【感想】ビラヴド

トニ・モリスン, 吉田廸子 / ハヤカワepi文庫
(11件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • なんブック

    なんブック

     語りたいと思いながらも同時に思い出したくない出来事。そのような経験をした者の右往左往する心情がとても丁寧に描かれていた。いざ語りを始めるとあるところまでは語ることができる。その場では語ることができた満足感を得るが、いざ夜に1人になってみた時、得体の知れない化け物が人々を襲う。  

     本作では回想が多く挿入されているが(それが大部分であり重要であるのだが)、その回想は積極的に語ろうとするものと、ふと嫌な記憶を思い出してしまう2点があるように思われた。

     形式が断片的な語りであるため、ストーリーを追うのが割と大変だった。
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    投稿日:2024.03.16

  • ともよ

    ともよ

    自分を所有することを諦め、愛し感じ考えることを手放し、人間性を放棄した男性。自我を殺され、愛する子を護るため世界を抹消しようとした女性。
    それぞれが誰かに助けられ、思い出すだけで胸が潰れてしまうほど忌まわしい過去を話せる相手、自分の身体がバラバラにならないよう繋ぎ止めてくれる誰かと、また生きる希望をみいだす。
    それでも、過去は消えない。どうにもならない人生への慟哭や助けられなかったことへの懺悔。もっと愛したかった、もっと愛されたかった、もっと人生を愛したかった熱望は、時空をもこえて響いてくる。とても苦しい話だった。
    語れない、語りたくないなかで、過去と現在を視覚的にも行き来しながら少しずつ全貌がみえてくる。行間の表現や隠喩もあり、とてもリアルな中にファンタジー要素もあり、読み進めるのが難しい箇所もあった。作者が意図することをしっかり受け止められたか、不安は残る。
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    投稿日:2024.02.27

  • nowherosato

    nowherosato

    このレビューはネタバレを含みます

    奴隷としての厳しい生活の過去、亡霊ビーラブドととの毎日、最後は社会へのつながりを持とうとする
    デンヴァーを描く。とても長い物語だが読み切った。一回読んだだけではこれまた解読できない。

    ■第一部(〜P.336)
    セサの母、ベビーサッグズの死、セサの息子二人は既に家出、かつて一緒に奴隷として働いていたポールDがある日18年ぶりに現れ同居することになる。
    ■第二部(〜P.477)
    幼児の亡霊ビラブドととの絡み
    ■第三部
    空腹の為、日々の暮らしが苦しくなる中、デンヴァーは、共同体に助けを求める。

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    投稿日:2022.05.01

  • wata9

    wata9

    アフリカ系アメリカ人作者による小説。
    幽霊屋敷に住む母娘のもとに、昔の農場で同僚だった男、次いでビラヴドという娘が訪ねてきて、各人の過去の事情が徐々に明らかになっていく。
    面白いけど、エピソードが重たい。続きを読む

    投稿日:2022.04.09

  • 本屋のおっさん

    本屋のおっさん

    読後しばらく放心。
    マジックリアリズムをはらんだ世界観で描きあげる。
    これは、この方法だったからこその迫力。奥行き。
    アメリカという白人が跋扈する土地に染み込む名もなき黒人達の怨念、怨嗟。
    その中で生をつなぐある家族の物語。
    『地下鉄道』ともつながった。
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    投稿日:2022.02.14

  • かおり

    かおり

    このレビューはネタバレを含みます

    重いかもしれない。のっけからキツい展開が続く。けれど、物語の牽引力がものすごく強くて、ほとんど一気読みのようにして読み切った。
    奴隷制の下では、愛することすら特権になってしまうというメッセージが突き刺さる。
    自分の子どもも、伴侶も、友人も、自分の過去も、自分自身の体も、自分の置かれた世界の風景さえも、何もかも愛しすぎないことでしか生き延びられない世界。それが、人間としての尊厳を奪われ、奴隷という動物に堕とされた過去をもつ人々が生きる世界なのだ、ということなんだろうか。
    白人の魔の手から子どもを守るには、子どもを殺すしかない世界って……しかも、実話に基づいて構成されているって……(けど、近いことが第二次世界大戦中にもきっと起こってるはず。中国大陸とか南方戦線とか)

    「ビラヴド」は最後、また姿を消してしまうけれど、解説によればあれは奴隷船の船底で名前も知られず死んでいった何万人もの黒人たちの怨念なのだという。とするならば、何度でも「ビラヴド」は現世に姿を現し続けなければならないのかもしれない。正視したら正気を保てないかもしれないけれど、忘れてしまうことの許されない記憶なのだから。
    その意味で、「ビラヴド」は単に「愛された者」というよりは、「たしかにかつて愛された者ではあるが、今、そうであるとは限らない者」「人間として愛し、愛される存在であったにも関わらず、それを暴力的に奪われた者」、つまり、奴隷制によって人間性を徹底的に踏み躙られた人々と、その過去を引き継ぐ人たちのことなのだと思った。

    「BLACK LIVES MATTER 」の流れで読み進めてしまったけれど、それが正解なのか分からない。ただ、物語の締めくくりに「これは人から人へ伝える物語ではないのだ。」とあることに、忘れたいけど忘れてはいけない、けれど思い出したくもない記憶なのだ、という切実な思いを感じる。それを知らずにこの運動に加担しても上滑りになるのだろうな、とは思った。
    そして、アメリカにおける奴隷制の悲惨、という特殊な文脈に嵌め込まずに、母娘の物語として見返してみると、ゾッとするほどのリアリティを感じた。「あなたは私のもの」「おまえは私のもの」という母娘の互いへの執着が、エコーチェンバー現象を起こして互いを狂わせて社会との断絶を招く様子は、日本の親子関係では見慣れた風景かも……

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    投稿日:2021.12.01

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