【感想】ラディカル・プロダクト・シンキング イノベーティブなソフトウェア・サービスを生み出す5つのステップ

ラディカ・ダット, 曽根原春樹, 長谷川圭 / 翔泳社
(5件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • bb05

    bb05

    概念的な話が多く、具体的な例がなかったので、あんまり参考になりませんでした。
    OKRが目標設定として絶対ではない、ということ。
    イテレーティブだと、現状の改善の範疇から抜け出すのは難しいこと。
    ということはたしかになぁと思った。続きを読む

    投稿日:2023.12.26

  • 1867154番目の読書家

    1867154番目の読書家

    会社の方針とプロダクトについての考え方の本。イテレーティブ(繰り返し)によって改善を目指すのは危険で企業指針を基に修正が必要である。その企業指針は利己的なものでなくグローバルマキシマムな多くの人にとってプラスとなるようなものにすべきである。続きを読む

    投稿日:2023.04.30

  • japapizza

    japapizza

     そのなかで、プロダクトマネジメントを実践するうえで最も大事な部分は何か?と聞かれれば、迷うことなく「プロダクトの世界観」だと答える。いわゆるプロダクトビジョンだ。どのようなユーザーのどんな問題を、 どんな価値を提供し続けることで解決していくのか。そのプロダクトが広がった先にユーザーの世界はどのように変わるのか。ハードウェアであれソフトウェアであれ成功している現代プロダクトと、「よいものをつくれば売れる」思考のものづくりの最大の違いは、この世界観へ共感してくれる顧客に「行動変容」を促し続けられるかどうかである。


     実際、私が請け負ってきた仕事のどれもが、それぞれ異なる業界に属していたと言える。私が担ってきた役職も、マーケティング、戦略、プロジェクト管理、運営、CEOなど、同じように多岐にわたっているそうしたさまざまな経験を通じて、私はプロダクトとは役職や職務ではなく、考え方なのだと理解した。

     ラディカル・プロダクト・シンキングとは、世界にどんな変化をもたらしたいかを考えながらグローバルマキシマムを探し求める態度を指す言葉だ。


    第2章 プロダクト病―優れたプロダクトが腐敗するとき

     リーンとアジャイルはどちらも優れた方法であり、フィードバックを重視した開発の際には私自身も応用しているし、強く推薦もしている。リーンとアジャイルでスピードが増し、目的地に着くのが早くなる。しかし、リーンとアジャイルに目的地を示す力はない。

     ヒーロー症候群を診断する際、デリウスは「あらゆることで最高級をめざすのがBERのビジョンだった」と語った。ベルリン・ブランデンブルグ国際空港BER計画が始まったころ関係者は「ベルリンを世界的な目的地として際立たせるのにふさわしい最高に近代的な空港をつくる」という空虚なビジョンで合意した。
     私は、オフサイトミーティングでまる1日ビジョンについて話し合ったチームが同じような頂点を目指した合意にいたるのを、何度も見てきた。実際、「データストレージとバックアップ部門でリーダーになる」などといった漠然としたビジョンステートメントを打ち出す企業が本当に多い。BERのビジョンも曖昧で、具体性に欠け、実用的でもなかったため、大きなズレが生じていたことに誰も気づかなかった。


    ■キーポイント
    ・どの業界でもあらゆる規模の企業に以下の7つの病いが蔓延している
    1 ヒーロー症候群は、わくわくする変化を起こすことではなく、外部からの注目や人気ばかりに意識を向けると発症する
    2 戦略肥大とは数多くの機能を実装するが、どの機能にもブレークスルーを起こせるほどに性能を高める努力が行われていない状態を指す
    3 強迫性セールス障害とは、長期的なビジョンに反して短期的な取引を結ぶことを意味する
    4 数値指標依存症にかかると、成功を判断するために、それが測定すべき対象であるのかという問いを度外視して、測定可能な成果のみにフォーカスするようになる
    5 ロックイン症候群は過去に成功した特定のテクノロジーやアプローチに過度にこだわることを意味する
    6 ピボット症候群は物事が困難になるたびに方向転換を繰り返すためチームが疲れ、混乱し、やる気をなくす状態を指す
    7 ナルシシスト症候群の患者は自らのゴールや欲求に集中するあまり起こそうと願う変化を見失ってしまう
     これらの病気は、明確なビジョンをもち、それを段階的に日々の活動に置き換えることで治療することができる


    第3章 ビジョン―変化を想像する
    ■優れたビジョンの3つの特徴
    ・世界に実在し、あなたが解決したいと願う問題を中心にしている
    ・はっきりと想像できる具体的な最終状態である
    ・あなたと、あなたがインパクトを与えたいと願う人々にとって有意義である

    ■ラディカル・ビジョン・ステートメント
    現在[特定のグループ]が[望ましい結果]を望むとき、彼・彼女らは[現状の解決策]しなければならない。この状況は[現行解決策の欠点]のため、受け入れられない。我々は[欠点の克服された]世界を夢見ている。我々は[テクノロジー/アプローチ]を通じて、そのような世界を実現するつもりである。

    リジャットの場合、ビジョンステートメントは次のようになるだろう。
    現在[貧しい世帯の恵まれない女性たち]が[家庭を切り盛りしながら子供たちに教育を与えたいと]望むとき、彼女らは[夫の収入や親戚からの借金や慈善団体からの寄付を受け]なければならない。この状況は[男性中心の社会では女性たちには家計には口出しがほとんどできないうえ、持続的な収入源がなければ子供の教育もままならず、結果として貧困が継承されていく]ため、受け入れられない。我々は[女性が自営業を営み、自立し、社会経済的な進歩を率いる]世界を夢見ている。我々は[慈善に頼ることなく、顧客のニーズを満たす高品質で売れ筋の商品を生産すること]を通じて、そのような世界を実現するつもりである。


    ■ビジョンステートメントに欠かせない要素
    ・あなたは誰〟の世界を変えようとしているか?あなたが解消したいと願う問題を抱えているのは誰か?
    ・あなたには世界がどのように見えているか?彼・彼女らは今、“何”を目指して、どう取り組んでいる?
    ・なぜ、 現状は受け入れがたいか?(もしかしたら、現状は受け入れがたいものではない可能性もあることを忘れないように)
    ・あなたは”いつ”自分のビジョンが実現できたことを知るか?
    ・あなたは”どうやって”その変化を生むつもりか?


    ■キーポイント
    ・説得力のあるビジョンを作成することが、世界にもたらしたい変化を思い描く最初のステップになる
    ・優れたビジョンには次の特徴がある
     ・あなたが解決したいと願う問題を中心にしている
     ・はっきりと想像できる具体的な最終状態である
     ・あなたと、あなたがインパクトを与えたいと願う人々にとって有意義である
    ・ラディカル・ビジョンステートメントを用いることで、表現方法に悩まされることなく、内容に集中して優れたビジョンを作成することができる。その際、チームとして次の重要な問いに答えることで、メンバー間の意見の不一致を見つけたり、修正したりしやすくなる
     ・あなたは誰の世界を変えようとしているか?
     ・あなたには世界がどのように見えているか?彼・彼女らは今、“何を”目指して、どう取り組んでいる?
     ・なぜ、現状は受け入れがたいか?
     ・あなたは“いつ”、 自分のビジョンが実現できたことを知るか?
     ・あなたは“どうやって”その変化を生むつもりか?
    ・明確なビジョンが得られたら、それを広めることに努める
     ・ラディカル・ビジョンステートメントのテンプレートを用いてチームとともにビジョンを煮詰めることで、メンバーから賛同を得る
     ・ユーザーの現状への不満と、自分たちのソリューションがそれを改善する様子を観察することで、チームにビジョンを浸透させる
     ・組織内のすべてのチームに、組織全体としてのビジョンに即した独自のビジョンステートメントを作成する権限を与え、ビジョナリーを育成する。メンバーそれぞれに、自分の仕事がチームビジョンとビジョンにどう貢献するかを示す


    第4章 戦略―「なぜ」「どのように」行うか
     ペイン・ポイントは評価されることに加えて、存在が確認されて初めて“リアル”になる。あなたは痛みを感じている人々を自分の目で見ただろうか?それとも、顧客は痛みを抱えていると予想しただけ?自分がその痛みを感じている場合、存在確認が特に重要になる。自分で痛みを感じるとすぐにでも解消しようと思えるが、ほかの人も同じ痛みを抱えているのかを知ることが先だ!

    「ユーザーは私のプロダクトをたやすく使えているだろうか?満足しているだろうか?」とのちに振り返るほうがよっぽど簡単だ。しかしながら、“そもそもどうデザインすべきか”を考えているときには、そのような疑問は役に立たない。
    「優れたデザインとは何か?」という問いにラディカルプロダクト・シンキングが出した答えは比較的単純だ。優れたデザインとは戦略に適合し、戦略を前に進めるデザインのことである。プロダクトをどうデザインするかについて語るとき、私たちは実際には人々によるプロダクトの利用方法 (インターフェース)とプロダクトに対する認識(アイデンティティ)をどう意図的に形成するについて語っているのである。

    ■キーポイント
    ・プロダクト戦略はビジョンを実行可能な計画に変える方法である
    ・包括的なプロダクト戦略は次の4つの問い(RDCL)に答える
    1 R=リアルペイン・ポイント(真の問題点)
     どんな問題があるから、人々はあなたのプロダクトを利用するのだろうか?ペイン・ポイントは実在が検証されて初めて“リアル”になる。価値立証=価値評価+存在確認である

    2 D=デザイン
     あなたのプロダクトのどんな機能がその問題を解決するのだろうか?デザインとは、インターフェース(プロダクトがどう使われるべきか)とアイデンティティ(プロダクトがどう認識されるべき か)について考えることを意味する

    3 C=ケイパビリティ(能力)
     ソリューションが提供できる価値の約束を果たすのに、どれほどのケイパビリティや基盤が必要になるだろうか?ケイパビリティには有形なもの(データ、知的財産、契約、人など)も、無形なもの(スキル、パートナーシップ、信頼など)もある

    4 L=ロジスティクス
     ソリューションをどうやってユーザーに届けるか?価格をどう設定してどうサポートするか?ロジスティクスは後回しにされがちな戦略要素だ。プロダクトの開発計画の時点で、収益モデルとコストモデル、トレーニング、サポート計画なども考慮する必要がある
    ・RDCLを打ち立てたのち、イテレーティブを通じて自らの戦略を検証および修正する


    第5章 優先順位づけ―力のバランス
    ■キーポイント
    ・ラディカルプロダクト・シンキングでは優先度フレームワークを戦略ツールとして用いて、優先順位づけと意思決定の根拠に関するコミュニケーションを円滑にする。その最初のステップとして、ビジョンフィットとサバイバルの2本の軸を定義する
    ・サバイバルの定義には「明日にでもプロダクトの終わりを意味するかもしれない最大のリスクは何だろう?」という問いを用いる
    ・優先度フレームワークにより、チームは次の4つのにイニシアチブ、機会、タスク、機能などを配置してトレードオフを評価できるため、自然と意思決定が容易になる
     ・「理想」領域:リスクが低く、ビジョンへの前進を促す
     ・「ビジョンへの投資」領域:ビジョンへの前進を促すが、短期的にリスクを高める
     ・「ビジョン負債」領域:短期的なサバイバルの確保に役立つが、ビジョンからは遠ざかる
     ・「危険」領域:ビジョンから遠ざかり、リスクも高める
    ・優先順位づけや意思決定にこの方法を用いる例として、次を挙げることができる
     ・あなたの戦略とその根拠をチームや役員に説明する
     ・難しい決断を下すために議論を促す
     ・プロダクトに関する決断やトレードオフに対する直感を共有する


    第6章 実行と測定―さあ、始めよう
    ■キーポイント
    ・ラディカル・プロダクト・シンキングではビジョンと戦略が仮説を立てて検証することの原動力となる。一般的な数値を測るのではなく、それぞれの組織にとって適切な数値を測る
    ・ビジョンとRDCL戦略を検証するために、一連の仮説を立てて実験を行う
    ・ラディカル・プロダクト・シンキングはリーンやアジャイル開発と組み合わされることが多い
    ・実行と測定のテンプレートには次の3つの要素が含まれる
    1 主要指標:あなたのアプローチが適切かどうかを示すおもな指標 何がビジョンに向かう前進を示す指標であるか、よく吟味する RDCL戦略の各要素が適切であるかを知るためには、どの数値を測ればいいだろうか?
    2 仮説:あなたのプロダクトがユーザーに提供できる価値と得られる数値のあいだの関係を明らかにするために仮説を立てる
     ・次の穴埋め式ステートメントを用いて仮説を立てる
     もし[実験]を行えば[結果]だろう。なぜなら[理由]からだ
    3 実験を行うための行動:この段階で、実験に必要になるタスクを持定する
     ・アジャイル開発を用いるなら、これらの活動がアジャイル・スプリントを促すことになる
    ・プロダクト指標に目標を設定するのは避ける。ラディカルプロダクト・シンキングのやり方はチームとして測定や学習を行うコラボレーションを中心にしている
    ・チームの足並みをそろえ、目標設定をOKRで置き換えるために、次の実践的な3つのステップを用いる
    1 チームとして測定対象を特定する
    2 数値について安全に議論できる環境を構築する
    3 定期的なフィードバックを通じて進捗を管理する


    第7章 文化―ラディカル・プロダクト・シンキングな組織
    ■5つの質問
    ・私はチームから評価されていると思う
    ・このチームで学び成長する機会を得ている
    ・このチームで成功するのに必要なサポートを得ている
    ・先週、持続可能な働き方ができた
    ・自分が行っている仕事に誇りを感じる

    ■キーポイント
    ・ラディカル・プロダクト・シンキングでは、文化はプロダクトとみなせる。内発的モチベーションを最大に、その障害を最小にする環境をつくるメカニズムである
    ・文化は日々の仕事で集める経験の総体とみなすこともできる
    ・ラディカル・プロダクト・シンキングの文化フレームワークを用いれば、日常のタスクを、満足をもたらすかそれとも消耗につながるか、緊急であるかないか、というふたつの次元で評価できるようになる。このフレームワークにより、4つの領域が明らかになる
    1 有意義な仕事
     満足度が高く緊急でもない仕事は、大きな目的への前進を実感させてくれる
    2 ヒロイズム
     緊急で満足度が高い仕事は単調な日々のスパイスになるが、燃え尽き症候群の原因にもなる
    3 サボテン畑
     消耗を促す緊急のタスクはどの組織にもある程度は必要だが、多すぎると苦痛を引き起こす
    4 魂の消耗
     消耗的で緊急でもない作業はゆっくりとエネルギーを奪っていく
    ・このフレームワークを使うことで、文化とは「有意義な仕事」を大きく、ほかの危険領域を小さくすることであると、はっきりと理解できるようになる
    ・すべての領域の活動を知ることが、危険な領域で時間を費やす原因に対処するためのRDCL戦略の鍵になる
    ・チームの多様性を高めるには、有色人種の人々は危険領域が「有意義な仕事」領域よりも大きい文化を経験している可能性が高いことを理解しなければならない
    ・優れた組織文化には心理的安全性が備わっている。心理的安全性は次の要素を通じて意図的に育むことができる
     ・過ちを責めない
      過ちを犯すことを罰せず、ミスからの学習を促す
     ・まっすぐ話し合う
      個人を尊重し、 腹を割って話し合う
     ・密な付き合い
      対人関係のリスクを冒すことへの恐れを減らすために、交流する機会を増やす


    第8章 デジタル汚染―社会への巻き添え被害
     個人的に有望なイノベーションだと感じた例をひとつ紹介しよう。学校から帰ってきた7歳の息子が、学校で遊んだ「プロディジー (Prodigy)」というゲームのことを熱心に話した。先生が、クラスで算数が得意な生徒のやる気を高めるためにそのゲームを紹介したのだった。友達もみんなそのゲームを知っていた。そこで息子はそのゲームをやらせてくれと私にせがんだのである。
     あとでわかったのだが、当時10歳だった娘も算数が得意でそのゲームを紹介してもらっていた。 しかし娘のほうは弟ほど夢中にはならなかったようだ。
    「プロディジー」のゲームプレイを実際に見たとき、その理由がわかった。そのゲームではプレーヤーが(ポケモンのような) キャラクターを操って、算数の問題に正しく答えることで敵を攻撃するのである。どう見ても、男の子をターゲットにしたゲームだった。
     男女間でゲームに求めるものが異なっていることが、研究で明らかにされている。男子は競い合い(対決、試合)、撃ち合い、あるいは爆発などを好む傾向が強い一方で、女子のほとんどは達成感 (アイテム収集や全ミッションのクリア)やゲーム世界への没入感を求めている。
     この違いが「プロディジー」の好き嫌いにもはっきりと表れていた。2017年に発表された「プロディジー」のプロモーションビデオでも、ガッツポーズをする男の子はたくさん映し出されていたが、女の子はほとんどいないし、たまに女の子が映ったとしても、男の子ほど楽しそうではなかった。
     そのあたりの事情を子供たちも気づいているのか興味があったので、私はそのゲームがおもに誰のためにつくられたのか尋ねてみた。「完全に男の子」と息子が答えた。そこに娘が皮肉のこもったコメントをつけ足した。でも大丈夫。次のバージョンは女の子向けになって、問題に正解すればディズニーのお姫様といっしょにお茶が飲めるようになるから」。7歳と10歳の子供にも、そのゲームがターゲットにした性別が理解できていたということだ。
     ふたりの考えの正しさを証明するかのように、2018年に「プロディジー」のウェブサイトに、両親にメンバーシップを売ることを意図した宣伝ビデオが登場した。そのビデオでは、ひとりの少年が「プロディジー」で算数の勉強をするのが楽しいと話し、かけ算も割り算も簡単に解けるようになったと説明する。「9×9は?81。簡単だよ!」。続けて女の子が熱心に加入を勧める。「私もメンバーになって本当によかった。新しいヘアスタイルも、新しい服も、帽子も、靴も集められるの」。女の子のほうは、学習や算数という単語すら口にしない 男女の分け隔てなく、すべての子供たちをターゲットにしたプロダクトづくりは可能だ。カーンアカデミーがこのアプローチを採用している。かつてカーンアカデミーでデザイン部門の副社長を務めていたメイリー・コーが私に次のように語った。
    「カーンアカデミーのミッションは世界クラスの教育をどこでも、誰にでも無料で提供することです。つまり、私たちはもっと公平な世界をつくろうとしていたと言えます。私はそのような公平性というレンズを、雇用からイラストレーションまで、あらゆる仕事に浸透させようと考えました。そのためには、余分な努力が必要でした。
     そこで、メンバーの採用や指導も含めて、そのビジョンをサポートする決断を確実に行うことに時間を費やしました。私はチームとともに、偏見を促さない写真の使い方など、公平な精神をすべての仕事に浸透させるためにプロセスの構築と価値観の確立に力を注ぎました。そのような努力の多くは典型的な財務指標には反映されませんが、私たちのブランド、そして私たちの仕事ぶりを見る学生や教師たちの考え方には影響するはずと考えたのです」。
     カーンアカデミーの場合、ビジュアル要素は性別を特定しないように工夫されている。文章問題などで使われる名前でさえとても多様で、カーンアカデミーのコンテンツチームの努力が伝わってくる。そのような努力はおそらく、財務指標には影響しないのだろう。しかし、私の娘には間違いなくポジティブな変化を生んだ。
     財務指標に集中した「プロディジー」はローカルマキシマムを見つた。男の子にはそれで効果的に算数を教えることができた(少なくも、私の息子と友達には)。しかし、その副作用として、教室内で男間の不平等が広がった。女の子をターゲットから外したことで、「プロディジー」はグローバルマキシマムを逃すことになった。一方のカーンアカデミーはビジョン駆動型のアプローチを採用したことで、グローバルマキシマムを見つけたのである。
     プロダクトを開発する際、私たちはグローバルマキシマムを追うべきか、ローカルマキシマムで満足すべきか、何度も選択を迫られることになる。


    ■キーポイント
    ・無秩序な産業成長が環境汚染を引き起こしたのと同じで、無規制なテクノロジー業界の成長が社会に巻き添え被害としてデジタル汚染を引き起
    ・ごくわずかな数のテック巨人たちがデジタル汚染を引き起こしていると考えられがちだが、実際には、意図せぬ悪影響やデジタル汚染が蔓延している
    ・デジタル汚染は5つの側面で社会を揺るがす
     ・不平等の拡大
     ・関心の強奪
     ・イデオロギーの二極化
     ・プライバシーの侵害
     ・情報エコシステムの侵害
    ・社会を幸福にする責任を慈善団体だけに押しつけてはならない。企業も数多くの人々の生活に影響する
    ・デジタル汚染を引き起こさないビジョン駆動型プロダクトをつくることは可能である。変化を生み出すメカニズムは、すべてがプロダクトになりえる


    第9章 倫理―ヒポクラテスの誓いとプロダクト
    ■ナッシュ均衡の引力を逃れる方法
    1 規制/影響
     どの社会も、人(または組織)が害をなすときには、その影響を明確にし、法規を制定することで悪行を抑止する必要がある。つまり規制を行う。
    2 インセンティブ
     正しい行いをする経済的な根拠としてインセンティブを設定する。インセンティブがあって初めて、正しい行いが自らの利益につながる。罰則よりもインセンティブのほうが人のやる気を高める

    3 インスピレーション
     人々にビジネスが社会に与える影響を認識させることで、正しいことをしたいという生まれつきの欲求をくすぐる。

     数多くの研究を通じて、人間にとって最大の動機は内側から生じる動機、いわゆる内発的動機であることがわかっている。人は心のなかに正しいことをしたいという欲求を抱えている、と言うと理想論に聞こえるかもしれないが、そのような楽観的な考えの根拠として、人間は協調する性質をもつという点が研究者たちによって指摘されている。
     囚人のジレンマをモチーフにしたゲームをする人々の脳をMRIで調べ たところ、相手と協調するときのプレーヤーの脳は、報酬中枢として知られる腹側線条体という領域が活発になることがわかった。さらに重要なことに、報酬中枢は個人の利益よりも、両プレーヤーの集団的な利益に敏感だったのだ。
     人類の祖先は協力し合うことで生存を確かにしてきた。その歴史を通じて、人間の神経系は個人利益ではなく集団幸福の最大化に貢献することに喜びを覚えるように進化してきたのである。
     この協調欲がモチベーションにも反映される。人は自分のやっていることに意義と目的を見いだしたいと願い、たとえ状況がその逆を示していても、自分の仕事が社会の幸福に役立っていると思い込もうとする。


    ■キーポイント
    ・プロダクト開発におけるあなたの役割は医者のそれに似ている。ユーザーの問題を解決し、その幸福に責任を負う
    ・プロダクト開発の際、責任を果たすのではなく、個人の利益を最大にするための意思決定が行われやすい理由は、囚人のジレンマを用いて説明することができる
    ・もし誰もが個人の利益を最大にしようとすれば、デジタル汚染が衰えなく広がり、社会は最善からはほど遠い状態に陥るだろう
    ・そのような結果を避けるためには、次の3点を含む総合的なアプローチが必要になる
     ・規制/影響: 悪行を抑制するための規制
     ・インセンティブ: 責任ある開発を促すための外からの動機
     ・インスピレーション: 自分たちの活動が社会にどう影響するかを認識して、集団的な幸福を最大にしたいと願う生得的な欲求を利用
    ・ビジネスは利益を最大にするための、慈善活動は善行をするためのまっ たく別の行為と区分けすることは、プロダクトを通じて世界をよりよく するという目的には有効ではない
    ・プロダクトのためのヒポクラテスの誓いを行うということは、ラディカル・プロダクト・シンキングのアプローチの5要素(ビジョン、戦略、優先順位づけ、実行と測定、文化)すべてに倫理観を吹き込むことを意味している
    続きを読む

    投稿日:2023.02.19

  • Masaya

    Masaya

    局所最適より全体最適がテーマの本。ビジネス本を多く呼んでるので目次に引かれたが内容は良く書かれてい事が多くあまり収穫はない。

    投稿日:2022.07.31

  • Go Extreme

    Go Extreme

    序章 ラディカル・プロダクト・シンキングとは何か
    第1部 イノベーションのための新しいマインドセット
     第1章 ラディカル・プロダクト・シンキングが必要な理由
     第2章 プロダクト病~優れたプロダクトが腐敗するとき
    第2部 ラディカル・プロダクト・シンキングの5大要素
     第3章 ビジョン~変化を想像する
     第4章 戦略~「なぜ」「どのように」行うか
     第5章 優先順位づけ~力のバランス
     第6章 実行と測定~さあ、始めよう!
     第7章 文化~ラディカル・プロダクト・シンキングな組織
    第3部 世界を住みたい場所に変えるために
     第8章 デジタル汚染~社会への巻き添え被害
     第9章 倫理~ヒポクラテスの誓いとプロダクト
    終章 ラディカル・プロダクト・シンキングが世界を変える
    続きを読む

    投稿日:2022.07.14

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