【感想】新しい労働社会-雇用システムの再構築へ

濱口桂一郎 / 岩波新書
(28件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • sagami246

    sagami246

    濱口圭一郎さんは、今や世の中に一般用語として受け入れられた「メンバーシップ型雇用」「ジョブ型雇用」という用語を初めて使われた方で、キャリア官僚、大学教授などを経て、今は独立行政法人労働政策研究・研修機構の研究員。
    本書は、2009年発行であり、私の記憶が間違っていなければ、濱口さんが、「メンバーシップ型」「ジョブ型」という用語を使われるようになる前の著作だ。
    職務を特定しないまま労働契約を締結することが、日本型雇用の本質である、と筆者はまず主張されている。数十年前、大学を卒業し入社した会社では、入社研修が終わり、「配属式」と呼ばれる式で配属先の発表を受けるまで、自分はどこで、どんな仕事をするのか分からなかった。今でも、新卒として比較的規模の大きな会社に入るとそういう状態のはずだ。説明の詳細は省くが、この日本型雇用システムにより、ある意味で、労働者がしわ寄せを受けているのではないか、というのが、本書の主張のメインの部分だ。
    それは、色々ある。
    日本的な長期雇用(終身雇用)を社会の仕組みとしてキープするために、労働者は、会社の決定により勤務場所や職務が決められる。それは、望まない転勤を招いたりする。特に家族持ちの場合には生活に対しての影響は大きい。しかし、判例では、相当な部分まで、労働者は会社の命じる転勤に従うべきであるという判断がくだされたりしている。そのようなことは数多い。
    本書は、どちらかと言えば、そういった問題を、労働「行政」「法制」「政策」の視点で論じたものであり、割合と実際的・実務的な話が多い。人事管理の仕事等に関係している人にとっては、頭の整理にもなる。
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    投稿日:2024.04.26

  • サンガの寅

    サンガの寅

     「正社員と非正規労働者、中高年労働者と若年労働者、男性労働者と女性労働者など、さまざまな労働者内部の利害対立」においては、利益配分問題よりも不利益配分問題が問われており、「様々な利害関係者の代表者が参加して、その利益と不利益を明示して堂々と交渉を行い、その政治的妥協として公共的な意志を決定するというステークスホルダー民主主義」の必要性を説く。その場合、不利益な側(弱者)が堂々と意見を明確に示し、それが配慮されなければいけない。不利益を分かちあい、あとは、公的保証にゆだねるなりのセーフティネットが必要となるだろう。
     
     この方向へと進んでゆくのに、日本的パートナーシップ型雇用形態(同氏による『ジョブ型雇用社会とは何か』によると、日本以外はジョブ型であるという)は、適切な形態ではない。なぜなのか。
     
     日本では「雇用契約で職務が決まって」おらず、「ある職務に必要な人員が減少しても、別の職務で人員が足りなければ、その職務に移動させて契約を維持することができ」る。つまりジョブ型では職務によって雇用されるが、パートナーシップ型では、文字どおり、企業のパートナー(?)として雇用される。そして、前者では、職務と技能水準で賃金が決められるのに対して、後者においては、「企業のメンバーとしての忠誠心が求められる」という観点から、人事査定が行われている。これでは、労使関係の力関係で、「使」側が優位であることは、明白である。
     
     そして、非正規労働者は「ジョブ型」の雇用形態であるから、パートナーシップ型雇用形態では、正規労働者との「同一労働、同一賃金」への道のりは困難であろう。
     
     また、パートナーシップ型では、あらかじめ技能をそなえておく必要はなく、技能習得は企業が担っている。そして、さまざまな職種を経験した中高年労働者は、忠誠心が人事査定で評価される、ということになり、生活・年齢給として給付される。ここに日本独自の企業別労働組合の優位があり、職務・職種別労働組合の根付かなさがある。

     ステークスホルダーとは「利害関係者」のことであるが、「会社は株主、労働者、取引先、顧客などの利害関係者の利害を調整しつつ経営される」という「ステークスホルダー的資本主義」が提唱されている。では、労働者内での正規と非正規の利害対立は?
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    投稿日:2023.04.01

  • mamo

    mamo

    「ジョブ型雇用」みたいな関心で、著者の本を読み始めて、3冊目。

    内容的にはこれまで読んだものとの被りはあるものの、あらためて日本の労働の現状を理解できた。

    著者の他の本とも共通することだが、本のタイトルと内容が今ひとつフィットしない感じがある。

    未来にむけての提言部分よりも、現状の問題点の分析というほうに力が入っていると思う。

    著者は、空想的なビジョンではなく、現実に根ざした取り組みを主張しているようなので、それは仕方がないといえば、仕方がないのだが、なにかもう一つなにかがほしい気がしてしまう。
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    投稿日:2022.10.03

  • ももも

    ももも

    日本を中心に、労働者の処遇や生活また社会の構造について、労働者、経営者、行政それぞれの視点に立って、これまでの日本の社会の出来事や議論を振り返っている。

    歴史をひもといて解説してもらう、と言う目的ならば良書。
    一方で提案、例えば折衷案や妥協は、こういったものの提案は少ない。
    どうすれば良いのかと言う議論はあまり尽くされていない。
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    投稿日:2022.08.29

  • ikawa.arise

    ikawa.arise

    現代日本の労働問題について総合的に語った約10年前の新書、210ページ。
    日本型雇用システムの本質をメンバーシップ型の雇用契約にあるとして、最も重要な特徴とされる「長期雇用制度」「年功賃金制度」「企業別組合」といった「三種の神器」もその本質から導き出された帰結と指摘する。そして1990年代以降、非正規雇用の増加と背中合わせの正社員の過重労働といった事態には、従来型の雇用契約と現実に大きなひずみによるものであり、両者の綻びを個別に捉えるだけではなく包括的な改善の方向性を示すことが本書の指針である。

    著者が現代日本の労働問題の是正のために主に参照するのは海外、それもとくに欧州の政府による雇用問題への取り組みである。そこから得られる最終的な解は、やはりというか先に挙げた「メンバーシップ型」の雇用のあり方の変革なのだが、そこに至るために急進的な策を推奨するわけではなく、既得権をもつ大企業正社員にも受け入れられ、かつ、現に苦境にあることの多い非正規労働者を救うためにも社会のセーフティネットの整備が先決だとする。セーフティネットが用意されていなければ、従来型の正社員がフラットな職能給に移行することに同意することも困難だからだ。そしてもうひとつ、今後の方向転換のために重要な役割を果たすことになると著者が重視するのが、日本独特の企業別の労働組合が非正規労働者も成員として含めることによる、組織の改変である。

    序文で自らが「過度に保守的にならず、過度に急進的にならず、現実的で漸進的な改革の方向を示そうとした」と宣言する通り、著者の雇用問題への姿勢は過去の政府の決定への分析も含めて是々非々であり、報道主導の扇動的なキャンペーンやポピュリズム的な政治のあり方に警鐘を鳴らすこともしばしばである。労働問題への取り組みとしての法律の改正にしても、世論に迎合しただけの現実と乖離した表面的な対策については懐疑を隠さない。

    昨今取り上げられることの多い「ジョブ型」という言葉を定着させたと帯で謳われている本書だが、「メンバーシップ型」については強く印象に残っても「ジョブ型」という語彙そのものはどこで登場したかもわからない程度だった。本書が、日本の雇用システムが「メンバーシップ型」からフラットな職能給(ジョブ型)に漸進的に移行することを説いていることは間違いないのだが、誤った、または恣意的な受け取り方によっては、単にさらなる非正規労働者の増加させる正当化の手段として「ジョブ型」という言葉が著者の意図しない方向に一人歩きするのではないかと危惧させる側面もある。行き届いたセーフティネットの拡大とセットでなければ、雇用システムの変革はありえないことについては本書が強調するところだ。

    私自身も全体の方針としては、従来型の正社員増加への回帰ではなく、多くの非正規労働者がその働き方によって大きな不安なく生涯を全うできるような形でセーフティネットを充実させた社会が望ましいと思える。そして何より、日本の従来型雇用システムを海外との比較から「メンバーシップ型」と定義して区分するくだりに、日本社会の重要な特徴の一部について非常に納得させてくれる著書だった。
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    投稿日:2022.06.12

  • けいちゃん

    けいちゃん


    日本型雇用システム(長期雇用、過度な年功賃金、企業別組合)が適用されるのは正社員のみであり、その背後には多くの非正規労働者が存在する。その格差是正のアイデアの一つに、EU等で採用されている同一労働同一賃金(長期雇用を前提とした過度な年功賃金制度からの脱却)がある。本書の中で関心を持ったのはその部分で、本書では、賃金制度にメスを入れる時に整備されておくべき社会的条件を考察している。EUにおける非正規労働規約の焦点は均等待遇原則(基本的労働条件について差別されない)にあり、ベースには男女平等があるらしい。一方男女均等の観点で日本は、男女を等しく長期雇用に組み込んでいく慣行が出来上がり、これは正社員の総合職と一般職に代表されるようなコースの平等と言える。基本的労働条件においては日本は、パートに対して賃金の均衡処遇の努力義務を課しているものの、非正規労働者(派遣労働者)には均衡処遇も否定している(賃金は外部労働市場で決定されるという整理)。同一労働同一賃金を導入する場合の社会的条件の一つに、年功賃金が担っている生活給の側面(正社員への長期的な安心の提供)を誰がどのようにカバーするのかという問題がある。本書では市場経済の交換の正義と、福祉社会の分配の正義が相容れないことを指摘し、公的な仕組みで負担していくことを説いている。企業の福利厚生の一環である住宅手当や家族手当などは企業の魅力を高めることもできるが、労働の対価という観点では不正義になる(同じ技能を持った社員でも、扶養する家族が多いほど給与が多くなる等)。本来政府がやるべきところを長年企業がやってくれてたもので、著者は早速、生活保護の一部雇用保険化などのアイデアを出している。年功賃金には中高年層への過剰な対価の提供というデメリットがあり、イノベーションの阻害要因にもなるから、日本でも長く見直しの機運があるが、現実には技術革新による配置転換が難しくなったり、今の制度に甘んじてる人たちがたくさんいるため(非正規では組合として交渉できない)、現在でも大きな変化はないように思える。生産性の低い組織となり利益が出なくなれば、また非正規が増える悪循環になる。となると、まず正社員がいつ辞めても大丈夫と思えるくらいの制度が用意される必要があるだろう。続きを読む

    投稿日:2022.01.25

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