【感想】「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨

大木毅 / 角川新書
(21件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
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ブクログレビュー

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  • matthewgp

    matthewgp

    第二次世界大戦に興味がない人でも、本書で主題として取り上げているロンメルという名前を聞いたことがあるという人は多いだろう。ナチスドイツの軍人としてアフリカ戦線で活躍した彼は、ドイツの軍人としては過去から現在にかけて最も有名な軍人の1人だと思う。 本書はそのロンメルについて、その伝説と事実を切り分けた上で、軍人としての評価をすることを目的とした1冊だ。

    最初に告白しておくと、自分は別にロンメルに対して特別な思いがあるわけでもないし、彼の伝記を読んだことがあるわけでもない。 ただ戦略と戦術の究極的な活用は求められる戦場において、卓越した能力を見せたのであれば、一度は詳しく知っておきたいと思ったのだ。

    結論から先に言えば、本書におけるロンメルの評価は「勇敢にして偉大な戦術家ではあったが、戦略家としては凡庸であり師団長以上の素質はなかった」ということになる。 この評価は決して著者だけのものではなく、現代におけるロンメルの一般的な評価と言えるらしい。 本書では何故にそのような評価になったのか、そして彼がそのように評価される軍人になったのはどのような理由なのかを丁寧に解きほぐしていく。 また決して主題ではないと言え、そのプロセスの最終章としてロンメルがヒトラーの暗殺に関わっていたのかと言う疑問に対しても著者なりの回答を提示する。


    本書を通読して感じるのは、戦術家と戦略家と言うのは決して同じ素養を求められるものではないし、戦略家は多くの学びと経験から生まれてくるのだと言う当たり前の事実だ。 漫画や小説ではしばし天才的な戦略家というのが登場してくるが、残念ながら現実の世界においてはそのような期待をする事はもはやできない。もちろん素養がないものが優れた戦略家になる事は決してないと言えるが、複雑な事象を大局的な観点からコントロールするためには、座学での学びと実際での経験を融合させることが不可欠なのだ。

    本書によれば、プロイセンとその後のドイツにおいてメインストリームを歩んだわけではないロンメルは、そのような学びを提供される機会がなかったらしい。 また彼は、その生来の性格上、いわゆるデスクワークが好きではなかったようだし、戦場において後方から指揮を取ることも好まなかった。さらに 現在の軍事活動においては不可欠となる補給についてもあまり注意を払う事はなかったらしい。数十万人やそれ以上の軍人の生殺与奪を握る人間としては、著者が言うように失格なのだろう。

    一方でそのような欠点、例えば常に前線で指揮をすることを好むであるとか、独断専行や果敢な判断と言うのは戦場の現場において指揮を行う戦術家にとっては好ましい性質となる。 本社では、彼のそのような特質により特に彼のキャリアの前半で多くの戦果を勝ちとったことが丁寧に説明されている。


    本書は新書という形をとっているが、戦場に関する記述についてはあまり図表がなく、事前知識を必要とする部分が多くある。またロンメルの一生を描くと言う性質上、彼が関わった多くの人間が次々登場しては去っていくために、 人間の名前を覚えるのでも一苦労だった。 そういった意味ではわかりやすい戦場の英雄端や紋切り型の軍人に対する評価を期待する人には、あまり本書を向いてるとは言えない。 丁寧な記述を口にせず、紋切り型ではない人物評価を読みたいという硬派な読者向けの一冊に仕上がっていると思うし、 戦争や軍事史に関する本と言うのは本来はこうあるべきなのだと思う。
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    投稿日:2024.03.04

  • cinejazz0906

    cinejazz0906

    このレビューはネタバレを含みます

    ヒトラー暗殺計画に加担したと追及され、非業の死を遂げたドイツ国防軍の英雄ロンメル将軍の虚像と実像を、『独ソ戦』の著者・大木毅氏が最新学説から分析された英雄神話の解体新書。 ロンメルは勇猛果敢、師団長としては適格であるが、昇進し、作戦的・戦略的な知識を要求されるにつれ、その能力に限界ありと指摘された。故に危険を冒しても成功をつかむ必要があり、自らの功績を誇張せずにいられなかった。その努力の結果、総統の愛顧を受けて、思いがけぬ高みに昇りつめた。総統暗殺の陰謀に、どの程度関与したのか確たる証拠はないが、服毒自殺を強いられた死顔には、蔑みの表情が深く刻まれていたという。 ヒトラ-に傾倒し、自己顕示欲とナチスの一大プロパガンダに翻弄された、栄光と挫折の己の生涯への蔑みであったかも知れないと、著者は締めくくっている。

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    投稿日:2024.01.02

  • kun92

    kun92

    昔読んだ戦車の本で、砂漠の名将的に取り上げられていた覚えがある。

    戦後、敵であった英国からも名将と称えら得ていたのが、いやアイツは功名心の塊でろくでなしやで的な批判があり、その批判も批判するための捏造だって証拠が上がったり。

    少なくともそういう研究対象になる、有数の軍人ではあったわけだ。

    生まれやその他の要因で軍の出世の主流には乗れず、上がっていくためにはアピールが必要だった。コンプレックスの塊もあったのかな。
    それでまあ、それを実現するための才能に恵まれていたわけだ。あり得ないような戦果をあげて、ヒトラーにも気に入られて、ぐいぐいとのしあがっていった。

    ところが戦術面では極めて優秀であったのが、戦略とか作戦とかになると、全く弱いという面が、偉くなってから露呈する。

    大日本帝國陸海軍とか、日本プロ野球とかみたいなもんか。

    最後は破滅。

    もっとも戦場において、非人道的な行為には一切背を向けていたのは事実らしい。戦争自体が非人道的ではあるが。

    戦後長年経っても、研究者を魅了する人物なんだろうな。

    沢山の戦闘が詳しく書かれているが、そこは興味ある人向け。
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    投稿日:2023.08.15

  • あがり

    あがり

    ドイツでアウトサイダーとして社会に出てから軍で目覚ましい活躍を重ね、出世していき、伝説的な将軍となったロンメル。

    ヒトラーに重用されたこと、運の良さ

    ナチスにうまく利用もされた。私見だが名前の響き、顔の良さも宣伝のために好都合だったのではないか?

    読了120分
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    投稿日:2023.08.09

  • てつ

    てつ

    こういう近代戦の戦記を本で読んだのは初めてかもしれない。
    歴史フィクションでカッコよく描かれている将軍という存在が、現実の戦争においてどういうものなのかについて、よりクリアに見えてきた。

    投稿日:2023.05.19

  • seinimentai

    seinimentai

    第二次世界大戦時、ドイツの陸軍軍人として活躍し、悲劇的な最期を遂げたロンメルについて、最新の研究を元に毀誉褒貶を余すところなく描いた一冊。

    投稿日:2020.06.21

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