【感想】岩倉使節団――誇り高き男たちの物語

泉三郎 / 祥伝社黄金文庫
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  • kozokanto

    kozokanto

    このレビューはネタバレを含みます

     国内に残った留守政府(三条実美・西郷隆盛・大隈重信・板垣退助・江藤新平・後藤象二郎・大木喬任、追放された井上薫)と、使節団(木戸孝允・大久保利通・伊藤博文・岩倉具視)が、帰朝後にはどうにも修復しようがないほど対立が顕在化したのですが、どうしてもNHK大河ドラマでは西郷隆盛が主役である以上は大久保利通のみを悪者扱いせざるをえないので、なぜ大久保利通が強硬派になった由来はおそらく欧米来訪にあるのではないかと思い、久米邦武の’’特命全権大使 米欧回覧実記’’をもとに簡潔にまとめられた文庫本を読了。私なりに変節が非常に理解できました。
    ・不平等条約改正への布石を大義名分に多額の予算をぶんどって出かけたものの、欧米に与えた印象としては明治新政府の存在アピール程度にとどまった(むろん、その過程で日本人の勤勉さは十分アピールできたのであるが)
    ・世界歴史的な視点からは、明治維新の脅威は大政奉還(徳川家が天皇に政権運用を返上した)よりも廃藩置県(地方分権の封建制度を廃止し中央集権国家に移行し、徴税権と軍事権を各地の藩主からとりあげ明治政府に集約させたこと)を流血なく成功させたことにある。その直後に岩倉使節団は日本を去っている。
    ・最先端の英仏でなく、南北戦争を終えたばかりの米でなく、国内統一がやっと済み、周回遅れで先進国に追いつこうとしているドイツが、政治体制含め手本になるという評価は正しい。ビスマルクと会った際に「万国公法なんてものより力が物をいう」という帝国主義に生き残るポリシーに接したのも急成長のためには幸運だった。
    ・日本では大名の誰の息子は誰だとか、藩主の誰の息子は誰だとかいうことはみな知っているのに、アメリカで初代大統領ワシントンの孫はいまどうしていると聞いても誰も知らないという、民主主義の風土に驚いている。さりとて、選出される議員が必ずしも民意に則して合理的に行動するとは限らない共和制は日本にまだ導入できないと評価したのもリアリストとして的確な判断(フランスの政治体制がころころ変わっているのが象徴的)。
    ・帰朝後に征韓論をきっかけに明治6年の政変が起こり、土肥が隆盛しつつあった留守政府から、使節団が政権を奪取することに成功したが、これこそ米欧見聞によりリアリストとしての実力を蓄えた大久保利通ならではの成果であり、その実力を引き継いだ政治家が伊藤博文である。
    ・政治体制に普遍的なものはない。人のつくったものは不完全。共和制が絶対唯一の政体と考えるアメリカは浅学とこの時期に見透かした使節団のリアリストぶりはスゴイ。義ありとみても時なくば動かじ、特に大久保利通は徹底したリアリストであった。
    ・キリスト教がない国はイコール野蛮というのが欧米の常識だったのに、使節団が礼節に則して行動できている理由はなぜかと各地で不思議がられた。武士道や商人道などが十分普及していた文明国だったからである。
     例えば、権力者に富を与えると腐るのは万国共通だが(フランス革命前の貴族やロシアの貴族が好例)、日本では武士は食わねど高楊枝とか、士農工商でお金儲けをもっとも卑しむ制度を採用することで、権力者へ富が集中することを自然と予防していた、江戸時代は誠に巧みな社会構造であった。

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    投稿日:2018.12.23

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