【感想】恋の蛍~山崎富栄と太宰治~

松本侑子 / 光文社文庫
(8件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
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ブクログレビュー

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  • cronista

    cronista

     心中未遂を繰り返す太宰治と、最期を遂げた山崎富栄の生涯を、綿密な取材をもとに小説として書き上げた力作。着物姿で島田髷を結った表紙の写真が有名なので、遊女だの、芸者だの、酒場の女だのと、何かと彼女を卑しめたい後世の輩は言うが、これは当時の未婚の女性が正装をしたときの典型的な姿であって、美容学校のモデルをつとめたときの写真。太宰の作家仲間が、太宰の死後、彼女を悪し様に言ったため、今でも、太宰を死に追いやった悪女というイメージが一般的なようだけど、違うのだ、実際は。太宰が甘ちゃんだっただけなのだ。
     文学の力というものを、まざまざと見せつけた本だ。
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    投稿日:2024.04.30

  • funatotai

    funatotai

    このレビューはネタバレを含みます

    第29回新田次郎文学賞受賞作
    太宰治の最後、山崎富栄との玉川上水への入水自殺。
    そこに至る経緯を、徹底的に取材して書かれている。

    今まで、山崎富栄という女性を
    ただ太宰治と最後に死んだ女性としてだけ知っていた。
    しかもその面影は、日本髪に和服の楚々とした美人。
    なんとなく、太宰のそれまでの経歴から
    カフェの女給さんとか芸者さんとかだと思っていた。
    ところが、実際は全く違った!

    よく使われる日本髪の写真は、
    冨栄が18歳(亡くなる10年前)の写真で、
    日本髪のモデルをした時の写真だった。
    というのも、富栄の父親は美容洋裁学校の創立者で
    立派な教育者、成功した実業家だったからで、
    富栄はその後継者となるべき人物だった。
    富栄自身も、美容師としての立派な経歴をもつ
    テキパキとしたキャリアウーマンだったのだ。

    そんな富栄さんが、どうしてあんな最後を?
    不思議さがすごく膨らんだ。

    関東大震災、その後の第二次世界大戦という
    大きな歴史的不幸が関係している、と言えば大げさか

    大震災でまず学校が焼失するという1回目の悲劇
    戦争でさらにパーマを含め事業ができなくなる悲劇
    富栄自身も、結婚後1週間で夫が出征しそのまま他界する
    これらの不幸がなければ、きっとあんな最後はなかった
    と思う。

    人間失格で見るように、
    ずっと不安定だったらしい太宰治と違って
    富栄は合理的で、積極的で、実力のある女性だったはず
    それが、太宰の才能を支えるという一念からなのか、
    人を一途に恋する不思議な力のせいなのか、
    太宰を最後まで支えるために、一緒に死ぬという。

    不思議で、不思議で、
    私には全然理解できなかった。
    ますます謎が深まってしまった。

    それが「恋」なのだろうか?

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    投稿日:2023.01.01

  • しずく

    しずく

    太宰が水商売風の女性と玉川上水道で入水自殺をしたという私の勘違いも甚だしい。山崎富江さんは語学にも堪能なキャリア・ウーマンの美容師だった。しかも夫は三井物産に勤務する有能な男性で、婚礼後わずか10日でマニラへ単身赴任し、そこで彼は戦死を遂げている。彼女はうら若き未亡人でもあった。

    山崎富江さんの父・晴弘氏はお茶ノ水美容洋裁学校を創設し、これからの女性も仕事を持つべきだと自ら熱心に指導し、自分の娘富江にも技術を伝授している。富江さんは卒業後、美容学校で指導者となり、その後東京や鎌倉で腕の良い美容師として評判を取っていたのだ。松本さんは、なぜその富江さんが女給まがいに(差別的ですが当時の新聞記事のまま)おとしめられて報道されたのかを富江さんの綴られた日記などを取材して執筆している。
    読み終えて、富江さんの小説でありながら、本当の主人公は父親の晴弘だったように思えて仕方がない。彼は他にも娘や息子を戦争でなくし、太宰を自殺にそそのかせた娘の父親として汚名を着せられ、その後の人生を歩んでいる。津島家と美知子夫人に遠慮し、墓碑に富江さんの名前が刻まれたのはだいぶ後になってからという。
    (2010、7、14)
    続きを読む

    投稿日:2022.05.02

  • marinnotousan

    marinnotousan

    山崎富栄と太宰治が出会ってからの時間が、予想以上に短いことにまず驚く。
    激変する時代の変わり目の必然だったかのような二人の出会いと死が側で見ていたかのように蘇る。

    投稿日:2020.06.06

  • hito-koto

    hito-koto

    松本侑子 著「恋の蛍 山崎富栄と太宰治」、2009.10刊行、2012.5文庫。昭和23年6月13日、玉川上水に入水、その6日後の19日、投身現場から1000m下流で発見される。愛人との情死事件により、太宰治という名は知れわたり、本は飛躍的に売れた。この本は、山崎富栄の方に焦点を置いて書かれています。美容学校校長の令嬢で才媛、外国語が堪能で、結髪・着付けなど高度な技術をもつ職業婦人。絞殺して無理心中とかいろいろな中傷にさらされましたが、喀血する晩年の太宰につきそい、結核の感染もおそれず、献身的に看護して、代表作「人間失格」の執筆を支えたのは紛れもない事実に違いない!続きを読む

    投稿日:2019.10.13

  • ユウロ

    ユウロ

    夜を徹して読了。涙がこみ上げてくる力作評伝小説。太宰治とともに入水自殺を遂げた山崎富栄さんの生涯を軸にして描かれている。ファンではあるけれども作中の太宰には腹が立って仕方がない。視点は客観的で、その上胸がキュンとなるくらいロマンチック。富栄が亡き夫とデートしたシーンには涙した。太宰と富栄の距離が縮まってゆくシーンも臨場感がありかなりドキドキ。富栄さんを亡くされたお父様の寂寥感には涙がとまらない。きちんとした家庭に生まれた優秀なお嬢さんであった富栄さんが天才作家と情死するとはやりきれない結末だ。名作です。続きを読む

    投稿日:2015.12.01

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