【感想】「感動ポルノ」と向き合う 障害者像にひそむ差別と排除

好井裕明 / 岩波ブックレット
(8件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • 後入れかやく

    後入れかやく

     私はなんとなく毎年夏に放送される某チャリティ番組にいい印象を持っていなかったのだけれど、「なんで?」と聞かれると、おそらく特に悩むこともなく「だって、『感動ポルノ』じゃん。」と答えてしまうんだろうと思う。そんな私にとって、著者が冒頭で述べた「『感動ポルノ』とは単にある現実を批判し断罪するためだけの言葉ではありません」は、すごく耳が痛い。

     実を言うと、「感動ポルノ」という言葉を使うとき、私は少し気持ちよかった。好きなアイドルが出ているからマラソンやドラマがなんだか面白そうだから、そんな理由でこの番組を見て無邪気に楽しめる人間は自らが差別構造に呑まれていることにも気づかず愚かだ、そんなふうに雑に他者を非難することで自分が彼らよりも一段賢くなったような気がしたからだ。
     でもよく考えてみたらどうだろう。私は「感動ポルノ」という言葉を使って他者を馬鹿にしているだけで、差別を指摘することそれ自体よりも差別を指摘することによって得られる気持ちよさが目的になっていたんじゃないだろうか。
     著者の文章は、私が自らの考えを省みて、他者の差別を指摘してそれで終わりというのではなく、より前向きに、自らの中に芽として存在する差別と向き合うきっかけをくれたように思う。
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    投稿日:2024.02.06

  • たまどん

    たまどん

    レビューなどで「もともとチャリティ番組に違和感があったが、この本を読んで違和感の理由が分かった」という意見が散見される。だが私からしたら、正直に言って「そこまで言い切るほどあなたは物分かりが良かったの?」と考えてしまう。例えば「愛は地球を救う」の放映が始まったのは確か私が中学生のころの昭和50年代。そのころ開催されたオリンピックの女子マラソンで競技中に体調不良に陥り足をふらつかせてゴール後に力尽きて倒れた選手に対して、世界中が拍手喝采した。さらにそのことに誰も違和感をもたなかった。順位でいえばその選手よりも1つ早く、ふらつくこと無くゴールした選手については誰も顧みることがなかったにもかかわらず、だ。

    これを障害者のケースに当てはめてみよう。障害者が不器用な姿ながら困難な何かをしようとする姿(以下、「頑張る姿」と書く。)を世間一般が求める現象について、この本の著者はTVドラマ、映画やドキュメンタリー番組などの個々の素材で具体的に検証をする。
    世間一般が障害者に「頑張る姿」を求めるその求め方が「過剰」なのでは?という意見は前からあった。私が冒頭にあげたチャリティ番組に違和感をもった人も、おそらくはその範疇だろう。しかしこの本を注意深く読めば、著者は「過剰さ」に対してだけに疑問を投げかけているわけではない。著者の主張は、障害者に対して頑張る姿を1ミリたりとも求めるな、という厳然たる態度に基づいている。

    そう言うと、例えば「パラスポーツなどで障害者が『頑張る』シチュエーションがあるなかで、そこから感動を受けることすらも否定されなきゃいけないの?」という疑問が世間一般からは生じるだろう。だが、私はこう思う。障害者がスポーツや芸術などのあらゆる場面で「頑張る姿」は、現状では、障害者自身の思惑がほとんど考慮されず、世間一般の人々が自身の感動を肥え育てるための「エサ」に成り下がってしまっている。エサというのは私の独断的な言い方だが、それでは直接的過ぎるので、より現実的な言い方として著者が採用しているのが「感動ポルノ(Inspiration porn)」だ。

    ここで少し、話を私の日常にそらす。私には全盲で普段は白い杖をもって歩く方が知り合いにいる。駅で待ち合わせをした場合、その方は時間に余裕をもって行動するので、その方が歩いているところを後ろから来た私が気づくということが多い。白杖で歩く人は(特に行き慣れない場所の場合は)壁や柱に当たったりして、前に進むのがつらそうになっているのを離れた箇所から見つけるということが多い。なのに、道行くほとんどの人はその方に声をかけようとはしない。なぜなのか?日本人はそんなに障害者に冷たいのかなどといろいろ考えたが、ある考えに行き着き、たまらなくなった。つまり多くの人は、全盲の人に『自分の力で』『努力して』歩くことを求めているのだ。極言すれば、足とかには別に障害がなく、白杖を持っているのだから、歩くことくらい自分で克服してみろよ、そのために点字ブロックがあるのだろ、と世間の人は(無意識に)思っているということだ。

    世間に対してそう言うと全力で否定されるだろう。しかし障害者に感動を期待することの裏返しとして、現実として過剰かつ不必要な障害者自身への自己達成要求に結びついているというのを、世間はそろそろ気づいた方がいい。だからこそ、本来は公正な社会の姿を映す鏡ともなりうるメディアが、その役割を忘れたかのように、障害者は障害があるゆえにその克服を目指して頑張ってこそ意義ある生き方だという誤ったビジョンばかりを再生産し続け、受け手の方もそればかりを求める現状に、著者は一石を投じているのだ。

    先に私は「無意識に」と書いたが、それを世間一般に広くわかってもらうことは極めて難しいのはわかる。だから著者も、学生に対して「『感動ポルノ』って知ってる?」と聞いたとき、ドヤ顔で「24時間テレビのことでしょ」と答えられた際の何とも言えないきまりの悪さについて、冒頭で紹介したのだ。つまり、障害者を見えざるもので絡めとって「障害」たらしめる主因は、何がどうだから感動ポルノなのかを個々に検証することを省略し、レッテル貼りで思考停止に陥っていることそのものだ。

    私が全盲の方と知り合いになってわかったことだが、要するに障害者は「隣人」なのだ。だから隣人が頑張って何かを成し遂げれば賞賛するし、一方で障害以外はしょせん自分と変わらない隣人だとわかっているから、押し付け的なものは求めない(そもそも自分がされたら嫌なことは相手にもしない)。必要ならば手を貸すけれど、こちらからあれこれ世話を焼くおせっかいはしない。さらに言ってしまえば、障害者でもスケベな奴はいるし、頭の回転が並じゃない人もいる。その一方で障害者でも感じ悪い奴はいるから、そんなのは相手にしない…

    そのように、障害者について考える時、キーワードを「隣人」とすることだけで「障害者に頑張る姿を期待する」とか「感動を求める」とか「コマーシャリズム」という言葉からは大きく離れ、カッコ書きの抽象概念でしかなかった「障害者」がぐっと自分に身近な存在になる。とにかく障害者を上にも下にも置かず、横に置けということだ。
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    投稿日:2023.07.10

  • masaniro2

    masaniro2

    手軽に手に取ったが、深い洞察に感嘆した1冊であった。

    特別な議論をしているわけではないが、人間の不安定さや揺らぎを含めて、全身で誠実に捉えるんだという気概が、文章の端々から感じられる。

    もっとこの著者の考えに触れたいと思わせてくれた1冊。続きを読む

    投稿日:2022.12.07

  • rafmon

    rafmon

    テーマとしての良書。論考、結果の不一致。24時間テレビの在り方を一つの例に、感動ポルノに異を唱え、数々の障害者を扱う作品を挙げながら、障害者との向き合い方を考察する内容。

    不一致に感じる部分。先ず、感動ポルノという言い方について。パラリンピックやテレビ出演などは、はなからオーディエンスを期待して障害者が表現するもので、商売に組み込む事を両者の合意において行うのだから、それが感動を呼ぶなら、それは目的に対しての成功である。他の表現作品同様、賛否あって良いもの。感動ポルノは、健常者のみに許される表現の手段だとしてはならない。そこに否定を持ち込む事こそ蔑視であり、女性の職を奪うフェミニストの過剰反応に通じやしまいか。24時間テレビへの違和感は、寧ろ、製作側が金稼ぎをしている事への批判が強く、そこに障害者を利用する図式に見えるという別次元の問題なのだ。

    次に、障害者に対する差別の捉え方。身体的弱者である障害者には、配慮が必要。車椅子を利用しやすくするなど。弱者として扱う以上、差別的視点は必須。間違えると良くないのは、その不自由な一点を拡大して、人格や身体全てが不具だと決めつけ、他の権利にも制限をつける事。差別を拡大解釈する事だ。言い換えると、人物蔑視が問題であり、手が不自由な人がそれを武器に感動を誘い、商売に利用した所で、何ら問題は無い。

    世の中には、腰や膝が悪い、視力が劣る、肩が上がらない、境界知能など身体不調者は多い。これらと障害者との差は、その目立ち方と生活の不自由さの度合いによる。ある一部分を切りとって、人格全体を否定的に捉える事は間違いだ。しかし、腫れ物に触れるように差別だなんだと、違いを直視する事から避けるのも、結局は、一部分をもって人物全体を表象しているような、害悪的な発想ではないのだろうか。
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    投稿日:2022.05.01

  • 習メ展示

    習メ展示

    3月30日新着図書:【感情をかきたてるためだけに過剰に障害者を利用し、その姿がさらされた作品の障害者表象やイメージが与える感動を丁寧に見抜いていく必要を説いています。】
    タイトル:「感動ポルノ」と向き合う : 障害者像にひそむ差別と排除
    請求記号:369:Yo
    URL:https://mylibrary.toho-u.ac.jp/webopac/BB28198008
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    投稿日:2022.03.30

  • ヤッシー

    ヤッシー

    この本、本当に自分の中の言語化出来ていないところがスッキリしました。
    差別とは何か、自分はそれなりに勉強している方だとは思っていましたが、新しく知ることが沢山ありました。
    24時間テレビなどに違和感がある人は、ぜひ読んでみてください。続きを読む

    投稿日:2022.03.19

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