【感想】日本のピアノ100年:ピアノづくりに賭けた人々

前間孝則, 岩野裕一 / 草思社
(3件のレビュー)

総合評価:

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  • アワヒニビブリオバトル

    アワヒニビブリオバトル

    第101回アワヒニビブリオバトル「再出発」で紹介された本です。オフライン開催。チャンプ本。
    2023.7.4

    投稿日:2023.07.08

  • ia

    ia

    「日本のピアノが世界に認められるようになるまでの技術者達の試行錯誤」のような話を想像していたが、どちらかというと特に前半はピアノメーカーの隆盛と経営の難しさといったことがよく書かれていた。

    時は明治、元武士である流しのなんでも修理人・山葉寅楠がたまたまオルガン修理を依頼される所から日本のピアノ作りは始まる。
    開国、世界大戦、高度経済成長など波乱多い時代に、時に西洋に習い、時に科学技術に頼りながら「日本のピアノ」が作られていく。

    ピアノは大量生産による工業製品としての面を持ちながらも、一流のアーティストが音楽を生み出す工芸品でもある。
    大量生産では、熟練の技術者の手作業によって生まれる音には敵わない。しかし効率が悪くなるほど経営は成り立たなくなる。品質も維持できない。
    昔は大小いくつものピアノメーカーがあったそうだが、現在残っているメーカーを数えるとその舵取りの難しさがわかる。
    それぞれの明暗を分けたものは何であったか。
    読み物としてもビジネス書としてもなかなか面白い。

    西洋楽器であるピアノを作るにあたって、作っている人間が西洋音楽もピアノの音の良し悪しもまるで分からないまま技術だけ上がっていくというのは、本場から遠く離れた地ならではのエピソードだ。日本のピアノメーカーにピアノを弾く人間は長いこと居なかったそうだ。
    日本におけるピアノは「音楽」ではなく「西洋への憧れ」や「商売」が出発点だったということか。
    日本のメーカーがピアニスト達と二人三脚で改良に励み、コンサート・グランドを作り上げ世界に認められるのは主に戦後になってからになる。

    自分は家にピアノは無かったのだが、むかし木管楽器を少しやっていた。木でできた楽器というのは一つひとつ音も演奏した感じも違う。例え同じメーカーの同じ型番であっても、一つとして同じ木が無い様に、全く同じ響きを出す楽器は(電子楽器でもない限りは)おそらくない。
    どこでどれを買っても同じ性能を発揮しなければならない工業製品と違って、そこは楽器の良いところでも悪いところでもあるだろうが、ピアノメーカーの目指すべき所とは何処だろうか。
    本書の中で「ベーゼンドルファーにスタインウェイの響きを求めてもナンセンス」といったフレーズがでてくる。
    ヤマハならヤマハの、カワイならカワイの良さがあるのだろうが、ピアノの売り上げが年々減っている今、より多くの人に選ばれるのは必須条件だろう。
    しかしながら、世界中で同じ楽器ばかり選ばれるというのは、音楽という芸術の世界ではひとつの限界というか、停滞であるように感じる。

    世の中、良いものが自然と残っているのではなくて、悪くても残そうと努力したものだけが結果的に残っているんだろうか。
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    投稿日:2020.07.10

  • Y.K

    Y.K

    日本の産業史に造詣の深い著者による国産ピアノの歴史を俯瞰するノンフィクション。浜松に住んでいた山葉寅楠がオルガン修理を請け負ったことがきっかけで楽器製造に乗り出し、のちのヤマハに至り、当時のヤマハに勤めていた河合小市が独立して現在のカワイに至るなど、ピアノ産業の歴史を明治初期から辿っていきます。
    当時のピアノといえばスタンウェイ(アメリカ)、ベヒシュタイン(ドイツ)、ベーゼンドルファー(オーストリア)といった海外製品の独壇場でした。それを研究し、日本独自のピアノ生産をまずはアップライトピアノから取り組みます。同じように作っても、海外と日本との材料となる木材の違いや湿度の違いによる影響でひび割れや反りが発生したり、全く同じに作っても、同じ音が出ないなどの困難に直面します。
    いつしか「スタンウェイに負けないピアノを」が目標となりました。本書で何度も触れられていますが、ピアノという楽器を製造するには、精密に木材を加工したり、塗装するという職人的な伝統工芸要素と、アクションに使われる金属部品等を効率的に生産する大量生産的な要素の相反する性質が必要となります。
    アップライトピアノの生産はその後者に軸足を置くものですが、それを通じて製造メーカーとしてある程度のレベルに到達したとき、次に直面したのが一流ピアニストがコンクールや演奏会で使用するコンサートグランドピアノの製造でした。こちらは大量生産のアップライトピアノとは異なり、1音1音の表現を極める極めて職人的な世界です。当時の日本にはクラシック音楽のピアノ曲の芸術性を理解できる人材が不足しており、そもそも「どういう音を求めるべきか」という視点から取り組む必要がありました。「スタンウェイに勝るピアノを」が次の目標となったのです。
    製造技術者とピアニストとの協業の末に、ついに日本のコンサートグランドピアノが一流ピアニストに認められ、海外の主要コンクール等で使用されるに至るまでの様々な関係者の取り組みを丹念に描いています。
    私自身はピアノを弾くことができませんが、聴くのは大好きです。この楽器に、これほどの歴史があったとは本書を読むまで全く知りませんでした。読み応え十分のノンフィクションです。
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    投稿日:2020.01.19

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