【感想】家は生態系

ロブ・ダン, 今西康子 / 白揚社
(9件のレビュー)

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  • whitepapersort

    whitepapersort

    面白かった
    生物多様性が菌類の多様性を生み、それによって人間が恩恵を受けているというのは驚き。
    除菌や抗生物質を突っ込んでも絶滅させることはできず、進化を促してしまう。
    生態系はあまりにも複雑すぎて一部だけを消し去ることはできないことがわかる。
    文章が興味を引くように書かれており、訳もこなれていて非常に読みやすい。
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    投稿日:2023.06.11

  • izumowol

    izumowol

    タイトルから人が暮らす家の中にも生物が多く住んでおり
    そこに生態系が存在している、という内容かと思ったが、
    それにとどまらず、抗生物質などで生物を駆逐するのでは
    なく、生物の多様性を維持しながらそれに触れるのが大切だ
    というところまで論が及ぶ。宇宙ステーション内の生態系の
    話が興味深かった。子供は田舎で自然の仲で育てるに限る。
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    投稿日:2022.08.16

  • kiwi

    kiwi

    ぼくは緑が好きで自分の部屋中に鉢を置いたり天井からぶら下げたりしているんだけれど、ほとんど温室みたいになって知らない人が見たらだいぶ引きそうな状態になっている。水やりに毎週1時間くらいかかるのも好きでやっているんだし、部屋の中に落ち葉が積もるのも邪魔だったら掃除すればいいので気にならない。
    ただ、ポトスやヘデラといった観葉植物と一緒に、変な生態が好きな食虫植物の一群も暮らしているのだが、こいつらは水が好きで、腰水にしていたらそのせいかコバエが湧いてしまった。別段コバエが好きなわけでもなく、かといって殺虫剤をまくのもイヤだなとちょっと困っていたら、食虫植物のモウセンゴケやムシトリスミレがコバエを捕まえていた。おお、ぼくの部屋の中で大自然の生態系が回っている、とちょっと感動した次第。

    前置きが長くなったが、著者は人間の家に住んでいる生き物を研究している人。生命科学の研究者はアマゾンやらコスタリカやらの秘境に行きたがる人が多いらしく、家の中の生き物については、せいぜいがゴキブリやっつける方法を殺虫剤メーカーが興味を持つくらいで、あまり研究者がいないらしい。で、ホコリなどを拭って調べてみたら、小さい動物や昆虫だけでなく、菌類や細菌なども含めると20万種におよぶ生き物がぼくらと一緒に家の中で暮らしているそうだ。20万種という数はDNA分析によるものだが、大部分は生態はもちろん、分類も名前すらはっきりしないやつが相当混じっているらしい。これに人間やペットが腹の中で飼っている腸内フローラなどを加えたら、さらに大変な数になりそうだ。
    その中には人間を病気にするような、悪さをするやつも混じっているが、その割合はごく小さく、大部分は影響もはっきりしない。除菌薬やら消毒薬はよく除菌率99.7%などと謳っているが、あれ大丈夫なのかと前からちょっと気味が悪かった。悪さをする微生物だけを99.7%除去するわけではなく、いいも悪いも無差別に一掃してしまうのだろう。それはそれでなにか悪い影響を及ぼすことはないのだろうか?

    ペニシリンを嚆矢とした抗生剤が多くの命を救ったのは事実だし、消毒の概念が同様に多くの疫病阻止に役立ったのも確かだ。著者が慎重に結論を避けているように、こういうのは白黒どちらか一方の結論が正解とは限らない。とにかく自然が一番、というわけでもない。その一方で、もともと動物としての人間が生きていた環境を、極端に変えてしまうことに対する躊躇や怯えは忘れないようにしようと思う。
    ちなみに、ぼくのPCの液晶ディスプレイの上をたまにアリンコが行ったり来たりして邪魔くさいんだが、こいつらはどうしたらいいんだろう?
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    投稿日:2022.06.12

  • すいびょう

    すいびょう

    【まとめ】
    0 まえがき
    複数の研究グループが家の中にいる生物種を調べ始めたところ、20万種を超える生物が発見された。脊椎動物、植物、昆虫、菌類などである。また、家屋に生息している生物種の多くは人間の役に立っており、場合によっては人間にとって不可欠な存在であることもわかった。
    しかし残念なことに、家の中にいる生物の多くは善良で、人間にとって不可欠でさえあることに科学者たちが気づき始めたちょうどそのころ、社会全体は、家の中を殺菌消毒することに精力を傾けるようになった。躍起になって屋内の生物を殺していくうちに、家の中を外部の世界から遮断しようとするだけでなく、殺虫剤や抗菌薬を使用すると、その矛先が有益な生物にも向かい、そのような生物を死滅させ、排除していくことになる。そして、知らず知らずのうちに、チャバネゴキブリ、トコジラミ、さらには命取りのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のような、薬剤耐性をもつ生物種に加勢してしまうことになるのである。
    私たちは、このような薬剤耐性をもつ種の残存を有利にしているのみならず、その進化の速度を速めてもいる。屋内環境は、いまや屋外環境のバイオームよりも大きくなっているのだ。


    1 家のさまざまな場所に、さまざまな生き物
    家の中で見つかるのが、食品を腐敗させる細菌や、人体から徐々にはがれ落ちる垢を食べている細菌だけならば、科学的見地からみて特に注目すべき点はない。ところが、別の種類の微生物が見つかったのである。それは、細菌や古細菌、つまり、極限環境を「好み」、そこで繁殖する極限環境微生物だった。
    家の中には、極寒のツンドラに匹敵するほど冷たい冷蔵庫や冷凍庫がある。家の中には、酷暑の砂漠よりも熱いオーブンや、そしてもちろん、熱水泉に劣らぬほど高温の給湯器もある。家の中にはまた、ある種の食品のような極度に酸性の環境や、練り歯磨き、漂白剤、洗浄剤のような極度にアルカリ性の環境もある。こういった家屋内の極限環境の中から、それまで深海や氷河や遠い塩砂漠にしかいないと思われていた生物種が見つかったのである。

    自宅のボイラーからは、間欠泉に生息する好熱性細菌「テルムス」が発見された。間欠泉の生物の多くは「化学合成生物」、すなわち間欠泉の化学エネルギーを生物エネルギーに変えられる生物である。

    水が水道管内を流れるとき、特にシャワーヘッドの配管内を通るときに、厚いバイオフィルム(微生物膜のぬめり)が形成される。バイオフィルムを構成しているのは、敵対的環境(たとえば、絶えず自分を押し流そうとする流水など)から身を守るという、共通目的のために協力し合う一種または複数種の細菌たちだ。細菌たちは、自らの分泌物でバイオフィルムの基盤を形成し、水道管内に頑丈な共同住宅を作り上げる。
    興味深いのは、水道水を殺菌すると、そのなかで頑強な生物種が生き残り、競争相手の死滅によって生じた空白の中でより増殖していくことである。アメリカ合衆国の都市用水に含まれる抗酸菌の数は、井戸水の2倍に及び、細菌類の90%を占めていた。そして、井戸水を利用している家庭のぬめりからは、抗酸菌以外の極めて多種多様な細菌が棲み着いている傾向が見られた。

    住宅の乾式壁の真菌は、壁の製造過程からすでに紛れ込んでいる。この中にはアレルギーを引き起こす黒カビ(スタキボトリス・チャルタルム)も含まれる。


    2 殺しすぎると病気にかかりやすくなる
    フィンランドの疫学者であるハリ・ハーテラは、生物多様性が低下するにつれ、慢性疾患の発生頻度が高まっていくと提唱している。2009年には、フィンランドのチョウの多様性が低下している地域では、慢性炎症の発生頻度が高まっていることを指摘する論文を書いている。自然の一部であるコレラ菌も同様の傾向にある。
    病原体とのつながりを断つことは、人間にとってメリットになる。ところが、今や、人間は度を越して、本当に有害で危険な少数の生物種からだけではなく、益をもたらしてくれる種も含めた、それ以外の多種多様な生物からも自らを切り離してしまったのである。

    ハーテラとフォン・へルツェンは、ロシアとフィンランドの国境を挟んだ双方のカレリア人を比較する研究、「カレリアプロジェクト」を行った。2つの集団に遺伝的差異はないが、生活環境が違う。ロシア側がより自然に根ざした生活を送っている。
    丹念な聞き取り調査と、特定のアレルゲンに対するIgE抗体の量を測定する血液検査に基づき、この二つの集団間にはアレルギー疾患の有病率に差があることが証明された。さらに重要なことに二人は、フィンランド側のカレリア地方に見られる疾患は、環境微生物への曝露不足が原因だと考えるようになっていた。実際に計測した結果、裏庭の希少在来植物が多様性に富む家に住んでいる子達は、皮膚にさまざまな細菌種が付いており、アレルギーリスクが低かった。加えて、多種多様な在来植物に曝露することによって、皮膚のガンマプロテオバクテリア(および、肺や腸内にいる同様の効果をもたらす細菌)が増加し、それがひいては、免疫系の平和維持の経路を刺激して炎症反応を抑制することもわかった。

    抗生物質の過剰使用の結果、病院内での薬剤耐性菌の問題は、1950年代に初めて黄色ブドウ球菌のファージ型80/81が出現した当時よりもはるかに悪化している。新生児だけでなく、広く一般の人々の間でも手に負えなくなっているのだ。当初、80/81株の一部はペニシリンで殺すことができた。1960年代末には、黄色ブドウ球菌感染症のほぼすべてが、ペニシリン耐性株によるものになっていた。それからほどなく、黄色ブドウ球菌の一部の菌株は、メチシリンその他の抗生物質に対する耐性をも進化させた。1987年には、アメリカ合衆国における黄色ブドウ球歯感染症の20パーセントが、ペニシリンとメチシリンの両方に耐性をもつ菌株によるものだった。1997年にはその割合が50パーセント以上に、2005年には60パーセントにまで達した。耐性菌による感染症の割合が増加しているだけでない。感染症の患者総数そのものも増加傾向にある。

    病院内で抗生物質を使用すると、初めのうちは功を奏していても、長期的には問題が生じてくることが、注意を払っている人々の目には明らかだった。その問題とは、抗生物質は使うのは簡単だが、その副作用として、体表や体内に棲んでいる善玉菌も含めた他の微生物に悪い影響を与えてしまうこと、そして、耐性が進化してきて、いずれ効かなくなってしまうこと、である。抗生物質がどうしても必要なときにだけ節度をもって使用していれば、耐性が進化するのに長い時間がかかる。逆に、抗生物質を無節操に使っていると、たちまち耐性が進化してしまう。抗生物質の使用によってこうしたことが起きることを十分に認識した上で、殲滅策が取られたのだ。

    通常は、医学の歩みが患者の身体で再現される。ところが、抗生物質の使い方や研究資金の配分のあり方のせいで、細菌が抗生物質への耐性を進化させるスピードが、新たな抗生物質を発見するスピードを凌いでおり、この傾向は今後も変わりそうにない。新たな抗生物質に切り替えることができないうちに、細菌が現在使っている抗生物質への耐性を進化させてしまうのである。この問題は病原菌だけに限ったことではない。家の中の昆虫や真菌の防除についても、やはり同じことが言える。私たちにはもっと別の方法が必要なのだ。


    3 生物多様性を達成するために
    私たちは、少々選択的であっても、自然を取り戻す必要がある。清潔な水、病院、ワクチン、抗生物質などの不可欠な保健衛生システムを獲得した後は、多種多様な生物が私たちの周囲で繁栄できるような方法を見つけることも必要になる。
    家に棲んでいる生物種は、私たちの暮らし方を物語っているのだ。
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    投稿日:2022.05.07

  • 羊さん

    羊さん

    米国の生態学者による家の中の生き物。多種多様な生物、その生き残り方、場面を想像しながら読むと背中がゾワゾワしてくる。期待以上の読み応えだった。
    地味なゴキブリの研究を、長く続けている日本人女性に感心!

    投稿日:2022.04.07

  • Sig Sugito

    Sig Sugito

    生態学者の著者は、これまで、生態学は外の世界を見てきたという。人類は含まれるものの、人類を取り巻く「自然」における多様な生物からなる生態系及び生態系サービスを見てきたという。だから、家の中にどれぐらい新生物がいるかをしらなかったという。それに対して、本書が取り上げるのは一軒の家にいる生き物すべてを総ざらえしようというのである。そして、その生き物たちが生態系をなしていて、微妙なバランスで成り立っているというのである。なお、本書ではウィルスは登場せず、細菌や原生動物といった微生物、昆虫、ペット、そして、人間が登場する。

    たとえば、花粉症などのアレルギーは、多様な環境に暴露されなかったから、身体の免疫システムが反乱を起こして、自己を攻撃するようになったという。これは、子供が育つ家の内外の生態系が、人間の干渉、たとえば、農薬や殺虫剤、さらには、抗生物質などによる干渉受けた結果、多様性を失いそのことが引き金となって、免疫システムの異常を引き起こしてしまうからだ。我々は人類の一員としての遺伝子を引き継いでいて、この遺伝子のセットは、長い進化の歴史の中で環境の中に暴露されてきた結果、構築されてきたものだ。ところが、人類は生態系に多大な干渉を加えて現代文明を構築してきた。たとえば、火を使うことによって、口に入れる微生物の種類は減ったことだろう。せっかく、多様な生き物からなる精緻な生態系が作り上げられていたのに、生態学的ニッチェに空きができてしまい、体内の微生物の間の競合関係を乱してしまう。さらには、衛生環境をととのえ、抗生物質を手に入れる。また、農薬をつくり、殺虫剤をつくる。おかげで平均余命はのびたには違いないが、さらに、人間を取り巻く生き物の種類をへらす。ところが、生き物の側でも進化戦略によって、薬物耐性を身に着け、おかげで、抗生物質が効かなくなり、生き物との間の際限のない軍拡競争に落ち込む。

    そうした状況にあっても、家の中をくまなく探ると20万種もの生き物がいることを(ウィルスを入れれば、おそらくその数はもっと膨大になるはずだ)、本書は教えてくれる。しかし、読者は、それなら、もっと清潔にして、これらの生き物を撲滅しなければ、と考えてはならない。そうではなく、こうした多様な世界をせめて維持すること、なんなら、もっと増やしていくことが望ましいと考えること、これが重要なのではないだろうか。
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    投稿日:2022.02.16

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