【感想】カンマの女王 「ニューヨーカー」校正係のここだけの話

メアリ・ノリス, 有好宏文 / 柏書房
(7件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • alpine310

    alpine310

    ふんわりと「超高級誌?」みたいなイメージしかないザ・ニューヨーカーにお勤めだった方のエッセイ、と言われたら私と何の接点もないねーと通り過ぎるわけだが、この筆者のお仕事が校正係と言われたら俄然興味が湧いてくる。校正も含む紙に印刷するものの周りをうろうろ仕事をしている身としては、どんなことが書いてあるのか興味津々で手に取った。
    第一印象は……読みにくい。何しろ横組みである。内容がカンマだダッシュだアポストロフィだと英文の引用がわんさか出てくるので横組みでなければ始まらないわけではあるが、精神的な障壁が3割増しである。さらに訳文が入ってきづらい。きっと元の文章そのものもおしゃれでちょっと斜に構えていて気の利いたことが書いてあるクセ強めの文章なんだろうと思うのだ(推測に過ぎません)が、それを同じテイストで訳すのは無理なんだろうけどどこに問題があるのか(私に問題がある可能性も大ではあるが)とにかくすんなり入ってこない。
    が、その最初のバリヤを乗り越えてなんとか文章を気にせずガシガシ読むモード(翻訳モノこなしモードと称する)に移行できてからは面白く読んだ。特にシリアル・カンマ!
    シリアル・カンマとは「AとBとC」を英語で書いた場合「A, B, and C」と書く時のカンマである。その昔、このandの前のカンマが要ると言われた時の割り切れない気持ちは今でも思い出せる。要らなくない?と思いつつハウスルールに従っていたわけだが、その頃の私にこの例文を教えてあげたい!
    We invited the strippers, JFK and Stalin.
    https://languagelog.ldc.upenn.edu/nll/?p=3438
    これは大変。どこにどんな誤解の可能性が潜んでいるとも限らないから、やはりandの前には必ずカンマを打とう。ということで、ここまででじゅうぶん元をとった気持ちになれた。
    しかし後半はこれを上回るお楽しみが待っていた。鉛筆の話である(第10章 鉛筆狂のバラード)。昔は湯水のように潤沢に提供されていたNo. 1の鉛筆(日本で言うとB)がだんだん手に入らなくなりやっと手に入ったら思うように使えず、という筆記具のこだわりの話に過ぎないのだが、最近似たような経験をしたので身にしみたのである。家人のために0.7ミリのシャープペンシルを探したのだがこれがなかなか見つからなかった。替え芯は時々売られていたのだが本体がどうにも思うようなものが見つからない。昔はよりどりみどりだったような記憶があるのだが、夢だったかな?と思うほど見つからなかった。0.7ミリ使いやすいんだけどなあ。
    というわけで、誰にでも気軽に薦められるかと問われればちょっと迷うけど、紙に印刷されているものが好きな人なら、どこかに引っかかるものがあるのではないかと思われる秀作でした。
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    投稿日:2024.05.11

  • なー

    なー

    日本語の句読点も怪しいワタクシがこんな本読むのは百年早い気もしますが…さすが「カンマの女王」、シリアルカンマの重要性には心底痛感しました。
    ところで。人称代名詞の話んとこで、主格が目的格よりフォーマルに響く…って、ネイティヴでない身には全然ピンと来ないけど、じゃあ、二人称の主格と目的格が同じ(you)ってのは、感情的にどう処理をつけてるもんなんだろ。続きを読む

    投稿日:2022.02.07

  • がと

    がと

    アメリカの老舗雑誌『ニューヨーカー』のベテラン校正係が語る、他人の文章を直す仕事の悲喜こもごも。


    著者は酪農の世界から校正に転じた経歴の持ち主で、本書が出る前からYouTubeで人気を博し、そこで"カンマ・クイーン"と呼ばれているのだという。
    なんとなくコーリー・スタンパーの『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』(2021/4/13読了)に近しいものを感じて手に取ったのだが、はたして本書にもまさにウェブスター辞書そのものを語る章が。だが、〈記述主義〉の現代ウェブスターに対して『ニューヨーカー』の校正方針は〈規範主義〉寄りのため、ノリスはウェブスターに批判的ではある。『ニューヨーカー』がこんなにもガッチガチの独自ルールで表記法を定めている雑誌だとは知らなかった。
    なので、スタンパーの本のような現代アメリカが浮き彫りになるような社会的なテーマ性は薄い。トランスジェンダーをカミングアウトした妹(元・弟)をどの代名詞で呼ぶべきか苦悩するというエピソードはあるが、個人的な体験談にとどまっている。そういう期待を一旦置いておけば、本書は英文法トリビアに溢れる楽しい本だ。ジョージ・ソーンダーズやイアン・マキューアンが例文になるならなおさら。
    でも一番面白かったのは校正そのものの話ではなく、仕事の必需品について語った「鉛筆狂のバラード」。お気に入りが廃番になる悲しみや鉛筆削りの博物館に愛用の品を寄贈したことまで、ここでの語り口が一番のびのびしていて楽しかった。
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    投稿日:2021.10.27

  • kinotoushi

    kinotoushi

    アメリカの老舗雑誌「ザ・ニューヨーカー」で校正係をしているメアリ・ノリスの、文章と彼女が関わった人たちについてのエッセイ。

    ちなみに「校正係」は文字の誤植や慣用句の間違いなどを正す仕事で「校閲係」は文章の整合性やファクトチェックをする仕事だということをこの本で初めて知った。

    どんな言語でも特有の癖があり、語学学習者の頭を悩ませる。ニュアンスによって漢字にするか平仮名にひらくか、間違って広まった慣用句は市民権を得られるのかなど。それは英語でも同様らしい。コロンを使うかセミコロンを使うかダッシュを使うか、"you and me"が正しいけど"you and I"が今では一般的になってしまい修正すべきかどうか迷うなど。エッセイとしてだけではなく、ネイティブでも迷うような細かい文法についても書かれていて非常に勉強になった。

    個人的には、トランスジェンダーの弟が妹になったことで代名詞問題が起こった話がとても興味深かった。
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    投稿日:2021.10.14

  • タマセツ

    タマセツ

    誰もが「プロ」になる、なれる努力を惜しまないことが人々が求める人材になるのだ、と言う強いメッセージを受けた。一部署の一つの歯車としてその役割を確実に、信頼がおける仕事をこなせる人になることが重要で、大切な存在となることをこの書は教えてくれている。転職にも必ずや例え小さな歯車でも仕事における信頼関係があれば十分他者を圧倒するような役職に就くことは間違いない。続きを読む

    投稿日:2021.08.27

  • NORIS

    NORIS

    2021.4.10市立図書館
    ちょうど新学期が始まったところで順番が来てしまい、なかなか読み始められず。
    校正校閲はひとくくりにされることも多いが、ここでは事実関係の精査が「校閲」、言葉や文法の間違いを直し表記を整えるのが「校正」とつかいわける。1978年から「ニューヨーカー」誌(校正が厳しいことで(悪)名高いらしい)で校正者として働く著者によるお仕事まわりエッセイ。紆余曲折を経て職につくまでの序章が終わって、1章では辞書の話からアメリカの綴りと発音の関係についての興味深い話が次から次へと繰り出される。アメリカ英語にも日本の新旧仮名遣いや漢字制限とにたような、綴り方の刷新をのぞむ層と保守派との綱引きがあったことがわかって興味深い。
    校正者だとしれた途端に怖がられる(うっかりした言葉遣いを叱られやしないかと)のが心外とか、いい作家の文章の校正は注意をはらい続けるのが難しいとか、洋の東西に関係なくわかる話満載だった。校正の際に頭を悩ませる具体的な例を読み解くのは英語の勉強にもなるのだけれど、じっくり読む時間がなくて残念。
    (けっきょく三分の一ほど、2章まで読んで返却。またゆっくり続きを読みたい)
    続きを読む

    投稿日:2021.04.10

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