【感想】たった一人のオリンピック

山際淳司 / 角川新書
(4件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • Kanta

    Kanta

    このレビューはネタバレを含みます

     連日のメダルラッシュや最新のテクノロジーにSNS、そしてデル
    タ株の不穏な動き。もし、冷静に東京五輪2020を楽しめていない
    人がいたら、この本をお勧めする。NHKのスポーツキャスターとし
    ても活躍した山際氏、たたずまいは紳士的だったが、内に秘めた熱
    いスポーツに対する愛情を感じる人物だったと記憶している。4年
    に一度という機会や種目を取り巻く社会の現実など、オリンピック
    の厳しさのなか戦っていく人生模様を表現すると共に、ライターと
    してこうありたいと思う山際氏の熱量を感じる一冊である。この本
    からは、派手ではないけれど静かで暖かい、手触り感のある感動を
    味わうことができる。これもまた、オリンピックなのだ。


    ◎3つのキーワード

    ・オリンピック
    ・ポール・ヴォルター
    ・輝かしい一瞬

    ◎3つのセンテンス

    1番目:バイトをしながら二十代の五年間をマイナー・スポーツのオリンピック選手になるという突然の思いつきに費やし、たった一人のオリンピックを戦ってきた男の部屋の一本三〇円の“赤まむし”ドリンクが妙にまがまがしくリアルである。

    2番目:スポーツにおける彼の信念は、収録した「ポール・ヴォルター」最後の文章に集約されている。≪ヘミングウェイが、ある短編小説のなかでこんな風にいっているのだ。「スポーツは公明正大に勝つことを教えてくれるし、またスポーツは威厳を持って負けることも教えてくれるのだ。要するに・・・」といって、彼は続けて言う。「スポーツはすべてのことを、つまり、人生ってやつを教えてくれるんだ」悪くはない台詞だ。≫

    3番目:収録作品が教えてくれるのは、「輝かしい一瞬」を丁寧に切り取れば、過剰な演出がなくとも時代を超えて彼らの魅力は伝わる、ということだ。

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    投稿日:2021.08.01

  • 喜餅/Kimochi

    喜餅/Kimochi

    【概略】
     「これならオリンピック代表になれる」大学生・津田真男が選んだ種目はボートのシングル・スカルだった。部活にも入らず、たった一人で挑んだオリンピック、代表となった津田を待っていた現実はモスクワ・オリンピック日本出場辞退だった。タイトル「たった一人のオリンピック」をはじめ、「回れ、風車」「すまん!」といった五輪に関連するスポーツノンフィクション作品短編集。

    2021年08月01日 読了
    【書評】
     「江夏の21球」「スローカーブをもう一度」の山際さんによるオリンピック種目関連のノンフィクション集。「たった一人のオリンピック」は過去に読んだことがあるものの、何度読んでも面白い。
     スポットライトを当てられた対象となる人物の描写が熱いのだよねぇ。目に見える熱量の時もあれば、静かな熱量の時も。多分、その人物の性格などが反映されているのだと思うのだけど。
     「たった一人のオリンピック」は、スポットライトを当てた人物とそのスポーツは、(その人物である津田さんの凄さは別として)メジャーなものじゃないのだよね。でも、引き込まれる。津田さんの凄さはもちろんあるのだけど、その凄さは華々しくないのだよね。津田さんの発想は(失礼ながら)安直なのだけど、そこからの行動力と継続力、創意工夫、実現に向けてのトレーニングは異常。異常だけど、津田さんの淡々とした空気感が、異常を異様な雰囲気にさせる。このあたり山際さんは「彼は孤独に練習する自分を対象かすることができた」みたいな表現でまとめている。簡単に書いてるけど、異常だもん、これ。そしてビジネスシーンに通じる伝統からの解放、自由な発想なども津田さんの挑戦から学べる。最後の「赤まむし」も生々しい。
     現在、東京大会が開催されていて。きっとここでも沢山の裏側があると思う。残念ながら山際さんは既に他界されているが、もしまだ健在だったなら、誰のどんな裏側を掘り下げたかな。
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    投稿日:2021.08.01

  • ばななサンド

    ばななサンド

    スポーツライターの故山際淳司氏のオリンピックにまつわる傑作ノンフィクション。
    表題のたった一人のオリンピックは出色。

    投稿日:2021.03.09

  • Y.K

    Y.K

    スポーツノンフィクションという分野の先駆けともいえる存在の故山際淳司氏。その山際氏によるオリンピックに関わる種目を題材にした短編集です。登場する種目は、漕艇(シングルスカル)、ソフトボール、棒高跳び、バレーボールなどです。
    オリンピックで金メダルを狙えるような超一流のアスリートを題材にしたノンフィクションも確かに良いです。しかし、本書で取り上げられているのはいずれも無名の、それでいてオリンピック出場に掛けていた人たちです。
    本書の解説でも触れられていますが、誰もが知っている超有名なアスリートではない、無名の選手を描いてもなお、読者を引き込むノンフィクションに仕立て上げる山際氏の技量がいかんなく発揮されている短編集だと感じます。
    「一本のポールに身を託し、そのポールの長さを利用し、バネを利用し、筋肉を緊張させ、伸縮させ、足をバタつかせて一本のバーを乗り越えようとしていた。体がバーに向かって伸びあがっていく瞬間、彼らには何が見えているのだろう(棒高跳びを題材にした短編から)」、「室伏重信というハンマー投げの選手は、重さ7.2㎏の金属の球を投げながら、じつは単に金属の球を投げているのではない。ハンマー投げという種目の中で限界点を遠くへ遠くへとおしすすめながら、実は自分自身を、もっと遠くへ、未知の世界へ旅立たせようとしているのだ(ハンマー投げを題材にした短編から)」これらの文章を読んだだけで、山際氏がここからさらに対象の選手の心理にどう深く切り込むのだろうと好奇心が湧いて来ませんか?
    昨今スポーツを伝える際に特にテレビは「感動」を軸に構成することが多いように感じます。確かに「感動」はスポーツの重要な一面だとは思いますが、ちょっと過剰な演出に過ぎるケースが多く、かえって興醒めな気がします。山際氏のように冷静に、深くスポーツを描くメディアが増えればよいのにと切に感じますし、特にコロナ禍でスポーツの在り方が問われている今こそ、山際氏ならばどのようなスポーツの描き方をされたのか、読んでみたかったと思います。山際氏が40歳代後半で逝去されたのが本当に惜しまれます。
    山際氏の作品の多くが絶版となっている中、新書という形態で再掲載し、再販してくださった角川新書に感謝です。
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    投稿日:2021.02.06

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