【感想】奇跡の社会科学

中野剛志 / PHP新書
(11件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • platon-kohmei

    platon-kohmei

    *****
     人間は,社会的な環境の中に生まれて,社会的な環境と関係しながら成長することで,宗教的,道徳的,あるいは政治的な信念を身につけて,大人の文明人となっていきます。
     このように,大人の文明人が活動する目的,生きる目的である宗教的,道徳的,政治的信念は,社会によって形成されたものなのです。言ってみれば,個人の中に社会が入っているわけです。(p.128)続きを読む

    投稿日:2023.11.15

  • Masahiro Sera

    Masahiro Sera

    1990年代初頭の日本のバブル崩壊に始まる失われた30年。第二次安倍政権が声高く叫んだデフレ脱却のための3本の矢も、蓋を開ければ異次元の金融緩和による、金余りから端を発する株価上昇と輸出企業の円安メリット享受くらいだろうか。
    冴えない日本経済と言う印象を持つなか、何気に取った本書は、眼から鱗が落ちるものだった。

    馴染みのない社会科学と言う標題だが、副題の「組織改革の失敗」「自殺」「戦争」は、どれも現在世界や日本における問題であり、興味のあるテーマ。
    中身は、古典比較的最近の経済学者の主張を、現代の問題点と結びつけて解説してくれている。

    マックス・ウェーバー
    なぜ組織改革は失敗するのか
    効率性の追及が非効率を生む
    数値だけで測定できない価値

    エドマンド・バーク
    急がば回れ
    漸変主義こそ、実は近道

    アクレシス・ド・トクヴィル
    民主主義の怖さ
    平等が進むほど全体主義化する
    人々の絆が社会を豊かにする

    カール・ポランニー
    新しい資本主義
    新自由主義と「社会防衛の原理」

    エミール・デュルケーム
    自殺はどうすれば防げるのか
    突然の社会変化が自殺を減らす

    E・H・カー
    どうして戦争は起こるのか
    ロシアがウクライナを侵攻したわけ
    「軍事力」「経済力」「意見を支配する力」

    ニコロ・マキアヴェッリ
    どうして臨機応変に行動できないのか
    人はどのようにして必然的に破滅するのか

    ジョン・メイナード・ケインズ
    世の中、何が起きるか分からないから
    いったい経済学はどうなってしまったのか?

    社会古典は活きている

    特に現在当然のように言われている新自由主義経済の弊害は、納得がいく説明だった。
    古典経済学者の先見性に驚いてしまう。

    1980年代以降、アメリカ、イギリスそして日本は、自由市場に任せれば豊かになるという信念の下、規制緩和、自由化、民営化、「小さな政府」への行政改革、さらにはグローバリゼーションを進めてきた。このような信念が「新自由主義」と呼ばれる。
    新自由主義がはらむ最大の問題は、全体主義を呼び込んでしまうという点にある。
    新自由主義を信じる日本の改革論者は、労働組合や農業協同組合といった団体組織を「既得権益」「抵抗勢力」呼ばわりして排除し、政府の市場に対する規制を有害無益だと主張してきた。組合組織や政府による規制は、まさに市場が人間や自然を「商品」化するのを防ぐ「社会防衛」のため、市場原理を理想とする新自由主義者にとっては、それが邪魔で仕方がないのだ。
    新自由主義が支配的な経済思想となったのは、冷戦が終結し、社会主義の敗北が決定的になった1990年代頃から。マスメディアでは「小さな政府」「規制緩和」「自由化」
    「グローバル化」の大合唱だった。
    この1990年代に、20歳から30歳であった若者たちは、時代の空気を吸って成長し、新自由主義という思想に染まっていく。
    そして、「新自由主義が教えるような理想的な世の中へと日本を変えたい」などという志を抱き、政治家や官僚あるいは経済学者への道を歩んでいく。
    世界は20年前とは大きく異なり、すでに金融市場の不安定化や格差の拡大といった新自由主義の弊害が顕著に現れている。それにもかかわらず、その現実が見えずに、新自由主義という20年前の古い思想を今さら持ち出してしまったのだ。
    だからケインズは「危険なものは、既得権益ではなくて思想である」と言った。
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    投稿日:2023.09.06

  • bluebean

    bluebean

    著者はウェーバーやトクヴィルなどの社会科学の古典に書かれた内容が、現代の社会問題にも通用する鋭い分析でありながら、あまり顧みられていない現状を憂いています。新自由主義、グローバリズム、構造改革、ウクライナ戦争などなど、現代の諸問題に対する答えがすでに社会科学の古典の中にあるというのは、面白いと思うと同時に、なぜそれが顧みられないのかすごく不思議になります。

    大勢の人間が集まってるくる「社会」はあまりに複雑で、自然科学のようにある程度正確に現象を計測したり、一般的なモデルを構築するのが難しいからでしょうか。複雑すぎる故に、社会について語る人の立場によっていろんなもっともらしい論を展開できてしまう。それが古典の上に新しい理論を積み上げていくような自然科学の手法が機能しないのかもしれません。だから古典がいつまでも価値を持つのでは。

    社会科学の中でも、特に数学的に厳密そうに見える経済学も、その大前提にしている市場原理があまりに現実を単純化しているためにやはり同じような問題を孕んでいるといのが面白いです。

    個人的に面白かったのが保守主義の話です。複雑な社会はモデル化、予測が難しいのだから、ドラスティックな構造改革をしてはいけないというのは良い教訓です。社会全体に広げなくても、たとえば企業ひとつとっても、中では人やシステムの複雑な相互作用があるのであり、簡単に改革なんて考えてはいけないということですね。

    さらにケインズの章で出てくる「危険なのは既得権益よりも思想」というのが目から鱗でした。自分の損得を考えて既得権益を守ろうとするようなわかりやすい悪ではなく、実際は新自由主義などの特定の「思想」を信じることの方が社会に害があるという視点で見れば、ニュースなどの見え方も変わってきます。
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    投稿日:2023.06.17

  • ライオン

    ライオン

    ここで紹介されている社会科学の巨人たちの原書を読むのはなかなか難しいけど、易しく解説してくれてるのがありがたい。チクリと自民党政治の失われた30年を刺しつつも。
    優秀な国民が愚鈍な代表者を選ぶわけがない、はずだから、判断できる力を養いたいところ。
    多くの人に読んでもらいたい1冊。
    続きを読む

    投稿日:2023.02.23

  • げおげお

    げおげお

    自分としても合理主義を徹底していくことに少し違和感があったためフィットする内容が多かった。
    合理主義とは反対にある「合理主義を突き詰めると非合理になる」、「全体主義化しないために共同体への帰属」などは、行きすぎた現在の潮流へ一石を投じる内容に思う。続きを読む

    投稿日:2023.02.02

  • 本好きの社長

    本好きの社長

    中野氏の本は好きで読んでいる。本著は社会科学について分かりやすく解説した本。現代の日本政治においてどのように社会科学を活かせばいいのか?また組織形成においても参考になる本だった。
    ただ、深く理解するには再読の必要があるかも。続きを読む

    投稿日:2023.01.31

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