【感想】本を守ろうとする猫の話

夏川草介 / 小学館文庫
(115件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
31
40
28
3
0

ブクログレビュー

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  • gattolove

    gattolove

    本の好きな人のためのお話。

    古書店の店主である祖父を亡くした夏木林太郎は天涯孤独になってしまった。
    本を愛する林太郎の前に不思議な喋る猫が現れる。
    「本を助けるため」の冒険に出かけた林太郎の前には本を愛するが故に生き方を歪めた人物が現れる。
    林太郎が冒険で得たものとは?
    本を読むことによって、自分以外の人の心を知ることができる。その事によって人は「人を思いやる心」を持つことができる、という事。
    本を読むことによって、私たちは殺人者や宗教家、人を愛する人や愛される人、色々な立場の人の心を持つことが出来る。
    一生は一度限りではあるが、何人もの一生を見ることが出来る本に乾杯❗️
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    投稿日:2024.04.28

  • fon

    fon

    読書好きにはキャッチーなタイトル

    スピノザの診察室を読んだ後だったので
    ん?本当に同じ作家さん?
    と不思議に思ってしまったが
    メインキャラのりんちゃん(笑)の
    雰囲気がやっぱり好きで最後まで楽しく読めちゃう

    ハラハラドキドキミステリーではなく
    どちらかというと、ゆるふわ(笑)
    でも、好きだな♡
    同級生の女子とのやり取りも微笑ましい
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    投稿日:2024.04.27

  • Macomi55

    Macomi55

    「まず第一に、祖父はもういない」
     小説は冒頭の掴みの一文が重要であると思う。この一文で引き込まれるか、引き込まれないか、この先を読もうと思うか思わないかが分かれると思う。
     凄いセンスのある冒頭の一文に多く出会ってきた。町田その子さんや川上未映子さん、柚木麻子さん、村上春樹さんの小説。それからトルストイの「アンナ・カレーニナ」や夏目漱石の「吾輩は猫である」。
     夏川草介さんのこの小説のこの「まず第一に、祖父はもういない」という冒頭の一文はシンプルで飾り気がない。けれど、その一文で主人公が祖父を亡くしたという事実と失望と悲しさと諦めとその事実に向き合おうとする強さとそして、何より主人公とこの作家の「誠実さ」が伝わってくる。 
     そして、もう一箇所とても好きな文がある。それは主人公夏木林太郎が亡くなった祖父を送り出したあとに残されていた
    「負債と言うには当たらないが、遺産と言うほどの価値もない。
    『夏木書店』という名のそれは、町の片隅にある一軒の古書店であった。」
    遺産ってそういうものなのだろうなと思う。金額ではなくて、亡くなった人が心をこめて生涯をかけて築いて守ってきたもの。他人から見たら「負債」というほどではないが「遺産」とも呼べないそれを真正面から受け止めているこの文にも誠実さが感じられる。
     夏木林太郎の両親は林太郎が幼い頃に離婚し、さらには母親が若くして他界したので、林太郎は古書店を営む祖父に引き取られた。そしてその祖父も林太郎が高校生の時に突然亡くなった。
    もともと、冴えないルックスで勉強も嫌いで、運動神経も悪く、無口で友達も少なかった林太郎は祖父の古書店に引き籠もって本ばかり読んでいた。
     だけどそんな林太郎を心配してくれる友もいた。一人はバスケ部のエースで3年生で成績トップでルックスもよく、生徒会長も務め、読書家でもある、秋葉先輩。そんな人気者のスーパーマンなのに彼は世間の流行り廃りを全く無視した林太郎の祖父のこだわりの古書のラインアップを見て「本当にここにはいい本が並べてある」と褒めてくれる。そしてその古書店の本に詳しい林太郎にも一目おいている。
     そして、もう一人林太郎のことを心配しているのが学級委員の柚木冴夜で、彼女は不登校の林太郎の下へ学校からのプリントなどを届け、厳しくも爽やかな口調で林太郎のことを励まし続ける。
    ある日、林太郎が落ち込んでいる時、言葉を喋る猫がやってきて、「本を助け出すために力を貸してほしい」と言った。
    猫について店の奥に行くと、本当になら突き当りの壁があるはずのとこに奥深く通路があり、光が溢れ、ファンタジーの世界に来た。
    第一の迷宮は本を「閉じこめる」暴君から本を開放すること。世界一本を読む忙しい人で、一ヶ月に100冊というノルマを達成し、読んだ本を次々にショーケースに閉じ込めていた。そんな暴君に林太郎は勇気を持って「本当に本が好きな人はそんなことはしないものです」「あなたは自分を愛しているだけで本を愛しているわけではない」と論破する。
     二つ目の迷宮には「本を切り刻む」暴君がいた。大好きだというベートーヴェンの第九を大音量で流しながら、リズミカルに挟みを動かしていた。その本の内容が「要約された」一文だけを切り取ればいいのだと。そうすれば沢山の人が沢山の本を「読んだことに出来る」のだと。そこで林太郎は彼の聴いている「ベートーヴェンの第九」を早送りし、「こうすれば沢山聴けるけれどこれでいいのですか」と言う。本をゆっくり読むことの大切さを説得できたのだ。
     第三の迷宮には「本を売りさばく」暴君がいた。「売れる本」を売らなければ、本屋や出版社は潰れる。売れる本を作ってどんどん売りさばいて、利益をあげるのが良い。「本は消耗品」だと言って、売れなくなった本をどんどん窓から放り投げていた。そんな暴君に林太郎は「あなたはいくら儲かれば満足するんですか。祖父が言ってました。お金の話を始めると際限なくなる。だからお金の話はやめて今日は本の話をしようって。本当に本が好きな人は本が消耗品だなんて言ってはいけないんです」と論破した。
     三つの迷宮の暴君は林太郎に論破されて、心を入れ替えるが、読んでいるとモヤモヤした気持ちも残る。
     何故って、どの迷宮の暴君も正しくはないが、間違ってもいないと思えるからだ。
     本が好きな人は世界中の本を読みたいと思うし、一冊丸ごと読むことが時間的に無理なら部分的にでも読みたい、そして美術品のように美しい本を飾りたいと思うから第一の迷宮の暴君の気持ちは分かる。また、流石に本を「切り刻む」ことはいけないが、色んな本のダイジェストを集めた本もあり、それらを読んだことをきっかけにして、一冊の本を読む人もいるから、第二の暴君も間違ってはいない。
     また、実際に本が売れなくて出版社や本屋が潰れたら、結局本好きの人が困るので「売れる本」も作ってほしいと思う。それに、「売れる」ライトや本をきっかけに読書にはまって、次第に難しい本を読むようになる人も多い。だから、売れる本ばかりをつくる第三の迷宮の暴君も本を残すことに貢献している。
     ではこの三つの迷宮の暴君が「間違ってない」のに不愉快なのはどうしてか。
     その秘密は最後の迷宮で明かされる。最後の迷宮では本ではなく、柚木冴夜という友達を助けに行く。目立たない、パッとした取り柄もない、ただの無口で本ばかり読んでいる引きこもりの高校生、林太郎。こんなに自分に自信のない林太郎のことを本気で心配してくれる学級委員の冴夜。人の地味な長所を褒めてくれる人には本当に心がある。その冴夜を林太郎は助けに行ったのだ。
     この本に出てくる世界の歴史に残るような名著を殆ど私は読んでいないのだが、夏川さんによるとそれらには立派なことではなく、人間の普遍的なことが書かれているのだそうだ。昔からの普遍的なことが書かれているからこそ、後世に残さねばならない。とここまで書いて、残すならお金のかかる紙媒体でなくても「電子書籍」や「オーディブル」があるではないか。となる。大いに歓迎。「オーディブル」をきっかけに文学に目覚める人もいるであろうし、「保存」するには紙媒体よりも電子媒体のほうが安全で場所も取らない。
     けれど、電子書籍やオーディブルで済ます現代人は、食べることを我慢して、古本屋で本を買って読んでいた林芙美子のように読書が血肉となっているだろうか。
     林太郎の祖父は「本を読むことは山を登ることと似ている」と言った。「読書はただ愉快であったり、わくわくしたりするだけではない。ときに一行一行を吟味し、何度も同じ文章を往復して読み返し、頭をかかえながらゆっくり進めていく読書もある。その苦しい作業の結果、ふいに視界が開ける。長い長い登山道を登りつめた先に視界が開けるように」
    そういう読書はやっぱり、紙の本だなと私は思う。そして、林太郎の祖父はそんな富士山やエベレストやヒマラヤ級登山に似た読書感を得られる「売れない本」を売る古書店を大切に守ってきた。
     世界の普遍的なことを書いてきた先人達が亡くなってもその言葉が「本」という形で遺っているように、林太郎の祖父が毎日掃除し、地味に大切にしてきた古書店も祖父という人そのものとして遺った。その古書店を林太郎が受け継いでいくことにして良かった。




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    投稿日:2024.04.21

  • ゆうり

    ゆうり

    「本」に対する在り方を、考えさせてくれる名書。
    本と人の心の関係がどうあるべきか、教えてくれる。

    祖父が亡くなり、古書店に取り残された主人公、夏木林太郎。そんな林太郎が不思議な喋る猫に出会い、本を救う冒険に出る。…
    簡単にあらすじを述べるとこうなってしまうが、本当にこれだけではない。
    たくさんの本への道筋、読者が新しい冒険に出るための布石が敷き詰められている。

    世界的名著…、恥ずかしながら私は、ほんの数冊も手に取ったことは無い。
    高校生の頃、世界史の知識として詰め込み、大学に入ってからも、ちょこちょこタイトルは聞いていたはずなのに。
    この歳になってわかる。高校生の頃大苦戦しながら叩き込んだ文化史は、触れるきっかけのためにある。
    それなのに、何故か手に取ろうとしなかった。
    明治文学も、読もうとしてみたものの、文体が難しく、数ページで諦めてしまった。
    読んだのは、こころくらいだ。

    おかげで、夏川さんがあとがきで言われているような仕掛けには、なーんにも気が付かなかった笑。

    だから、夏川さんの策略に乗って、名作に触れてみようと思う。まずは、最近名言が刺さったゲーテかな。
    中高生の頃に課題図書だったものの、真面目に読まなかった老人と海、クリスマス・キャロルも本棚にある。読もう。
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    投稿日:2024.04.12

  • スキピオ

    スキピオ

    おそらく多くの人がジブリの映画を思い浮かべながら読み進めたのではないだろうか。猫が異世界へ誘う「耳をすませば」や最近だと「君たちはどう生きるか」にも情景が重なる。しかし内容は優しいファンタジー世界の冒険譚ではない。本を取り巻く現実を憂いた著者の強烈なメッセージだ。個人的には本編より著者の書いたあとがきがお勧めです。続きを読む

    投稿日:2024.04.09

  • wakanoa

    wakanoa

    可愛い表紙から軽いファンタジーかと思って読み始めたが、なかなか考えさせられる本だった。
    本は幼少時から当たり前のように手元にあるものだから、その意義について考えたことなんてなかった。

    解説には、作者の思いや憂いがたくさん詰まっている。
    解説を読み、作者の思いを受け止めてこそ、この本は完結するのだろう。
    本との関わり合いは、それぞれ自由でよいと思う。その上で、時にはいつもとは違う本を手に取るのも、ひとつの方法と考える。

    ストーリーは、古書店を続けていく気持ちになってくれてよかったと、単純に喜べた。秋葉の存在‥どうなっているの、もっと一緒に活躍してほしかったし、ちょっともの足りなかった。

    2024/04/06 04:16
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    投稿日:2024.04.07

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