【感想】筒美京平 大ヒットメーカーの秘密

近田春夫 / 文春新書
(10件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
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ブクログレビュー

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  • 犬山犬男

    犬山犬男

    筒美京平が亡くなってから計画された筒美京平を語りながら渡辺栄吉(本名)を覗く本。
    2021年7月刊行。

    第1部(1-6章)は近田氏による筒美京平論。
    曰く「楽理を踏まえていない譜面に紐づいていないビートルズに影響は受けてない。一世代前のアメリカンポップス」「日本語の官能性を音楽が持つフィジカルな快楽と合体させた」「邪推が及ばない音楽的懐の深さ」
    官能性。そうなんだよね。名曲は総じてそうなのかもだけど、筒美京平の艶ってあるよねぇ。

    「えげつない曲、これ見よがしの曲を作らなかった人」という評。
    それに至る会話は、筒美京平の曲には女性作詞家が似合いますねもしくは千家和也やちあき哲也→ユーミンとのフルアルバム Hiromic Worldいいですよね→正反対の作詞家は阿久悠、それには都倉俊一がベストマッチだよね。
    うん。。まぁ。。山本リンダ、フィンガー5、ピンクレディーはえげつなくてこれ見よがしかな。笑
    今まで都倉俊一作品を「電気がチカチカしてる」「ガチャガチャしてる」「おもちゃ箱」だと思ってたけどこれからは「これみよがし」って言おう。
    あとこれ人にも使えそう。なんてね。(あなたをもっと知りたくて)

    70年代3強のジュリー百恵ピンク、80年代の聖子明菜への楽曲提供もない。(ジュリーと百恵は断ったと2部で実弟から明かされる。聖子はソニー内部での郷ひろみっていうか酒井プロデューサー陣営との確執と70年代感を出さないためか)言われてみれば確かに。
    「吉田拓郎への恐怖」「スピッツには似たものを感じる」へー。音楽的センスのない自分には分からないけど吉田拓郎を天才だと言う天才が多いってことはそういうことなのね。キンモクセイよりスピッツ?そうなのね。

    「あれ(松本伊代)は彼の好みだね。平山三紀郷ひろみライン」
    当て書きのトシちゃんマッチ、ジャニー嫡子の少年隊デビュー曲など。
    考えたことなかったけど音楽センスのある人達からするとしっかり感じる「見えないライン」なんだろね。納得。

    共に7000万枚overを誇る大作曲家だけど「TKはシステム、恭平はフィルター」ってのも納得。TKは作詞の人、その雑さ。(酷い)とはいえ浜崎あゆみよりは5兆倍マシだけど。

    洋楽やKPopを「射精しない反復音楽」JPopを「射精への高まり音楽」と評してるのもまぁ分かる。とはいえKPopはマネしながら独自性をちょい混ぜするのが上手だなとも思う。洋楽にしろ邦楽にしろ。でもまぁ国民が1億超えてるならそれでも(市場規模として充分で)良かったよね。
    今までは。だけど。

    芸能界に染まらず権威に無頓着だった筒美京平らしく、対極として政府とがっつりの都倉俊一(やはり近田氏は都倉センセが嫌いなのね)芸能界のドンとがっつりの内田裕也(ここは夫婦揃って同じイメージ、無欲の風来坊を気取ったThe強欲)を例にあげてる。
    筒美京平の清廉さを話したいというよりは、都倉俊一の悪口がメインかな。
    なんか素人が知らない確執があんのかね。

    作曲家への依頼の仕方が変わったっていう話もへーって感じ。そんなの想像したことなかったけど今ってそんなんなのね。


    第2部(7-10章)は対談

    7章は実弟、渡辺忠孝
    幼少期弟に対して「ター坊の好きなのってコードが3つしかない曲ばかりだね」と言ってみたり、坂本龍一を見て「彼らは好きな音楽だけやってて羨ましい」とか弟ならではのエピソードが明かされる。

    実弟が選ぶTop10の付録も
    哀愁トゥナイト、なんてったってアイドル、夏のクラクション、青春挽歌、ラッキーチャンスをもう一度、くれないホテル、魅せられて、よろしく哀愁、お世話になりました、飛んでイスタンブール

    8章は作詞家橋本淳
    師匠のすぎやまこういちの傍若無人さに触れつつ、筒美京平との高校1年からの思い出話を披露。(橋本は一個上)ここでも筒美京平の3分で作曲、5-6時間で編曲という天才ぶりを話すが、比較として「簡単なコード作曲の平尾昌晃や中村泰二と違って」みんな悪口好きだなぁ。
    筒美京平は「ここから先は入るな」という自己境界線がはっきりした人だったらしい。ただ高校生からの付き合いで音楽事務所も共同経営し、60歳になったらお互いに花屋パン屋をやろうと持ちかけられ、亡くなる前に病室で「あんたのせいでこんな人生になっちゃった」と言われたと。葬儀参列は家族と橋本夫婦のみだとか。平山みきにすら当日電話で話したにも関わらず明かさなかったと。
    それほどに近しい間柄だったんだなぁってのと、筒美京平の「隠者」ぶりが分かる。

    対談から「スワンの涙」が筒美京平自身が最も愛した曲なのでは?と感じる。私はここ最近たまたま「ジジィだからGSでも勉強せにゃ」と聴いていて失神GSっていうキモさから嫌々聴いたものの結局最も気に入ったのがオックスのこの曲だったのでなんか嬉しい。全然たまたまだけど。でもこの本を読む前も大声で歌ってた。(その前は木元ゆうこ)近所の人にはソーリー。まぁ慣れてるか。

    橋本淳が選ぶTop10
    また逢う日まで、さらば恋人、雨の日のブルース、木綿のハンカチーフ、にがい涙、恋の弱味、サンゴ礁の娘、ブルーライトヨコハマ、色づく街、ひとかけらの純情、セクシーバスストップ、夏のクラクション

    この本で紹介される曲はほとんどがヒット曲なのでタイトルを見れば歌が頭の中で流れるが、8章で橋本淳が「幸せでちょっと不幸だった平山美紀、彼女と筒美京平と3人でLAで録音したアルバム、フィルムシティモーテルが素晴らしい曲で録音完了時にアメリカ人スタッフが拍手したのを覚えてる」と。
    幸いYouTubeにあった。(ありがとう違法アップロード)これは確かに。さすがのクオリティ。
    何度も平山美紀の名前は出るけれど(筒美京平と橋本淳の事務所に所属していた)この曲を提供するなんて彼女の声が余程好きだったんだなぁ。と。

    最後の対談は平山みき
    今まで他人が彼女の楽器としての声と真面目さが筒美京平に愛されたと分析してきたが、ここで本人によって「はいそうです」と確認される。
    デビュー曲に筒美橋本の息子の名前が入ってるのは楽しい遊び。
    彼女も筒美・橋本とのLAレコーディングを話すが、途中でラスベガスのギャンブルなどに興じる2人に怒って筒美が途中帰国するくだりは橋本バージョンでは全く触れられていない。

    近田春夫が選ぶTop10
    マドモアゼルブルース、赤毛のメリー、ビューティフルヨコハマ、誰も知らない、熟れた果実、逢えるかもしれない、雨にひとり、恋の弱味、さよならの彼方へ、グッドラック、強い気持ち強い愛

    ライター下井草秀Top10
    寒い夜明け、あなたの暗い情熱、銀河特急、女になって出直せよ、卒業、君だけに、JOY、泣かないぞェ、綺麗アラモード、あなたの淋しさは愛

    さてこっから感想ですが。

    阿久悠2冊、都倉俊一1冊と読んで流れで読んだ。
    うっすい本ですぐ読めるけど中身は充実。白黒&小さいながらもレコジャケも掲載されてる。
    プロが選ぶ筒美京平Top10は売上ランキング上位に限らず多様な選択になってるのもさすが。特に弟と橋本淳。夏のクラクションと恋の弱味が4人のうち2人からセレクトされてる。他は重複なし。

    え????「サザエさん」は????

    他にも誰もたそがれマイラブ、迷宮のアンドローラー、恋の追跡、仮面舞踏会、東京ららばい、ていうか岩崎宏美の曲を1曲も選択しないのはなんで?
    あとスワンの涙は?あれ名曲じゃん?

    知らない歌も沢山あるのでこれを機に聴いてみようと思う。
    続きを読む

    投稿日:2023.10.24

  • jatp1953

    jatp1953

    オリコン1位のリストに「木綿のハンカチーフ」が入っていいない、で、それを阻み続けたのが元「藤浩一」のたいやきくんというのが皮肉だなぁ、と。

    投稿日:2023.03.08

  • yasuhit33

    yasuhit33

    最近レコードを買うようになり、昔の歌謡曲をよく聞く。クレジットを見ていると筒美京平と書かれているものの多さに驚くと同時にだれ??と思い読んでみた。前半めちゃめちゃ面白い。
    後半のゆかりの人ととの対談も恐らく筒美京平に何かしら思い入れがある人が読んだら面白いのではと思う。続きを読む

    投稿日:2022.03.06

  • tosyokan175

    tosyokan175

    「調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝」を読んで、軽い語り口、だけど鋭い視点の近田節が気持ち良くなってしまい、続けて本書を開きました。そもそも近田春夫がずっとリスペクトしてきた対象なので、自分の音楽を語る自伝より活き活きしているし、楽しそう。実際の読書も、脳内ライブラリーだけでなく、YouTubeでマニアック曲を検索しながらの「聴く読書」でした。曲そのもの、だけじゃなく筒美京平が取り込んだ元ネタもばんばん開示されるので、まるで鶴の恩返しの機織り部屋を覗いているようなドキドキ感があります。南沙織「17歳」の元ネタがリン・アンダーソン「ローズ・ガーデン」であることは有名ですが、松本伊代「センチメンタル・ジャーニー」の元ネタがギルバート・オサリバン「アローン・アゲイン」という最新の仮説(?)も披瀝されて、著者の京平研究、恐るべし、と言った感じです。洋楽と言われるもの邦楽化という、日本の高度経済成長時代が求めたもの、例えば、お茶の間からリビングへのシフトみたいなことを音楽という領域で一手に担ってきたのが筒美京平という「ツル」でなのだと感じました。だから筒美京平が「どんな曲を作って来たか?」ではなく「どうして現役として曲を作り続けることが出来たか?」だし、そもそも「彼は何者だったのか?」が本書のテーマだと思いました。そういう意味では第2部の実弟・渡辺忠孝、盟友・橋本淳、歌い手・平山みきとの対談は超貴重。まさに京平LOVEが新書に詰まっています。今年なくなった内田裕也、筒美京平とはまったく接点なかったけど、唯一の共通点としてホテルオークラが好き、ということを上げ、日米の狭間の揺れ動きにアイデンティティを見いだす、という指摘は見事だと思いました。それはひとまわり年上のジャニー喜多川にも共通するもので、そのメンタリティが戦後の音楽史の基本なのだと。近田春夫、一生、京平さんのことを考え続ける宣言もかっこいい!続きを読む

    投稿日:2021.12.26

  • ucym100

    ucym100

    p59 筒美京平好みの声 平山美紀、郷ひろみ、松本伊代

    p79 小室哲哉がシステムとすれば、筒美京平はフィルター

    投稿日:2021.11.05

  • nyankoteacher

    nyankoteacher

    筒美の紡ぐ旋律は、その1曲の全体が、柔らかな色合いを持って包み込んでくるような錯覚を聴き手に与えるという点に特徴があると思う。旋律そのものだけがやたらと骨太いような、ある意味わかりやすい曲とは一線を画す。荒々しいデッサンのような魅力ではなく、破綻のない水彩画のような印象だ。時間的に連続する音像すべてを3分というポップスのフォーマットの中で稠密に出力している。もちろんフックの効いたパッセージは効果的に配置されているが、それは全体をしみこませるためのきっかけとして、計算されて置かれている。総合的な建築家のような仕事だったと思う。優れたシンガーソングライターによる明解で一貫した世界観もよいが、筒美のようなプロフェッショナルによる音楽表現の可能性の豊かさは、一層素晴らしい。続きを読む

    投稿日:2021.09.08

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