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月村了衛 / ハヤカワ文庫JA (8件のレビュー)
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総合評価:
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まる
このレビューはネタバレを含みます
ナレーターがシンジくんの声に変わり、キャラクターの把握に手間取ったが、女性の登場が多いこの作品ではかえって良かったかもしれないと思った。 ウクライナ戦争前からロシアにはどことなく薄気味悪い印象があったが、このシリーズを追うごとにその理由が明確になる。私はあまりにも知らな過ぎた。登場人物は存在しないが、この惨劇は存在している。 崇高な理想、大義の為に戦っていたはずのシーラが私怨に堕ちてゆく様、それを見抜き自己の罪に気づくカティアの描き方が見事だった。集団の目的はいつも巧妙に変容する。踏み越えてはならない一線は細すぎて見えにくい。気づいたときにはすでに止まれないほど加速している。 憎しみは人、つまり憎むことを止められない自分の存続をゆるし、愛は人、愛してしまった自分を殺す。愛が憎しみを消すのならば、憎むことでかろうじて生きながらえる自分は?愛しているなら殺さねばならない。憎む自分を。シーラはひなこからの手紙を読んだ時、そう思ったのではないだろうか。 「母」とは人間に強烈に備わっている概念だと思う。それは必ずしも産み落とした女性と一致しない。守り育む存在を「母」と呼び、思慕する心はこの世から消えるまでなくならない。 子を喰らう悪鬼は前作でも登場した。喰うということは、すなわち自分の為に利用すること。子供を利用する大人。それは今も溢れかえっている。利用する側には死んでもいきたくない。 カティアは生きられるだろうか。 この後も登場してくれるだろうか。 シロキは闇落ちするのか。 スガタのメンタルはもつのか。 次へ
投稿日:2024.04.10
ま鴨
冒頭はいつもの「機龍警察」シリーズらしく、派手派手しい戦闘シーンで幕を開けます。戦闘の主役は、紛争地帯チェチェンから日本に極秘入国した女だけのテロ集団「黒い未亡人」。未成年の少女も含め自爆テロを容赦なく実行する「黒い未亡人」は、敵方ロシア寄りの日本政府に鉄槌を下すためテロを実行すると考えられていたが、その裏にはもう一つの情念に満ちた復讐劇があった。特捜部の城木は、政治家である兄の不審な動きに気づき、その動きを追うが・・・。 本を閉じたとき、鴨が強烈に感じたのは、「純粋な善意の”暴力性”」です。 多くの人を不幸にする悪であるテロリズムを容認する気持ちはさらさらありませんが、でも、テロリストにはテロリストなりの理屈や決意があります。自国を守るため、人々を守るため・・・その行動自体は悪であり暴力そのものであっても、彼らの”悪”には、理由なり理屈なりがあります。 でも、善意には、理由も理屈もありません。ただ、純粋に無私の心から発するものです。だからこそ、悪い方に転がると手に負えない結果が待っています。そんな残酷な事実を、端的に表現した作品だと感じました。 ストーリー中に実際はほとんど登場しないにもかかわらず、強烈な存在感を放つ城木の義姉・日菜子。彼女が”純粋な善意”からシーラに送った手紙が、この「未亡旅団」で展開される一連の悲劇のきっかけになった、と鴨は思います。 「戦地チェチェンで貴女のコミュニティが全滅するきっかけを作り、貴女を捨てて逃げた男と、私は結婚します。こちらにも事情があるので、悪く思わないでください。貴女もいろいろ大変だと思いますが、どうぞお幸せにね」とメッセージを送られて、激怒しない女はいないと思うんですけどね・・・。この無邪気とすら言える日菜子の”純粋な善意”が、シーラを少年兵をも巻き込んだ大規模なテロ行動に突き進ませたのでしょう。そして、城木の兄であり日菜子の夫であった宗方亮太郎も、そのことは重々理解していたのだろうと思います。彼が新潟に向かったのは、シーラを止めようとしたのか、それとも別の意図があったのか・・・。いつもの機龍警察とは異なり、途中からいきなりラブロマンス要素が入ってきて「おいおい何だこれ」と思いつつ読み進めて、このモヤモヤした結末。色々と後味の悪い幕切れでした。 ・・・が、最後の最後、逃げ切った幼い元テロリスト・カティアが、来日中に彼女を救ってくれた特捜部の由起谷に宛てて辿々しい日本語の手紙をよこし、それを読んだ由起谷が愛憎入り混じった泣き笑いをする、このラストシーンには一抹の希望を感じます。いつかカティアが機龍警察の突撃班のメンバーにならないかな・・・なんて思ってしまう(そうならないことが彼女の幸せだと思いますが)、この先に繋がる光を感じました。 機龍警察シリーズの中では異色の作品だと思いますが、一流のエンターテインメント作品であることに変わりはなく、読んで損はありません!
投稿日:2024.02.18
7591
すごい。いろいろな難題が絡みあって物語が進み、一つ一つがほぐれていく。だから、機龍警察はやめられない。
投稿日:2023.10.03
はると
シリーズ4作目。 今作はチェチェンで家や家族を奪われた女性たちが自爆という手段を用いて日本でテロを行うテロリストとなり、世界に訴えかけると言う物語だった。 このテロを防ぐために特捜部は捜査を開始する。…この捜査を続けていくとチェチェンの悲惨な状況などを目の当たりにして心揺さぶられる特捜部の面々がそれでも彼女たちを制圧しなくてはいけない場面はとても重く哀しい場面だった。 チェチェンに限らず、世界中で子供や女性がこのような被害を受けていると考えるといたたまれない気持ちになった。 ただ、この作品は最高だった。続きを読む
投稿日:2023.09.23
take9296
チェチェン紛争で家族を失った女性だけのテロ組織『黒い未亡人』が日本に潜入した。公安部と合同で捜査に当たる特捜部は、未成年による自爆テロをも辞さぬこの敵の戦法に翻弄される。一方、城木理事官は実の兄・宗方…亮太郎議員にある疑念を抱くが、それは政界と警察組織全体を揺るがす悪夢につながっていた――現代の悲劇と不条理を容赦なく描き尽くす、至高の大河警察小説シリーズ、憎悪と慈愛の第4弾。 文庫化されたので、9年ぶりに再読。主役だけでなく、ほんのわずかな登場の脇役にいたるまで、印象に残る。続きを読む
投稿日:2023.07.11
dai-4
質量にちょっとビビッてしまい、読み始めるのに多少の気合が要る本シリーズ(あくまで自分にとっては)。でもいざ物語に触れるや、そんなイメージが実にバカバカしく思えるくらい、圧巻の展開に毎回唸らされる。機龍…兵搭乗員の3人とその上司に限らず、それ以外の警察官、更には敵役までも、実に魅力的に描かれるのが素晴らしい。あとがきにもあるように、最初の3作で、件の3人の紹介がある程度なされ、本作からは、いよいよ”敵”にまつわる大きなテーマも動き出した印象。今後、ますます目が離せないな。続きを読む
投稿日:2023.07.04
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