【感想】ガラム・マサラ!

ラーフル・ライナ, 武藤陽生 / 文春e-book
(7件のレビュー)

総合評価:

平均 3.3
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ブクログレビュー

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  • miegoreng

    miegoreng

    ちょっとほろ苦い結末。
    少し読みにくかったが
    最後にはみんなを好きになった。
    結末は、うん、だけど。

    投稿日:2024.04.09

  • ぽんきち

    ぽんきち

    主人公ラメッシュは、絶望的な状況にいる。
    雇い主にあたる若者ルディとともに誘拐され、指を1本切り落とされてしまったのだ。
    なぜそんな状況になったのかといえば。

    元々、ラメッシュは貧困層の生まれだった。母はラメッシュを産んだときに亡くなり、父はチャイを売って日々を凌いでいた。チャイに入れるスパイスを挽くのはラメッシュの仕事。父は暴力的で時に女を連れ込んだりしていた。貧困の中、このまま父と同じような大人になるのかと諦めていたラメッシュを白人修道女が救い出した。
    彼女のおかげでラメッシュは教育を受けることができたのだ。
    それで成功して幸せになった、というのならよいのだが、ことはそれほど簡単ではない。

    結局のところ、彼は修道女が望んだような素晴らしい人物にはならず、けれども頭はよかったために「教育コンサルタント」となった。肩書は立派だが、要は替え玉受験の請負である。金持ちの出来の悪いぼんぼんの代わりに大学受験をして、親の望む大学に放り込んでやるのが仕事だ。
    それでそこそこの金を得ていればよかったのだが、ラメッシュは少しやり過ぎた。
    その年、ルディの代わりに受けた全国共通試験で、1位を取ってしまったのだ。
    さあ大変。ルディは一躍有名人となり、クイズ番組のスターとなった。しかし、もちろん、ルディ一人の力ではその座を保てはしないのである。ラメッシュは彼のマネージャーと称して何かと彼に知恵をつける黒子となる。
    収入は格段に上がったが、同時にビジネスの危険度も段違いに上がった。まぁそれとて綱渡りで何とかこなせなくもなかったのだが、今度はルディがしくじり、とある筋から恨みを買った。
    それが最初の誘拐事件につながっていくのだが、誘拐も1つでは終わらなかった。
    あっちへ転び、こっちへ転がり、行先の見えない大騒ぎを、ラメッシュが、ややシニカルなユーモアを交えて語っていく。
    さてこの事件の顛末や如何に。

    タイトルの「ガラム・マサラ」はインドのミックススパイスを指す。ガラムが「熱い/辛い(hot)」、マサラが「混ぜ合わせる」を意味する。本書原作は英語で書かれており、出版時のタイトルは”How to Kidnap the Rich”なのだが、元々は”Garam Masala”のタイトルがあてられていたという。邦題はこちらを採っている。ラメッシュが父の下でチャイ用のスパイスを用意させられていたことを思い出させるとともに、さまざまな要素が混ぜ合わされた本作自体を連想させるようでもある。
    ミステリともクライムノベルとも言えそうなストーリーの根底には、インドの階級社会や受験戦争などの時事問題がある。下層階級からのし上がっていくのは容易なことではなく、だが一方では堕落した金持ちの暮らしがある。ラメッシュは事件の過程でバラモン階級の女性に恋をし、一時は甘い夢も見るのだが、さて、この恋は実るだろうか。階級の壁を超えるのは、想像以上の難事のようである。

    著者はこれがデビュー作。
    解説によれば、インド系の作家によるミステリは近年、さまざま出版されてきているとのこと。これまでのところ、海外向けに翻訳されているのは英語で書かれたものが大半のようだが、そのうちヒンディー語のものが脚光を浴びる日も近いかもしれないそうだ。それはそれでまた毛色が違っておもしろいかも。
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    投稿日:2024.04.01

  • ahddams

    ahddams

    原題は”How to kidnap the rich”(直訳すると「金持ちを誘拐する方法」)。当初の原題は邦題と同じ”Garam Masala”だったらしい。でもなにゆえ「ガラム・マサラ」なのかが最後まで読んでも分からずじまいで、今は「読者の想像に任せるスタイルなのかな?」と推測する地点にいる。

    しかしエンタメ性は一級品だった。
    お下品な卑語(見開きに1-2個のペースで書かねば著者は気が済まなかったのか!?)への苦笑も含め、読書中は結構な時間笑みをこぼしていたと思う。おかげでパートナーに不審がられた。
    こんなに面白ければ、どこかで実写化されるのも時間の問題だろう。

    デリーの旧市街地で「教育コンサルティング業」を営む主人公ラメッシュ。
    その実態は依頼人を希望の大学に押し込んで時には裏口入学の斡旋まで行うイリーガルなもので、今回も金持ちの放蕩息子ルディの替え玉受験を引き受ける。(その関係で変装も手慣れており、実写化されるならラメッシュの数変化も見どころの一つになるはず…!)
    しかしあろうことか全国トップの成績を収めてしまい、ルディはメディアから引っ張りだこに。ついにはクイズ番組のホストに抜擢されるが、そこでの発言が口火となりラメッシュとルディは何者かに誘拐されてしまう…

    「僕の憎しみは、再生可能エネルギーの分野でインドを世界のリーダーにできるほどだった」

    強力なエンタメ性に覆われているためつい見逃しそうになるけど、インドという国の特殊性がよく炙り出されている作品だった。
    地獄の沙汰も金次第。上に下にと賄賂が横行し、場合によっては嘘も真(まこと)に変えられる。(これを「特殊性」の一語で表して大丈夫なのか果たして疑問だが…)
    本書のニクい点はボリウッド映画みたいな純度100%の勧善懲悪ものにせず、清清するような懲罰を悪党どもが受けていないところ。そうすることで、よりリアリティのあるインドを知ってもらう効果につながっているのだ。

    ラメッシュが喰らってきた不条理に対しては、(日本人には到底思いつかないような)嫌味がたっぷり練り込まれているので、逆に聞いていて清々しかった。(「名門というのは、”これは誰でも聞いたことのある名前だ。え?知らない?常識知らずの田舎者だな”に相当する暗号みたいなものだ」が好き笑)

    「僕はただ一生懸命やるだけでよかった。どんな馬鹿でもできることだ」

    ラメッシュは元々貧しいチャイ屋の息子で、とあるきっかけがなければ無学や貧困から抜け出せないところだった。裕福な人間が欲張って富や名声を求めるように、ラメッシュもまた「何者かである自分」あるいは「誰のものでもない自分」を求めてきた。ただし、お金ではなく頭脳を使って。
    替え玉受験では「誰かの代わり」を務めてしまったが、最終的には望んできた自分になれたんじゃないかと思う。思いもよらないというか、満足度100%の結果ではないにせよ。
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    投稿日:2024.02.27

  • あおつき

    あおつき


    インドの受験戦争が描かれているのかと思ったら階級社会メインだった。
    英題は『how to kidnap the rich』
    金と狂乱の青春犯罪小説。恋と友情あり。風刺と皮肉もたっぷり。
    ミステリではないかな。

    映像化したら面白そう。
    とにかく言葉が汚いけれど、それがスパイスとなり疾走するノリの良いストーリー。
    登場人物には好感が持てるし、若者への視線があたたかい。

    金と権力は結びついているが、どれだけ大金を手にしても階級の壁は越えられないし、退屈も孤独も解消されない。

    「本物の正直は人を退屈させる。けど、真実と偽りのあいだの細い一直線上にある正直は?世界はその上に築かれている。」p.350
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    投稿日:2024.02.25

  • autumn522aki

    autumn522aki

    不条理、破天荒、品のなさ! パワーとドライブ感で溢れるインドを舞台にした犯罪小説 #ガラム・マサラ

    ■あらすじ
    インドの貧困街に住む青年ラメッシュ、彼は教育コンサルと称しつつ、替え玉受験を請け負っていた。ある日お金持ちの建設会社の社長から、バカ息子ルディの替え玉受験を依頼される。
    ラメッシュは代理した試験に合格することができたが、なんと全国トップの成績をとってしまった!以降ルディは全国の注目の的となり、取材や仕事の依頼が殺到。ビジネスチャンスを得たラメッシュは、ルディのマネージャーとなるのだが…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    表紙とタイトルから、一体どんなミステリーなんだ?!と興味津々。

    インドを舞台にした社会派犯罪小説なんですが、展開の意外性やコミカルさが効いてて、めっちゃおもろい作品でした。しかも文章にドライブ感があって怒涛のように読めるし、アイロニックな表現もニヤりとさせられるんです。作者はもちろん、訳者の実力が素晴らしいですね。

    タイトルどおり辛いスパイスの効いた不思議な魅力がある作品なので、気になる方はぜひチャレンジしてみて下さい。以下、私が感じた本作の魅力です。

    〇不条理性
    日本に住んでるとインドの社会や経済状況がわからないのですが、まぁヒドイですねぇ。フィクションなんで全部が全部リアルではないんでしょうが、ちりばめられた要素自体は本物なんだと思います。

    お金と身分、立場やコネで回っている世界の恐ろしさと不条理さ。特に替え玉受験を生業とすることを決めたエピソードはエグすぎる。ただこんな死活問題にもかかわらず、不条理さを馬鹿馬鹿しく笑い飛ばす勢いで書かれているところに抜群のセンスを感じました。

    〇破天荒なストーリー
    替え玉受験の犯罪から始まる物語ですが、中盤、後半となんでこんなも破天荒な展開になるんじゃ!狂った社会で狂った人間が暴れまくっている世界観が最高に面白いですね。こんな本、読んだことねぇよ。

    特に終盤、主人公たちの行動が世の中全体を狂気の世界に巻き込んでいく様がもう滅茶苦茶。何が正義で何が悪か分からなくなる。しかし日本でもSNSで正義を振りかざす愚民たちのソレと似ていて、結局は人間の卑しさとしては同じなんだと悲しくなるよね。

    〇品のなさ
    知的かつ猟奇的な下品さが魅力。人間の欲が品悪く描かれていて、でも筋は通ってるという奇妙さ。貧すれば鈍するを思いっきり地で行った物語で、特に終盤の敵役の自分勝手さは、あまりにも酷くてむしろ爆笑でしたね。

    ラストは綺麗ではあるんですが、物語を振り返ってみると、そんな美しい話じゃ無くね?と、変な感情が押し寄せてくる稀有な体験でした。

    ■ぜっさん推しポイント
    主人公のふたり、ラメッシュとルディが最高、大好き。彼らは飽きれるほど卑屈なんですが、それを生きるパワーに変えて成長していくところがイイんですよ(まぁ歪んではいるんですが)

    でもこんな不条理な世界でのし上がるのは、ひょっとするとこれが正解だったのかもしれない。世界中の人が、少なくともチャンスが得られるような社会や環境になってほしいですね。
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    投稿日:2024.01.24

  • 午後のカッパ

    午後のカッパ

    2023年刊。インド人作家のデビュー作。360ページ余りの長さの中で、段々とこなれて行く?ように読める。冒頭の数十ページは読むのが本当に辛かった。何度も止めようと思ったが、少しづつマシに?なっていく感じが有ってどうにか読了出来た。
    貧しい国・地域を強調するバタ臭い表現を、インドらしい?臭気山盛りでグイグイ書かれた冒頭。目眩。
    兎に角珍しい読書体験をしたい人、バタ臭さが大大好きな人、緻密さに拘らない人には「無責任を以て」勧める。
    続きを読む

    投稿日:2023.12.12

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