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滝口悠生 / 文春e-book (18件のレビュー)
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総合評価:
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k-masahiro9
このレビューはネタバレを含みます
『長い一日』と同じように独特な雰囲気のある小説だ。窓目くんのキャラも不思議な感じだが、前半の方の海外にいる友人を訪ねる話もけっこうおもしろかった。茄子の入った味噌汁の描写でうまい以外に「安堵に似た喜び」を表していることなど、とてもきれいな風景だと思えた。後半の窓目くんの手記については、共感と疑問が混在しつつ、大爆音で流れ続ける徳永英明「レイニーブルー」のシーンのインパクトがすごかった。リピートされ続ける「レイニーブルー」を聞く感情はたしかにごっちゃ混ぜになりそう。 ==== 由里さんがお椀に入った味噌汁と取り皿を持ってきてくれた。木の箸を少し懐かしいような気持ちで手にして味噌汁に口をつけると、おいしくてまた腰が砕けるような感覚になり、夫婦揃ってため息のようなものを漏らした。入っていたのは茄子で、お味噌汁を身に含んで柔らかくなっていて、そのさまがいまの自分たちととても似ていて、うまいとかそういうこととは別の、安堵に似たよろこびがあった。(pp.46-47) 眼にする木や鳥の名前を知らないのは、たいていの場合、一度も聞いたことがないから知らないのではなくて、何度聞いても覚えていないということだと思う。それがそれである特徴と、その名前とが紐付かず、名指すことができないまま、やがて時間が経って、外国語の単語を忘れるようにその名前を忘れてしまう。名前は忘れ、覚えていられない。文法は名前じゃないから、なんとなく憶えていられる。木や花や鳥の名前は、子どもの頃に覚えないと、なかなか覚えられない気がする、と夫は景色を見続けながら考え続ける。(p.69) 記憶というのは、残酷で優しいシステムだ。膨大な時間と空間に存在していた浜ちゃんを、ひとつの場面に納めて、意識に浮かび上がらせる。虚構と現実というのは、だから対立するものじゃなく、ひとが自分の人生や運命について語ろうとするとき、共同的に働いて、現実よりも現実的な場面をつくり出し、提示してくる。(p.198) 手記とは、自らの経験を書き記すものである。窓目くんもシルヴィと出会い、関係を紡いできたその経験を書き記してきた。書き記すうちに、シルヴィと出会う以前の窓目くんの恋愛遍歴にまでその記述が及んだこともご承知の通りだ。経験を書き記すということはそういうことなのだ。ある出来事について書き記そうとすれば、そこに至るまでの時間が流れ込んでくる。手記のなかの現在はどこまでも仮構的なものである。手記を書く者は、すでに過ぎ去った時間、過ぎ去った経験についてしか書くことができないのだから、つまりその内容はことの顛末とその経緯である。もし実況中継みたいな現在と同時に進行する手記が存在するならば、そこには以前の出来事が流れ込む必要も、そんな余地もない。そしてそうではないからこそ、わざわざ手記を書く意味があるのだと思う。顛末の経緯を記せば標すほどに、ある時間は別の時間と結びつき、別の出来事がことの顛末として本線に連絡する。そうやって件の出来事が豊かに彩られ、厚みを増していく。それっが手記という形式の意味ではないだろうか。本件でいえば、シルヴィと窓目くんのロマンスは標すほどロマンティックになっていく。傍からどう見えるかはともかく、手記を記す窓目くんにとっては、手記を記すほどにロマンティックが高まり、窓目くんは昂ぶる。(p.233) 窓目くんとジョナサンがふたりでキッチンに立ち、料理をつくった。カトレット、ポルサンボル、カードチリ、マサラオムレツ、鯛のカレー、チキンカレー、バスマティライス、そしてイディアッパム。できあがった料理を並べたはしからつまみつつ酒を飲み、次の料理にとりかかる。部屋にはスピーカーにWi-Fi接続したけり子のスマホでランダム再生される陽気な曲が流れている。ダンサブルなリズムで灰トーンの男性ボーカルの曲がはじまった。やがてビートを刻みはじめると、そのすべてに手拍子が載っていて、聴いているだけで体が踊り出す感じがする。BTSの「Dynamite」だ。あの頃窓目くんは名前すらよく知らなかったが、シルヴィの好きだったこの韓国のアイドルグループは、今年この曲を世界的にヒットさせた。(p.260)
投稿日:2024.03.03
mayun
それぞれの章を読むたびに、誰の目線で書かれているのかを読みながら整理していく感じ。そして、それぞれの章がつながっている。登場人物の生い立ちや経験や選択が出会いや旅先に反映されていて、無意識にこなしてき…た人生のアレコレって案外うまく回収されるんだなと自分の現状と照らし合わせても感じる。 久しぶりに海外旅行に行きたくなったし、何と言ってもカレーが食べたくなる!そして人と関わりながら生きて行きたいと思った。続きを読む
投稿日:2023.12.06
moana-nui
読み始めこそ独特な展開に やや戸惑うが すぐに慣れ、劇的な展開など一切ないのだが とても良かった。 アッパとマンマ(ロンドン在住のスリランカ人 ジョナサンの両親)の調理シーンがなかでも 印象的。 …後半の「窓目くんの手記」も独特な文章、言い回し が多いが、センチメンタル。 この著者はお初だったが 他の作品も読んでみよう。続きを読む
投稿日:2023.10.23
りさぽ
前半の話は、夫または妻が主語となっていてころころ主語が変わって少し読みにくく感じたのだが、なんか英語的な文章のように感じた。気のせいかもしれないけど。 後輩の窓目くんの手記はうってかわって読みやい文だ…った。続きを読む
投稿日:2023.10.08
みー
窓目くんの感性なんか素敵で惹かれるものがあった。 物語は基本誰目線だ〜??って思う文章が多くて読むの大変だったけどなぜか飽きずに読み進められた。 ラーメンカレーという題名は窓目くんの手記を読み進め…てなるほど!!!となった笑 続きを読む
投稿日:2023.09.21
mayugeco
高校の同級生の仁と窓目くんとけり子。けり子のロンドンでの結婚式をきっかけに、出会いがあり再会があり。別れもある。結局人ってわかんない。人のことなんて自分を通してしか見れないから。他人は全く未知な別のも…の。だから何も気にしなくていい。自分の見たいように見ればいい。人との出会いや別れも旅みたいなものか。 続きを読む
投稿日:2023.08.20
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