【感想】息子と狩猟に(新潮文庫)

服部文祥 / 新潮文庫
(11件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
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ブクログレビュー

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  • NOM

    NOM

    著者初のフィクションは意外にもポップで嬉しい誤算!

    服部文祥さんを有名にしたといえる、サバイバル登山関連のノンフィクションは以前に読んでいましたが、この『息子と狩猟に』は服部さん初の小説とのこと。死生観が伝わるようなノンフィクションさながらの作風なのかなと思ったのですが、意外や意外しっかりエンタメしていて(エンタメを軽視している訳ではないです)素直に面白いと思える読後感でした。もちろんそういった死生観や、命を奪う行為について考えさせられるものではありましたが、けして重厚な手触りではありません。

    特殊詐欺グループのリーダーと、週末狩猟をする男とその小学生の息子。全く別々の人生が、ある一点に向けてじわじわと近づいていき、二つの視点の入れ替わりがだんだん早くなり、ついに交差した瞬間に物語はクライマックスを迎えます。読み始めから、並走する二筋のストーリーがいつどこで交差するかワクワクさせてくれました。

    むしろ併載の短編「K2」のほうが、読む前に私がイメージした作風に近いけれど、それでも予想以上にしっかり盛り上がりのある展開や構造で、小説として楽しめるものでした。

    登山家というイメージもあり、俗っぽさを遠ざけ、やや難しく重たい作風なのかなと思ったけど、まさかここまでポップだったなんて嬉しい誤算でした。
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    投稿日:2024.01.15

  • charlie-iruka

    charlie-iruka

    著者はサバイバル登山家とのこと。臨場感が半端ない。中編が2つ、どちらも生きることに直結した話だった。

    投稿日:2023.01.18

  • ユージ

    ユージ

    生きると言うことは他の命を奪って自分の命をつなぐことなのだということを考えさせられる本。人間が生きるために獣を殺して肉を食べる、という日常的なことから、相手を殺さなければ自分が殺されるというシチュエーションや、人肉でも食べないと餓死してしまうというシチュエーションまで、「これをしないと死んでしまう」または「殺される」という状況で人間はどんな思考をしてどんな行動を取るのか?またそういうシチュエーションを切り抜けて生き残った後、どうやって心の安定を保とうとするのか?深い。続きを読む

    投稿日:2021.11.14

  • himatsubushi23

    himatsubushi23

    このレビューはネタバレを含みます

    この小説には2編の短編が描かれている。一つは「狩猟」、もうひとつは「登山」がテーマである。
    どちらも服部さんのこれまで培ってきた経験が活かされたテーマではあるが、もちろん「サバイバル登山家」なんて名乗る人の書く小説が、そんな単純な作品なはずがない。

    私たちが暮らす人間界と、動物たちが暮らす山々などの自然界。
    狩猟や高所登山には厳しいルールやマナーが存在するのだが、人間界にあるタブーやモラルは、自然界ではタブーやモラルとして存在するのだろうか?

    夜中に鹿を撃つこと(捉えること)はいけないことなのか?
    サバンナでライオンがインパラを捉えて食べることはいけないことなのか?
    仲間を見捨てて自分だけが生きようとすることはいけないことなのか?
    チーターに狙いを定められたシマウマを見捨てて自分だけが逃げることはいけないことなのか?

    それぞれの世界でのタブーとモラルの境界線を考えさせられる、一癖も二癖もある作品。

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    投稿日:2021.07.14

  • kumalibre

    kumalibre

    人間と動物、同じ1つの命なのに価値や重さに違いがあるんだろうか。人間は殺してはいけないけど動物は許可があれば殺しても良い。その違いって、何だろう。倫理的に当たり前のことかもしれないけど、正面から向き合って考えたら明確にその理由や根拠を言語化するのって簡単ではない。人間社会で生活していたら疑問にも思わないことを自然の世界の中で生きる時間を持つ筆者が突き付けてくる感じ。ハラハラする展開にスリルを味わいつつ、読後にズッシリと考えさせられた。続きを読む

    投稿日:2021.02.13

  • ikawa.arise

    ikawa.arise

    狩猟と山岳、ふたつの異なる極限状態で人間が何を選択するかを問い、哲学的な思考実験の様相をも呈する、表題と「K2」の二篇。作品内で扱われる詐欺犯罪、狩猟、山岳のそれぞれに対する情報が詳細で、リアリティによって作品の世界に引き込まれる。厳しいテーマとともに現実的かつドライな作風で、感傷的な要素は希薄。二作を通じて、女性が登場しないことも特徴。サバイバル登山家が書いたという事実に関係なく、小説作品として楽しめた。

    「息子と狩猟に」136ページ

    テレアポ詐欺チームのリーダー加藤。普段は新聞社に勤務し、休日に初めて息子を連れて狩猟に出掛けた倉内。物語は二人の視点を交互に細かく切り替えながら進行する。長くない紙数のなかで犯罪小説と狩猟文学のふたつを混在させた作品。オレオレ詐欺と息子との休日の狩猟という、いかにもミスマッチな二つの物語が、奥秩父山中に向かって徐々に接近する。息を呑んで、二つの線が交錯する瞬間を見守る。

    「K2」63ページ

    世界で最も難易度の高い山のひとつで、死亡率三割前後とされるK2の頂上を目指す、日本人五人の登攀チームの様子を描いた山岳小説。登頂のさなかには二週間ほど前に帰ってこなかった情報のあるイタリア人男性らしき遺体も目撃される。主人公はチーム最年少のタカシ。天候不順による厳しい状況で登攀は困難を極め、五人はそれぞれ生死を賭けた決断を迫られる。

    ----
    「秘密は自分の口からバレる。しゃべらなければ絶対にわからない」
    「ケモノは人間が思うほどバカじゃない。人間は自分で思っているほど利口じゃない」
    続きを読む

    投稿日:2021.01.26

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