【感想】シュガーレス・ラヴ

山本文緒 / 角川文庫
(24件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
3
12
7
1
0

ブクログレビュー

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  • レモン

    レモン

     じわじわハマり出している山本文緒作品。今作は様々な病気に悩む女性を描いた短編集。アトピー性皮膚炎は自分も悩まされているので共感ポイントも多いが、生理痛や睡眠障害、肥満など相変わらず心がザラつき印象に残る作品がたくさん。ここまでのイライラには悩まされないが、生理痛(PMS)での破壊衝動に駆られる気持ちは理解できる。自律神経失調症では、主人公が彼女にちゃんと向き合おうとしたラストが良かった。健康こそすべて。何らかの病気を抱えてしまったこと自体は悪いことではないが、人生を楽しもうと思うと土台がしっかりしていないといけないと改めて思い知らされる。続きを読む

    投稿日:2024.04.22

  • さてさて

    さてさて

    あなたは『病気』を患っているでしょうか?

    この世には数百種類にもおよぶ『病気』があると言われています。例えばこの一年を思い返しても、あなたも私も何かしらの『病気』に罹ったのではないでしょうか?もちろんそれは、必ずしも病院で治療をしてというものではないかもしれません。しかし、風邪や頭痛、そして花粉症…と、私たちが『病気』と無縁の日々を送ることはなかなか難しいものです。

    “健康第一”という言葉がある通り、『病気』を排した日常を送ることは何よりも大切だと思います。しかし一方で、現代の医学をもってしても容易には解決し得ない『病気』も存在します。逃れたくても逃れられない『病気』の数々。私たちがこの世を生きていくにはそんな『病気』と上手く付き合っていくことも大切なのだと思います。

    さてここに、『骨粗鬆症』、『アトピー性皮膚炎』、そして『便秘』といった身近によく聞く『病気』を患う主人公が登場する物語があります。身近な『病気』故、主人公たちの悩み苦しみがよくわかるこの作品。そんな『病気』と共に生きる主人公たちを見るこの作品。そしてそれは、『いったい私が、何をしたというのだろう。これは、なんの罰なのだろう』と思い悩む主人公たちの生き様を見る物語です。

    『未矢(みや)さんが両足首を骨折して入院しました』という『留守番電話』の伝言を聞くのは主人公の『私』。『何があったのかは知らないが両足首を骨折した』のは、『血は繫がっていないにしても』、『ほかならぬ私の娘なのだ』と思う『私』は、『翌朝一番の飛行機で東京に向か』います。『血の繫がった実の娘が入院したというのに、会社を休もうという発想は微塵もない』夫を思い、『私はいったい、誰の何なのだろう』と思う『私』が、病室へと入ると『お友達ですか?』と『スーツを着た中年の男性』に話しかけられます。それに、『私は後妻なので、彼女と歳が近いんです』と『簡潔に事実を述べ』る『私』は『義理の娘の未矢は二十五歳で、私は三十五歳。十歳しか私達は違わない』という二人の関係を思います。そんな『私』は、『失礼ですけど、どちら様ですか?』と男性に聞くと『私は未矢さんの上司』、『未矢さんは私どもの会社に、昨日入社したばかり』と話す上司は事の顛末を説明します。『歓迎会も兼ねて』、『鰻屋に行った』ところ『そこが座敷で』、でも『一時間ぐらいしか座ってない』にも関わらず未矢は立てなくなってしまい、『病院に連れて行ったら』『足首が両方折れてた』という結果論。『彼女は骨粗鬆症という病気になっていた』という事実を知り、『彼女はまだ二十五歳』…と愕然とする中に、『二週間ぐらい入院して、それからしばらく自宅療養』が必要と理解した『私』が『とりあえず治るまで家に帰ってらっしゃいよ』と言うも『ぶすっとして』『一言も言葉を発し』ない未矢。そんな未矢の様子にやむなく『私』は、『とにかく、パジャマとか下着とか持って来てほしいものをメモに書いて』と言うと鍵を受け取り、未矢に書かせた地図メモを持って病室を後にしました。『都心から私鉄に乗って十五分、徒歩五分の所に』ある未矢のマンションへと着いた『私』は部屋へと入ります。『汚れひとつない』『ミニキッチン』を見て、『まったく料理をしていない』と認識する『私』。『ろくなものを食べてないんだろう… これじゃ老人の骨ですよ。簡単に折れちゃうわけだ』と『X線写真を指さしながら』『眉間に皺を寄せた』医師のことを思う『私』は、『未矢が退院するまで、私がこの部屋に泊まって彼女の世話をすることになるのだろうか』とこれから先のことを思います。そんな時、『床に置いてあった留守番電話がちかちか瞬いていることに気がついた』『私』は、再生ボタンを押します。『未矢?僕です。上原です。あのな、悪いけどやっぱりもう会わないでおこうよ。ずるずる続けてても仕方ないだろう。まだ若いんだから、独身の男を捜しなよ』と、『そっけない男の声がして、メッセージは切れ』ました。そして病院へと戻った『私』と、血の繋がらない娘・未矢のそれからが描かれていきます…という最初の短編〈彼女の冷蔵庫 ー 骨粗鬆症〉。二十五歳の若さにして『骨粗鬆症』を患う血の繋がらない娘との関係性を描きながらも読後感良くまとめた好編でした。

    “恋、仕事、家庭。現代女性をとりまくストレスを描いた絶品短篇集!”と内容紹介にうたわれるこの作品。”現代女性”という表現から今の世を思い浮かべますが、実はこの作品が刊行されたのは1997年5月のこと。”現代”とは、今から20年以上も前のことになり、時代を感じる表現が多々登場します。『ワープロ』、『ビデオ』、そして『パソコン通信』といった言葉もそうですがオフィスの会話がなんと言っても衝撃です。新しく採用された女性社員(元モデル)が社長から紹介された後、指導を任された男性社員が、彼女に業務を教え始めるという場面で登場する会話です。

    『ほっそいウェストだなあ。僕が去年まで付き合ってた女の子なんか、トドみたいだったんですよ…でも他の男に妊娠させられて、結婚しちゃったんですよ。この前久しぶりに電話がかかってきて、今は幸せに暮らしてるって言ってました。たまには遊ぼうねなんて言っちゃったりしてね、それってもう一回やっていいってことかなあ。どう思います?』

    ごく普通のオフィスの場面が描かれていく中にこの会話が登場します。今の世であってもさまざまな会社があるとは思いますが、この会話の内容は絶対にあり得ません。しかし、20余年前にはこの会話の内容があり得たことをこの作品は証明しているとも言えます。本筋ではないですが、かなり衝撃を受けました。90年代のオフィスを経験された皆様、この国はこの20余年でこんなにも変化したのでしょうか?また、たった20余年前でしかない90年代ってこんな会話がオフィスで当たり前に話されていた時代だったのでしょうか?

    レビュー冒頭、少し脱線してしまいましたが、この作品の大きな特徴は収録された10の短編のそれぞれに何かしらの『病気』を患う女性が主人公として登場するところです。このような形態の作品としては加納朋子さん「トオリヌケキンシ」があります。同作は6つの短編から構成されており、やはりそれぞれの短編に何かしらの『病気』を患う主人公が登場します。しかし、加納さんの作品と山本さんの作品は少し雰囲気感が異なります。加納さんの作品の『病気』は”場面緘黙症”、”相貌失認”、そして”醜形恐怖症”と言った私たちに馴染みの薄い『病気』ばかりであるのに対して、山本さんの作品の『病気』は誰もが知るメジャーな『病気』ばかりであるところです。とは言え、両者とも現実世界に実際に診断される『病気』ではあります。では、山本さんの作品に取り上げられる『病気』を一覧にして見てみましょう。

     ・〈彼女の冷蔵庫 ー 骨粗鬆症〉
     ・〈ご清潔な不倫 ー アトピー性皮膚炎〉
     ・〈鑑賞用美人 ー 便秘〉
     ・〈いるか療法 ー 突発性難聴〉
     ・〈ねむらぬテレフォン ー 睡眠障害〉
     ・〈月も見ていない ー 生理痛〉
     ・〈夏の空色 ー アルコール依存症〉
     ・〈秤の上の小さな子供 ー 肥満〉
     ・〈過剰愛情失調症 ー 自律神経失調症〉
     ・〈シュガーレス・ラヴ ー 味覚異常〉

    いかがでしょうか?これがこの作品の〈目次〉でもあるのですが、とても〈目次〉には思えませんね。まさしく病名の一覧です。このレビューを読んでくださっている方の中にもこれらの『病気』を患われた方もいらっしゃるかもしれませんし、そもそも『病気』の主人公が登場するとなると、いずれの短編も沈鬱な雰囲気感に包まれる読書を余儀なくされる、普通にはそのように思います。しかし、この作品は違うのです。『病気』に苦しむ女性たちが描かれていくにも関わらず不思議と読後感は悪くない…それがこの作品の特徴でもあります。

    では、10の短編から私が特に気に入った三つの短編についてもう少し詳しくみてみたいと思います。

     ・〈ご清潔な不倫 ー アトピー性皮膚炎〉: 『先月の青果の補充データ、見せてもらえないかな』と主任の一ツ橋に声をかけられたのは主人公の森。そんな森は『南の島にでも行って少し焼いてきた方が…』と一ツ橋に言われ席を立ちます。そして、戻ってくると『不用意なことを言ってすみません…今晩、飯を奢らせて…』という一ツ橋のメモが残されていました。『真夏でも』『長袖のブラウスを着ている』森は『アトピー性皮膚炎』を患っています。場面は変わり、居酒屋で一ツ橋と会話する森は、彼の娘も同じ病気だったことを聞きます。そして、唐突に『うちに泊まって下さいませんか』、『こんな肌だから、もう長いこと男の人と寝てないんです』と話し出した森…。

     ・〈秤の上の小さな子供 ー 肥満〉: 『失礼を承知で』『彼女に体重を尋ねてみた』というのは主人公の柊子。『七十キロを出たり出なかったり』と答える美波に聞き返され『五十キロを出たり出なかったり』と答える柊子は、『それにしても偶然ってあるのね』と話題を変えていきます。『大学時代の同級生』という美波と偶然に再会した柊子は『車を買い換えたばかり』という美波に誘われます。そして、待ち合わせに来た柊子は『渋いあずき色のポルシェ』に驚きます。そして、乗り込んで今に至る二人。『一目で同胞』という見た目で仲良くなった二人でしたが『信じられないほど男の人にもてる』美波とやがて疎遠になった柊子。そして、二人はプールへと向かいます…。

     ・〈シュガーレス・ラヴ ー 味覚異常〉: 『最近ものの味があまりしないなとは感じていた』のは主人公の佐伯。社食で『まったく味がしない…スポンジでも食べているような嫌な感じがする』という経験をした佐伯は『現代人はものすごく辛いものや、化学調味料や防腐剤の効きすぎたものばかり食べているせいで、味覚障害を起こす確率が高い』という雑誌の記事を思い起こします。『三月末日で私は会社を辞める』という佐伯は『フードコーディネーター』として独立することになっています。そんな佐伯は『秋口から私の部署に配属になった』『新人君』に何かと誘われることを面倒に感じています。そんなある日、『仕事上の大事な話』と『新人君』に誘われた佐伯は…。

    三つの短編をご紹介しましたがいずれも短編タイトルに触れられた『病気』を患う女性が主人公として登場します。そんな女性たちは、”恋、仕事、家庭”の中でさまざまなストレスを抱えています。

     ・『私はいったい、誰の何なのだろう。会社の雑用係?夫の秘書?そして、こういう時だけ母親になることも求められる』。

     ・『私はきっと、コンピュータの一部だと思われているのだろう』。

     ・『女であるというだけで、どうしてこんな目にあわされるのだろう』。

    それぞれの短編の主人公たちはそれぞれのストレスの先に、それぞれの『病気』と対峙していきます。この作品が書かれたのは確かに20年以上前の90年代のことではあります。しかし、そこに悩み苦しむ女性たちの思いは、2024年の今、この現代社会にあっても大きな変化はないのではないかと思います。人が生きていく中で、女性として生きていく中で、さまざまに思い悩み苦しみながら、それでも前を向いて歩いていく女性たち。この作品では、『病気』に立ち向かいながら、『病気』と共に生きていくそんな女性の強さが描かれていたのだと思いました。

     『いったい私が、何をしたというのだろう。これは、なんの罰なのだろう』。

    『病気』の名前がタイトルに記された10の短編から構成されたこの作品。そこには、『病気』に苦しみながらも、『病気』と共に生きていく女性たちの姿が描かれていました。取り上げられた『病気』が20余年の年月を経ても人を苦しめ続けていることに驚くこの作品。そんな『病気』と共に生きていくことの意味を思うこの作品。

    ストレスだらけの日常の中に、それでも生きていく他ない人の内面を鮮やかに描き出した、そんな作品でした。
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    投稿日:2024.03.11

  • みたらしだんご

    みたらしだんご

    ストレスを抱え、体調を崩す女性たちの10作の短編集。
    1話1話は短いけれど、どれも話がうまい、、、
    私自身、人を性別で判断するのは好きではない。女として生きてきて、男だったら良かったと思うことも何度もあった。それでも、「男女平等」が大切だと言われても、やっぱり男女は身体の作りが違う。
    男に生理痛はないし、男の方が筋肉と力があるからこそ、女にはできないことができたりもする。
    そして女も都合よく「女」を武器にするし、「女だから」と壁を作ったりする。性別に差があることは事実だ。

    周りの人に相談できず、溜め込んでしまう女性たちの姿はかなりリアルで、ただのフィクションには思えない、この社会のどこにでもいる女性たちの話だった。
    体調を崩すまでストレスを溜め込まないように気をつけなきゃな、、、
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    投稿日:2023.11.24

  • さりー*

    さりー*

    このレビューはネタバレを含みます

    リアルな人間の、女性の姿が描かれている。性別で何かを語るのはあまり好きではないけど、それでも生理は女性という性から切り離せない。みんなにかに耐えながら生きているんだな。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.11.11

  • 四季子

    四季子

    大好きな山本文緒さんの本。
    女性が主役の短編小説です。
    みな我慢したすえに体調を崩しています。
    相変わらず女性の嫌な部分を描くのがとても上手です。
    でも共感出来る部分もきちんと描かれています。
    手を差し伸べたくなるような気持ちになります。
    みな生きていくのに必死です。
    続きを読む

    投稿日:2023.05.30

  • こしあん

    こしあん

    このレビューはネタバレを含みます

    身体や心の一部を病んでしまった女性達を題材にした短編集。
    タイトルに病名が付いている所が新鮮で面白い。
    骨粗鬆症がテーマの『彼女の冷蔵庫』が好きだったな。
    生理痛がテーマの『月も見ていない』は生々しいのと、物語最後の不快感もあって印象に残っている。

    何でどいつもこいつも不倫をしたがるんだ、なんて思いつつ読了。面白かった。
    健康には気をつけないと。

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    投稿日:2023.05.14

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