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漂月, 保志あかり / カドカワBOOKS (1件のレビュー)
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総合評価:
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clamamus
このレビューはネタバレを含みます
封建制の中世欧州風異世界に転生した主人公が、窮鳥となったリン王女を懐中に入れて王室の後継者争いに首を突っ込むことになる物語である。 この一冊ではその序章戦とも言える内容が描かれており、地盤を固めるリン王女の後援し、人の心が分からない国王と対話しつつ、対立する立場の大貴族・ツバイネル大公の陰謀を退けている。 タイトルからは伝わらないが、この物語の主人公ノイエは長髪でオネエ言葉を操る怪人である。 前世の記憶によって、現地のテザリア語の習熟が上手くいってない背景もあり、なかなか癖のあるキャラとして生まれ育った形だ。 奇怪な人物ながら優秀、魔女の秘術を母から継承したオネエ軍師として中世の王国を駆けることになっている。 その上で(魔女の秘術による助けもあって)剣豪でもあって、暗殺者相手に切った張ったの大立ち回りもしているので、なかなか設定は盛り盛りしている。 もう少し付け加えれば、この物語世界は異世界物語に多い中央集権型ではなく封建型の連邦王国であるのも特徴的である。 各々の領主の権限が強く、ざっくり見るとスペインやイタリアのような大所帯が寄り集まったタイプの国らしい風情がある。 それゆえに、対立するツバイネル公は旧ツバイネル王国の王位の血筋であり、独立機運は強い。 一つの国の中の陰謀というより、もっと土俗的に描かれる「中世」に相応しい物語の舞台に見える。 特徴を見ただけでもなかなか興味深い一冊である。 ネット連載時と比べても、加筆によって内容が充実していて、テオドール郡を巡る御幸での攻防などは書籍版で加筆されたエピソード。 これらの加筆によって歴史絵巻のプロローグとしてのまとまりはいや増している。乾いた世界観が素敵だ。 ただ、こうした特徴はタイトルやあらすじからは感じ取れないのが残念なところだろう。 ネット版からのタイトル変更なども含めて、カドカワ側の姿勢が透けて見える部分はある。 その辺も加味して、ここでは星四つ半相当と評価している。 続巻の期待はできるのか難しいところだが、次巻が出るのならぜひ買いたい作品であるのは確かだ。
投稿日:2021.04.19
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