泰)では、皇族が必死になって降伏後の陸軍の暴走を止めたという記述があり、より納得感がある。日本に対してだけでなく、米国に対しても辛口なので、そのような論調かと思えば、ソ連による日本兵シベリア抑留はさらっと表面しか述べられておらず、なにかしら興醒め感を持った。それ以降、読む気力を失った。続きを読む

    投稿日:2022.06.05

  • yoshidamasakazu

    yoshidamasakazu

    上巻は 日本の庶民の敗戦直後の様子が中心。犠牲者としての庶民が 当時の文学、生活状況とともに 映し出されている。これが 敗北の姿なのだと思う


    上巻のポイント
    *敗戦により 庶民に虚脱が生まれたこと
    *戦勝国のおごりと 敗戦国の屈辱 が 虚脱を生んだこと
    *非軍事化と民主化は 女性を強くしたこと
    *「売春婦」「闇市」「カストリ」が 庶民の虚脱を救ったこと
    *虚脱を理解すると 坂口安吾「堕落論」の意味が理解できること
    *敗北に目をつけて、英会話の本を出版した目ざとい日本人もいたこと

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    投稿日:2022.03.26

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