【感想】神は、脳がつくった―――200万年の人類史と脳科学で解読する神と宗教の起源

E.フラー・トリー, 寺町朋子 / ダイヤモンド社
(8件のレビュー)

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  • TEIKO

    TEIKO

    脳の仕組みや機能について書いた部分は、読みこなすのが難しめ。ここは、はしょって、見ているだけで脳が相手の行動をなぞるように自分の脳が働いているというミラー理論と、相手の気持ちになりかわって感じる一次的こころの理論、間に間接的な事情が絡む二次的こころの理論。機能については、脳の各機能をつなぐ部分が賢いといわれている動物がその内部にあるのに対して、より格段におおきくなって脳全体を包むように灰白質を形作っていること、それが時間を認識する機能に大きくかかわりをもつことを、押さえれば、あとの部分はその通りに読んで、分かりやすく、興味深い。こころがあるということは、神を認識する脳と、人間の作り出した社会のありさまと対置される。
    能力の発達につれて、社会が産み出され発展していく。この本の内容は、一言では、言い表せないが、もやもやしたものがようやくひとつにまとまっていく、驚きに満ちた本です。
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    投稿日:2022.06.02

  • コナン.O.

    コナン.O.

    E.フラー・トリー(1937年~)は、マギル大学医学部博士課程修了、スタンフォード大学修士課程修了(人類学)、スタンフォード大学医学部勤務を経て、スタンレー医学研究所研究部副部長。専門は精神医学。
    書は、2017年発表の『Evolving Brains, Emerging Gods:Early Humans and the Origins of Religion』の全訳で、2018年に出版された。尚、松岡正剛の有名書評サイト「千夜千冊」の1786夜(2021年11月9日)で取り上げられている。
    本書は、進化論に基づく脳の進化が神及び宗教を作ったことを主張・説明したものであり、人類史の中で神・宗教の起こり(と変化)を論じているという点において、ユヴァル・ノア・ハラリのベストセラー『サピエンス全史』(2011年に原書発表)や社会学者・広井良典の『無と意識の人類史』(2021年)等ともオーバーラップするが、更に、著者の専門領域である人類の脳の進化の研究(ヒト族の頭蓋骨の研究、古代の遺跡の研究、ヒトや霊長類の死後脳の研究、生きているヒトや霊長類の脳画像研究、子どもの発達に関する研究)の視点が加えられており、実に興味深い内容となっている。また、欧米人の著作にしばしば見られる、冗長なエピソードや日本人の思考パターンに馴染まない部分もほとんどなく、とても読み易い。
    人類の脳の進化理論に基づく説明は、概ね以下である。
    ◆<第1段階>約200万年前に、ホモ・ハビリスとして、脳の著しい大型化や知能全般の大幅な向上を経た。
    ◆<第2段階>約180万年前以降、ホモ・エレクトスとして、自分を認識できる能力を身に付けた。
    ◆<第3段階>約20万年前以降、古代型ホモ・サピエンス(ネアンデルタール人)として、他者の考えを認識できる能力を身に付けた(=「心の理論」を持った)。
    ◆<第4段階>約10万年前以降、初期ホモ・サピエンスとして、自分自身の考えについて考える内省能力を発達させた。
    ◆<第5段階>約4万年前以降、現代ホモ・サピエンスとして、「自伝的記憶」(自分を過去だけでなく将来にも投影する能力)を持った。これにより将来の計画を立てられるようになり、また、自分の死、死んだ祖先がいる世界などを想像できるようになった。
    ◆8,000~7,000年前、農業革命(農耕の開始)に伴って、生者と死者の関係における革命(祖先崇拝)が起こり、祖先たちの一部がだんだん神に祀り上げられて、最初の神々が出現した。
    ◆2,800~2,200年前、増加した人口を抱える巨大な帝国を統治するために、体系化された神・宗教が必要になり、儒教、ヒンドゥー教、仏教、ゾロアスター教、ユダヤ教等が生まれた。この時代を哲学者ヤスパースは「枢軸時代」と呼んだ。
    そして、著者は、「脳の進化理論では、なぜ神々が現れたのかと、なぜ神々が、実際のそのときに現れたのかの両方を説明でき」、また、「並行進化に基づき、・・・神々が地球上のさまざまな場所で別々に姿を現したこと」も「どのようにして地域社会の司法的、経済的、社会的なニーズが地域社会の霊的なニーズと結びつくようになったのか」も説明できるとしている。
    神・宗教の起こり(と変化)を、脳の進化に基づく人類史の中で解き明かした、興味深い力作といえる。
    (2022年2月了)
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    投稿日:2022.02.10

  • kohamatk

    kohamatk

    宗教は人類の脳が発達したことによって生まれたことを進化論や脳科学によって説明している。心の理論や自伝的記憶を獲得したことで自分自身の死を意識したことや、来世を創造して祖先を崇拝するようになったことが信仰心を生み、社会の発達によって信仰の対象が階層化され、神々が出現したと説明する。

    ホモ・ハビリスは、いずれも知能の源とされる前頭葉の外側部と頭頂葉がひときわ発達させ、賢くなった(トバイアス)(p40)。ホモ・エレクトスは自己認識能力を発達させた。20万年前の古代型ホモ・サピエンスは、他者が考えていることに気づく能力(心の理論)を獲得した。10万年前に、自分について考えている自分について考える内省能力を身に付けた。4万年前に、自分を過去や将来に投影する自伝的記憶を手に入れた(p188,294)。

    人間の子どもは、2歳頃に自分について考える能力を獲得し、4歳頃に他の人々の考えについて考える能力を獲得し、6歳頃に自分が他者からどう思われるかについて考える能力を獲得する(p119)。ネコやイヌ、サルは鏡像認知ができないが、ゾウやイルカ、一部のクジラ、大型類人猿は鏡像認知ができる(p60)。

    神々への信仰を持つためには、心の理論の獲得は欠かせないことが複数の研究者によって認められている。心の理論を獲得すれば、神も人間が何を考えているのかを想像できるはずだと思い込む(p92)。ただし、周期的に起こる自然現象を理解するためには、過去や現在のことを将来に関する考えに組み入れる認知能力が必要(p121)。

    言語の概念には話し手だけでなく、聞き手も考慮することや、抽象的観念を伝えられることが含まれると考えると、自己認識や他者の考え方に対する認識があることが言語の前提条件と言える(p115)。ヒトの話し言葉は、新しく進化した大脳皮質の領域によって制御されている。ひとつ目の前頭葉にあるブローカ野は音声言語を司り、口や舌、咽頭の筋肉を制御する領域の隣にある。ふたつ目の側頭葉上部にあるウェルニッケ野は話し言葉の理解を司り、聴覚に関連する領域の一部である。自己認識、他者の考えに対する認識、自分の考えについて考える能力の発達に関与する領域と重なっているように見える(p117)。

    現代ホモ・サピエンスは、過去の出来事を感覚と感情の両面で蘇らせることができる自伝的記憶を手に入れたことで、将来を把握することもできるようになったが(p154)、自分自身の死も意識するようになった(p165)。また、祖先が訪れる夢を見ることによって、人が死ぬと魂や霊魂が体を離れて、死者の国で生き続けるという考えに導かれた(p172)。これは、死者の霊魂に協力を求めたり、死者の霊魂をなだめたりする試みにつながった。

    先住民族の宗教的信仰や儀式、社会的慣習では祖先たちが重要視される(p199)。来世に対する信念が、祖先崇拝を促した。いくつもの集団が一緒になって定住するようになると、競合する霊魂の中で序列を作り始め、高い地位を授けられた霊魂が神となった(p228)。

    自己認識、他者認識、内省能力の発達に重要な役割を果たす内側前頭前野よりも、立案、推論、問題解決、精神的柔軟性の維持の中枢である外側前頭前野は遅く発達し、20代前半になって完全に成熟する(p233)。著者は、外側前頭前野の発達と農業の開始や宗教の発展は結びついていると考える(p235)。

    メソポタミアの宗教における第一段階である6500~5200年前のウルク時代は、自然や生命、死に結びつくものだったが、次第に神々の人間化が進んだ。5200~4350年前の王朝時代は、各都市国家に君臨する支配者や王が神々の力を奪い、神々も世俗の権限を引き受けるようになった(p246)。

    さまざまな民族が入り混じった数百万人の国民を抱える帝国では、体系化された統治が必要だったように、宗教も体系化される必要があった。儒教、ヒンドゥー教、仏教、ゾロアスター教、ユダヤ教は、2800~2200年前に始まった。これらの宗教には、死の問題に答えを与えたり、心理的・社会的恩恵が得られたり、政治的統治体制とともに発展するなどの共通点がある(p285-287)。

    人類の心の進化を脳の発達とともに論じている点は説得力を感じる。宗教の社会的機能は社会規模の拡大によって事後的に与えられたと整理している点も腑に落ちやすい。

    <神々の起源を説明する理論>
    宗教の起源は社会構造や社会制度にある(デュルケーム、ニコラス・ウェイド、バーバラ・キング、デイヴィッド・スローン・ウイルソン)
    宗教は社会秩序が途絶えないようにするために発明された(ジェシー・ベリング、アラ・ノレンザヤン、ドミニク・ジョンソン、カレン・アームストロング、ロバート・ベラー、パトリック・マクナマラ)
    宗教は慰めを求める欲求を満たすのに役立つ(ロバート・ハイランド、デイヴィッド・リンデン、ライオネル・タイガー、マイケル・マガイア、パスカル・ボイヤー)
    宗教は擬人主義が体系化されたもの(スチュアート・ガスリー、マイケル・シャーマー、パスカル・ボイヤー、ダニエル・デネット)
    神々は集団が生き残る可能性を高める(ニコラス・ウェイド、ディーン・ヘイマー、マシュー・アルパー)
    神々は進化の副産物である(パスカル・ボイヤー、スコット・アラン、リチャード・ドーキンス)
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    投稿日:2021.07.12

  • yoshio2018

    yoshio2018

    脳の進化を人類学、脳科学、考古学を用いて解き明かす。ホモ・ハビリスとして200万年前に脳の著しい大型化と知能の向上をみた。180万年前以降ホモ・エレクトスは自分を認識できる知識を持った。そして20万年前以降古代型ホモ・サピエンスとして他者の考えを認識できる「心の理論」を身に着けた。10万年前以降初期ホモ・サピエンスとして自分自身の考えについてじっくりと考える内省能力を発達させた。4万年前以降現代ホモ・サピエンスとして自伝的記憶(エピソード記憶)という能力をものにした。そして脳の能力が向上するにつれて、死者を埋葬したり、悼んだり、恐れたりするようになり、その死者の地位が向上して神となり、人口の増加に伴い複数の神々が序列化され、今の宗教につらなったと考えられている。続きを読む

    投稿日:2019.08.15

  • 澤田拓也

    澤田拓也

    著者は宗教学を専攻していた。著者の経歴は非常に特徴的である。

    「大学に入ってからは宗教学を専攻し、神々が目に見える姿で人の前に現れるときのさまざまな形について学んだ。それから人類学を専攻した大学院生のときに、似ても似つかない文化で驚くほどよく似た神が祀られていることを知った。医師および精神医学者になってからは、脳の研究に携わりながら、脳のどこに神々がいるのだろうかと問い続けてきた」

    神が人間の産物であるとするならば、それがどのように生み落とされたのかを探求するのは無駄ではあるまい。神々がどのようにして人間の中に生まれたのかというのを語るにはうってつけのキャリアかもしれない。著者は宗教学と脳神経科学を学び、「神々がどこから来たのかについて、本書では、人間の脳からだと主張する」からだ。著者の主張は、具体的には脳が次のような五段階の認知的発展を遂げたからだという。著者はそれぞれに脳の特定の部署の発達を要因として見ている。

    ・脳の著しい大型化や知能全般の大幅な向上 - 200万年前 (ホモ・ハビリス)
    ・自分を認識できる能力 - 180万年前 (ホモ・エレクトス)
    ・他者の考えを認識できる能力 (心の理論を持つこと) -20万年前 (古代型ホモ・サピエンス)
    ・自分自身の考えについてじっくり考える内省能力 - 10万年前
    ・自伝的記憶(自分を過去だけでなく将来にも投影する能力) - 4万年前 (現代ホモ・サピエンス)

    神々が心の理論を持つと想定すると、社会にとっていくつかのメリットが生じる可能性がある。まず、神々が人の心を読めるという信念につながると、それはある種の社会秩序につながる。
    また、内省的能力は、言語の発達にもつながり、両者はそろって発達した可能性がある。なぜなら、自らの考えを持たなければコミュニケーションとしての言葉を持つことは想像しがたいし、逆に言葉の存在が明確な内省の対象となる自己を構築することを手助けしただろう。
    そして、その結果として自伝的記憶が死の認識につながった。それは宗教誕生の萌芽となるものだ。

    脳の発達とそれに伴う認知の発展は、農業革命につながり、定住社会が始まった。そのため、死者の遺体を埋葬した場所の近くでずっと生活をするようになり、祖先崇拝が重要となった。そして、おそらくは1万年前から7千年前までのある時点で一部の祖先が、概念的に神々と見なされるようになったのではないか。すでに6,500年前には多くの神々がいることが残された文書から明らかになっている。この時期、世界中の各地で似たような形で宗教が生まれている。平行進化で神々が生まれたのは、それがある種の必然であったことの証左でもある。

    宗教は、死の問題に対して答えを与え、現実的にも宗教によって統べられる集団に所属することで、心の支えや社会的な保護を受ける機会を与えた。その後、政治的統治体制と結びつき、強化し、信者の経済的、政治的、軍事的な成功によって決まった。そして、宗教は発展した。

    本書の図8-1がすべてを表している。

    最後の章で、デュルケーム、ニコラス・ウェイド、デイビッド・リンデン、ダニエル・デネット、ジュリアン・ジェインズ、リチャード・ドーキンス、スコット・アラン、パスカル・ボイヤーなどが取り上げられるが、いずれも断片的で、もう少し落ち着いた理論的構築が欲しかったか。
    デネットの『解明される宗教』でも読んでみようかな。
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    投稿日:2019.06.17

  • bosch

    bosch

    「神」がどのように発生したか、という意味ではタイトル通りだが、実際は人類の進化から脳の変化、そして知能の変化に伴って”神”を人類が”文明”を持つうえで必要とした状況を時系列的に説明している。
    そのため、人類と神の関わりに至るまでも長いし、特定の宗教について語られることも無い。
    あくまでも、人類発達の過程で何故”神”という概念がもたらされたかを脳科学的に説明している。

    しかし、太古の民の頭蓋骨からここまで多くの事がわかるのは本当に驚き。
    いかにして人類は進化し、意識を手に入れ、狩猟民族から農耕民族に変わり、定住し、文化や芸術を発展させたのかが分かりやすく書かれていて、中学や高校の歴史でも入り口でこういう視点からの話があれば、ただの暗記科目ではなくずっと楽しく学べるだろうに残念。
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    投稿日:2019.02.05

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